第8話 炎との別れ
「あなたたちは私の作戦について何も言わなかったわね」
後半が始まって数分。不意に、監督に話しかけられた。視線はフィールドに向いているが、今のはあたしたちに向けられた言葉だ。
「……そうですね。これは、次に繋げるためなんでしょう」
「それと同時に、みんなを守るための作戦、ですよね」
「……ええ、そうよ」
「守るための作戦?」
復唱する秋ちゃんに、困惑の視線を向けてくる夏未ちゃんと春奈ちゃん。うーん、どうやって説明しようか。
「でもこれ、円堂の負担が大きいですよね」
「彼には、エイリアのシュートを止められるようになってもらわなくてはならないわ」
「そして他のメンバーにも速さに慣れてもらわないと、と」
「ええ。……彼らは、そう簡単に折れる選手ではないのでしょう?」
「もちろんですよ。何せ、伝説のイナズマイレブンになるんですから」
「次は勝ちます」と、胸を張って答えるゆみに、ちょっと驚いた。随分と入れ込んでいるものだ。そして、
「みんなで勝つんだよね」
「……まあ」
少なからず、自分を雷門の一員と認識している。かなもそう。自分が出来ることを、なるようになれで全力投球している。
……あたしは、どうしようかな。ゆみはあまり流れは変えたくないようだし、かなは過程に変化はあっても結末が変わらなければそれでよさそうだ。
案ずるべきは後者か。因果応報、バタフライエフェクト、風が吹けば桶屋が儲かる。一体どこで何に影響を及ぼすか分からない。
……いや、もう既に何かが変わっている可能性もある。なるようになれ、なるようにしかならない。何が起こるか分からないからこそ、中立に立つべきか……。
何度考えただろう。何度悩んだろう。かなもゆみもどうするか決めつつあるのに、あたしだけ答えを見つけあぐねている。
何を、どれを、選べばいいんだ。
「りなさん?」
「えっ、ああ……」
そんな事を考えていれば、黙りこくっていたのを不思議に思ったらしい夏未ちゃんに、心配されてしまった。
試合中であることを忘れていた自分にため息をついていれば、大気の振動を感じた。フィールドに目を向ければ、レーゼを中心に空気が渦巻いていた。
「アストロブレイク!」
レーゼの放った凄まじい威力の必殺シュートが、マジン・ザ・ハンドを、円堂を吹き飛ばし、ゴールに突き刺さった。
鳴り響く得点と試合終了を告げる笛。雷門の負けだ。そして、ジェミニストームは消えてしまった。
***
試合終了後、キャラバンまで戻ってきた。円堂はキャラバン内で、手当てを受けている。
みんなは円堂を案じつつ、不機嫌そうな顔をしている。不満たらたらだ。染岡なんかは、木の幹を殴りつけたりしてる。
もちろん理由は監督の作製で、不信感でいっぱいの空気が息苦しく感じる。そんな中、監督の意図に気づいた鬼道が口を開く。
もし、前半と同じように試合を続けていたら、どうなっていたか。ハッとした風丸が、俺たちも病院行きだと言葉を溢す。
手当てを終えた円堂も、最後のシュートは見えていたと後押しするように言った。それぞれが考え直していた。と、その時、
「豪炎寺くん。あなたにはチームを離れてもらいます」
『!』
豪炎寺の離脱が告げられ、衝撃が走った。せっかく出来た監督を見直す空気が、一気に霧散する。
誰もが納得出来ないと抗議をするも、監督は表情を変えずに退けた。豪炎寺はそれを受け入れ、その場を立ち去った。円堂がそれを追いかける。
「何でだよ……。何で豪炎寺が抜けなきゃならねえんだ!」
「監督が決めたことなんだし、仕方ないよ」
「てめっ……」
「やめろ染岡!」
「……悪い」
「大丈夫か」
「……まあ、あたしも言い方が悪かった」
あっさりとした言い方をするゆみに、突っかかる染岡。たかが3年だけど、彼らより長く生きているのと、真実を知ってるかは言えることなんだけども。
まあ、チームに加入してから、まだ1ヶ月も経ってない。微妙な距離感で掴めていないことも沢山あるから、それはそれで仕方ないのか。
とはいえ、さっきの歯に衣着せぬ言い方は、完全に悪手だ。淡々とした、それでいてどこか諦めの混じった声音に、染岡が怒るのも無理はないと思う。
「豪炎寺も豪炎寺だ!何で残るって言わねえんだよ……」
「響木監督や理事長は、どんな理由で監督にしたんだ……?」
それは確かに、せやな……と肯定せざるを得ない。瞳子監督が吉良の娘だって、本人が言うまで知らなかったんだし。
どうやって知り合ったのかは分からないけど、素性もよく知らない人に、大事な教え子を任せるとはチャレンジャー過ぎる。
見え隠れする苛立ちや不安に居心地の悪さを感じて、紛らわせるために頭を使っていると、1人足りないことに気づいた。
「そういえば、かなは?」
「それならさっきまでそこに……あれっ」
「……いないね」
ゆみの口元がひきつった。十中八九、豪炎寺と円堂を追いかけちゃったんだろうなあ……。戻ってきたら説教だ。
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後半が始まって数分。不意に、監督に話しかけられた。視線はフィールドに向いているが、今のはあたしたちに向けられた言葉だ。
「……そうですね。これは、次に繋げるためなんでしょう」
「それと同時に、みんなを守るための作戦、ですよね」
「……ええ、そうよ」
「守るための作戦?」
復唱する秋ちゃんに、困惑の視線を向けてくる夏未ちゃんと春奈ちゃん。うーん、どうやって説明しようか。
「でもこれ、円堂の負担が大きいですよね」
「彼には、エイリアのシュートを止められるようになってもらわなくてはならないわ」
「そして他のメンバーにも速さに慣れてもらわないと、と」
「ええ。……彼らは、そう簡単に折れる選手ではないのでしょう?」
「もちろんですよ。何せ、伝説のイナズマイレブンになるんですから」
「次は勝ちます」と、胸を張って答えるゆみに、ちょっと驚いた。随分と入れ込んでいるものだ。そして、
「みんなで勝つんだよね」
「……まあ」
少なからず、自分を雷門の一員と認識している。かなもそう。自分が出来ることを、なるようになれで全力投球している。
……あたしは、どうしようかな。ゆみはあまり流れは変えたくないようだし、かなは過程に変化はあっても結末が変わらなければそれでよさそうだ。
案ずるべきは後者か。因果応報、バタフライエフェクト、風が吹けば桶屋が儲かる。一体どこで何に影響を及ぼすか分からない。
……いや、もう既に何かが変わっている可能性もある。なるようになれ、なるようにしかならない。何が起こるか分からないからこそ、中立に立つべきか……。
何度考えただろう。何度悩んだろう。かなもゆみもどうするか決めつつあるのに、あたしだけ答えを見つけあぐねている。
何を、どれを、選べばいいんだ。
「りなさん?」
「えっ、ああ……」
そんな事を考えていれば、黙りこくっていたのを不思議に思ったらしい夏未ちゃんに、心配されてしまった。
試合中であることを忘れていた自分にため息をついていれば、大気の振動を感じた。フィールドに目を向ければ、レーゼを中心に空気が渦巻いていた。
「アストロブレイク!」
レーゼの放った凄まじい威力の必殺シュートが、マジン・ザ・ハンドを、円堂を吹き飛ばし、ゴールに突き刺さった。
鳴り響く得点と試合終了を告げる笛。雷門の負けだ。そして、ジェミニストームは消えてしまった。
***
試合終了後、キャラバンまで戻ってきた。円堂はキャラバン内で、手当てを受けている。
みんなは円堂を案じつつ、不機嫌そうな顔をしている。不満たらたらだ。染岡なんかは、木の幹を殴りつけたりしてる。
もちろん理由は監督の作製で、不信感でいっぱいの空気が息苦しく感じる。そんな中、監督の意図に気づいた鬼道が口を開く。
もし、前半と同じように試合を続けていたら、どうなっていたか。ハッとした風丸が、俺たちも病院行きだと言葉を溢す。
手当てを終えた円堂も、最後のシュートは見えていたと後押しするように言った。それぞれが考え直していた。と、その時、
「豪炎寺くん。あなたにはチームを離れてもらいます」
『!』
豪炎寺の離脱が告げられ、衝撃が走った。せっかく出来た監督を見直す空気が、一気に霧散する。
誰もが納得出来ないと抗議をするも、監督は表情を変えずに退けた。豪炎寺はそれを受け入れ、その場を立ち去った。円堂がそれを追いかける。
「何でだよ……。何で豪炎寺が抜けなきゃならねえんだ!」
「監督が決めたことなんだし、仕方ないよ」
「てめっ……」
「やめろ染岡!」
「……悪い」
「大丈夫か」
「……まあ、あたしも言い方が悪かった」
あっさりとした言い方をするゆみに、突っかかる染岡。たかが3年だけど、彼らより長く生きているのと、真実を知ってるかは言えることなんだけども。
まあ、チームに加入してから、まだ1ヶ月も経ってない。微妙な距離感で掴めていないことも沢山あるから、それはそれで仕方ないのか。
とはいえ、さっきの歯に衣着せぬ言い方は、完全に悪手だ。淡々とした、それでいてどこか諦めの混じった声音に、染岡が怒るのも無理はないと思う。
「豪炎寺も豪炎寺だ!何で残るって言わねえんだよ……」
「響木監督や理事長は、どんな理由で監督にしたんだ……?」
それは確かに、せやな……と肯定せざるを得ない。瞳子監督が吉良の娘だって、本人が言うまで知らなかったんだし。
どうやって知り合ったのかは分からないけど、素性もよく知らない人に、大事な教え子を任せるとはチャレンジャー過ぎる。
見え隠れする苛立ちや不安に居心地の悪さを感じて、紛らわせるために頭を使っていると、1人足りないことに気づいた。
「そういえば、かなは?」
「それならさっきまでそこに……あれっ」
「……いないね」
ゆみの口元がひきつった。十中八九、豪炎寺と円堂を追いかけちゃったんだろうなあ……。戻ってきたら説教だ。
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