第13話 最後の試合
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夜。なんとなく一人になりたくなくて守兄の部屋に行けば、守兄はサッカーボールを抱えてベッドに寝転がっていた。
「……あたし、やっぱり嫌だ」
「ああ。俺もこのままじゃ納得いかない!」
「久遠監督にも頼んでみよう」
「だな。まだやれることはある!俺達には豪炎寺が必要なんだ!」
「世界と戦うには……ううん、豪炎寺と世界で戦いたい!」
そう決めた次の日、久遠監督からの返事は良いものではなかった。元々豪炎寺のお父さんは、次の決勝戦にも出さないつもりだった。
それを決勝戦にだけは出られるように豪炎寺が説得したそうだ。……この試合を最後にサッカーをやめる条件で。
世界がかかった一戦。イナズマジャパンの夢。豪炎寺は、あたし達を送り出す為に!
もう今日何度目かも分からないタイガードライブと爆熱ストーム。あの異様な熱の入り方も、全部チームの……。
「美波前見ろよ!」
「ふぐっ」
練習中も豪炎寺のことで頭がいっぱいになってたからか、ついに顔面ブロックした。鼻血は出てないけど鼻が痛い。じんじんする。尻餅もついた。
集中しろよ!と怒る夕弥に叩かれまくる背中も痛い。壁山も栗松も集まってくる。ダメだな、決勝戦前なのにあたしまで不調になったら。
返す言葉もなくて下を向く。視界一面にグラウンドの砂。……情けない。そんなあたしに差し出された手の持ち主は、顔を見なくたって分かる。
「大丈夫か?ほら」
「ありがとう、一郎太」
苦笑いな一郎太に更に申し訳なさが湧きつつ手を伸ばして、その手を取ってから自分の手が砂だらけなのに気づく。
慌てて引っ込めようとする前に、一郎太はあたしの手をしっかりと握り返すと、引っ張り起こしてくれた。
「……ごめん」
「いつものことだろ」
「いつもごめん」
「何年美波の幼馴染みやってると思ってるんだ」
慣れてるよ。そう言って笑う一郎太が、切ないような、寂しいような……そんな雰囲気を纏ってる気がして、胸がぎゅうぎゅうと苦しくなる。
「……昔はあたしが一郎太を引っ張ってたのにね」
「だから俺は美波の手を引けるくらい強くなりたかったんだ」
美波ちゃんは凄いね、強いね。小さかった頃、一郎太はよくそう言ってくれて、言われる度に嬉しくなって調子に乗ったっけ。
まだ世界の広さも、ままならない現実も知らなかったあの日。
勇気と言うには無鉄砲過ぎて、けれどその怖いもの知らずな行動力は確かにあたしの強さだった。なら、今は?今のあたしは……。
「ていっ」
「ん?」
何か飛んできて腕に乗った。それは黒光りする……。
「ぎゃあああああ!!!」
「うっしっし!おもちゃの虫だよーだっ!」
「木暮!」
「何してるでやんすか!」
「アホの美波にはそれがお似合いだ!」
「あっ美波先輩動かないで!背中にその……ついてるっす」
「ととと取って壁山!」
何がついてたのかは見たくもない。でも、夕弥なりに励ましてくれたんだろうな。
とりあえず顔を冷やして来いよ、と促されたので一旦ベンチへ行くと、氷嚢を持った秋が待ち構えていた。
「派手にやっちゃったね」
「あはは……恥ずかしいな」
「もしかして風丸先輩と何かありましたか!?幼馴染み的なあれで!」
「無いってば」
何を見てたのか春ちゃんは相変わらずだ。期待されるようなことは無いから、ワクワクされても反応に困る。
幼馴染み。ふと、ここにはいない一之瀬のことを思い出した。秋は一之瀬や土門、西垣とアメリカにいた頃からの付き合いの仲だ。
そして一之瀬は……でも、秋は……。……本当に難しいな。皆大事な仲間、だけど。何で今思い出しちゃったんだろう。
「おさな、なじみ」
「ん?どしたの冬花さん」
「あ……いえ、何でもないんです」
何でかじっとあたしを見つめている冬花さん。どうぞ、と差し出されたドリンクをありがたく頂戴する。
「そういえば秋は最近一之瀬と連絡取った?」
「え、一之瀬くん?取ってないけど……土門くんと一緒にアメリカで頑張ってるみたい」
「そっか。じゃあアメリカ代表になった一之瀬と土門と世界で戦うかもしれないね!」
「ふふ。その時は私、イナズマジャパンを応援するから!」
「頼んだよ応援団長!でもせっかくだし二人も応援してあげてよ」
「そうだね。いい試合が出来るように!」
笑顔を浮かべた秋が、空のボトルを籠に入れて宿舎へ戻っていく。その背中をぼうっと眺めていれば、春ちゃんがスススと寄ってきた。
「美波先輩、その、まさか……えーと」
「……何してるんだろうねあたし。一之瀬は一之瀬だし、一郎太は一郎太なのに」
分からないままで、知らないでいれば……それが一番だと思ってた。そうすれば、誰も傷つかないんだって。
結局、自分が傷つきたくなかっただけで、沢山傷つけてたのだけど。
「美波さん」
顔の腫れが収まってきた頃、少し前に休憩しに来ていた虎丸が声をかけてきた。
「美波さんはどう思いますか、最近の豪炎寺さん」
むっすりとした表情の虎丸に、内心ドキッとする。……最近の豪炎寺の虎丸への態度はちょっと、いやかなりキツい。
連携必殺技を決勝戦に間に合わせたい気持ちは痛いくらいに伝わってくる。でも、ピリピリした雰囲気は、チームの輪を乱しかねない。
特に、必殺技のパートナーである虎丸にはストレスだと思う。確かに少しずつ仕上がってはいるのに、まだだとダメ出しばっかりで。
豪炎寺はチームのエース。そのプレッシャーはあたしなんかじゃ計り知れない。……加えて次が最後の試合となったら、熱が入るのも分かる。
豪炎寺の事情がわかった今、あたしが言えることなんて……。
「美波さん?」
「えっ、あ……ちょっと熱の入り方が厳しい?かな」
「! やっぱりそう思いますよね!」
吹雪さんやヒロトさんとも話したんですけど、と虎丸。同じポジションだと、尚更気になるものがあるんだろうなと頭の片隅で考えた。
「あたしからも言っておこうか?」
「いやっ、それは、その……」
虎丸は後輩だし、何より豪炎寺に憧れてる。だから言いたいことあっても、言いづらくて呑み込んでしまうこともあると思う。
豪炎寺はずっと緊張状態なんだ。だから、少しくらいは息抜きとか出来たら変わる……といいな。
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「……あたし、やっぱり嫌だ」
「ああ。俺もこのままじゃ納得いかない!」
「久遠監督にも頼んでみよう」
「だな。まだやれることはある!俺達には豪炎寺が必要なんだ!」
「世界と戦うには……ううん、豪炎寺と世界で戦いたい!」
そう決めた次の日、久遠監督からの返事は良いものではなかった。元々豪炎寺のお父さんは、次の決勝戦にも出さないつもりだった。
それを決勝戦にだけは出られるように豪炎寺が説得したそうだ。……この試合を最後にサッカーをやめる条件で。
世界がかかった一戦。イナズマジャパンの夢。豪炎寺は、あたし達を送り出す為に!
もう今日何度目かも分からないタイガードライブと爆熱ストーム。あの異様な熱の入り方も、全部チームの……。
「美波前見ろよ!」
「ふぐっ」
練習中も豪炎寺のことで頭がいっぱいになってたからか、ついに顔面ブロックした。鼻血は出てないけど鼻が痛い。じんじんする。尻餅もついた。
集中しろよ!と怒る夕弥に叩かれまくる背中も痛い。壁山も栗松も集まってくる。ダメだな、決勝戦前なのにあたしまで不調になったら。
返す言葉もなくて下を向く。視界一面にグラウンドの砂。……情けない。そんなあたしに差し出された手の持ち主は、顔を見なくたって分かる。
「大丈夫か?ほら」
「ありがとう、一郎太」
苦笑いな一郎太に更に申し訳なさが湧きつつ手を伸ばして、その手を取ってから自分の手が砂だらけなのに気づく。
慌てて引っ込めようとする前に、一郎太はあたしの手をしっかりと握り返すと、引っ張り起こしてくれた。
「……ごめん」
「いつものことだろ」
「いつもごめん」
「何年美波の幼馴染みやってると思ってるんだ」
慣れてるよ。そう言って笑う一郎太が、切ないような、寂しいような……そんな雰囲気を纏ってる気がして、胸がぎゅうぎゅうと苦しくなる。
「……昔はあたしが一郎太を引っ張ってたのにね」
「だから俺は美波の手を引けるくらい強くなりたかったんだ」
美波ちゃんは凄いね、強いね。小さかった頃、一郎太はよくそう言ってくれて、言われる度に嬉しくなって調子に乗ったっけ。
まだ世界の広さも、ままならない現実も知らなかったあの日。
勇気と言うには無鉄砲過ぎて、けれどその怖いもの知らずな行動力は確かにあたしの強さだった。なら、今は?今のあたしは……。
「ていっ」
「ん?」
何か飛んできて腕に乗った。それは黒光りする……。
「ぎゃあああああ!!!」
「うっしっし!おもちゃの虫だよーだっ!」
「木暮!」
「何してるでやんすか!」
「アホの美波にはそれがお似合いだ!」
「あっ美波先輩動かないで!背中にその……ついてるっす」
「ととと取って壁山!」
何がついてたのかは見たくもない。でも、夕弥なりに励ましてくれたんだろうな。
とりあえず顔を冷やして来いよ、と促されたので一旦ベンチへ行くと、氷嚢を持った秋が待ち構えていた。
「派手にやっちゃったね」
「あはは……恥ずかしいな」
「もしかして風丸先輩と何かありましたか!?幼馴染み的なあれで!」
「無いってば」
何を見てたのか春ちゃんは相変わらずだ。期待されるようなことは無いから、ワクワクされても反応に困る。
幼馴染み。ふと、ここにはいない一之瀬のことを思い出した。秋は一之瀬や土門、西垣とアメリカにいた頃からの付き合いの仲だ。
そして一之瀬は……でも、秋は……。……本当に難しいな。皆大事な仲間、だけど。何で今思い出しちゃったんだろう。
「おさな、なじみ」
「ん?どしたの冬花さん」
「あ……いえ、何でもないんです」
何でかじっとあたしを見つめている冬花さん。どうぞ、と差し出されたドリンクをありがたく頂戴する。
「そういえば秋は最近一之瀬と連絡取った?」
「え、一之瀬くん?取ってないけど……土門くんと一緒にアメリカで頑張ってるみたい」
「そっか。じゃあアメリカ代表になった一之瀬と土門と世界で戦うかもしれないね!」
「ふふ。その時は私、イナズマジャパンを応援するから!」
「頼んだよ応援団長!でもせっかくだし二人も応援してあげてよ」
「そうだね。いい試合が出来るように!」
笑顔を浮かべた秋が、空のボトルを籠に入れて宿舎へ戻っていく。その背中をぼうっと眺めていれば、春ちゃんがスススと寄ってきた。
「美波先輩、その、まさか……えーと」
「……何してるんだろうねあたし。一之瀬は一之瀬だし、一郎太は一郎太なのに」
分からないままで、知らないでいれば……それが一番だと思ってた。そうすれば、誰も傷つかないんだって。
結局、自分が傷つきたくなかっただけで、沢山傷つけてたのだけど。
「美波さん」
顔の腫れが収まってきた頃、少し前に休憩しに来ていた虎丸が声をかけてきた。
「美波さんはどう思いますか、最近の豪炎寺さん」
むっすりとした表情の虎丸に、内心ドキッとする。……最近の豪炎寺の虎丸への態度はちょっと、いやかなりキツい。
連携必殺技を決勝戦に間に合わせたい気持ちは痛いくらいに伝わってくる。でも、ピリピリした雰囲気は、チームの輪を乱しかねない。
特に、必殺技のパートナーである虎丸にはストレスだと思う。確かに少しずつ仕上がってはいるのに、まだだとダメ出しばっかりで。
豪炎寺はチームのエース。そのプレッシャーはあたしなんかじゃ計り知れない。……加えて次が最後の試合となったら、熱が入るのも分かる。
豪炎寺の事情がわかった今、あたしが言えることなんて……。
「美波さん?」
「えっ、あ……ちょっと熱の入り方が厳しい?かな」
「! やっぱりそう思いますよね!」
吹雪さんやヒロトさんとも話したんですけど、と虎丸。同じポジションだと、尚更気になるものがあるんだろうなと頭の片隅で考えた。
「あたしからも言っておこうか?」
「いやっ、それは、その……」
虎丸は後輩だし、何より豪炎寺に憧れてる。だから言いたいことあっても、言いづらくて呑み込んでしまうこともあると思う。
豪炎寺はずっと緊張状態なんだ。だから、少しくらいは息抜きとか出来たら変わる……といいな。
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