試合が動き出した。残り時間からして、きっとこれが最後のプレーになる。延長戦には持ち込ませない。このプレーで決める！



「行くよ飛鷹！プレッシャーをかける！」

「うおっす！」



守るだけじゃない、攻めなきゃ勝てない。挟み撃ちだ。無理やり出させたパスは、一郎太がカットした。



「いいぞ！美波！飛鷹！風丸！」



ボールを抑えた鬼道が虎丸に回す。ボールを持った虎丸は、勢いよくディフェンス３人をごぼう抜きしてみせた。これが虎丸の、本気のプレー……！

激しいチャージをかわす体のしなやかさに、崩されても倒れないボディバランス。こんな凄いのを隠してたのか。虎丸が言うには、出前で鍛えてるらしい。

中に料理が入ってる岡持ちを持って走り回ってるんだから、そりゃあバランス感覚が養われる訳だ。虎丸だから出来る、ならではのプレー。

虎丸がサイドに大きく振るように一郎太へパスを出す。一郎太は流石の俊足で追い付くと、しっかりと受け止め、パスを返した。

そうだよ、虎丸。虎丸には一緒に走る仲間がいるんだ。



「行け虎丸！」

「はい！」



ゴール前、虎丸はキーパーを見据えると、大きく、力強く足を踏み込んだ。



「ずっと封印してきた俺のシュート……いっけえ！タイガードライブ！」



虎の咆哮と共にシュートが駆け抜けていく。ついに放たれた虎丸のシュートは、見事ゴールを抉じ開けた。

ここでホイッスルが鳴り響き試合は終わった。２ー１で、イナズマジャパンの勝利だ！



「よし！皆やったぜ！飛鷹も、よくやってくれたな」

「何のことですか？」

「ディフェンス、合わせてくれてありがとうね、飛鷹！」

「……別に」



そっぽを向いた飛鷹は取り出した櫛で髪を撫で付けた。よくやってるけど、癖なんだろうか。でも照れ隠しっぽいのはなんとなく分かった。



「勝ったんですね、俺達が」

「あれがお前の本気か？俺達についてくるにはまだまだ時間がかかりそうだな、虎丸」

「でも俺、まだ本気出してませんから！先輩！」

「こいつ……！」

「さあ、次の試合も勝ちますよ！アジア予選くらいで立ち止まっていられませんからね！」



なんだか生意気な物言いで豪炎寺を挑発し、早速次に向けて気合いをいれる虎丸に、皆で顔を見合わせた。

ぼそりと鬼道がなんか性格変わってないかと呟く。でもきっとこれが本当の宇都宮虎丸なんだと思うと、俄然大歓迎な気分！

でも、何でこんなにも凄い実力の虎丸が、フットボールフロンティアには出ていなかったのか。それは虎丸本人が教えてくれた。



「出られないんですよ」

「何で？」

「だって俺、まだ小６ですから」

「えっ」

『しょ、小６！？』



衝撃の事実に大合唱。なんと虎丸は小学生だった。そりゃあ中学生の全国大会のデータに虎丸のことは載ってない筈だよ……。

でもフットボールフロンティアインターナショナルは、世界各国の事情を考慮して、15歳以下の選手なら誰でも参加出来る。



「世界大会だからこそ虎丸と一緒のチームになれたんだね」

「へへっ、来年だって一緒ですよ。俺、決めました。中学は雷門にします！」

「おっ、それは楽しみ！一緒に全国二連覇目指そう！」

「随分気が早い目標だな」

「あ、豪炎寺」



やってきた豪炎寺は今は世界一だろうと苦笑を浮かべた。確かにそうだ。今は世界大会の真っ最中なんだから。



「小学生だったのか、お前」

「だからって甘く見てたらエースの座はいただきますよ。いつか俺、豪炎寺さんを越えて見せますからね！」

「頼もしい仲間が加わったな、豪炎寺！」

「ああ、そうだな」

「雷門のエースストライカーの座、取られないように頑張らないとね」

「それ、まずは染岡にでも言ってみたらどうだ」

「やだよ絶対拳骨される……」

「なら代わりに俺がしてやろうか」

「遠慮しとく！」



ニヤッと笑って近づいてくる豪炎寺から逃げてテクニカルエリアへ走る。ベンチではリュウジ達が片付けの手伝いをしていた。



「あたしも手伝うよ！あ、リュウジ足は？」

「心配かけてごめん。でもこの通り、今は大丈夫だ」

「良かった。でも今日はゆっくり休んでね」

「分かってるって」



練習するのはいいことだけど、オーバーワークは後々響く。監督はどう思うだろうとこっそり様子を窺うと、監督の視線の先には虎丸がいた。

今日も監督の采配は凄かったな。虎丸がまだシュートを撃てない状態の中で、劣勢の流れを変える為に投入する判断を出来るなんて。

試合というと喉が渇いていたのを思い出した。まだ仕舞ってないボトルがあるか探そうとした時、目の前に中身が入ってるボトルが差し出された。

視線を上げれば赤が飛び込んでくる。ヒロトだった。



「はい、美波ちゃん。喉渇いてるよね」

「ありがとうヒロト！丁度飲みたかったんだ。流石よく見てる！」

「そんなことないよ。監督に何か聞きたいことがあるのかい？」

「や、そういう訳じゃないんだけど、あのタイミングで虎丸を入れる判断をした監督は凄いなって」



そう答えると、ヒロトは合点がいったと頷いた。



「虎丸くんを存分に動かす為には、敵を消耗させておく必要があった。ベストなタイミングを見極めての投入だったと思う」

「あ、そっか！それが出来たのは特訓で鍛えた体力があったからってことだ！スタミナでは敵わなかったけど、特訓は無駄じゃなかったんだね」

「ああ。選手には活躍すべき場面がある、チームには勝つべき状態がある。監督はそう言ってたよ」



活躍すべき場面。つまりは適材適所ってことだ。状況に合わせて適した選手を起用する。

なら、試合に出させてもらえる気配が今のところ全然ない明王ちゃんも、その場面を待っているってことなのかな。

勝つべき状態というのは多分虎丸だ。本気のプレーが出来なくなってた虎丸だけど、今日の試合で解消されて、チームとしてもまた一段階大きくなれたと思う。

あとは飛鷹、それからやっぱり明王ちゃんか。二人共まだチームに馴染めてないし、飛鷹のぎこちない動きには未だに緊張が残っている。




「場面に状態かあ。結構難しいね」

「そうだね。でも、このチームならきっと大丈夫だ」

「うん！」



次はアジア予選決勝。危なっかしい時もあったけど、その度に一丸となって乗り越えて、勝ち進んできた。

不安も課題も少しずつだけどクリアして、ここまできた。いよいよ世界が見えてきたんだ。皆と世界に行きたい。改めてそう思った。



→あとがき