「美波さん、何であの時パスを出したんすか？」

「虎丸がフリーだったのにわざわざあいつに出す必要ないじゃん」

「キャプテンだからって無理して奴に構うな。俺達だけでやるしかない」

「無理はしてないよ。それに、明王ちゃん抜きでこの試合は勝てない！」

「……美波ちゃんは信じてるんだね、不動くんを」

「勝ちに必要なら明王ちゃんもパスを出すよ。態度はまあ、あれだけどさ、プレーで判断してほしいんだ」

「もう十二分に見たさ。……俺達を利用するだけして自分のことしか考えてない」


そう思われても仕方ないプレーばっかりだったのも事実で、上手い言葉が出てこない。……それなら、見て貰うしかないか。

とにかくこっちが攻める流れに持ち込まないと。スローインに備えて周りを見てると、離れたとこに立ってる飛鷹が目に入ってきた。


「飛鷹！スローインだよ！」

「あ、ああ……」


戸惑いながら進み出る飛鷹はいつも以上にぎこちない。……そういえば、今日の飛鷹はあんまりボールに触ってないな。いつもならもっと、やれることはやろうって……。


「おおっと不動！囲まれたぞ！」


実況と会場の湧いた歓声で我に返った。明王ちゃんが囲まれてる。これまで一度もパスを出してないから、今度もそうだと踏んでマークが集中したんだ。

でも明王ちゃんは慌てない。ニヤリと笑って視線を走らせると、フリーの一郎太へパスを出す。けれどそれは受け取られることなく、ラインを割った。ああ……。


「チッ……しっかりしやがれ！」

「今更何を！しかもどこに蹴ってるんだ！」


続けて壁山、ヒロトへのパスも同じ結果だった。追い付かれることなくフィールドの外を転がるボールが、酷く寂しそうに見える。

追い付けない、取れる訳ない。……本当にそうだろうか。パスを追う皆はいつもより動きが悪かった。いつものプレーなら取れた筈なんだ。

敵も味方も、両方の動きを頭に入れた、的確で完璧なパス。受けることが出来たなら、きっと逆転に繋がる。それが出来ないのは……明王ちゃんを信頼してないから。


「荒波Ｖ２！」


あたしは明王ちゃんのサッカーを信じる。そうすれば、皆だって……！


「美波！こっちだ！」

「……明王ちゃん！」

「なっ、美波！」


一郎太が驚いてるけど、どの道パスコースとしてはマークされてる一郎太より明王ちゃんのが最適だ。

あたしのパスは無事明王ちゃんがトラップ。下手くそ呼ばわりされたけど今は何も言わないことにする。今は。


「明王ちゃんこっち！」

「ハッ、ついてこられんのかよ！」

「当然！」

「……外すなよ！」


鋭いパスが飛んでくる。思ってたより速いし前の方。……間に合うか間に合わないかじゃない。取るんだ。いや、あたしなら取れる！足に力を込めて、前へ、一歩前へ！


「だあああっ！」


追い付いてボールキープする。間違いない、これは取れるパスだ。上手くいった！


「どうだ！」

「いいから上がれ！」

「うん！」


前線には虎丸と豪炎寺が揃ってる。ならタイガーストームのチャンスだ。けれどあたしが出したパスを、豪炎寺はトラップミスした。豪炎寺がこんなミスするなんて、やっぱり……。

すぐさまファイアードラゴンがカウンターを仕掛けてくる。アフロディがセンタリングを上げた。そこへ入ってきたのは晴矢と風介。

炸裂するファイアブリザードに飛び出した飛鷹は……空振りした。更に立向居も破られたけど、軌道がズレたシュートを夕弥達が体でブロックしたことで失点は阻止出来た。


「くそっ、これ以上格好悪いところは見せられねえ。鈴目達の為にも！」

「飛鷹……」


格好悪いってなんだろう。プレーでミスすること？たとえミスしたとしても、本気のプレーが格好悪いなんて、絶対無いのに。鈴目達を思うなら尚更だ。


「飛鷹！」

「……悪いな。次はミスしない。今度こそ……！」

「あのさ。ボール、怖い？」

「！ それは」

「前も言ったけどさ、怖くて当然だよ。ミスは怖いし……皆がミスを責めないことが怖いときだってある」


自分がじゃなくて、皆が。チームに迷惑をかけるのが、フォローをさせてしまうのが、期待に応えられないのが、力になれないのが。今の飛鷹はそれだ。……豪炎寺も。


「大丈夫！サッカーに全力で向き合う飛鷹は、いつだって格好いいよ！」

「円堂……」


程なくしてチャンスウのコーナーキック。立向居が辛くもキャッチしたボールを受け取って、明王ちゃんへのパスはカットされた。しまった。読まれた。


「バカなミスすんなよ！」

「ばっ……バカは余計だ！水龍ッ！」


取られたなら取り返す！もう一度パスを出そうとしたところで、立ち塞がってきたのはアフロディ。


「粘るね、美波」

「アフロディ……！」

「そこまでして彼をプレーに組み込もうとする理由は何だい？」

「決まってる。勝つ為だ！それに、アフロディだってそうだったじゃん」

「！ ……なるほどね。そういうことか」


とはいえあたしが出し続けたことで明王ちゃんが警戒され始めた。ここは一旦戻すしかない。すさかず壁山にバックパスして、更に回して一郎太が持ち込んだ。

走り込むヒロトの間に明王ちゃんが割って入る。そして一郎太は明王ちゃんを無視してヒロトにパス。……まだ駄目か。

豪炎寺と虎丸のタイガーストームも依然決まらないまま。それどころかさっきよりタイミングがズレた。皆、焦ってるんだ……だからいつものプレーが出来てない……。

っ、あたしまで焦るな！ただでさえ一点を追う展開なんだから、焦るのも無理はないんだ。……こんな時こそ、キャプテンがしっかりしないといけないのに。なのに、何で……！


「選手交代！立向居勇気に変わって、円堂守！」



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