第5話 雷門VS世宇子!

「これ以上好き勝手させっかよ!」



仲間を傷つけられた憤りをぶつけるように駆け上がって行った染岡も、メガクェイクで吹き飛ばされ、負傷してしまった。

染岡は仲間思いだから気持ちは分かるけど、感情的になったら反って隙だらけになって、動きが単調になるだけなんだよなあ。

さて、フォワードの染岡が倒れた訳だけど、これはあたしの出番ワンチャンくる……、



「僕が行きます!」



ですよね。目金が出ますよね。まあ、「僕だって雷門の一員だ!」とビビっているのに自身を奮い立たせているんだ。押し退けて出る理由はない。

例え、フォワードとして実力はあたしのが上だとしても、今までベンチだったとしても、目金は雷門イレブンとして戦ってきたんだから。

結果は察した通り、どことなくたどたどしさのあるドリブルで上がっていき、ディオのメガクェイクで怪我を負って無念の退場、だったが。

フィールドに立つ全員が吹き飛ばされ、円堂も点を入れるのではなく、顔を狙った傷つけるためのシュートで傷がついていく。

立ち向かう度に打ちのめされるフィールドには、10人。1人足りない状況だ。

豪炎寺が、一之瀬が、半田が、鬼道が、宍戸が、影野が、風丸が、土門が、壁山が、次々と吹き飛ばされていく。

何で監督はあたしたちを出そうとしないんだ。ライセンスがあっても女子だから?危険だから?そんなの、それこそ理由にならない。



「監督!あたしを出してください!」

「だが……」

「怪我なんて上等だ!なんならあの攻撃全部避けきってみせますよ!」



無理ゲー感はあるけど、こちとら中身は高2だ。年下に負けるわけにはいかない。



「……あたしも出して下さい」

「あたしもお願いします」

「分かった。選手交代だ!」



りなとゆみも名乗りを上げて、心配そうなマネージャーちゃん(天使)たちに見送られ、ポジションについた。



「ここで雷門選手交代!フォワードに花咲かなが、影野の変わりに花咲りな、宍戸の代わりに花咲ゆみが入る!」


「なんかややこしいなー」

「名字が同じなんだから、仕方ないよ」



軽くあたしの背中を叩いてきたりなが、踵を返してポジションへ歩いていく。流石というか、全然緊張してないように見える。

鬼道からボールを貰って駆け上がるあたしの前に、綺麗な長髪を靡かせながら、不敵な笑みを浮かべたアフロディが立ちはだかった。危ない危ない。



「君たちが入ったことろで、僕たちの勝利は変わらない」

「やだー、余裕ぶっこいちゃって!」

「君の方こそ、随分余裕なんだね」

「そう?結構緊張してるよ、これでも」

「そうは見えないな」

「そりゃどうも。あ、髪引っこ抜くのは試合後だから覚悟しとけよ」

「まるで勝つことが前提のような言い方だね」

「ぶっちゃけノリだし、まあこれ負けられない戦いですし?」

「……悪いけど、勝つのは僕たちだよ」

「そっちが勝ったら仲間でも何にでもなってやんよ。あたし個人としては、サッカーは楽しいものだし、この決勝戦も楽しみたいな」

「っ、何を……」

「無駄話はここまで。花咲かな、抜きまーす!」

「!」



一気に加速して、トップスピードで抜き去る。マークがついていてパスは出せない。

仕方なしにゴール前まで行って、ボールを蹴り上げた。いけるかどうかは分からないけど、やってみる価値はある。



「試し撃ちだ……。サンダートルネード!」



こっそり完成させた新必殺技。ぶっちゃけファイアトルネードの亜種だ。パクり?あーあー聞こえない何も聞こえない。必殺技を1から作るって大変なんだよ?あ、止められた。

が、それで少しは警戒されたのか、マークに2人もつけられてしまった。豪炎寺にもついていて、せっかくりながボールを運んでも、回す相手がいない。

結局奪われたボールは世宇子イレブンによって凶器に変わり、雷門の体力を削っていく。顔面にボールを受けた円堂も、膝をついた。



「まだ続けるのかい?いや、続けるに決まっているね。では質問を変えよう。チームメイトが傷ついていく様子をまだ見たいのかい?」



続けるか、棄権か。仲間たちの運命はキャプテンである円堂に託されている、とでも言うように問いかけてくる。

仲間を思う気持ちを利用して、追い詰める。嫌なやり方だ。



「何を迷ってる!円堂!」


「豪炎寺……」


「俺は戦う。そう誓ったんだ!」


「豪炎寺の言うとおりだ。まさか、俺らのためにでも思ったりしたら、大間違いだ!」


「最後まで諦めないことを教えてくれたのはお前だろ!」


「俺が好きになったお前のサッカーを、見せてくれ!」



豪炎寺、風丸、鬼道、一之瀬の励ましと、「円堂!」「キャプテン!」と呼ぶ声に、円堂の目が輝きを取り戻した。

それを見たアフロディが、スッと目を細めた。あ、これやばいやつだ。



「ディフェンスは攻撃陣を徹底的に狙え!」


「オフェンスは守備陣を!」


「キーパーは重点的に!」



容赦ない攻撃が雷門を襲う。避けるなんて豪語したけど、全部なんてとてもじゃないがキツい。

円堂は未完成のマジン・ザ・ハンドでなんとか跳ね返すが、後ろに吹っ飛んでいる。



「やはりあの技は習得できていないようだな。それにしても、君たちにはまだ余裕があるみたいだね」


「けっ、そーゆーアンタもな。……絶対に負けない。勝つのは雷門だ」


「その自信はどこから来るのだろうね」


「どっかから。……絶対的な力なんてないんだよ」


「そう言っていられるのも今のうちだよ」



本当にそうだろうか。少なくとも、



「諦めるわけには、いかないんだ!」



うちのキャプテンがああ言ってるうちは、諦める気なんて毛頭ない。



「まだ耐えられるというのか……。興味が沸いてきたよ、君がどこまで頑張れるか」



とか言いながら、ベンチの白衣の男たちに目をやったアフロディが、ボールをラインの外へ蹴り出した。そしてベンチの方へ。

グラスに注がれたドリンク、というか神のアクアを飲み干して、挑発的に笑う。

違和感の拭えない行動に、視界の端に、マネージャーちゃんたちがベンチを離れるのが映った。さて、



「どこまで粘れるかな……」



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