第5話 雷門VS世宇子!

神とかそういうレベルなのかは別として、実際世宇子は強い。中でもアフロディは特にだ。神のアクア使ってるけど。

最初から出ているメンバーに比べれば消耗も少ないから、極力相手に渡らないように、りなとゆみとパスを回し続けている。

点を取れればいいんだろうけど、悲しいかな、あたしでは少し力不足だ。ちくしょう。



「メガクェイク!」



あ、やばい。

吹っ飛ばされる中、ボールを持ったアフロディが、力強く円堂に向かってシュートを打つのが、視界の端に映った。

もう一度と跳ね返ったボールをトラップしようとしたのを、ゆみがクリアして、りなが押さえる。

アフロディは円堂を一瞥してから、あたしたちに向き直った。



「限界だね……。残るは君たちだけだ。だが、3人だけではどうすることもできないだろう」


「そんなこと無いんだけど」


「無理だね。主審」


「ちょ、開き直んな無視すんな!」


「試合続行不可能ということで、この試合、世宇子中の――」


「……まだだ!」



審判の声を遮って、「まだ、試合は終わっていない!」と円堂は声を張り上げた。



「しかし君だけでは――」


「そいつだけじゃない」


「……そうだ」


「まだまだ戦える!」



豪炎寺、鬼道、一之瀬。円堂に心を動かされた3人が、同調するように立ち上がった。

他の面々も、よろめきながらも立ち上がる。ふらつくのを堪え正面から見据えてくる円堂を、アフロディは凝視していた。



「信じられないと言う顔だな。円堂は、何度でも何度でも立ち上がる。倒れる度に強くなる。お前は円堂の強さには敵わない」



鬼道の言葉に僅かに笑ったアフロディは、足元のボールを蹴った。



「では試してみよう」



ゴットノウズの体勢に入り、今まさに打とうとした瞬間、前半終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。

「命拾いしたな、雷門中」と世宇子側のテクニカルエリアへと向かうアフロディの髪を、試しに引っ張ってみた。



「いっ……。……何するんだい、君は」

「いやー、一方的に相手を蹂躙するサッカーって楽しいのかと思って?」

「は……」

「何で神のアクアに手を出したのかは知らないけど、サッカーは好きなのかなと」

「……どういう意味だい」

「フットボールフロンティアに出場するくらいなんだから、好きなんだろうとは思うんだけどねー。で、楽しい?」

「……僕のことより、仲間のことを気にした方がいいんじゃないかな」



そう吐き捨てると、アフロディは踵を返して行ってしまった。うーん、怒らせてしまったか。

あたしもみんなのところに行くと、夏未ちゃんが神のアクアについて話し出していた。



「許せない……。サッカーを、俺たちの大好きなサッカーを、どこまで汚せば気が済むんだ!」



怒りを露にしつつも、後半に向けて準備をする。靴紐を結び直した円堂は、立ち上がって世宇子の方を見る。



「神のアクア……。そんなものをサッカーに持ち込むなんて……」

「円堂くん…」



思わずといったように、夏未ちゃんが肩に触れた。弾かれたように振り向いた円堂が、夏未ちゃんの顔をまじまじと見つめる。



「大丈夫!俺はやれる。やらなきゃならない。俺たちは、世宇子のサッカーが間違っているということを示さないといけないんだ」



数え切れないくらいの心配。夏未ちゃんの思いを読み取ったのか、不安を消すように、円堂が言った。

頷いた響木監督の「よし、行け!」という信頼に満ちた号令に「はい!」と返して、フィールドに戻った。

入る前に、円堂は大介さんのグローブをはめていた。さあ、後半戦開始だ!



「点を取る!そして勝つ!」

「神には通用しない!」



豪炎寺がディオと蹴り合う中、「まだだ!」と鬼道と一之瀬が加勢に入る。が、前半同様メガクェイクで吹き飛ばされてしまった。

フォローに入ろうとしたら、りなに風丸、壁山共々ダッシュストームに弾かれた。

アフロディはまた歩きながらドリブルをして、悠々とヘブンズタイムでゆみと土門を突破してしまった。



「残るは君だけだ!」



シュートを打たれ、円堂は顔面で受け止めた。……原作通りに進めるためだとしても、見ているだけの自分がもどかしい。

もっと出来ることはあるんじゃないのか。もっとやれるんじゃないのか。……未だに、この世界に対して、怯えがあるのかもしれない。

苛立ちをそのままぶつけたようなアフロディのシュートが腹に直撃し、円堂は倒れた。



「サッカーを……」


「!」


「大好きなサッカーを、汚しちゃいけない……」


「嘘だ。既に体力は限界の筈……」



歯を食い縛り、振り向き様に苛立ちをぶつけるようなシュートを放つ。

そんなことは許しちゃいけない。

そんな思いを何としてでも挫かんとばかりに、何度も円堂に向けてシュートを打ち込むアフロディ。



「こんなこと、絶対に許しちゃいけないんだ!」



円堂の気合いに動かされたのか、豪炎寺が立ち上がる。そんな中、あたしは酷い表情をしているアフロディから、目が逸らせなかった。

立ち上がって、数歩近づく。なんだろう。なんていうのか。あたしの語彙力ファイト。えーっと、……そうだ。



「怯えてる?」


「っ!」


「いや、否定されるのが怖い?」


「黙れっ!」


「っ、ゲホッ」



重いシュートが容赦なく腹に食い込んだ。息が詰まる。苦しい。よく円堂は立ち上がれたな。



「……分かってんじゃん。あたしに、シュートぶちこんできたのが、その証拠だよ。

自分がやっちゃいけないことをしてるんだって分かってて、それを後ろめたく思って、」


「うるさい!」



肩を震わせて、半狂乱になって怒鳴られた。

そこには神様を名のる少年はいなくて、あたしには、怒られるのを怖がってる、ただの子供にしか見えなかった。



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