アフロディとの邂逅
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「帝国の初戦?」
『ああ、よかったら見に来て欲しいんだ』
「丁度あたしも見に行きたいって思ってたんだ!行く!絶対見に行く!」
『そうか!絶対に勝つから、応援してくれよな』
「おう!」
というやり取りをさっ君としたのが、つい昨日の夜の事だ。
当然サッカー部は毎日練習があるんだけど、守兄に頼みに頼み込んで練習を休ませてもらうことにした。
秋達にも連絡しておいたら、春ちゃんから試合結果を教えて欲しいと返事がきて、OKの返事をする。
帝国にはお兄ちゃんの鬼道がいるから、気になるよね。
そして今日、つまりは翌日で帝国の初戦当日。
「うわー、試合始まっちゃうよ!」
あたしはフロンティアスタジアム行きのバスの中で、携帯の時計表示とにらめっこしていた。
出かける前にやたらと守兄が心配して、忘れ物はないかとか、交通費持ったかとか、何度も確認した。だから出る時間がズレてしまった。
試合ギリギリの時間のバスに飛び乗ったはいいものの、道路が混んでてやきもきしてる。なんとか間に合いそう、だけど。
――次はフロンティアスタジアム前
「あ、降ります降ります!」
降車ボタン連打。意味ないけど、気持ち的な問題だ。
運賃を入れてありがとうございましたと軽く運転手さんに会釈して、バスから飛び降りる。
そのままバス停からフロンティアスタジアムに、全力疾走。
「……うん、間に合いそうだ」
スタジアム内に入って観客席に上がる階段を探してたら、前方から綺麗な男の子が歩いてきた。
長い髪は絹みたいに柔らかそうだし、肌も陶器のように滑らかで、一瞬女の子かと思ったけど、多分男の子だろう。
腕や足の筋肉は引き締まっててスラッとしてる。ユニフォームっぽいの着てるし、もしかして噂の世宇子中の選手かな?
まあ今はそれどころじゃない。帝国の応援に来たんだし。鬼道は怪我の大事を取って今日は出ないらしいけど、大丈夫かな。
「ねえ」
「へ?」
すれ違う時、何故か声をかけられて、がっしりと腕を掴まれた。怖くなって振り払おうとしても信じられないくらい力が強くて、振り払えない。
腕がちょっと白くなってきた、ような。あたしを掴む腕には、キャプテンマーク。もしかして、世宇子中のキャプテン……?
「あの、試合は?」
「僕のこと、知ってるの?」
「いや、ユニフォーム着てるから……」
「ああ、なるほどね」
クスクスと笑っている男彼に背中が寒くなる。何、この人。
「雷門中の円堂美波さんだよね?見たよ、地区予選の決勝戦。凄いね、女の子なのに」
「……はあ、どうも」
褒められてる……んだと思う。けど、なんか嘲笑われてるようにも受け取れる。得体が知れない。
「試合、見に来たの?」
「うん。帝国に友達がいるから」
「ふうん……そう。なら見ない方がいいよ」
「は……?」
「これは忠告だ。見たら後悔する。見なければよかったって」
なんだそれ。意味がわからなくて、聞き返そうとして……気づけばそこに彼はいなかった。
壁の時計を見ると、試合開始時間は過ぎている。
――さっ君達が危ない。
直感的にそう思って、あたしは観客席へ繋がる階段を駆け上がった。
焦る気持ちを抑えきれなくて、転びそうになりながらも辿り着いた観客席。そこから見えた光景は、酷いものだった。
凄まじいシュートで抉れたフィールドに、歪んだゴール。……倒れ伏した、さっ君たち帝国イレブン。
そしてそれを嘲笑うように見下している世宇子イレブンだった。
「何だよ、これ……!」
通りで歓声が全く聞こえない訳だ。こんな試合、言葉も出ない。あまりにも一方的だ。
得点は9ー0で、世宇子の大量リード。あの帝国が、9点差?こんなことって、あるの?
例え影山が裏から手を回していたとしても、帝国の実力は本物だ。戦ったんだから分かる。なのに、何で……!
「こんなところで、負けてたまるかあッ!」
「さっ君!」
酷い怪我を負っているのに、その体に鞭打って立ち上がったさっ君は一人特攻していく。
けど必殺技であっさりと吹き飛ばされ、フィールドに叩きつけられてしまった。
ボールはさっきの男の子に渡る。彼が指を鳴らすと、時間が止まったような、流れが変わったような、そんな感じがした。
次の瞬間フィールドに突風が巻き起こっていて、吹き飛ばされたディフェンダーを尻目に彼はゴール前に立っていた。
「ゴッドノウズ!」
放たれた神々しいシュートは、源田をはね飛ばしてゴールに突き刺さる。10ー0。
実況の声が耳に入ってくる。長い髪の彼の名前はアフロディと言うらしい。多分、渾名だと思う。
帝国側のベンチを見れば、鬼道が、信じられないとばかりに呆然と立ち尽くしていた。
ホイッスルが鳴って、帝国の棄権で試合が終わる。フィールドに立っている帝国の選手は一人もいない。
ふいにアフロディがこちらを向いた。バチリ、と視線が合った気がする。こんなに沢山の観客がいる中で、あたしを、見つけた?
「(……怖い)」
寒気がして、鳥肌が立った腕を擦る。何だよあれ。わからないよ。
雷門が決勝まで進んだとして、きっと決勝戦の相手は世宇子だ。間違いなく世宇子は勝ち上がってくる。
守兄が、一郎太が、豪炎寺が、染岡が、半田が、みんながあんな怪我を負ったら……!
つい最近まで無敗だった帝国が、全くの無名の世宇子に負けたからか、辺りの観客がざわめいている。
誰もが困惑の表情を浮かべている中、世宇子イレブンは退場した。
暫くして、救急隊員によって担架に乗せられ、帝国イレブンは病院へ運ばれていく。
目の前で起きた出来事が信じられなくて、頭の中が真っ白になった。
そこからはあまり覚えていない。気づいたら廊下の椅子にもたれるように座っていて、携帯を握り締めていた。
画面を見れば、どうやらあたしは春ちゃんに試合結果を送ったらしい。
「どうして……」
口を開けばどうしてと、そんな言葉しか出てこない。どうして、どうして、どうして。
サッカーは暴力をするためのものじゃない。楽しくて、時に厳しい、そんなスポーツだ。
……ラフなプレーは絶対に駄目とまでは言わない。そういうプレーになる時だって、確かにある。
けどあれは、世宇子のサッカーは、相手をただ痛め付けて、自分の力を誇示しようとしてるだけのプレイだった。
あんなの、サッカーじゃない。
帝国はやっと影山から解放された。これからだったのに、何でこんな事になったんだろう。
もしあの時点でアフロディが言った意味に気づいてたら、止められたのかな。
さっ君が、帝国の皆が、傷つかずに済んだのかもしれない。
「何で、だよ……」
ぼんやりとそう考えて俯いていたら、ふと影が射した。誰だろうと顔を上げたら、
「やあ、円堂さん。試合、見たみたいだね」
「アフロディ……」
彼がいた。
.
『ああ、よかったら見に来て欲しいんだ』
「丁度あたしも見に行きたいって思ってたんだ!行く!絶対見に行く!」
『そうか!絶対に勝つから、応援してくれよな』
「おう!」
というやり取りをさっ君としたのが、つい昨日の夜の事だ。
当然サッカー部は毎日練習があるんだけど、守兄に頼みに頼み込んで練習を休ませてもらうことにした。
秋達にも連絡しておいたら、春ちゃんから試合結果を教えて欲しいと返事がきて、OKの返事をする。
帝国にはお兄ちゃんの鬼道がいるから、気になるよね。
そして今日、つまりは翌日で帝国の初戦当日。
「うわー、試合始まっちゃうよ!」
あたしはフロンティアスタジアム行きのバスの中で、携帯の時計表示とにらめっこしていた。
出かける前にやたらと守兄が心配して、忘れ物はないかとか、交通費持ったかとか、何度も確認した。だから出る時間がズレてしまった。
試合ギリギリの時間のバスに飛び乗ったはいいものの、道路が混んでてやきもきしてる。なんとか間に合いそう、だけど。
――次はフロンティアスタジアム前
「あ、降ります降ります!」
降車ボタン連打。意味ないけど、気持ち的な問題だ。
運賃を入れてありがとうございましたと軽く運転手さんに会釈して、バスから飛び降りる。
そのままバス停からフロンティアスタジアムに、全力疾走。
「……うん、間に合いそうだ」
スタジアム内に入って観客席に上がる階段を探してたら、前方から綺麗な男の子が歩いてきた。
長い髪は絹みたいに柔らかそうだし、肌も陶器のように滑らかで、一瞬女の子かと思ったけど、多分男の子だろう。
腕や足の筋肉は引き締まっててスラッとしてる。ユニフォームっぽいの着てるし、もしかして噂の世宇子中の選手かな?
まあ今はそれどころじゃない。帝国の応援に来たんだし。鬼道は怪我の大事を取って今日は出ないらしいけど、大丈夫かな。
「ねえ」
「へ?」
すれ違う時、何故か声をかけられて、がっしりと腕を掴まれた。怖くなって振り払おうとしても信じられないくらい力が強くて、振り払えない。
腕がちょっと白くなってきた、ような。あたしを掴む腕には、キャプテンマーク。もしかして、世宇子中のキャプテン……?
「あの、試合は?」
「僕のこと、知ってるの?」
「いや、ユニフォーム着てるから……」
「ああ、なるほどね」
クスクスと笑っている男彼に背中が寒くなる。何、この人。
「雷門中の円堂美波さんだよね?見たよ、地区予選の決勝戦。凄いね、女の子なのに」
「……はあ、どうも」
褒められてる……んだと思う。けど、なんか嘲笑われてるようにも受け取れる。得体が知れない。
「試合、見に来たの?」
「うん。帝国に友達がいるから」
「ふうん……そう。なら見ない方がいいよ」
「は……?」
「これは忠告だ。見たら後悔する。見なければよかったって」
なんだそれ。意味がわからなくて、聞き返そうとして……気づけばそこに彼はいなかった。
壁の時計を見ると、試合開始時間は過ぎている。
――さっ君達が危ない。
直感的にそう思って、あたしは観客席へ繋がる階段を駆け上がった。
焦る気持ちを抑えきれなくて、転びそうになりながらも辿り着いた観客席。そこから見えた光景は、酷いものだった。
凄まじいシュートで抉れたフィールドに、歪んだゴール。……倒れ伏した、さっ君たち帝国イレブン。
そしてそれを嘲笑うように見下している世宇子イレブンだった。
「何だよ、これ……!」
通りで歓声が全く聞こえない訳だ。こんな試合、言葉も出ない。あまりにも一方的だ。
得点は9ー0で、世宇子の大量リード。あの帝国が、9点差?こんなことって、あるの?
例え影山が裏から手を回していたとしても、帝国の実力は本物だ。戦ったんだから分かる。なのに、何で……!
「こんなところで、負けてたまるかあッ!」
「さっ君!」
酷い怪我を負っているのに、その体に鞭打って立ち上がったさっ君は一人特攻していく。
けど必殺技であっさりと吹き飛ばされ、フィールドに叩きつけられてしまった。
ボールはさっきの男の子に渡る。彼が指を鳴らすと、時間が止まったような、流れが変わったような、そんな感じがした。
次の瞬間フィールドに突風が巻き起こっていて、吹き飛ばされたディフェンダーを尻目に彼はゴール前に立っていた。
「ゴッドノウズ!」
放たれた神々しいシュートは、源田をはね飛ばしてゴールに突き刺さる。10ー0。
実況の声が耳に入ってくる。長い髪の彼の名前はアフロディと言うらしい。多分、渾名だと思う。
帝国側のベンチを見れば、鬼道が、信じられないとばかりに呆然と立ち尽くしていた。
ホイッスルが鳴って、帝国の棄権で試合が終わる。フィールドに立っている帝国の選手は一人もいない。
ふいにアフロディがこちらを向いた。バチリ、と視線が合った気がする。こんなに沢山の観客がいる中で、あたしを、見つけた?
「(……怖い)」
寒気がして、鳥肌が立った腕を擦る。何だよあれ。わからないよ。
雷門が決勝まで進んだとして、きっと決勝戦の相手は世宇子だ。間違いなく世宇子は勝ち上がってくる。
守兄が、一郎太が、豪炎寺が、染岡が、半田が、みんながあんな怪我を負ったら……!
つい最近まで無敗だった帝国が、全くの無名の世宇子に負けたからか、辺りの観客がざわめいている。
誰もが困惑の表情を浮かべている中、世宇子イレブンは退場した。
暫くして、救急隊員によって担架に乗せられ、帝国イレブンは病院へ運ばれていく。
目の前で起きた出来事が信じられなくて、頭の中が真っ白になった。
そこからはあまり覚えていない。気づいたら廊下の椅子にもたれるように座っていて、携帯を握り締めていた。
画面を見れば、どうやらあたしは春ちゃんに試合結果を送ったらしい。
「どうして……」
口を開けばどうしてと、そんな言葉しか出てこない。どうして、どうして、どうして。
サッカーは暴力をするためのものじゃない。楽しくて、時に厳しい、そんなスポーツだ。
……ラフなプレーは絶対に駄目とまでは言わない。そういうプレーになる時だって、確かにある。
けどあれは、世宇子のサッカーは、相手をただ痛め付けて、自分の力を誇示しようとしてるだけのプレイだった。
あんなの、サッカーじゃない。
帝国はやっと影山から解放された。これからだったのに、何でこんな事になったんだろう。
もしあの時点でアフロディが言った意味に気づいてたら、止められたのかな。
さっ君が、帝国の皆が、傷つかずに済んだのかもしれない。
「何で、だよ……」
ぼんやりとそう考えて俯いていたら、ふと影が射した。誰だろうと顔を上げたら、
「やあ、円堂さん。試合、見たみたいだね」
「アフロディ……」
彼がいた。
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