とある夏の思い出
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少年たちは受け入れ難かった。
つい数十分前まで、共に過ごしていたのだ。
園庭を駆け回り、明るい声を響かせ、眩しい笑顔を浮かべていた。
そして、買い物をかってでて園を出た少女が、笑みを見せることは二度と無かった。
事故だった。前方不注意。運転手は視界に少女を入れなかった。結果、小さな体は簡単に吹き飛んだ。
アスファルトに広がる血溜まりに、鳴り響く救急車のサイレン。
病院に運ばれるも、時既に遅し。少女は息絶えていた。即死だった。
「嘘だっ!」
病院からの電話を取り、血の気の無い瞳子から告げられた言葉に、ヒロトはそう叫んだ。
つい先程まで、他の家族と共に白と黒のボールを蹴っていたのだ。信じられない。信じられる、筈がない。
病院に行ってくると飛び出した瞳子の後ろ姿を見送りながら、ヒロトはへなへなとその場に座り込んだ。
嘘だ、嘘だと、譫言のように嗚咽を漏らすヒロトから伝染したのか、リュウジは堰を切ったように大きな声で泣き始めた。
晴矢は拳を強く握り、風介は唇を噛み締めた。玲名は今にも零れそうな涙を、必死に抑えた。
どうして?何故、あの子が死ななければならなかったの?
まだ幼い子供たち。考えても、考えても、答えは見つからない。
息を荒くした晴矢は、震えながらも声を上げた。
「間違いかも、しんねえだろ」
『……!』
そうだ。この目で見たわけではない。ひょっとすると、病院側の手違いかもしれない。
淡い願いを胸に抱き、晴矢は園を飛び出した。幼馴染みである茂人は、体が弱く、場合によっては入院することもあった。
病院までの道を、自分はよく知っている。他の子供たちを先導し、晴矢は駆けていく。
「……行かないの?」
大半が園を出て行く中、ヒロトは動こうとしない風介に声をかけた。
風介が自身と同じ気持ちを少女に向けていたことを、ヒロトは知っていた。なのに、行かないのだろうか。
「……お前も、勘づいているんだろう」
「え……」
「もう、いないんだっ……」
ギリ、噛み締めた風介の唇が、血を滲ませる。
「でも、もしかしたら、」
「甘い願望を押し付けるのはやめろ!」
風介の怒鳴り声に、ヒロトは肩を揺らした。羨望や嫉妬を一身に受け、独りだった頃を思い出す。
難しい言い回しを、風介はよく使う。彼の好奇心と、背伸びしたがりの賜物だ。
しかしそれは、現実の残酷さをよく知ることにもなった。知らせを聞いた時、風介は一番に理解した。
人は死ねば何も残らない。体はあっても空っぽで、話すことも聞くことも、何も出来ない。
「私だって、信じたくない……」
絞り出すような弱々しい声に、なんとか言い返そうとしたヒロトの動きが止まる。
辛いのは、何も自分だけではないのだ。
「……俺たちも、行こう」
「……ああ」
晴矢を追って、2人も走り出す。
受付で病室を聞き、バタバタと足音を立てながら、病院の廊下を走る。
渋い顔をした看護師に怒られ、スピードは緩めるものの、はやる気持ちは抑えられない。
教えられた病室の入口には、多くの子供たちがいた。
それをかき分け入り込み、少女が横たわるベッドに駆け寄る。
「青葉……?」
返事はなかった。触れた手は冷たくて、嫌がおうにも現実を突きつけてきた。
ああ、もういないんだな。
「あああああっ!!!」
ずっと一緒だと思っていた。
離ればなれになってしまうのなら、伝えておけばよかった。
後悔しても、もう遅い。もう、いない。
少年たちは受け入れたくなかった。
かけがえのない家族を失った悲しみから、逃れたかった。
そして今、再会を果たして―――
(また会えてよかったよ)
つい数十分前まで、共に過ごしていたのだ。
園庭を駆け回り、明るい声を響かせ、眩しい笑顔を浮かべていた。
そして、買い物をかってでて園を出た少女が、笑みを見せることは二度と無かった。
事故だった。前方不注意。運転手は視界に少女を入れなかった。結果、小さな体は簡単に吹き飛んだ。
アスファルトに広がる血溜まりに、鳴り響く救急車のサイレン。
病院に運ばれるも、時既に遅し。少女は息絶えていた。即死だった。
「嘘だっ!」
病院からの電話を取り、血の気の無い瞳子から告げられた言葉に、ヒロトはそう叫んだ。
つい先程まで、他の家族と共に白と黒のボールを蹴っていたのだ。信じられない。信じられる、筈がない。
病院に行ってくると飛び出した瞳子の後ろ姿を見送りながら、ヒロトはへなへなとその場に座り込んだ。
嘘だ、嘘だと、譫言のように嗚咽を漏らすヒロトから伝染したのか、リュウジは堰を切ったように大きな声で泣き始めた。
晴矢は拳を強く握り、風介は唇を噛み締めた。玲名は今にも零れそうな涙を、必死に抑えた。
どうして?何故、あの子が死ななければならなかったの?
まだ幼い子供たち。考えても、考えても、答えは見つからない。
息を荒くした晴矢は、震えながらも声を上げた。
「間違いかも、しんねえだろ」
『……!』
そうだ。この目で見たわけではない。ひょっとすると、病院側の手違いかもしれない。
淡い願いを胸に抱き、晴矢は園を飛び出した。幼馴染みである茂人は、体が弱く、場合によっては入院することもあった。
病院までの道を、自分はよく知っている。他の子供たちを先導し、晴矢は駆けていく。
「……行かないの?」
大半が園を出て行く中、ヒロトは動こうとしない風介に声をかけた。
風介が自身と同じ気持ちを少女に向けていたことを、ヒロトは知っていた。なのに、行かないのだろうか。
「……お前も、勘づいているんだろう」
「え……」
「もう、いないんだっ……」
ギリ、噛み締めた風介の唇が、血を滲ませる。
「でも、もしかしたら、」
「甘い願望を押し付けるのはやめろ!」
風介の怒鳴り声に、ヒロトは肩を揺らした。羨望や嫉妬を一身に受け、独りだった頃を思い出す。
難しい言い回しを、風介はよく使う。彼の好奇心と、背伸びしたがりの賜物だ。
しかしそれは、現実の残酷さをよく知ることにもなった。知らせを聞いた時、風介は一番に理解した。
人は死ねば何も残らない。体はあっても空っぽで、話すことも聞くことも、何も出来ない。
「私だって、信じたくない……」
絞り出すような弱々しい声に、なんとか言い返そうとしたヒロトの動きが止まる。
辛いのは、何も自分だけではないのだ。
「……俺たちも、行こう」
「……ああ」
晴矢を追って、2人も走り出す。
受付で病室を聞き、バタバタと足音を立てながら、病院の廊下を走る。
渋い顔をした看護師に怒られ、スピードは緩めるものの、はやる気持ちは抑えられない。
教えられた病室の入口には、多くの子供たちがいた。
それをかき分け入り込み、少女が横たわるベッドに駆け寄る。
「青葉……?」
返事はなかった。触れた手は冷たくて、嫌がおうにも現実を突きつけてきた。
ああ、もういないんだな。
「あああああっ!!!」
ずっと一緒だと思っていた。
離ればなれになってしまうのなら、伝えておけばよかった。
後悔しても、もう遅い。もう、いない。
少年たちは受け入れたくなかった。
かけがえのない家族を失った悲しみから、逃れたかった。
そして今、再会を果たして―――
(また会えてよかったよ)