豪炎寺修也との出会い
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「サッカー部に入らないか?」
「……サッカーはもうやめたんだ」
誘ってくる円堂にそう言って、視線を逸らす。そう、サッカーはやめた。夕香が目覚めるまで、ボールは蹴らない。
そう考えたところで、昨日のことを思い出す。ボールを蔑ろにした不良を許せず、見て見ぬ振りは出来なかった。気づけば、体が動いていた。
久しぶりに蹴ったボールは、酷く心地よく感じた。……俺はサッカーが好きなのだと。
けれど、自分に課した誓いは、もう破らない。あれが最後だ。
あの感覚を忘れようと別のことを考えようとした時、1人の女子が視界に入ってきた。
昨日、小学生の女の子を庇いに飛び出した奴だ。よく見れば雰囲気が円堂に似ているが……。
「あたしは円堂美波。隣のクラスで、あたしもサッカー部なんだ!よろしく!」
「美波は俺の双子の妹なんだ!」
双子の妹。道理で似ているはずだ。おまけにコイツもサッカー部らしい。
「(妹、か……)」
未だに眠り続ける夕香のことを考える。まだ幼い夕香から奪われた時間は、元には戻らない。
俺の試合の応援にさえ来なければ、あんなことにはならなかったのに……。
「昨日は本当にありがとうね!シュート、凄かったよ!」
「……そうか」
「それで……あ、半田」
「円堂!冬海先生がお前を呼んでる」
「俺?」
「何で?」
「分かんないけど……俺、嫌な予感がするんだ。例えば、廃部とか……」
「「廃部ゥ!?」」
廃部、という言葉に少し反応してしまった。気づかれなかっただろうか。
円堂は、絶対にさせない!と行ってしまい、半田と呼ばれた奴もその後を追っていった。俺と円堂……の妹だけが残される。
「えーっと、豪炎寺」
「……何だ」
またサッカー部への勧誘かと身構えたが、違った。
「入ってきたばっかだから学校のこととかまだあんまり知らないよね。よかったら昼休み案内するよ」
コイツはサッカー部の部員だ。関わらない方がいいだろう。だから断った方がいい、そう思ったはずなのに。
「頼む」
こう返事してしまったのは何故だろうか。
俺の返事を聞いた円堂は、嬉しそうに笑った。
「で、ここが図書室なんだ。これで一通り回ったかな?」
「ああ、ありがとう」
「教室戻ろっか」
「「………」」
案内なのだから当然なのだろうが、先程から円堂ばかり話していたこともあり、それが終わってしまえば沈黙が訪れた。
俺も特に話すことはない。が、気まずくなったのか、円堂が口を開く。
「そうだ。円堂守の方と名字被るから名前でいいよ」
「わかった」
そう返事をして考える。サッカー部に入るつもりはないし、そもそもクラスが違う。
体育のような授業で一緒になる可能性はあるが、話す機会はあるのか。
「今日はいい天気だね」
「そうだな」
「サッカー日和だ!」
「グラウンド、使えないんだろ」
「はは……(会話のネタが思いつかない!)」
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
変な奴だ。
「………あのさ」
躊躇いがちに円堂――美波は口を開いた。
「何だ」
「豪炎寺は木戸川清修から来たんだよね。あのサッカーの名門校の」
「それがどうしたんだ」
「サッカー部、入ってたんだよね」
「……ああ」
「転校生が来たって聞いて調べたんだけど、何で去年の全国大会の決勝に居なかったの?」
「それは」
何故そんなことを聞くんだ。
「お前には関係ないだろ」
「……確かに関係ないね」
思わず突き放すように言えば、肯定の言葉が返ってきて、少し拍子抜けた。
「あれだけ凄いシュートが撃てるんだから、エースだったんでしょ?なのに欠場するなんて。しかもあれ以来公式試合に出てないし」
「……」
「だから、何かあったのかと思ったんだ。もしかして、怪我でもしたのかなーとか。だからサッカーも辞めたのかなって」
そういう事情だったら、誘ったの悪かったなって。
正直コイツは……美波は、能天気なやつだと思っていたが。けれど、思っていたよりも鋭く、頭の回転も速いようだ。
「美波」
「ん?」
「放課後空いてるか?」
「え、練習……ううん、空いてるっちゃ空いてるけど」
「……なら、少し付き合ってくれないか」
美波なら教えてもいいんじゃないだろうか。何故かそう思えた。
***
「美波ー!部員集め行くぞ!打倒帝国学園だ!」
「ごめん守兄!用事出来たから今日は先に帰るね!」
「えっ」
「用事の後時間あったら途中参加するから!本当ごめんね!」
「あ、ちょっと!」
「行こう、豪炎寺!」
「……すまない」
「ううん。いいんだ」
……円堂の視線が痛い。昼の友好的な態度は何だったんだ。
「本当に良かったのか。部員、足りないんだろ」
「そうだけど……まあなんとかなるよ!」
昼の円堂の呼び出し内容は、やはり部の存続に関することだった。練習試合に勝てなければ、廃部。
しかも相手は40年間無敗を誇る帝国学園。方や部員すら揃っておらず、練習もまともに出来ていない雷門中。まず勝てる相手ではない。
「勝算はあるのか」
「うーん、でもやってみなくちゃ分からないしね!もしかしたら棄権してくれたりするかも」
「……帝国学園が?」
「あはは……流石に無理あるか」
俺たちは裏門から学校を出た。目的地はすぐそこにある。転入先に雷門を選んだ理由の1つだ。
「ここだ」
「稲妻総合病院……。やっぱり豪炎寺、怪我……」
「いや、俺じゃない」
「じゃあ知り合い?」
その質問には答えず、俺は歩き出した。
ドアを開けて、夕香の病室に入る。前に来た時と変わらない、殺風景な部屋だ。
「……この子は?」
「夕香……俺の妹だ」
「妹?」
「ああ。……去年のフットボールフロンティア決勝の日、事故に遭ったんだ」
「!」
「あの日から、こうして眠ったままだ」
「それで決勝に居なかったんだ……」
「試合前に連絡が入って、すぐにここに来たからな」
「……」
「俺の応援にさえ来なければ事故には遭わなかった。だから俺は夕香が目覚めるまでサッカーはやらない、そう決めたんだ」
「そう、だったんだ……」
俺は制服の上から、あの日夕香がくれたペンダントを握り締めた。
「本当にそれでいいの?」
その言葉に、美波の方を見る。何を言っているんだ、コイツは。
「……どういう意味だ」
「夕香ちゃんは豪炎寺の応援をしに決勝を見に行こうとしてたんだよね」
「ああ」
「それは、サッカーをやってる豪炎寺が大好きだったからじゃないかな。なのに自分のせいでサッカーをやめたって知ったら、夕香ちゃんショックだと思う」
そうだ。夕香は俺のサッカーを見るのが好きだった。……だから、事故に遭った。俺が、サッカーをやっていたから。
「それに、豪炎寺は今でもサッカー好きなんでしょ?だから」
「お前に何が分かるんだ!」
病院にも関わらず、思わず怒鳴った。だけど美波は顔色を変えずに続ける。
「知らないよ。分かる訳ない。だってあたしは夕香ちゃんじゃないし。でもそれは、豪炎寺だって同じだ」
強い光を宿した、純粋で、まっすぐな目で美波は俺を見た。
「だから、勝手な想像で話す。あたしは、夕香ちゃんが豪炎寺がサッカーをやめるのを望んでるとは思えない。ねえ、豪炎寺は何の為にサッカーをやってたの?」
「それは……」
「……サッカーが好きだから、そうじゃないの?そうじゃなきゃ、あんな凄いシュートを討てる訳ないよ」
「……」
その言葉に絶句する。そうだ、俺はサッカーが……。だが……。
「……辛いことを話させておきながら、一方的に言ってごめん。でもあたしは、大好きなものに嘘をついちゃダメだと思う」
そう言って美波は俺に背を向けた。
「……このことは誰にも言わないよ。夕香ちゃん、早くよくなるといいね」
パタン
小さな音を立てて、ドアが閉まった。
.
「……サッカーはもうやめたんだ」
誘ってくる円堂にそう言って、視線を逸らす。そう、サッカーはやめた。夕香が目覚めるまで、ボールは蹴らない。
そう考えたところで、昨日のことを思い出す。ボールを蔑ろにした不良を許せず、見て見ぬ振りは出来なかった。気づけば、体が動いていた。
久しぶりに蹴ったボールは、酷く心地よく感じた。……俺はサッカーが好きなのだと。
けれど、自分に課した誓いは、もう破らない。あれが最後だ。
あの感覚を忘れようと別のことを考えようとした時、1人の女子が視界に入ってきた。
昨日、小学生の女の子を庇いに飛び出した奴だ。よく見れば雰囲気が円堂に似ているが……。
「あたしは円堂美波。隣のクラスで、あたしもサッカー部なんだ!よろしく!」
「美波は俺の双子の妹なんだ!」
双子の妹。道理で似ているはずだ。おまけにコイツもサッカー部らしい。
「(妹、か……)」
未だに眠り続ける夕香のことを考える。まだ幼い夕香から奪われた時間は、元には戻らない。
俺の試合の応援にさえ来なければ、あんなことにはならなかったのに……。
「昨日は本当にありがとうね!シュート、凄かったよ!」
「……そうか」
「それで……あ、半田」
「円堂!冬海先生がお前を呼んでる」
「俺?」
「何で?」
「分かんないけど……俺、嫌な予感がするんだ。例えば、廃部とか……」
「「廃部ゥ!?」」
廃部、という言葉に少し反応してしまった。気づかれなかっただろうか。
円堂は、絶対にさせない!と行ってしまい、半田と呼ばれた奴もその後を追っていった。俺と円堂……の妹だけが残される。
「えーっと、豪炎寺」
「……何だ」
またサッカー部への勧誘かと身構えたが、違った。
「入ってきたばっかだから学校のこととかまだあんまり知らないよね。よかったら昼休み案内するよ」
コイツはサッカー部の部員だ。関わらない方がいいだろう。だから断った方がいい、そう思ったはずなのに。
「頼む」
こう返事してしまったのは何故だろうか。
俺の返事を聞いた円堂は、嬉しそうに笑った。
「で、ここが図書室なんだ。これで一通り回ったかな?」
「ああ、ありがとう」
「教室戻ろっか」
「「………」」
案内なのだから当然なのだろうが、先程から円堂ばかり話していたこともあり、それが終わってしまえば沈黙が訪れた。
俺も特に話すことはない。が、気まずくなったのか、円堂が口を開く。
「そうだ。円堂守の方と名字被るから名前でいいよ」
「わかった」
そう返事をして考える。サッカー部に入るつもりはないし、そもそもクラスが違う。
体育のような授業で一緒になる可能性はあるが、話す機会はあるのか。
「今日はいい天気だね」
「そうだな」
「サッカー日和だ!」
「グラウンド、使えないんだろ」
「はは……(会話のネタが思いつかない!)」
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
変な奴だ。
「………あのさ」
躊躇いがちに円堂――美波は口を開いた。
「何だ」
「豪炎寺は木戸川清修から来たんだよね。あのサッカーの名門校の」
「それがどうしたんだ」
「サッカー部、入ってたんだよね」
「……ああ」
「転校生が来たって聞いて調べたんだけど、何で去年の全国大会の決勝に居なかったの?」
「それは」
何故そんなことを聞くんだ。
「お前には関係ないだろ」
「……確かに関係ないね」
思わず突き放すように言えば、肯定の言葉が返ってきて、少し拍子抜けた。
「あれだけ凄いシュートが撃てるんだから、エースだったんでしょ?なのに欠場するなんて。しかもあれ以来公式試合に出てないし」
「……」
「だから、何かあったのかと思ったんだ。もしかして、怪我でもしたのかなーとか。だからサッカーも辞めたのかなって」
そういう事情だったら、誘ったの悪かったなって。
正直コイツは……美波は、能天気なやつだと思っていたが。けれど、思っていたよりも鋭く、頭の回転も速いようだ。
「美波」
「ん?」
「放課後空いてるか?」
「え、練習……ううん、空いてるっちゃ空いてるけど」
「……なら、少し付き合ってくれないか」
美波なら教えてもいいんじゃないだろうか。何故かそう思えた。
***
「美波ー!部員集め行くぞ!打倒帝国学園だ!」
「ごめん守兄!用事出来たから今日は先に帰るね!」
「えっ」
「用事の後時間あったら途中参加するから!本当ごめんね!」
「あ、ちょっと!」
「行こう、豪炎寺!」
「……すまない」
「ううん。いいんだ」
……円堂の視線が痛い。昼の友好的な態度は何だったんだ。
「本当に良かったのか。部員、足りないんだろ」
「そうだけど……まあなんとかなるよ!」
昼の円堂の呼び出し内容は、やはり部の存続に関することだった。練習試合に勝てなければ、廃部。
しかも相手は40年間無敗を誇る帝国学園。方や部員すら揃っておらず、練習もまともに出来ていない雷門中。まず勝てる相手ではない。
「勝算はあるのか」
「うーん、でもやってみなくちゃ分からないしね!もしかしたら棄権してくれたりするかも」
「……帝国学園が?」
「あはは……流石に無理あるか」
俺たちは裏門から学校を出た。目的地はすぐそこにある。転入先に雷門を選んだ理由の1つだ。
「ここだ」
「稲妻総合病院……。やっぱり豪炎寺、怪我……」
「いや、俺じゃない」
「じゃあ知り合い?」
その質問には答えず、俺は歩き出した。
ドアを開けて、夕香の病室に入る。前に来た時と変わらない、殺風景な部屋だ。
「……この子は?」
「夕香……俺の妹だ」
「妹?」
「ああ。……去年のフットボールフロンティア決勝の日、事故に遭ったんだ」
「!」
「あの日から、こうして眠ったままだ」
「それで決勝に居なかったんだ……」
「試合前に連絡が入って、すぐにここに来たからな」
「……」
「俺の応援にさえ来なければ事故には遭わなかった。だから俺は夕香が目覚めるまでサッカーはやらない、そう決めたんだ」
「そう、だったんだ……」
俺は制服の上から、あの日夕香がくれたペンダントを握り締めた。
「本当にそれでいいの?」
その言葉に、美波の方を見る。何を言っているんだ、コイツは。
「……どういう意味だ」
「夕香ちゃんは豪炎寺の応援をしに決勝を見に行こうとしてたんだよね」
「ああ」
「それは、サッカーをやってる豪炎寺が大好きだったからじゃないかな。なのに自分のせいでサッカーをやめたって知ったら、夕香ちゃんショックだと思う」
そうだ。夕香は俺のサッカーを見るのが好きだった。……だから、事故に遭った。俺が、サッカーをやっていたから。
「それに、豪炎寺は今でもサッカー好きなんでしょ?だから」
「お前に何が分かるんだ!」
病院にも関わらず、思わず怒鳴った。だけど美波は顔色を変えずに続ける。
「知らないよ。分かる訳ない。だってあたしは夕香ちゃんじゃないし。でもそれは、豪炎寺だって同じだ」
強い光を宿した、純粋で、まっすぐな目で美波は俺を見た。
「だから、勝手な想像で話す。あたしは、夕香ちゃんが豪炎寺がサッカーをやめるのを望んでるとは思えない。ねえ、豪炎寺は何の為にサッカーをやってたの?」
「それは……」
「……サッカーが好きだから、そうじゃないの?そうじゃなきゃ、あんな凄いシュートを討てる訳ないよ」
「……」
その言葉に絶句する。そうだ、俺はサッカーが……。だが……。
「……辛いことを話させておきながら、一方的に言ってごめん。でもあたしは、大好きなものに嘘をついちゃダメだと思う」
そう言って美波は俺に背を向けた。
「……このことは誰にも言わないよ。夕香ちゃん、早くよくなるといいね」
パタン
小さな音を立てて、ドアが閉まった。
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