第1話 トリップしました

「いやー、出るタイミングわかんなくってさー」

「失せろ」

「酷いな」

「2人は悪くなかったんだな。今度お見舞いに行ってやろ」



暴言を吐くかなに、お見舞いに行こうとぼやくゆみ。まさにカオスだ。円堂たち完全に置いてきぼりなんだが。



「あ、そうだ。明日から雷門中に通うことになってるからね」

「勝手に決めんじゃねーよ!」

「手続きもうしちゃったから」

「ふざけんなよ神(仮)てめー!!!」

「いたたたた!髪引っ張らないでよ!」

「神だけに」

「ゆみ、それ凄くつまんないから」

「……いいのか?放っておいて」



口元をひきつらせた鬼道が、神様(仮)を追いかけ回すかなを見ながら言う。



「通常運転だから」

「あれがか……」

「突然3人分の転入手続きがあって、何かとは思っていたけど…」

「つかアイツ誰だ?」

「自称神様」

「(厨二病か?)」



わあ、土門が考えてることが、手に取るように分かるわ。



「そうだ。家も用意したから」

「また勝手に……」

「ちなみに円堂家の隣」

「え、何それ」

「俺?」



きょとんとする円堂に、なんか申し訳ないと頭を下げれば、慌て出した。中学生初々しいな。



「豪炎寺君や。こいつの鳩尾にファイアトルネードを打ち込んでください。お願いします」

「ちょっと待って待って!」

「ふーん」

「怖いよ!」


「俺はどうすればいいんだ…。それに、何で名前……」

「あー、ほら、フットボールフロンティア出てたじゃん。あと無視していいから」

「いたって通常運転だね」

「普通じゃない……」



だが「普通じゃない」という風丸も、フツーじゃない超次元なサッカーをやっている。



「で、色々聞きたいんだけど……」

「じゃ、消えるね。これから頑張って。バーイ」

「「「あ」」」



散々場を引っ掻き回した神(仮)、逃げるように消え去ってしまった。嘘だろ。

シン…と辺りが静まり返る。わあ、気まずい。しかも明日から雷門中に通うだって?マジかよ。

誰もが黙り込む中、パンッと円堂が手を叩いた。



「明日から雷門中通うんだろ?なら自己紹介しようぜ!俺は」

「円堂守でしょ」

「え、知ってるのか?」

「だからフットボールフロンティア見たから」



フットボールフロンティアを見た、というのは嘘ではない。液晶越しに、アニメのキャラクターとしての彼らの戦いを見てきたんだから。

屁理屈?こじつけ?気にしたら負けだ。とにかく、彼らに変な目で見られながら学校生活を送るのは避けたい。結構辛いよ。



「はいはい!あたし花咲かなって言います!三つ子の三女です!名前で呼んで下さいな!」

「三つ子だったんだな」

「まーね」

「通りで似ているわけだ」

「そりゃね。あ、あたしは花咲りな。長女ね。こっちが次女のゆみ」

「どうも」

「…そういえば、何年なんだ?」



「同い年くらい思ったけど」と風丸。…縮んだっていってもどれくらいか分からないから、そんなのあたしが知りたい。



「(まあ、合わせとくか)中2だよ」

「そうか。なんか、雰囲気が年上っぽかったから」

「あ、うん(気を付けよう)」



そっと理事長代理こと雷門夏未さんを見ると、特に表情は変わっていなかったので、中2で合っているんだろう。

そして、部活が終わるまで、ベンチ見学させてもらうことにした。理由は簡単。家がどこにあるか分からないからだ。

なので、練習が終わるまで円堂を待つことにした。何故家が円堂家の隣なのか、小一時間問い詰めたかったわ。



「マジですげー」

「流石超次元だ」

「そうだね」



わいわいと話していると、栗松がミスキックをしたらしく、マネージャーの方へと飛んだ。突然のことで、避ける暇もない。

と、そこに「危ない!」と飛び出したのは、女の子大好きな妹で、利き足を旋回させ、思い切り振り抜いた。

蹴ったボールは凄い速さでゴールへ突き進み、円堂が取ろうとするも、咄嗟のことに対応出来ず、ゴールネットを揺らした。

やってくれたなこいつ……。

全員が呆然としていると、円堂が走ってきた。



「かな!」

「ひいいいい!な、なんでしょうか!?」

「サッカーやったことあるのか?」

「う、うん。ゆみとかなもだよ!」

「「(飛び火した!)」」

「なら一緒にやろうぜ!」

「えっ」



と、言うわけで一緒にやることになった。何故だ。



「上手いな……」

「え、そう?」



ポン



「初心者とは思えない」

「一応初心者じゃないんだよね。結構前にちょっとやったことあって」



トン



「ちょっとやったことがあるって、そんなレベルじゃないぞ?」

「あはは…」



今までは体育の授業でちょろっと蹴ったくらいで、吹雪と少しやった時に実感したけど、かなり感覚は鈍っていた。

数年ぶりに本格的にサッカーボールに触れたもんだから、仕方ないとは思う。それでも、根っこは覚えていたようで、感覚的にボールを蹴り出していた。

ドリブルやボールのキープもそこそこ様になっていて、三つ子だからかノールックパスも出来る。動きが手に取るように分かるんだよな。



「(サッカー部、か)」



原作を壊さない程度になら、いいだろうか。








そんなこんなで部活は終わり、帰ることに。そして今、家の目の前にいる。用意された家は、元の世界のあたしたちの家と全く同じものだった。



「本当にアイツ神だったのかな…」

「かもね」



ゆみの呟きに軽く返す。ただ、結構隠し事されてるみたいだから、判断はまだ出来ない。

それより、さっきから感じる円堂からの視線は何なんだ。と思っていたら、円堂は口を開いた。



「なありな、ゆみ、かな。サッカー部に入らないか?選手としてさ!」

「「「えっ」」」

「ダメか?」

「そんなこと無いって!寧ろOK!」



どうやらかなはこの誘いに乗り気ならしい。あたしも構わないけど、ゆみはどうだろう。

横を見ると、僅かに俯いて奥歯を噛み締めたゆみが、顔を上げた。視線は真っ直ぐ、円堂から逸らさない。



「あたしも、入るよ」



……一歩前進と言ったところだろうか。場の雰囲気に合わせてやっているのだと思ってたけど、気持ちを動かす何かがあったんだろう。

かなはどう思ってるだろう、と考えていると、「りなは?」と円堂があたしを見た。そんなの勿論、



「入るよ。明日からよろしく!」

「そっか、良かった!よろしくな!」



ニカリと笑って、手を大きく振りながら、円堂は家に入っていく。そんな彼だから、誰もが励まされてきたんだろうな。






……この先どうなるは分からない。でも、精一杯やっていこう。


元の世界に、帰るまで。




→あとがき
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