彼がシスコンになったワケ
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それはある日の下校途中。
帰ったら何しよう、サッカーしたい、まずは宿題が先。そんな話をしながら帰り道を歩く三人の前に、道路脇に止められた車が姿を現した。
家の塀と車の間は殆ど無く通れそうにない。前後を確認し他に車が来ないのを確かめると、一人ずつ車道側を通る。最後に美波が通ろうとした時、突然車のドアが開いた。
そして、驚き足を止めた美波の腕を、車内から伸びてきた手が掴んだ。
「きゃっ!」
悲鳴に振り向いた円堂と風丸が目にしたのは、今にも車内に連れ込まれそうになっている美波の姿だった。
蒼褪め半べそになりながら必死に抵抗する美波に、二人は凍り付く。
連れてかれる。美波が浚われてしまう。そんな最悪が風丸の脳裏を過った時、硬直が解けた円堂が突進した。
「何だよ!離せよ!離せ!」
「やだ、やだっ!嫌だ……!守!」
「美波!俺が、絶対助けるからな!」
「守、守っ!」
足が竦んで動けない。どうして。何で。
あんなにも、美波は助けを求めているのに。
円堂は、恐怖を押し込めて助けに行ったのに。
どうして俺は、動けないんだ。
怖い。出来ることなら逃げ出したい。でも、二人を見捨てることなんて出来ない。
逃げたい。逃げたくない。助けたい。でも、俺じゃ、助けられない。
「た、助けてっ……いち君……!」
涙で頬の濡れた美波が手を伸ばした時、風丸の中で何かが弾けた。
視界に入ったのは投げ出された手提げに付けられた防犯ブザー。それに飛びつきピンを無我夢中引き抜く。次の瞬間、けたたましい音が辺りに響き渡った。
音に怯んだのか動きを止めた男の隙を、円堂は見逃さなかった。美波を掴む手に跳びつき噛みつく。
鳴り続けるブザーの音に驚いた近隣住民が次々に飛び出してきたのを見た男は、美波を放り出すと車に乗り込み走らせ逃亡した。
後から聞いた話によると、近くに巡回中のパトカーがいたとかで、犯人は呆気なく捕まったという。
その後の顛末は知らない。当時の自分達に大人の難しい話は理解出来なかったし、何より怖い思いをしたことを一刻も早く忘れたかった。
なんて無茶をするんだと、円堂は怒られた。対して風丸は、あの場面でブザーを鳴らしたのは正解だったと褒められた。
けれど大人達に褒められても、風丸はちっとも嬉しくはなかった。一目散に行動を起こした円堂の方が、ずっと凄いと思ったからだ。
「ありがとうね、いち君」
「助かったのは風丸のおかげだ!」
二人はそうお礼を言ってくれたけど、風丸の心は晴れることは無かった。自分には無理だと一瞬でも諦めかけた。そんな自分が許せなかった。
格好いいと思っていた。いつだって手を差し伸べてくれた。風丸にとって、美波はヒーローだった。
凄いと思った。憧れていた。同じようになりたかった。風丸にとっての美波のように、美波のヒーローになりたかった。
だから、強くなりたかった。
その為の努力は思いつく限りした。褒められた足で駆ける度に皆も褒めてくれて、自信もついた。
ヒーローだと言われていい気になっていた。
肝心な時に動けなかった癖に、何が守りたいだ。
俺なんかじゃ、ヒーローになんて、到底なれやしないのだ。
「風丸!」
「っ……」
「いや、急に黙ったからさ」
首を傾げる半田に、風丸は苦笑した。どうやら話し終えた後、物思いに耽ってしまったらしい。とにかくこれで昔話も終わりだ。
「まあ、そんな訳だ。音無も、これでいいか?」
「絶対口外しません!」
びしっと敬礼する春奈に、風丸は頬をかいた。おおっぴらにするような事ではないが、別に隠している訳でもない。
必要なら話してもいいんだけどな、と風丸が言う前に、部室の扉が開いた。やってきたのは今まさに話題の二人である。
「皆、何してるんだ?」
「グラウンドに誰もいないと思ったら部室にいたんだね」
「ああ。ちょっと、昔の話をな」
「ふーん」
「そっか」
それ以上は特に言及することなく、円堂と美波は練習の準備を始めた。
今は放課後。部活時間だ。やるべきことはグラウンドにある。一人、また一人と部室の外へと足を向ける。
皆を見送り、自身も外に出る。空を見上げ、眩しい日の光に目を細めて、練習に向かう。そんな風丸を呼び止めたのは、美波だった。
「どうした?」
「……一郎太は一番にサッカー部の助っ人になってくれた」
「そうだったな」
「いつも気にかけてくれて、あたしが困ってると助けてくれる。だから、あたしにとって一郎太はヒーローだよ」
「……ありがとうな、美波」
まだ、自分では、認めることは出来ないけれど。いつか自信を持って隣に立てるように。
「行くぞ、美波」
「おう!」
そして今日も、共に走る。
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帰ったら何しよう、サッカーしたい、まずは宿題が先。そんな話をしながら帰り道を歩く三人の前に、道路脇に止められた車が姿を現した。
家の塀と車の間は殆ど無く通れそうにない。前後を確認し他に車が来ないのを確かめると、一人ずつ車道側を通る。最後に美波が通ろうとした時、突然車のドアが開いた。
そして、驚き足を止めた美波の腕を、車内から伸びてきた手が掴んだ。
「きゃっ!」
悲鳴に振り向いた円堂と風丸が目にしたのは、今にも車内に連れ込まれそうになっている美波の姿だった。
蒼褪め半べそになりながら必死に抵抗する美波に、二人は凍り付く。
連れてかれる。美波が浚われてしまう。そんな最悪が風丸の脳裏を過った時、硬直が解けた円堂が突進した。
「何だよ!離せよ!離せ!」
「やだ、やだっ!嫌だ……!守!」
「美波!俺が、絶対助けるからな!」
「守、守っ!」
足が竦んで動けない。どうして。何で。
あんなにも、美波は助けを求めているのに。
円堂は、恐怖を押し込めて助けに行ったのに。
どうして俺は、動けないんだ。
怖い。出来ることなら逃げ出したい。でも、二人を見捨てることなんて出来ない。
逃げたい。逃げたくない。助けたい。でも、俺じゃ、助けられない。
「た、助けてっ……いち君……!」
涙で頬の濡れた美波が手を伸ばした時、風丸の中で何かが弾けた。
視界に入ったのは投げ出された手提げに付けられた防犯ブザー。それに飛びつきピンを無我夢中引き抜く。次の瞬間、けたたましい音が辺りに響き渡った。
音に怯んだのか動きを止めた男の隙を、円堂は見逃さなかった。美波を掴む手に跳びつき噛みつく。
鳴り続けるブザーの音に驚いた近隣住民が次々に飛び出してきたのを見た男は、美波を放り出すと車に乗り込み走らせ逃亡した。
後から聞いた話によると、近くに巡回中のパトカーがいたとかで、犯人は呆気なく捕まったという。
その後の顛末は知らない。当時の自分達に大人の難しい話は理解出来なかったし、何より怖い思いをしたことを一刻も早く忘れたかった。
なんて無茶をするんだと、円堂は怒られた。対して風丸は、あの場面でブザーを鳴らしたのは正解だったと褒められた。
けれど大人達に褒められても、風丸はちっとも嬉しくはなかった。一目散に行動を起こした円堂の方が、ずっと凄いと思ったからだ。
「ありがとうね、いち君」
「助かったのは風丸のおかげだ!」
二人はそうお礼を言ってくれたけど、風丸の心は晴れることは無かった。自分には無理だと一瞬でも諦めかけた。そんな自分が許せなかった。
格好いいと思っていた。いつだって手を差し伸べてくれた。風丸にとって、美波はヒーローだった。
凄いと思った。憧れていた。同じようになりたかった。風丸にとっての美波のように、美波のヒーローになりたかった。
だから、強くなりたかった。
その為の努力は思いつく限りした。褒められた足で駆ける度に皆も褒めてくれて、自信もついた。
ヒーローだと言われていい気になっていた。
肝心な時に動けなかった癖に、何が守りたいだ。
俺なんかじゃ、ヒーローになんて、到底なれやしないのだ。
「風丸!」
「っ……」
「いや、急に黙ったからさ」
首を傾げる半田に、風丸は苦笑した。どうやら話し終えた後、物思いに耽ってしまったらしい。とにかくこれで昔話も終わりだ。
「まあ、そんな訳だ。音無も、これでいいか?」
「絶対口外しません!」
びしっと敬礼する春奈に、風丸は頬をかいた。おおっぴらにするような事ではないが、別に隠している訳でもない。
必要なら話してもいいんだけどな、と風丸が言う前に、部室の扉が開いた。やってきたのは今まさに話題の二人である。
「皆、何してるんだ?」
「グラウンドに誰もいないと思ったら部室にいたんだね」
「ああ。ちょっと、昔の話をな」
「ふーん」
「そっか」
それ以上は特に言及することなく、円堂と美波は練習の準備を始めた。
今は放課後。部活時間だ。やるべきことはグラウンドにある。一人、また一人と部室の外へと足を向ける。
皆を見送り、自身も外に出る。空を見上げ、眩しい日の光に目を細めて、練習に向かう。そんな風丸を呼び止めたのは、美波だった。
「どうした?」
「……一郎太は一番にサッカー部の助っ人になってくれた」
「そうだったな」
「いつも気にかけてくれて、あたしが困ってると助けてくれる。だから、あたしにとって一郎太はヒーローだよ」
「……ありがとうな、美波」
まだ、自分では、認めることは出来ないけれど。いつか自信を持って隣に立てるように。
「行くぞ、美波」
「おう!」
そして今日も、共に走る。
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