第13話 最後の試合
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虎丸と入れ替わりで休憩しにきたのは士郎くんとヒロト。丁度良いや。練習に戻る前に聞いてみよう。
「美波ちゃん、腫れは大丈夫?」
「もう平気。……あのさ、士郎くんとヒロトはどう思う?豪炎寺のこと」
「豪炎寺くん?」
「どう思うって……」
顔を見合わせた二人は、表情を曇らせた。視線の先には休憩も取らずにボールを蹴り続ける豪炎寺。
「焦ってるよね。勝ちたい気持ちは同じだけど、豪炎寺くんのは少しだけ僕達と違う気がする」
「そうだね。決勝は近いしそれが悪いこととは思わない。けど、気負い過ぎてるように感じたな」
……豪炎寺の異変に気づいてるのは、多分フォワードの皆だけじゃない。今も鬼気迫るような迫力でシュートを撃つ豪炎寺を、鬼道が見ている。
「美波ちゃんも豪炎寺くんが気になるんだ」
「あのピリピリしてるのなんとかならないかなって」
「じゃあいっそのこと一発入れてみる?」
「一発?」
「仕返しのつもりって訳じゃないけどね」
「……あっ、そういうこと!?」
「吹雪くん、もしかして」
「あ、別に根に持ってる訳じゃないよ」
あの時の僕には必要なことだったから、と朗らかに笑う士郎くん。脳裏に浮かんだのは数メートルは吹っ飛んだ士郎くんの姿。
ヒロトは視線を斜め上に向けている。何故か空気が気まずくなってきたような。士郎くん本人はあっけらかんだけど、あたしとヒロトがだ。
「知ってるんだね、豪炎寺くんのこと」
「うん……」
豪炎寺の家の事情、お父さんとの約束、次が最後の試合。それをあたしは知っている。
二人はそれ以上は聞いてこなかった。その気遣いが、ありがたかった。
春ちゃんからボトルを一本貰ってグラウンドに戻る。
ボールに足をかける豪炎寺に後ろから近づいて、首に冷たいボトルを当てれば、ぎょっとしたように振り向いた。
「少し休憩しよ?ほら、飲まないと」
「美波……すまない」
ボトルを受け取った豪炎寺が一気に煽る。喉渇いてるの気づかないくらい集中してたのかな……。
「なんか豪炎寺さ」
「どうした」
「上手く言えないけど力みすぎてるっていうか」
「……そうかもしれないな」
豪炎寺は苦笑いを浮かべると、足元のボールに視線を落とした。
「イナズマジャパンを必ず世界へ送り出す」
「……」
「それがエースストライカーとして……俺に出来る最後の仕事だ」
「豪炎寺……」
ねえ、豪炎寺。覚えてる?帝国学園との練習試合。あの時のファイアトルネードを見てからずっと、あたしにとってのエースストライカーは豪炎寺なんだよ。
もしかしたら、それより前、不良が蹴ったボールから助けてくれた時からかもしれない。……最後なんて言わないでって、言えたら良かったのに。
.
決勝の相手が決まった。韓国対サウジアラビアの準決勝、制したのは韓国で、しかも4ー0の完勝。流石は優勝候補だ。
そうと決まればと必殺技の特訓への気合いを入れ直したところで、やってきた久遠監督に案内されたのは泥で出来たフィールド。決勝戦までの残り三日は、ここで練習!?
急かされてもこうもいきなりだと困惑が広がる。必殺技の練習はどうするんだ。……でも、監督は意味の無いことは絶対しない。この練習が、世界に繋がるなら!
一歩踏み出せば隣に豪炎寺が並んだ。交わす言葉は無くても気持ちは伝わる。熱い、サッカーへの思いが。
また一歩、泥が足に纏わりついた。
「やるぞ」
「うん。豪炎寺っ!」
続いて入ってきた守兄とアイコンタクトして、豪炎寺にパスを出す。はねた泥がかかったけど、きっとすぐ気にならなくなる筈だ。
「円堂!」
一番辛いのはサッカーをやめなきゃならない豪炎寺だ。豪炎寺が全てをかけて挑む決勝戦……最後の試合。
「美波!」
「たあああっ!」
絶対に、勝つ!
思うように動けない泥のフィールド。ボールを蹴ろうとすれば空振りするし、ドリブルしようとすれば足を取られて転んでしまう。
ならどうすればいいかっていうと、ボールが泥につからないようにパスを繋ぎ続ければいいんだ。
「飛鷹!」
「おう!」
いつもより気持ち高めでパスを出す。胸でトラップした飛鷹に親指を立てて見せれば、立て返してくれた。
その横でつんのめったリュウジが泥に突っ込む。顔を上げたリュウジはとても凄いことになっていた。……ダメだ、笑ったらダメだ。
「んんっ、ふ」
「笑ってんじゃん……!」
「ごめん!」
「美波ー!そこに落ちてるボールくれ!」
「オッケー条兄!あ、やべっ」
パスは出せるようになったけど、泥の中で動きづらいのが変わった訳ではなく。
ボールを蹴り出せはしたけど、運悪く深みにはまってしまった。バランスを崩したあたしは背中から泥へダイブ。
「うええ……」
「ほら見たことか」
顔や手は避けれたけど髪とハチマキがぐちゃぐちゃになった。……現実逃避したい。あ、あの雲イナズママークっぽいや。あれはサッカーボール。
近くにいた士郎くんが助けに来てくれたので、手を貸して貰って起き上がる。最近はよく誰かしらの手を借りてるな。
「美波ちゃん?」
「……前も思ったけど士郎くんの手って意外と大きいね」
「そうかな?嬉しいなあ」
「(嬉しいんだ)」
「美波ちゃんの手は柔らかいね。女の子の手だ」
グーパーしてぎゅーっと握って。……何やってんだろ、これ。ニコニコしてるけど士郎くんは何が楽しいんだ。
「いや何いちゃついてんだよ」
「は!?」
「そう見える?」
「見えた」
「ありがとう」
「二人共何言ってんの!……リュウジ、手貸して」
「手?」
さっきのは聞かなかったことにして、首を傾げたリュウジと手のひらを合わせる。うん。
「士郎くんより大きいや」
「負けないよ緑川くん」
「何が!?」
「お前ら何してんだ?」
「あ、綱海くん」
次いで来たのはボールを回収しに来た条兄で、俺も混ぜろ!と言う条兄とも大きさ比べ。この中だと一番大きいな。流石三年生。
イナズマジャパンで一番は……壁山かな。小さいのはあたしか栗松か夕弥あたり。
そんなことをしてたら、さっきまでゴール前にいた筈の守兄まで来ていた。途端に少し距離を置く士郎くん。……無言の攻防の気配を感じるような。
グローブを外した守兄と手を合わせた。あたしより一回り大きい、肉刺だらけで厚く硬いキーパーの手。
……小さい頃は、同じだったのにな。
「変わらないさ」
「そうかな」
「絶対変わらない。俺達はずっと一緒だ。そうだろ?」
「……うん、大丈夫」
追い付きたいから、一緒にいたいから、頑張るんだ。
***
ついに明日は決勝戦。練習が終わって一休みを済ませたあたしは、雷門中の裏門前まで来ていた。
裏門から出れば、稲妻総合病院は直ぐそこだ。でも、どうしようか迷ってる自分がいる。かえって迷惑なんじゃないかって。
さっきから同じ場所を行ったり来たりだ。……本当、何やってんだか。
「美波」
「! 一郎太……何でここに」
「なんとなく、美波がいる気がしたからさ」
「……流石幼馴染み」
「何悩んでるんだ。らしくない」
「そうかな」
「そうだよ。無茶は美波の必殺技、だろ?」
「!」
そうだ。いつだって、壁にぶち当たったって、悩んだって。それでも諦めずに、無茶をしては自分にやれることをやってきた。
変えられるかなんて分からない。けどそれをやらなかったことで、後々たらればを考えては後悔するくらいなら、動いた方がきっといい。
「……一郎太。あたし、行ってくる!」
「ああ。行ってこい!」
力強く背中を押してくれた手に勇気を貰って、あたしは雷門中を飛び出した。
分かってる。豪炎寺だけじゃない。このチームのメンバーだって、ずっとじゃないんだ。もちろん、あたしも。
プレーする以外のサッカーの形もある。趣味で続けるのだって有りだ。それでも……どうして豪炎寺ばっかりと思わずにはいられない。
あのサッカーへの熱い思いを感じる度に思う。豪炎寺と、世界のフィールドに立ちたい!!
.
「美波ちゃん、腫れは大丈夫?」
「もう平気。……あのさ、士郎くんとヒロトはどう思う?豪炎寺のこと」
「豪炎寺くん?」
「どう思うって……」
顔を見合わせた二人は、表情を曇らせた。視線の先には休憩も取らずにボールを蹴り続ける豪炎寺。
「焦ってるよね。勝ちたい気持ちは同じだけど、豪炎寺くんのは少しだけ僕達と違う気がする」
「そうだね。決勝は近いしそれが悪いこととは思わない。けど、気負い過ぎてるように感じたな」
……豪炎寺の異変に気づいてるのは、多分フォワードの皆だけじゃない。今も鬼気迫るような迫力でシュートを撃つ豪炎寺を、鬼道が見ている。
「美波ちゃんも豪炎寺くんが気になるんだ」
「あのピリピリしてるのなんとかならないかなって」
「じゃあいっそのこと一発入れてみる?」
「一発?」
「仕返しのつもりって訳じゃないけどね」
「……あっ、そういうこと!?」
「吹雪くん、もしかして」
「あ、別に根に持ってる訳じゃないよ」
あの時の僕には必要なことだったから、と朗らかに笑う士郎くん。脳裏に浮かんだのは数メートルは吹っ飛んだ士郎くんの姿。
ヒロトは視線を斜め上に向けている。何故か空気が気まずくなってきたような。士郎くん本人はあっけらかんだけど、あたしとヒロトがだ。
「知ってるんだね、豪炎寺くんのこと」
「うん……」
豪炎寺の家の事情、お父さんとの約束、次が最後の試合。それをあたしは知っている。
二人はそれ以上は聞いてこなかった。その気遣いが、ありがたかった。
春ちゃんからボトルを一本貰ってグラウンドに戻る。
ボールに足をかける豪炎寺に後ろから近づいて、首に冷たいボトルを当てれば、ぎょっとしたように振り向いた。
「少し休憩しよ?ほら、飲まないと」
「美波……すまない」
ボトルを受け取った豪炎寺が一気に煽る。喉渇いてるの気づかないくらい集中してたのかな……。
「なんか豪炎寺さ」
「どうした」
「上手く言えないけど力みすぎてるっていうか」
「……そうかもしれないな」
豪炎寺は苦笑いを浮かべると、足元のボールに視線を落とした。
「イナズマジャパンを必ず世界へ送り出す」
「……」
「それがエースストライカーとして……俺に出来る最後の仕事だ」
「豪炎寺……」
ねえ、豪炎寺。覚えてる?帝国学園との練習試合。あの時のファイアトルネードを見てからずっと、あたしにとってのエースストライカーは豪炎寺なんだよ。
もしかしたら、それより前、不良が蹴ったボールから助けてくれた時からかもしれない。……最後なんて言わないでって、言えたら良かったのに。
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決勝の相手が決まった。韓国対サウジアラビアの準決勝、制したのは韓国で、しかも4ー0の完勝。流石は優勝候補だ。
そうと決まればと必殺技の特訓への気合いを入れ直したところで、やってきた久遠監督に案内されたのは泥で出来たフィールド。決勝戦までの残り三日は、ここで練習!?
急かされてもこうもいきなりだと困惑が広がる。必殺技の練習はどうするんだ。……でも、監督は意味の無いことは絶対しない。この練習が、世界に繋がるなら!
一歩踏み出せば隣に豪炎寺が並んだ。交わす言葉は無くても気持ちは伝わる。熱い、サッカーへの思いが。
また一歩、泥が足に纏わりついた。
「やるぞ」
「うん。豪炎寺っ!」
続いて入ってきた守兄とアイコンタクトして、豪炎寺にパスを出す。はねた泥がかかったけど、きっとすぐ気にならなくなる筈だ。
「円堂!」
一番辛いのはサッカーをやめなきゃならない豪炎寺だ。豪炎寺が全てをかけて挑む決勝戦……最後の試合。
「美波!」
「たあああっ!」
絶対に、勝つ!
思うように動けない泥のフィールド。ボールを蹴ろうとすれば空振りするし、ドリブルしようとすれば足を取られて転んでしまう。
ならどうすればいいかっていうと、ボールが泥につからないようにパスを繋ぎ続ければいいんだ。
「飛鷹!」
「おう!」
いつもより気持ち高めでパスを出す。胸でトラップした飛鷹に親指を立てて見せれば、立て返してくれた。
その横でつんのめったリュウジが泥に突っ込む。顔を上げたリュウジはとても凄いことになっていた。……ダメだ、笑ったらダメだ。
「んんっ、ふ」
「笑ってんじゃん……!」
「ごめん!」
「美波ー!そこに落ちてるボールくれ!」
「オッケー条兄!あ、やべっ」
パスは出せるようになったけど、泥の中で動きづらいのが変わった訳ではなく。
ボールを蹴り出せはしたけど、運悪く深みにはまってしまった。バランスを崩したあたしは背中から泥へダイブ。
「うええ……」
「ほら見たことか」
顔や手は避けれたけど髪とハチマキがぐちゃぐちゃになった。……現実逃避したい。あ、あの雲イナズママークっぽいや。あれはサッカーボール。
近くにいた士郎くんが助けに来てくれたので、手を貸して貰って起き上がる。最近はよく誰かしらの手を借りてるな。
「美波ちゃん?」
「……前も思ったけど士郎くんの手って意外と大きいね」
「そうかな?嬉しいなあ」
「(嬉しいんだ)」
「美波ちゃんの手は柔らかいね。女の子の手だ」
グーパーしてぎゅーっと握って。……何やってんだろ、これ。ニコニコしてるけど士郎くんは何が楽しいんだ。
「いや何いちゃついてんだよ」
「は!?」
「そう見える?」
「見えた」
「ありがとう」
「二人共何言ってんの!……リュウジ、手貸して」
「手?」
さっきのは聞かなかったことにして、首を傾げたリュウジと手のひらを合わせる。うん。
「士郎くんより大きいや」
「負けないよ緑川くん」
「何が!?」
「お前ら何してんだ?」
「あ、綱海くん」
次いで来たのはボールを回収しに来た条兄で、俺も混ぜろ!と言う条兄とも大きさ比べ。この中だと一番大きいな。流石三年生。
イナズマジャパンで一番は……壁山かな。小さいのはあたしか栗松か夕弥あたり。
そんなことをしてたら、さっきまでゴール前にいた筈の守兄まで来ていた。途端に少し距離を置く士郎くん。……無言の攻防の気配を感じるような。
グローブを外した守兄と手を合わせた。あたしより一回り大きい、肉刺だらけで厚く硬いキーパーの手。
……小さい頃は、同じだったのにな。
「変わらないさ」
「そうかな」
「絶対変わらない。俺達はずっと一緒だ。そうだろ?」
「……うん、大丈夫」
追い付きたいから、一緒にいたいから、頑張るんだ。
***
ついに明日は決勝戦。練習が終わって一休みを済ませたあたしは、雷門中の裏門前まで来ていた。
裏門から出れば、稲妻総合病院は直ぐそこだ。でも、どうしようか迷ってる自分がいる。かえって迷惑なんじゃないかって。
さっきから同じ場所を行ったり来たりだ。……本当、何やってんだか。
「美波」
「! 一郎太……何でここに」
「なんとなく、美波がいる気がしたからさ」
「……流石幼馴染み」
「何悩んでるんだ。らしくない」
「そうかな」
「そうだよ。無茶は美波の必殺技、だろ?」
「!」
そうだ。いつだって、壁にぶち当たったって、悩んだって。それでも諦めずに、無茶をしては自分にやれることをやってきた。
変えられるかなんて分からない。けどそれをやらなかったことで、後々たらればを考えては後悔するくらいなら、動いた方がきっといい。
「……一郎太。あたし、行ってくる!」
「ああ。行ってこい!」
力強く背中を押してくれた手に勇気を貰って、あたしは雷門中を飛び出した。
分かってる。豪炎寺だけじゃない。このチームのメンバーだって、ずっとじゃないんだ。もちろん、あたしも。
プレーする以外のサッカーの形もある。趣味で続けるのだって有りだ。それでも……どうして豪炎寺ばっかりと思わずにはいられない。
あのサッカーへの熱い思いを感じる度に思う。豪炎寺と、世界のフィールドに立ちたい!!
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