荒波一期(仮)
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フットボールフロンティア地区予選二回戦、御影専農との試合が終わって数日が経った。
準決勝に向け、それぞれが練習に励むある日の放課後のこと、
━━円堂美波さん、円堂美波さん。理事長室に来てください。
部室へ行こうとしていた美波の耳に、放送が飛び込んできた。
「あたし?」
「何かしたのか?」
「ううん。特に覚えはないけど……」
そう言いつつ首を傾げるも、行ってみなければ分からないと思い、美波は理事長室へ足を向けた。
「一郎太たちは先に行ってて!」
「わかった。皆にも言っておくよ」
「よろしく!」
身に覚えはない、これは本当だ。学校の者を壊しちゃったわけではない。
成績だって落ちてない。そっち方面で呼び出される可能性があるのは、守兄の方だろうし。
「うーん……」
何で呼び出されたんだろ。もしかして、理事長じゃなくて夏未さんかな……?うん、あり得る。夏未さんだから。
そうこう考えつつ、理事長室の前までたどり着いたので、軽くドアを叩く。
返ってきた「どうぞ」の声。あ、やっぱり呼び出したの夏未さんだ。どうしたんだろ。
「失礼します」
「あら、私と円堂さん以外いないのだから、そんなに改まらなくてもいいのよ」
「いや、一応言っておこうかと……」
そう言ったら、何故か笑われた。
「でさ、何で呼び出したの?この後部活だし、その時でも」
「まずは円堂さんだけに伝えたかったの」
「あたしだけ?」
「ええ」
何だろう。やっぱりサッカー関係なんだろうか。
「単刀直入に言うわ。貴方、フットボールフロンティアに出たいとは思わない?」
「え?フットボールフロンティアに?」
フットボールフロンティア。全国の中学サッカー日本一を決める大会。
ずっと憧れていた。でも男子しか出られない大会だから、あたしはベンチで応援するだけだった。
出たい。出られるなら出たい。でも、
「フットボールフロンティアは男子の大会だよね?」
「確かにそうよ。でも、特例があるの」
「特例?」
「ライセンスを持っていれば、女子でもフットボールフロンティアに出場出来るのよ」
「ライセンス?何それ」
「……」
夏未さんは呆れたようにため息をついて、手で額を押さえた。
「やっぱり知らなかったのね……」
「あ、あはは……」
「……まあ、仕方ないわ。サッカー協会発足以降、このライセンス制度が活用されたケースは数える程だもの」
調べてもここ何年も使われてないとか、使われなさ過ぎて規約の端にちょっと書いてあっただけだとか、過去の記録を引っ張り出してきたとか。
なんか難しそうだな……ん?もしかして!
「あたしの為に調べてくれたの!?」
「……別に、暇だったから大会規約に目を通したらたまたま見つけだたけよ」
「夏未さんは凄いなあ。あたし規約読み切れてないや。でさ、ライセンスって何?」
「そうね。簡単には言えば、公式の試合に出られる許可証のような物ね」
「車でいうと免許証みたいな?」
「まあ、そうなるかしら」
「全然知らなかった。何で使われてないんだろ」
「……それは、自分でも分かっているのではなくて?」
夏未さんにじっと見つめられて、あたしは思わず目を逸らした。
「……女子は女子の大会があるから、だよね」
「ええ、そうよ。公式戦は男子と女子で分かれている。でも、貴女は円堂くん達とサッカーがしたいのでしょう?」
「うん……」
何の為に男女で分かれてるのか。その理由は理解してる、つもりだ。
それでもあたしは守兄とサッカーがしたかった。半田と、染岡と。そして今は豪炎寺や一郎太達、皆と。
この歳になるとどうしても、能力で劣る部分は出てくる。だとしても、諦めたくなかった。
無理でも無茶でも何でもいい。同じフィールドに立ちたくて……そして今、公式戦で皆と一緒に戦うチャンスが巡ってきたんだ。
これを逃すなんて、絶対無いよねっ。
「ライセンス試験は所属校と協会関係者の推薦がなければ試験を受けることは出来ないのだけど、今回お父様が推薦してくれたの」
「理事長が?」
「だから、その試験に受かれば貴方も出られるのよ」
「試合には間に合う?」
「試験は準決勝の後だけど、決勝にはね」
「やったあ!」
決勝戦には間に合う。また、鬼道やさっ君たちと試合が出来る!
「喜ぶのはまだ早いわ。準決勝はこれからなのよ」
「豪炎寺はいないけど守兄達なら絶対勝つから大丈夫!」
「あのね、勝てたとしても、円堂さんはまず試験に受からないといけないんですからね」
「あ」
男子の試合に女子が出る為の試験。それに受かるだけの力が、あたしにあるのかな……。
「自信ない……」
「あら、貴女がそんなこと言うなんてね」
「あたしの実力で取れるのかなあ」
「はあ……。やってみなくちゃ分からない、でしょう?少なくとも私は貴女なら……円堂さんなら取れると信じているわ」
「夏未さん……!あたし、頑張るよ!」
夏未さんも応援してくれてるんだ。頑張らなきゃ!となればこうしちゃいられない!
「じゃあ部活行くね!試験に向けて特訓だっ!」
「ちょっと!まだ話は終わってないのよ!」
「出来るだけ長く練習したいんだ!」
「ま、待ちなさい!」
夏未さんが呼び止めてるけどまた後で会うだろうし、何より逸る気持ちが抑えきれない。沢山練習したい。
絶対に受かって、フットボールフロンティアに出るんだ!
あたしはグラウンドへ走り出した。
「……全く」
美波がいなくなった部屋で、夏未は1人ため息をついた。目線の先には渡しそびれてしまった書類。
「仕方ないわね……」
後で渡しに行こう。名前や判子を貰ってサッカー協会に送らないと……。夏未がそう考えていた時、理事長室のドアが開く。
入ってきたのは雷門の理事長――夏未の父であった。
「彼女には説明したのかな?」
「ええ」
「それにしても驚いたよ。まさか夏未が私に頼んでくるとは」
「それは……」
先程夏未が美波言ったことには、少しだけ嘘が混じっていた。
雷門中の理事長であり、日本サッカー協会の会長でもある父に、夏未が頼み込んで推薦をしてもらったのだ。
そして所属校推薦をしたのは他ならない夏未である。
「あの子はとても楽しそうにサッカーをしているな」
「……だから私はフットボールフロンティアに出してあげたかった」
ベンチで一緒に見ている夏未を筆頭としたマネージャー3人は、美波が時折寂しげな表情を見せることを知っていた。
練習にはいつも参加しているし、ユニフォームだってある。練習試合になら出られる。
でも、公式試合であるフットボールフロンティアには出られない。
彼女だって立派な雷門イレブンの一員なのに。
だからどうにかして出してあげたいと思った夏未は、父に頼んだのだ。美波を推薦してほしいと。
ふと外を見れば、ユニフォームに着替えた美波が真剣な表情で、でも楽しそうにボールを蹴っていた。
「私がわざわざ頼んであげたんだから、絶対に受かりなさい……!」
ボールの行き先を眺めながら、夏未はそう呟いた。
***
夏未嬢のおかげでフットボールフロンティアに参加できたのでした。ツンデレ万歳。
なっちゃん呼びになる過程も書きたい。
準決勝に向け、それぞれが練習に励むある日の放課後のこと、
━━円堂美波さん、円堂美波さん。理事長室に来てください。
部室へ行こうとしていた美波の耳に、放送が飛び込んできた。
「あたし?」
「何かしたのか?」
「ううん。特に覚えはないけど……」
そう言いつつ首を傾げるも、行ってみなければ分からないと思い、美波は理事長室へ足を向けた。
「一郎太たちは先に行ってて!」
「わかった。皆にも言っておくよ」
「よろしく!」
身に覚えはない、これは本当だ。学校の者を壊しちゃったわけではない。
成績だって落ちてない。そっち方面で呼び出される可能性があるのは、守兄の方だろうし。
「うーん……」
何で呼び出されたんだろ。もしかして、理事長じゃなくて夏未さんかな……?うん、あり得る。夏未さんだから。
そうこう考えつつ、理事長室の前までたどり着いたので、軽くドアを叩く。
返ってきた「どうぞ」の声。あ、やっぱり呼び出したの夏未さんだ。どうしたんだろ。
「失礼します」
「あら、私と円堂さん以外いないのだから、そんなに改まらなくてもいいのよ」
「いや、一応言っておこうかと……」
そう言ったら、何故か笑われた。
「でさ、何で呼び出したの?この後部活だし、その時でも」
「まずは円堂さんだけに伝えたかったの」
「あたしだけ?」
「ええ」
何だろう。やっぱりサッカー関係なんだろうか。
「単刀直入に言うわ。貴方、フットボールフロンティアに出たいとは思わない?」
「え?フットボールフロンティアに?」
フットボールフロンティア。全国の中学サッカー日本一を決める大会。
ずっと憧れていた。でも男子しか出られない大会だから、あたしはベンチで応援するだけだった。
出たい。出られるなら出たい。でも、
「フットボールフロンティアは男子の大会だよね?」
「確かにそうよ。でも、特例があるの」
「特例?」
「ライセンスを持っていれば、女子でもフットボールフロンティアに出場出来るのよ」
「ライセンス?何それ」
「……」
夏未さんは呆れたようにため息をついて、手で額を押さえた。
「やっぱり知らなかったのね……」
「あ、あはは……」
「……まあ、仕方ないわ。サッカー協会発足以降、このライセンス制度が活用されたケースは数える程だもの」
調べてもここ何年も使われてないとか、使われなさ過ぎて規約の端にちょっと書いてあっただけだとか、過去の記録を引っ張り出してきたとか。
なんか難しそうだな……ん?もしかして!
「あたしの為に調べてくれたの!?」
「……別に、暇だったから大会規約に目を通したらたまたま見つけだたけよ」
「夏未さんは凄いなあ。あたし規約読み切れてないや。でさ、ライセンスって何?」
「そうね。簡単には言えば、公式の試合に出られる許可証のような物ね」
「車でいうと免許証みたいな?」
「まあ、そうなるかしら」
「全然知らなかった。何で使われてないんだろ」
「……それは、自分でも分かっているのではなくて?」
夏未さんにじっと見つめられて、あたしは思わず目を逸らした。
「……女子は女子の大会があるから、だよね」
「ええ、そうよ。公式戦は男子と女子で分かれている。でも、貴女は円堂くん達とサッカーがしたいのでしょう?」
「うん……」
何の為に男女で分かれてるのか。その理由は理解してる、つもりだ。
それでもあたしは守兄とサッカーがしたかった。半田と、染岡と。そして今は豪炎寺や一郎太達、皆と。
この歳になるとどうしても、能力で劣る部分は出てくる。だとしても、諦めたくなかった。
無理でも無茶でも何でもいい。同じフィールドに立ちたくて……そして今、公式戦で皆と一緒に戦うチャンスが巡ってきたんだ。
これを逃すなんて、絶対無いよねっ。
「ライセンス試験は所属校と協会関係者の推薦がなければ試験を受けることは出来ないのだけど、今回お父様が推薦してくれたの」
「理事長が?」
「だから、その試験に受かれば貴方も出られるのよ」
「試合には間に合う?」
「試験は準決勝の後だけど、決勝にはね」
「やったあ!」
決勝戦には間に合う。また、鬼道やさっ君たちと試合が出来る!
「喜ぶのはまだ早いわ。準決勝はこれからなのよ」
「豪炎寺はいないけど守兄達なら絶対勝つから大丈夫!」
「あのね、勝てたとしても、円堂さんはまず試験に受からないといけないんですからね」
「あ」
男子の試合に女子が出る為の試験。それに受かるだけの力が、あたしにあるのかな……。
「自信ない……」
「あら、貴女がそんなこと言うなんてね」
「あたしの実力で取れるのかなあ」
「はあ……。やってみなくちゃ分からない、でしょう?少なくとも私は貴女なら……円堂さんなら取れると信じているわ」
「夏未さん……!あたし、頑張るよ!」
夏未さんも応援してくれてるんだ。頑張らなきゃ!となればこうしちゃいられない!
「じゃあ部活行くね!試験に向けて特訓だっ!」
「ちょっと!まだ話は終わってないのよ!」
「出来るだけ長く練習したいんだ!」
「ま、待ちなさい!」
夏未さんが呼び止めてるけどまた後で会うだろうし、何より逸る気持ちが抑えきれない。沢山練習したい。
絶対に受かって、フットボールフロンティアに出るんだ!
あたしはグラウンドへ走り出した。
「……全く」
美波がいなくなった部屋で、夏未は1人ため息をついた。目線の先には渡しそびれてしまった書類。
「仕方ないわね……」
後で渡しに行こう。名前や判子を貰ってサッカー協会に送らないと……。夏未がそう考えていた時、理事長室のドアが開く。
入ってきたのは雷門の理事長――夏未の父であった。
「彼女には説明したのかな?」
「ええ」
「それにしても驚いたよ。まさか夏未が私に頼んでくるとは」
「それは……」
先程夏未が美波言ったことには、少しだけ嘘が混じっていた。
雷門中の理事長であり、日本サッカー協会の会長でもある父に、夏未が頼み込んで推薦をしてもらったのだ。
そして所属校推薦をしたのは他ならない夏未である。
「あの子はとても楽しそうにサッカーをしているな」
「……だから私はフットボールフロンティアに出してあげたかった」
ベンチで一緒に見ている夏未を筆頭としたマネージャー3人は、美波が時折寂しげな表情を見せることを知っていた。
練習にはいつも参加しているし、ユニフォームだってある。練習試合になら出られる。
でも、公式試合であるフットボールフロンティアには出られない。
彼女だって立派な雷門イレブンの一員なのに。
だからどうにかして出してあげたいと思った夏未は、父に頼んだのだ。美波を推薦してほしいと。
ふと外を見れば、ユニフォームに着替えた美波が真剣な表情で、でも楽しそうにボールを蹴っていた。
「私がわざわざ頼んであげたんだから、絶対に受かりなさい……!」
ボールの行き先を眺めながら、夏未はそう呟いた。
***
夏未嬢のおかげでフットボールフロンティアに参加できたのでした。ツンデレ万歳。
なっちゃん呼びになる過程も書きたい。
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