とある夏の思い出

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俺――緑川リュウジは、物陰に隠れながら、冷や汗をかきつつ中の様子を伺っていた。




……それは少し前のことだ。たまたま、本当にたまたま、お日さま園の端にあって、ほとんど使われない部屋の前を通った。

そしてその中をふと覗いてみたら、青葉とマキが向かい合っていて、とにかく驚いた。何にって、あのマキの真剣そうな表情にだ。

対する青葉は僅かに下を向きながら、マキの様子を伺っていて、ただならぬ気配を感じた。

君子危うきに近寄らず、だ。そう思いながらその場をそっと立ち去ろうとした時、



青葉は……マキたちに何隠してるの!!」



何でよりによってそれを聞くんだ!!!




とまあ、こんな感じの経緯で動けないでいた。なんというか、聞いておいた方がいい気がしたというか。

現状としては、マキは涙目だし、青葉は唇を噛み締めて黙りこんでいる。ここは滅多に人が来ないことだけが、唯一の幸いというか…。



「玲名が言ってた。青葉は何か隠してるって!」

「……」

「ねえ何でマキ達に黙ってるの?家族なのに!」

「っ……」

「マキたちのこと、嫌いになった?」

「……そんな、こと……!」

「なら何で言ってくれないのっ!」



マキの方はもう完全に問い詰めるような口調だ。若干パニックになってるような。……気持ちは分からなくもないけど。



「……」



ふっと息を吐いた青葉の表情は、驚く程冷めきっていた。

冷え冷えとして、例えがおかしいかもしれないけど、まるでグランだった頃のヒロトみたいだ。


暫くして、青葉が口を開いた。



「こんな場所に連れ込んで問い詰めてるってことは、マキも薄々勘づいてるんじゃないの」

「!」



図星。そりゃまあ、俺だってそうだ。

この生活が、青葉やアツヤがいる生活がずっと続くなんて最初から思ってない。

いつか、"そういう"日が来る。

そもそも今までだってそうだったんだから、元に戻るだけだ。

頭のどこかでは、気づいてるし、分かってる。

でも、受け入れたくないと思ってない奴なんて、いる筈なくて、



「(あー、ダメだ)」



結局俺も同じな訳だ。

ため息を吐いた時、ドタドタと足音を響かせなから、マキが飛び出していた。

続いて出てきた青葉か、じっとりとした目で俺を見た。



「聞き耳たててたね」

「まあ、ね…」



気まずい。なんて言おうかと頭をかきながら視線を向けると、青葉は今にも泣きそうな表情をしていた。



「――え、」



俺の言葉に気づいたんだろう。次の瞬間には、いつもの笑顔に戻っていた。



「……リュウジは、さ、」

「……」

「あたしがまたいなくなっちゃったら、寂しい?」

「……寂しいのは当然だよ。けど、青葉やアツヤが辛い思いをする方が、もっと嫌かな」

「リュウジってさあ、欲しい言葉を言って欲しい時に言ってくれるよね」

「ヒロト程フォローは上手くないよ」

「ヒロトのことほんと好きだね」

「いや何でそうなるの」



ブーメランして刺さってるよ、それ。



「あとちょっとだから、」

「やっぱり?」

「うん」

「静かになるなあ」

「晴矢と風介が十分煩いよ」

「さしずめ今は十二分ってとこだね」

「ですね」

青葉は」

「うん」

「楽しかった?」

「もちろん」

「なら良かった」

「強いて言うならだね、」

「ん?」

「自重してたけど、お風呂ドッキリを仕掛けたいかな」

「それはやめて」

「ていうかわざと触れないでくれてるね」

「触れて欲しくなさそうだからね」

「まあ」

「まだ時間はあるんだろ?なら精一杯楽しんでけよ」

「お父さん……!」

「いや何で」








つまるところ、だ。


そんな会話をした時はまだ、あんなことになるなんて想像出来る訳が無かった。




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