第5話 雷門VS世宇子!

同点に追いつきはしたものの、泣いても笑っても試合時間はあと僅かだ。

延長戦か、否か。雷門の選手にはもう、体力は殆ど残されていない。つまり、延長戦に持ち込むわけにはいかない。

延長戦になれば勝機はあることに気づいていないのか、アフロディは膝をつき、手をつき、下を向いていた。

さっきまでの覇気はどこへやらだ。決勝戦まで簡単に相手を下してきたツケが、回ってきたのか。

苦労をせずに、挫折を知らずに上へ上がってきた者は、いざ壁にぶつかった時、とても弱い。

才能はある。なのに、努力を怠った結果だ。



「上がれ、円堂!」


「おうっ!」



ゴール前から離れた円堂が、アフロディの横をすり抜け、駆け上がって行った。

土門、一之瀬と並走し交われば、フェニックスが現れる。



「最後の1秒まで、全力で戦う!」



そこに走り込み跳躍した豪炎寺が、ファイアトルネードを叩き込んだ。



「それが俺たちの――!」



サッカーだ!!!


名付けるなら、ファイナルトルネード、だ。

その勢いに止める気も失せたのか、ポセイドンは必殺技を出すこともなかった。

シュートがゴールに突き刺さり、決勝点をもぎ取った。



「神が……負ける……」



そんな声を拾ったのは、多分、あたしだけ。

長いホイッスルの音が試合終了を告げる。スコアボードは、4ー3。



「やった……?」



疑問形の言い方に、思わず笑う。お互い、顔を見合わせ、信じられないという顔だ。

歓声を呆然としながら聞いて、頬をつねってみたり。一拍置いて、見る間に喜びの表情が満ち溢れ、



『やったーーー!!!』



と、言う声が響き渡った。ベンチ陣も立ち上がって喜んでいる。

かくいうあたしも嬉しいけれど、それ以上にホッとした、という気持ちの方が強かった。

あたしたちがいても、ちゃんと優勝出来た。物語は、進むべき方向に向かってる。

それが当然で、当たり前のことなんだ。きっと、世界が望んで、そう働きかけ、動くんだ。



「神の力を手に入れた僕たちを倒すとは……。なんてやつらなんだ」

「そんなおぞましいものを見るような目を向けないでくれないかな」

「っな……」



気が向いたので話しかけてみたら、後ずさられた。そんなに嫌か。びびりめ。



「……これが、君の知ってる結果なのか」

「だとしてもだね、未来は変えられるよ。神の力なんてなくても、誰にでも。そもそも、神の力なんかないよ」

「でもっ……」

「努力を怠った人間に、本当の勝利を掴める筈がない。ドーピングなんてしてれば、尚更ね」

「……」

「分かってる癖に」

「……愚かだね、僕は」

「んー、そうでもないと思うよ。人間はみんな愚かだ。あたしだって、間違えたことは沢山あるし。

アフロディはこれで挫折を経験した。壁にぶつかった。だから、今度はそれを死ぬ気で乗り越えるんだ。

せっかくの才能、無駄にしちゃだめだよ」



なんて知ったかぶりな言葉だ。諦めたやつが何を言う。



「君のそれも、才能だね」

「え、何々?サッカー上手いって?」

「傷口に塩水を塗り込むような言い方のことだよ」

「この野郎……。その髪の毛ぶったぎってやろうか」

「遠慮しておくよ」

「やだなあ冗談だよ。ところで食べ物の恨みは怖いって知ってる?」

「……プリン食べたこと、怒ってる?」

「まず何故食べたし」

「……個人的に、食べたかった、から」

「おい……」



なんかもっと、こう、理由があるのかと思ったが、そんなことなかったぜ!マジかよ。弁解されてもプリンは返ってこないしなあ。



「ああうん。じゃあさ、今度アフロディはあたしと一緒にプリン買いに行こう。決まりね」

「え?」

「あとちゃんと薬抜き……神のアクア抜きする。んでまた会った時勝負だ!」

「えっと……」

「ほら、指切り!指きりげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!指切った!はい、約束ね」

「……」

「約束だっつってんだろ。このナルシスト自称神が」

「あ、ああ!」



無理矢理約束を取りつける。そうしたら、アフロディは笑った。苦笑混じりだけど、年相応の笑みだ。



「異世界の人間だって聞いてたから興味を持っていたけれど……君自身に興味が湧いてきたよ」

「あはは、それはどうも。まあこれからは仲良くしようぜ!じゃ!」



ひらっと手を振って退散する。心配してくれてるんだろうけど、みんなの視線がちょっと痛い。

あたしが戻った時、タイミングよくパンッと破裂音が鳴ったかと思えば、色とりどりの紙吹雪が舞った。

その中で、声援を送ってくれた観客へ大きく手を振ったり、大切な人へ思いを馳せたり。



「なれたのかな?俺たち。伝説のイナズマイレブンに」

「フッ……いや、伝説はこれから始まるんだ」



満面の笑みでそう話し合う円堂と豪炎寺。いやはや、これは……うん、やめておこう。



「優勝、出来たね」

「ねー。シュート決められたし、気持ちよかったし」

「良かったね。……ゆみ、その顔やめて」

「別に」

「アフロディとは何もなかったよ」

「あったら困る。もっと危機感持ちなよ」

「「……」」



いや、ゆみにだけは言われたくない。言わないけど。りなも視線を明後日の方向へ向けている。



「次は二期、か……」

「あー……」

「そうだね」



そのことを考えると、いささか気が重い。次の戦いは、刻々と迫っている。

でも、今は、今だけは、素直に喜んでもいいよね!





→あとがき
7/8ページ
スキ