鬼道有人との再会
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ある日、鬼道は部活の帰りに本屋に寄った。
両親が残した――自分がサッカーを始めるきっかけとなった雑誌の記事が組まれている本があると聞いたからだ。
生憎帝国学園の近くに本屋はないので、電車を使い少し足を伸ばす。
本は店に入ってすぐの所に置いてあり、案外早く見つかった。最後の1冊らしく、安堵の息を漏らしつつ手を伸ばすと、
「あ」
反対方向から自分ではない手が伸びてきた。顔を上げて手が伸びてきた方を見れば、
「鬼道!?」
「円堂美波……?」
思いもよらない相手がいた。
「まさか鬼道があたしと同じ雑誌買いに来てたとはねー」
「……そうだな」
あの後、どっちが最後の一冊を買うかで口論したが、結局俺の方が押しきられ、俺が買うことになった。
雑誌を譲って貰ったという借りを作りたくはなかったので、コイツ――円堂美波が買うのに付き合ってやることにした。
何故地元で買わなかったのかを聞くと、既に売り切れていたらしい。
「あ、あった」
違う店を覗いてみれば、案外すぐに見つかった。
買い終わって店を出る。その時、
「あのさ、時間空いてる?」
円堂美波に話しかけられた。
「……何故だ?」
「いや、雑誌買うのに付き合わせちゃったからさ。なんかお礼したくて」
「付き合ったのは借りを作らないためだ。寧ろ俺は譲られたのだから、礼をいうのはこちらの方だ」
「そっか」
そう言って、そのまま別れるつもりで歩き出したが、コイツはその後をついてきた。
「……何だ」
「え、あー、いや」
「……」
「あ、ほら!星が綺麗だね」
「雲で見えないが」
「……あれ?」
「はあ……。……円堂美波」
「は、はい!」
「何か用があってついてきたんじゃないのか」
「それは……てかなんでフルネームで呼ぶの?」
「お前の兄と被るだろう」
兄。そう言ってふと春奈のことを思い出した。
兄妹として、家族として共に過ごせるのが、少しばかり羨ましく思う。
「そんなの別に名前でいいのに」
「……考えておこう」
「あのさ」
「何だ」
「聞きたいことがあるんだけど、時間もらっていい?」
「構わない」
大したことではないだろう。そう思ったのに、
「練習試合の時、なんで雷門側のベンチちらちら見てたのかなって」
そう言われて背筋が凍った。
「気づいていたのか……」
正直驚いた。サッカーバカと形容するのに相応しいバカ(土門が言っていたことで俺がそう思った訳ではない)だというのに。
「何故気づいたんだ?」
「うーん……なんとなくって言うか」
「真面目に答えろ」
「鬼道の方見たときベンチ見てたからさ、何でだろって見てたら何回も見てて……」
「……」
少しだけと思っていたのに、そんなに見ていたのか、俺は。
気付かれないようにしていた筈なのに、佐久間たちでさえ気づかなかったというのに、コイツは気づいたというのか。
「考えを改めるべきか……」
「へ?」
天然鈍感バカの癖に(これも土門からの情報)それに気づいた。
本人は無意識のようだが、コイツには人を見る目があるのかもしれない。
「あ、あの雲うさぎみたい」
……多分。
「鬼道?」
「……ベンチに眼鏡を乗せた女子がいただろう」
「春ちゃんのこと?」
「ああ。……春奈は俺の妹だ」
「へー……妹ね、妹…………妹おおおおお!?」
「反応遅いな」
あーだのうーだの言いながら目まぐるしく表情が変わって、思わず口元が緩んだ。なんなんだコイツは。
「あれ。でも名字違う、よね……」
「……場所を変えるか」
***
少し歩いた所にあった公園に入る。辺りは暗くなりつつあり、あまり人はいない。
「俺と春奈には両親がいない」
ベンチに腰を下ろしながら言った。
「いないって……」
「春奈の誕生日までにはと出掛けて……その先で事故に遭い、帰ってくることはなかった」
「!」
「これを買ったのは、父さんが俺に残した……俺がサッカーをやるきっかけになったサッカー雑誌の特集が組まれていたからだ。
両親を失ってから、俺と春奈は孤児院で生活していた。だが暫くして俺は鬼道家に、春奈は音無家に引き取られた」
「……」
「鬼道家の跡継ぎという身で、連絡を取ることも許されなかった」
「……」
「フットボールフロンティアに優勝し続けること、それが春奈を引き取る条件だ。それで俺は……」
「……ごめん」
「なんでお前が謝るんだ」
「嫌なこと聞いちゃったよね。無理して話さなくても良かったのに。あー、また失敗した。何であたしいつもこうなんだろ」
「お前に話そうと思ったのは俺だ。気に病むことはない」
「うん……」
返事はするが、俯いたままだ。
「お前……泣いてるのか?」
「泣いてない!」
目元を擦っている腕を引き剥がすと、目を赤くした情けない顔があった。
「バカかお前は……」
「だって……」
ああ、コイツは。何でこんなにもバカで、お人好しなのだろうか。
「とりあえずその情けない顔をなんとかしろ」
「鬼道も春ちゃんもそんなことがあったのに……あたしは……」
「聞いているのか」
「……はあ」
「おい」
「……鬼道は凄いね」
「何だいきなり」
「辛いこととちゃんと向き合って乗り越えてるし、サッカー強いし」
「本音は後者じゃないのか?」
「どっちもだってば!」
「冗談だ」
「鬼道も冗談なんて言うんだね」
「俺を何だと思っているんだ」
「あ、鬼道みたいに上手くなるのってどう練習すればいいの?」
「お前な……」
変わり身が早すぎるだろう。さっきまでの顔はどこへやら、輝くような笑顔に変わっていた。
やはりコイツはバカだ。
「このフォーメーションの場合ここがこうなると……」
「ゴール前ががら空きになる!」
「ああ。これだとどうすればいい?」
「……ボールを奪ったあと短いパスで上がる?」
「それだとこのディフェンダーに阻まれるぞ。この状態はカウンターに弱い。だからここはロングパスだ」
「なるほど……」
……俺は何をやっているのだろうか。気づけばノートを使い、作戦講座をしていた。時計を見れば7時を過ぎている。
「時間は大丈夫なのか?」
「え、あ!どうしよう、お母さんに連絡入れてない……」
「そこまで俺は面倒は見んぞ」
「うう…」
頭をかかえながら言い訳を考え始める。そんなことをしている暇があったら早く帰ればいいものを。
……お母さん、か。そんな言葉、もう何年も使ってないな。
「そうだね!帰るよ!」
「やっとか」
「なんか引き留めてごめん!今度何かするから!」
「何かとは……」
「サッカー!」
「予想通り過ぎる答えだな」
「あはは……じゃあ何か奢るよ!今日はありがとね、鬼道!」
今日、俺が見たコイツの笑顔の中でも一番の笑顔。自然と俺の口角も上がった。
「……フットボールフロンティア三連覇」
「え?」
「春奈を引き取る条件だ」
「そうだったんだ……。でも、次当たる時は負けないよ!勝つのは雷門なんだから!」
「臨むところだ」
「またね!鬼道!」
「ああ。またな、……美波」
「へあ!?ちょ、鬼道!?」
驚きの声が聞こえたが、気にせず背を向けて歩き出す。
佐久間があいつを……美波を好きになった理由が、少しだけ分かった気がした。
(美波!遅いじゃないの!何時だと思ってるの!)
(ごめんなさい!えーと、帝国学園に通ってる頭いい友達に勉強教えて貰ってた!)
(あら、そうなの。珍しいわね)
(なあ、帝国の友達って佐久間か?)
(鬼道だよ)
(え!き、き、鬼道!?)
両親が残した――自分がサッカーを始めるきっかけとなった雑誌の記事が組まれている本があると聞いたからだ。
生憎帝国学園の近くに本屋はないので、電車を使い少し足を伸ばす。
本は店に入ってすぐの所に置いてあり、案外早く見つかった。最後の1冊らしく、安堵の息を漏らしつつ手を伸ばすと、
「あ」
反対方向から自分ではない手が伸びてきた。顔を上げて手が伸びてきた方を見れば、
「鬼道!?」
「円堂美波……?」
思いもよらない相手がいた。
「まさか鬼道があたしと同じ雑誌買いに来てたとはねー」
「……そうだな」
あの後、どっちが最後の一冊を買うかで口論したが、結局俺の方が押しきられ、俺が買うことになった。
雑誌を譲って貰ったという借りを作りたくはなかったので、コイツ――円堂美波が買うのに付き合ってやることにした。
何故地元で買わなかったのかを聞くと、既に売り切れていたらしい。
「あ、あった」
違う店を覗いてみれば、案外すぐに見つかった。
買い終わって店を出る。その時、
「あのさ、時間空いてる?」
円堂美波に話しかけられた。
「……何故だ?」
「いや、雑誌買うのに付き合わせちゃったからさ。なんかお礼したくて」
「付き合ったのは借りを作らないためだ。寧ろ俺は譲られたのだから、礼をいうのはこちらの方だ」
「そっか」
そう言って、そのまま別れるつもりで歩き出したが、コイツはその後をついてきた。
「……何だ」
「え、あー、いや」
「……」
「あ、ほら!星が綺麗だね」
「雲で見えないが」
「……あれ?」
「はあ……。……円堂美波」
「は、はい!」
「何か用があってついてきたんじゃないのか」
「それは……てかなんでフルネームで呼ぶの?」
「お前の兄と被るだろう」
兄。そう言ってふと春奈のことを思い出した。
兄妹として、家族として共に過ごせるのが、少しばかり羨ましく思う。
「そんなの別に名前でいいのに」
「……考えておこう」
「あのさ」
「何だ」
「聞きたいことがあるんだけど、時間もらっていい?」
「構わない」
大したことではないだろう。そう思ったのに、
「練習試合の時、なんで雷門側のベンチちらちら見てたのかなって」
そう言われて背筋が凍った。
「気づいていたのか……」
正直驚いた。サッカーバカと形容するのに相応しいバカ(土門が言っていたことで俺がそう思った訳ではない)だというのに。
「何故気づいたんだ?」
「うーん……なんとなくって言うか」
「真面目に答えろ」
「鬼道の方見たときベンチ見てたからさ、何でだろって見てたら何回も見てて……」
「……」
少しだけと思っていたのに、そんなに見ていたのか、俺は。
気付かれないようにしていた筈なのに、佐久間たちでさえ気づかなかったというのに、コイツは気づいたというのか。
「考えを改めるべきか……」
「へ?」
天然鈍感バカの癖に(これも土門からの情報)それに気づいた。
本人は無意識のようだが、コイツには人を見る目があるのかもしれない。
「あ、あの雲うさぎみたい」
……多分。
「鬼道?」
「……ベンチに眼鏡を乗せた女子がいただろう」
「春ちゃんのこと?」
「ああ。……春奈は俺の妹だ」
「へー……妹ね、妹…………妹おおおおお!?」
「反応遅いな」
あーだのうーだの言いながら目まぐるしく表情が変わって、思わず口元が緩んだ。なんなんだコイツは。
「あれ。でも名字違う、よね……」
「……場所を変えるか」
***
少し歩いた所にあった公園に入る。辺りは暗くなりつつあり、あまり人はいない。
「俺と春奈には両親がいない」
ベンチに腰を下ろしながら言った。
「いないって……」
「春奈の誕生日までにはと出掛けて……その先で事故に遭い、帰ってくることはなかった」
「!」
「これを買ったのは、父さんが俺に残した……俺がサッカーをやるきっかけになったサッカー雑誌の特集が組まれていたからだ。
両親を失ってから、俺と春奈は孤児院で生活していた。だが暫くして俺は鬼道家に、春奈は音無家に引き取られた」
「……」
「鬼道家の跡継ぎという身で、連絡を取ることも許されなかった」
「……」
「フットボールフロンティアに優勝し続けること、それが春奈を引き取る条件だ。それで俺は……」
「……ごめん」
「なんでお前が謝るんだ」
「嫌なこと聞いちゃったよね。無理して話さなくても良かったのに。あー、また失敗した。何であたしいつもこうなんだろ」
「お前に話そうと思ったのは俺だ。気に病むことはない」
「うん……」
返事はするが、俯いたままだ。
「お前……泣いてるのか?」
「泣いてない!」
目元を擦っている腕を引き剥がすと、目を赤くした情けない顔があった。
「バカかお前は……」
「だって……」
ああ、コイツは。何でこんなにもバカで、お人好しなのだろうか。
「とりあえずその情けない顔をなんとかしろ」
「鬼道も春ちゃんもそんなことがあったのに……あたしは……」
「聞いているのか」
「……はあ」
「おい」
「……鬼道は凄いね」
「何だいきなり」
「辛いこととちゃんと向き合って乗り越えてるし、サッカー強いし」
「本音は後者じゃないのか?」
「どっちもだってば!」
「冗談だ」
「鬼道も冗談なんて言うんだね」
「俺を何だと思っているんだ」
「あ、鬼道みたいに上手くなるのってどう練習すればいいの?」
「お前な……」
変わり身が早すぎるだろう。さっきまでの顔はどこへやら、輝くような笑顔に変わっていた。
やはりコイツはバカだ。
「このフォーメーションの場合ここがこうなると……」
「ゴール前ががら空きになる!」
「ああ。これだとどうすればいい?」
「……ボールを奪ったあと短いパスで上がる?」
「それだとこのディフェンダーに阻まれるぞ。この状態はカウンターに弱い。だからここはロングパスだ」
「なるほど……」
……俺は何をやっているのだろうか。気づけばノートを使い、作戦講座をしていた。時計を見れば7時を過ぎている。
「時間は大丈夫なのか?」
「え、あ!どうしよう、お母さんに連絡入れてない……」
「そこまで俺は面倒は見んぞ」
「うう…」
頭をかかえながら言い訳を考え始める。そんなことをしている暇があったら早く帰ればいいものを。
……お母さん、か。そんな言葉、もう何年も使ってないな。
「そうだね!帰るよ!」
「やっとか」
「なんか引き留めてごめん!今度何かするから!」
「何かとは……」
「サッカー!」
「予想通り過ぎる答えだな」
「あはは……じゃあ何か奢るよ!今日はありがとね、鬼道!」
今日、俺が見たコイツの笑顔の中でも一番の笑顔。自然と俺の口角も上がった。
「……フットボールフロンティア三連覇」
「え?」
「春奈を引き取る条件だ」
「そうだったんだ……。でも、次当たる時は負けないよ!勝つのは雷門なんだから!」
「臨むところだ」
「またね!鬼道!」
「ああ。またな、……美波」
「へあ!?ちょ、鬼道!?」
驚きの声が聞こえたが、気にせず背を向けて歩き出す。
佐久間があいつを……美波を好きになった理由が、少しだけ分かった気がした。
(美波!遅いじゃないの!何時だと思ってるの!)
(ごめんなさい!えーと、帝国学園に通ってる頭いい友達に勉強教えて貰ってた!)
(あら、そうなの。珍しいわね)
(なあ、帝国の友達って佐久間か?)
(鬼道だよ)
(え!き、き、鬼道!?)
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