第13話 最後の試合
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受付でどこにいるか聞いて、逸る気持ちを抑えて歩く。……見つけた。豪炎寺の、お父さん。
「こんばんは」
「君は……」
「雷門中サッカー部の円堂美波です!豪炎寺……修也くんのチームメイトです。お願いします!修也くんに、サッカーを続けさせてあげてください!」
豪炎寺のお父さんが何かを言いかける。嫌だ、まだ聞きたくない!
「あいつはサッカーが大好きなんです!だけど夕香ちゃんのこととか、エイリアとかで責任を感じてサッカーをやめたり、思うように出来ない時期もあって」
そういえば。出会ったばかりの時、豪炎寺の気持ちを分かろうともしないで、好き勝手言っちゃったっけな。
あの頃と変わらない。豪炎寺は抱え込む。辛くても、苦しくても、誰かの為に自分は後回しで。それが悪いこととは言わない。でも、自分も大事にしてほしい。
「やっと、サッカーを楽しめるようになったんです!だから、修也くんからサッカーを取り上げないでください!」
勢いよく頭を下げる。聞こえてきたのは、僅かな呆れ混じりのため息だった。
「先程、君と同じことを言う少年が来たよ」
「え……」
「彼も円堂と名乗っていたがね」
「……兄です」
守兄も同じことをしてたんだ。豪炎寺が、サッカーを続けられるように。
「修也くんはサッカーを続けたい筈です。なのにどうして留学しなきゃならないんですか」
「修也は私の、医者としてのDNAを継ぐ子だ。優秀な医者になる。これが修也にとって最良の道だ」
「は……」
何だそれ。DNA?これが最良?未来がどうなるかなんて誰もわからない。それなのに、そんなの、誰が決めたっていうんだ!
「何ですか、それ。親が医者なら子供も医者になることが決まってるって言うんですか!?」
「……円堂大介、私でも知っている。君たち兄妹が進んでいる道は、名のあるサッカー選手だったお祖父さんを追っているのではないのかね」
「……!」
物置きにあったサッカーボールとじいちゃんのノート。それがあたしたち兄妹の、サッカーとの出会い。
そして、届いた手紙。頂上で待ってる。
……確かに、確かにきっかけはじいちゃんだ。もし本当にじいちゃんが生きてるなら、世界大会の先にいるのなら、会いたい気持ちはある。
けど、それだけじゃない。
「じいちゃんのことは尊敬してますし、サッカーを始めたきっかけでもあります」
「なら」
「でも!じいちゃんはサッカーをする理由じゃない。サッカーが好きだから、大切な仲間と勝ちたい。もちろん豪炎寺とも、世界一になりたいです」
あたしも守兄もじいちゃんじゃない。円堂守と円堂美波だ。そしてそれは、豪炎寺も同じ!
「豪炎寺は貴方じゃない!豪炎寺の人生は豪炎寺だけのもので、その道を決められるのも豪炎寺だけだ!」
今まで沢山迷って悩んだ。……今だってそう。選んだこの道は本当に正しかったのかなって、時には立ち止まったりもする。
だけどそこでいくら考えてたところで変わらない。何が正しいかなんて誰にもわからない。だから、答えを探しては足掻いてもがいてがむしゃらに走るんだ。
「約束、したんです。世界一になるって」
――世界一に!!
……あの日にはもう、アジア予選まででサッカーを辞めるのは決まってたのかな。
豪炎寺はどんな気持ちでいた?皆で世界一になりたい。その皆の中には豪炎寺もいてほしい。それは、あたしのわがままなのかな。
「……明日、夕香ちゃんは応援しに行くって言ってました。もし、来ていただけるなら……あいつがサッカーにかける思いを、見届けてあげてくれませんか?」
返事は、貰えなかった。
合宿所に戻ると玄関に一郎太がいた。……もう夕飯の時間なのに、待っててくれたんだ。
「どうだった」
「……分かんない。余計なことしたかも。けど、出来るだけのことはやれたと思う」
「そうか。俺に手伝えそうなことはあるか?」
「分かんない……」
「豪炎寺だろ」
「何で」
「分かるよ。俺が」
「何年幼馴染みやってると思ってるんだ」
もう何度も言われてきた言葉。今回は先に言ってやれば「取るなよ」と小突かれた。
「円堂も美波も二人して同じような顔で悩んでてさ」
「え、そんなに顔に出てた?」
「そっくりだった」
「流石は一郎太」
「まあな」
長い付き合いの幼馴染み。一郎太はあたしや守兄のことをよく見ていてよく分かってる。
対するあたしはどうだろう。見てるし分かってもいる。……分かってるからこそ、かな。知らないことにしてしまうのは。
「それに大体豪炎寺も最近おかしいだろ。練習に熱が入るのはいいけど、少し焦ってるみたいで。皆気にしてる」
「だよなあ……。あれじゃあ分かるよね」
「円堂も美波も事情を知ってて言わないあたり相当なことだろうから俺達も動けないし」
「まあ、おおっぴらにすることでは無いかな……。家庭の事情?ってやつで」
まあ、その家庭の事情にあたしも守兄も首突っ込んじゃった訳だけど……。どうしても納得出来なかったから。
それにあたしは真人くんに頼んだって言われてたし!夕香ちゃんだってお兄ちゃんのサッカーもっと見たいよね、うん!よし!
豪炎寺のお父さんが息子に医者になってほしいのはわかった。それでも、豪炎寺自身の意思が尊重されるべきだ。将来のことならなおさら。
あそこまで拘るのは何か理由があるんだろうけど……だからといって、それを豪炎寺に強要するのはやっぱり違うと思う。
……有名な選手だったじいちゃん、か。……ううん。じいちゃんがどんな選手だったとしても、あたしはあたしだ。じいちゃんみたいになりたい訳じゃない。
「なんかさ、思い出したんだ。サッカー始めたばかりの頃のこと。あたしの原点みたいなの」
「どうした急に。物置で大介さんのノートを見つけたんだっけ」
「それもそうなんだけど……。一番は守兄がサッカーを始めたからかな」
「ああ、いつも円堂の後ろをついて回ってたんだもんな」
「え、何で知ってるの」
「何でだと思う?」
「誰」
「円堂」
「だよね……」
小さかった頃の美波はどこへ行くにもくっついてきて、俺が何か始めると何でも真似して可愛かったとか自慢気に話されたらしい。
……その話を聞く一郎太、染岡、半田の目が死んでるのが目に浮かぶ。秋はきっと苦笑いだ。一体どうしてそんな話をする流れになったんだ。
「守は昔からそういうとこある」
「美波が大事で仕方ないんだろ」
「あたしだって守のこと大事だよ。でもなんか、過剰っていうか」
「あそこまで拗らせた理由を考えるとな……正直わかる」
「それはそうだけど守は気にしすぎなんだよ」
「俺からすると美波も大概だけどな」
「えー、どこが?」
「今だって守は守がって言ってるじゃないか」
「……あー」
守兄が始まりだったあたしのサッカー。あたしのサッカーは守兄がいるからこそっていうのは……正直、ちょっとある、かもしれない。
前になっちゃんに言われた「円堂くん達とサッカーがしたいのでしょう?」はそれだ。拘っている自覚はある。だからあたしは……女子サッカーを選ばなかった。
「美波は円堂に対して踏み込めるけど円堂はそれが出来ないから、ああいうやり方しか無いんだろ」
「……一郎太が幼馴染みで良かったって今改めて思った」
「そう思って貰えるように努力してるからな」
「返す言葉もないや。問題なのはあたしの方」
「あんまり思い詰めるなよ?まあ……俺も円堂のことそんなに言えないけどな」
「そう、だね」
「……ああ」
会話が途切れた。……沈黙が少し、息苦しい。話を変えなきゃ。
「じいちゃん、本当に生きてるのかなあ」
「それを確かめるためにも世界に行かないとな」
「もし会えたらさ、ありがとうって言いたいんだ」
「ありがとう?」
「サッカーに出会わせてくれてって」
サッカーが繋いでくれた沢山の友達。強い絆で結ばれた仲間。きっとサッカーをしていなければ、出会うことは無かった。会えたとしても、今のような仲にはなれなかっただろう人達。
もちろん楽しいことばかりじゃなかった。友達と敵になったこともあった。悔しくて仕方なくて、嫌になりかけたこともあって、それでも無我夢中で走った。そんな過去があって、今がある。
「無茶やって良かったよ。ありがとね、励ましてくれて」
「俺は美波の幼馴染みだからな」
さあ、明日は決戦だ。
→あとがき
「こんばんは」
「君は……」
「雷門中サッカー部の円堂美波です!豪炎寺……修也くんのチームメイトです。お願いします!修也くんに、サッカーを続けさせてあげてください!」
豪炎寺のお父さんが何かを言いかける。嫌だ、まだ聞きたくない!
「あいつはサッカーが大好きなんです!だけど夕香ちゃんのこととか、エイリアとかで責任を感じてサッカーをやめたり、思うように出来ない時期もあって」
そういえば。出会ったばかりの時、豪炎寺の気持ちを分かろうともしないで、好き勝手言っちゃったっけな。
あの頃と変わらない。豪炎寺は抱え込む。辛くても、苦しくても、誰かの為に自分は後回しで。それが悪いこととは言わない。でも、自分も大事にしてほしい。
「やっと、サッカーを楽しめるようになったんです!だから、修也くんからサッカーを取り上げないでください!」
勢いよく頭を下げる。聞こえてきたのは、僅かな呆れ混じりのため息だった。
「先程、君と同じことを言う少年が来たよ」
「え……」
「彼も円堂と名乗っていたがね」
「……兄です」
守兄も同じことをしてたんだ。豪炎寺が、サッカーを続けられるように。
「修也くんはサッカーを続けたい筈です。なのにどうして留学しなきゃならないんですか」
「修也は私の、医者としてのDNAを継ぐ子だ。優秀な医者になる。これが修也にとって最良の道だ」
「は……」
何だそれ。DNA?これが最良?未来がどうなるかなんて誰もわからない。それなのに、そんなの、誰が決めたっていうんだ!
「何ですか、それ。親が医者なら子供も医者になることが決まってるって言うんですか!?」
「……円堂大介、私でも知っている。君たち兄妹が進んでいる道は、名のあるサッカー選手だったお祖父さんを追っているのではないのかね」
「……!」
物置きにあったサッカーボールとじいちゃんのノート。それがあたしたち兄妹の、サッカーとの出会い。
そして、届いた手紙。頂上で待ってる。
……確かに、確かにきっかけはじいちゃんだ。もし本当にじいちゃんが生きてるなら、世界大会の先にいるのなら、会いたい気持ちはある。
けど、それだけじゃない。
「じいちゃんのことは尊敬してますし、サッカーを始めたきっかけでもあります」
「なら」
「でも!じいちゃんはサッカーをする理由じゃない。サッカーが好きだから、大切な仲間と勝ちたい。もちろん豪炎寺とも、世界一になりたいです」
あたしも守兄もじいちゃんじゃない。円堂守と円堂美波だ。そしてそれは、豪炎寺も同じ!
「豪炎寺は貴方じゃない!豪炎寺の人生は豪炎寺だけのもので、その道を決められるのも豪炎寺だけだ!」
今まで沢山迷って悩んだ。……今だってそう。選んだこの道は本当に正しかったのかなって、時には立ち止まったりもする。
だけどそこでいくら考えてたところで変わらない。何が正しいかなんて誰にもわからない。だから、答えを探しては足掻いてもがいてがむしゃらに走るんだ。
「約束、したんです。世界一になるって」
――世界一に!!
……あの日にはもう、アジア予選まででサッカーを辞めるのは決まってたのかな。
豪炎寺はどんな気持ちでいた?皆で世界一になりたい。その皆の中には豪炎寺もいてほしい。それは、あたしのわがままなのかな。
「……明日、夕香ちゃんは応援しに行くって言ってました。もし、来ていただけるなら……あいつがサッカーにかける思いを、見届けてあげてくれませんか?」
返事は、貰えなかった。
合宿所に戻ると玄関に一郎太がいた。……もう夕飯の時間なのに、待っててくれたんだ。
「どうだった」
「……分かんない。余計なことしたかも。けど、出来るだけのことはやれたと思う」
「そうか。俺に手伝えそうなことはあるか?」
「分かんない……」
「豪炎寺だろ」
「何で」
「分かるよ。俺が」
「何年幼馴染みやってると思ってるんだ」
もう何度も言われてきた言葉。今回は先に言ってやれば「取るなよ」と小突かれた。
「円堂も美波も二人して同じような顔で悩んでてさ」
「え、そんなに顔に出てた?」
「そっくりだった」
「流石は一郎太」
「まあな」
長い付き合いの幼馴染み。一郎太はあたしや守兄のことをよく見ていてよく分かってる。
対するあたしはどうだろう。見てるし分かってもいる。……分かってるからこそ、かな。知らないことにしてしまうのは。
「それに大体豪炎寺も最近おかしいだろ。練習に熱が入るのはいいけど、少し焦ってるみたいで。皆気にしてる」
「だよなあ……。あれじゃあ分かるよね」
「円堂も美波も事情を知ってて言わないあたり相当なことだろうから俺達も動けないし」
「まあ、おおっぴらにすることでは無いかな……。家庭の事情?ってやつで」
まあ、その家庭の事情にあたしも守兄も首突っ込んじゃった訳だけど……。どうしても納得出来なかったから。
それにあたしは真人くんに頼んだって言われてたし!夕香ちゃんだってお兄ちゃんのサッカーもっと見たいよね、うん!よし!
豪炎寺のお父さんが息子に医者になってほしいのはわかった。それでも、豪炎寺自身の意思が尊重されるべきだ。将来のことならなおさら。
あそこまで拘るのは何か理由があるんだろうけど……だからといって、それを豪炎寺に強要するのはやっぱり違うと思う。
……有名な選手だったじいちゃん、か。……ううん。じいちゃんがどんな選手だったとしても、あたしはあたしだ。じいちゃんみたいになりたい訳じゃない。
「なんかさ、思い出したんだ。サッカー始めたばかりの頃のこと。あたしの原点みたいなの」
「どうした急に。物置で大介さんのノートを見つけたんだっけ」
「それもそうなんだけど……。一番は守兄がサッカーを始めたからかな」
「ああ、いつも円堂の後ろをついて回ってたんだもんな」
「え、何で知ってるの」
「何でだと思う?」
「誰」
「円堂」
「だよね……」
小さかった頃の美波はどこへ行くにもくっついてきて、俺が何か始めると何でも真似して可愛かったとか自慢気に話されたらしい。
……その話を聞く一郎太、染岡、半田の目が死んでるのが目に浮かぶ。秋はきっと苦笑いだ。一体どうしてそんな話をする流れになったんだ。
「守は昔からそういうとこある」
「美波が大事で仕方ないんだろ」
「あたしだって守のこと大事だよ。でもなんか、過剰っていうか」
「あそこまで拗らせた理由を考えるとな……正直わかる」
「それはそうだけど守は気にしすぎなんだよ」
「俺からすると美波も大概だけどな」
「えー、どこが?」
「今だって守は守がって言ってるじゃないか」
「……あー」
守兄が始まりだったあたしのサッカー。あたしのサッカーは守兄がいるからこそっていうのは……正直、ちょっとある、かもしれない。
前になっちゃんに言われた「円堂くん達とサッカーがしたいのでしょう?」はそれだ。拘っている自覚はある。だからあたしは……女子サッカーを選ばなかった。
「美波は円堂に対して踏み込めるけど円堂はそれが出来ないから、ああいうやり方しか無いんだろ」
「……一郎太が幼馴染みで良かったって今改めて思った」
「そう思って貰えるように努力してるからな」
「返す言葉もないや。問題なのはあたしの方」
「あんまり思い詰めるなよ?まあ……俺も円堂のことそんなに言えないけどな」
「そう、だね」
「……ああ」
会話が途切れた。……沈黙が少し、息苦しい。話を変えなきゃ。
「じいちゃん、本当に生きてるのかなあ」
「それを確かめるためにも世界に行かないとな」
「もし会えたらさ、ありがとうって言いたいんだ」
「ありがとう?」
「サッカーに出会わせてくれてって」
サッカーが繋いでくれた沢山の友達。強い絆で結ばれた仲間。きっとサッカーをしていなければ、出会うことは無かった。会えたとしても、今のような仲にはなれなかっただろう人達。
もちろん楽しいことばかりじゃなかった。友達と敵になったこともあった。悔しくて仕方なくて、嫌になりかけたこともあって、それでも無我夢中で走った。そんな過去があって、今がある。
「無茶やって良かったよ。ありがとね、励ましてくれて」
「俺は美波の幼馴染みだからな」
さあ、明日は決戦だ。
→あとがき