豪炎寺と放課後特訓

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雷門中が、フットボールフロンティア本選1回戦を突破した頃のことである。

グラウンドの整備で練習が休みになったものの、部室にタオルを忘れたことに気づいた豪炎寺は、それを取りに部室へ向かった。

円堂から借りた鍵で部室のドアを開けようとして、既に開いていることに気づく。開けるとそこには、机に突っ伏して寝ている美波の姿があった。

何をしているんだと内心呆れつつ、ロッカーに放置されていたタオルを取り出しバックに仕舞う。

このままだと風邪を引くのではないかと、美波を起こそうと手を伸ばした豪炎寺の目に、腕の打撲傷が入った。

何かあったのだろうかと戸惑っていれば、身動ぎをした美波が体を起こした。慌てて行き場を失った手を下げる。



「……あれ、豪炎寺じゃん。どした?」

「タオルを取りに来たんだ。そういうお前は何で寝ていたんだ」

「いやー、練習に誰も来ないからちょっと仮眠」

「……まさか雷門の話をちゃんと聞いていなかったのか?」

「なっちゃんの?」

「今日はグラウンドの整備があると言っていただろう」

「あ」



忘れてた……と呟いた美波に、豪炎寺はため息をついた。



「ところでだ」

「ん?」

「その腕の打撲傷はどうしたんだ」

「あー……」



誤魔化すように目線を逸らし、曖昧に濁そうとする美波を、豪炎寺はじっとりとした目で見た。

よく見れば足も擦り傷だらけで、またこいつは何をしでかしたのかと眉をしかめた。



「まあ大丈夫だから!」

「お前の大丈夫は大丈夫じゃないからな」

「根拠は」

「小テストの成績だ」

「いやそれサッカー関係ないし!」

「それと、無茶な特訓をして疲れが取れていない状態で練習に出たこともあったな」

「じゃ、また明日!」

「待て」



挙動不審に部室を出ていこうとした美波の腕を、豪炎寺は咄嗟に掴んだ。



「豪炎寺?」

「特訓か」

「……実はね。まあもう少しだから」

「もう少し?」

「うん。必殺技の練習」



あと少しで出来るんだ!と意気込む美波を横目に、豪炎寺は腕を組む。



「無茶はするなよ」

「分かってるってば!」

「……俺も付き合う」

「え、本当!?」

「体を動かさなければ鈍ってしまうからな」

「よっし、やろうぜ!」

「無茶苦茶なことをしないか監視しないとな」

「うっ、だからしませんってば」

「それに、相手がいた方がいいんじゃないか?」

「……まあ、そうなんだけど。タイヤ相手だと限界あるし」



飛び出してきたタイヤという言葉に首を傾げる。タイヤというと、まず鉄塔広場に吊り下げてあるタイヤだろう。

あれはゴールキーパーである円堂が使っているもので、主にディフェンダーの美波が何に使うというのか。



「なんというか、あたしもちょっと考えててさ」



問いかける前にそう言われ、理由を聞くのは後でいいかと豪炎寺は閉口した。




「熱血パンチ!」



鉄塔に着くと、美波はグローブを嵌めてタイヤを押した。振り抜いた拳から火花が飛び散り、揺れるタイヤを弾き飛ばす。

驚きに目を見張った豪炎寺は、同時に首を傾げた。キーパー技の特訓をしているのはわかった。しかし何故?



「……雷門のキーパーって守兄しかいないじゃん」

「そうだな」

「もし、もしだよ?守兄が怪我した時、控えがいた方がいいかなーって。だから、ライセンス取ってから、時間がある日に練習してた」

「……そういうことか」

「あたし、ディフェンダーに落ち着く前は、色々ポジションやってみてたんだ。だからキーパーも、なんとなくコツはわかるし……」



言葉尻になるにつれ小さくなっていく声を聞きつつ、豪炎寺は納得した。

長年キーパーをやってきた円堂と比べると、当然ながら美波の実力は劣る。しかし、控えがいるとなると精神的に心強くはある。

キーパーは円堂1人。もし怪我をして、無理を重ねてしまえば、その先がキツくなる。

更に言えば、円堂は雷門の連携必殺技のいくつかに絡んでいる。強力な反面、ゴール前ががら空きになるリスクがある。

それは円堂がフィールドプレイヤーになれば、解消される……そこまで考えて、豪炎寺は軽く首を振った。

円堂以外の雷門のキーパーなど想像出来ない。少なくとも、今は。



「やれることは多いに越したことないし、出来るとこまでやってみようって!」

「……凄いな」

「何が?」

美波がだ。キーパーだけじゃない。シュートにドリブル、色々挑戦しているだろう」

「……まあ、武器は多い方がいいし」



女子だから。その言葉に、豪炎寺はハッとする。自身に向けられた、僅かに滲んだ羨望。そして、劣等感と嫉妬。

美波はいつも笑っている。笑ってボールを追いかける。サッカーが好きだと全身で叫びながら、がむしゃらに、一生懸命に走る。

しかしそれは、仲間たちに置いていかれたくないという気持ちの裏返しでもあった。

努力を積み重ね、ライセンスを取得した。公式戦にも出られるようになった。それでもまだ足りないと、貪欲にチャレンジし続ける。



「それで、どうするんだ」

「目標としてはゴッドハンド、かな……」



タイヤに触れ、目を細めながら美波は呟く。ゴッドハンド。兄が文字通り血の滲むような特訓をして身につけた必殺技だ。



「遠いな」

「遠いよ。でも、壁が高く、厚いほど、燃えてくる!」



強くタイヤを揺らし、軽く腰を落として構える。迫るタイヤに右手を突き出す。一拍置いて、美波の体は吹き飛ばされた。



「ぐあっ!」

美波!……大丈夫か」



手を貸そうと差し伸べる前に、苦笑いを浮かべた美波は立ち上がり、ジャージについた土埃を払った。



「はは……平気。守兄は凄く苦労して身につけたんだ。そう簡単にできるなんて思ってないよ。でも、諦めない」



強い意思が宿る瞳に、豪炎寺の心は騒いだ。この目に、自分は惹かれたのだと。



「俺が撃とう」

「……上等。やってやる!」



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