第5話 雷門VS世宇子!
フィールドへ戻ると、スタジアムの観客席は既に満員と言える程に人が座っていて、熱気と歓声に満ちていた。
準決勝の時とは比べ物にからない雰囲気に、肌がびりびりする。様々な思惑が交錯する、不思議な空間のようにも思えた。
「……いよいよ始まるんだな、決勝が。みんなとこの場所に立てて、信じられないくらい嬉しいよ。
俺、このメンバーでサッカーをしてこれて、本当に良かった。みんなが俺の力なんだ!」
1人ひとり見渡しながら言う円堂に、同意の意味を込めて頷く。過ごした期間の長さなんて関係ない。同じユニフォームを着た仲間なんだ。
「ふっふーん、絶対に勝ってアフロディの毛を抜いてみせる!」
「だから違うと思うんだけど。というかなんで毛根にそこまで執着してんの?」
「男のくせに綺麗な髪だから」
「理不尽すぎる」
「その時のノリとテンションでお送りします」
「何を!?」
マックスの質問にドヤ顔で答えれば、りなからツッコミが入った。唯一の3年のあいつじゃないけど、ノリだよノリ。
「さあ!まずはアップだ!」
そんなやり取りをサラッとスルーした円堂の指示を受け、フィールドに散らばる。うお、歓声が大きくなった。
半開きのバッグから見えるグローブを一瞥した円堂もこちらへ走り出そうとした時、世宇子側のテクニカルエリアを突風が包み込んだ。
竜巻のように渦巻く風が消えた時、そこにいたのは、世宇子イレブン。実況曰く、圧倒的な強さで大会で最も注目を集めている大本命だとか。
視線に気づいたアフロディがこちらを見やり、嘲笑うかのように口元に弧を描いた。円堂は睨みつけてるし。
ムカついたのであたしも睨みつけてやれば、楽しそうに更に口角を上げた。ムカつく。見下してる感凄い。1本1本髪の毛抜いてやろうか?え?
「くそっ……」
「……あんなアフロほっとけほっとけ。あたしたちはいつも通り、やるだけだって」
「……そうだな!」
あたしたちがアップをしている最中も談笑している世宇子は、空気にそぐわない異質な何かに見える。
視界から外して軽くストレッチ。リフティングを数回したところで、円堂に何度かシュートを受けてもらう。間もなく試合開始となったところで、円陣を組んだ。
「いいか!みんな!全力でぶつかれば、なんとかなる!」
一拍置いて、「勝とうぜ!」という鼓舞に、返事をするように「おうっ!」と意気込んだ。知ってるのもあるけど、このチームならどんな逆境も跳ね返せる自信がある。
その時、カランカランという音を響かせながら、白衣に黒いサングラスをかけた男が、ワゴンに透明な液体の入ったグラスを乗せ、世宇子イレブンへ運んできた。
「僕たちの、勝利に!」
グラスを掲げ、一息に飲み干す。一見ただの水分補給の筈なのに、酷く歪で、不自然に見えた。唇拭うアフロディがエロティックに見えました。お前本当に中2か。
ベンチに座って整列するスタメンメンバーを見つめる。堂々としていて、一年生たちの緊張も解れているようだ。
円堂にアフロディ。キャプテン同士が前に出て、握手を交わした。
「警告した筈だ。棄権した方がいいと」
「サッカーから……大好きなものから逃げるわけにはいかない。俺たちの今の力を全てぶつけて、俺たちに勝つ!」
「フッ……。君ならそう言うと思っていたよ、……円堂」
円堂の表情が険しい。なんだっけ。挑発されたんだっけ。まあいいや。ゴール前に立つ円堂は、切り替えた顔をしているから。
世宇子からのキックオフで試合開始。ヘラがデメテルへボールを蹴り出し、攻めることなく後方のアフロディへ回した。
ボールが足元に来ても動こうとしないアフロディに、豪炎寺が不審がる。「ナメるな!」と染岡が吼えた時、アフロディは静かに言い放った。
「君たちの力は分かっている。僕には通用しないということがね。――ヘブンズタイム」
左腕を高々と上げ、パチンと鳴らした。所謂指パッチン。ただそれだけな筈なのに、気づけばアフロディは2人を抜き去っていた。
もう一度鳴らしたようで、左腕はまた上がっている。しかもドヤ顔。その腕を下ろした時、突風が豪炎寺と染岡を襲った。
絶句する雷門を余所に、アフロディは歩きながら、力の抜いたゆるゆるなドリブルで攻めてくる。例えるなら、目にも止まらぬ高速移動。
「怯むな!」と声を上げで向かっていった鬼道と一之瀬も、同じように弾き飛ばされた。人間を超越した存在、ねえ……。
そんなことより、「お兄ちゃん!」「一之瀬くん……!」と悲痛な声を上げる春奈ちゃんと秋ちゃんやばい。ほんとアフロ許すまじ。
ディフェンス陣も体を強張らせていて、壁山なんかもう汗だらだらの足がくがくだ。
「怯えることを恥じることはない。自分の実力以上の存在を前にした時の――当然の反応なのだから」
もうゴール前には、円堂しかいなかった。
「来い!全力でお前を止めてみせる!」
「天使の羽ばたきを聞いたことがあるかい?」
訝しげな円堂を気にも止めず、アフロディは純白の羽を広げた。
「ゴッドノウズ!!!」
ゴッドノウズ――god knows――神のみぞ知る。……あっはいそうですかと言いたくなる。天使じゃないじゃん。神じゃん。
……とか言ってはいられない。ゴッドハンドで迎え撃つ円堂は、なんとか耐えてはいるものの、明らかに劣勢で、
「――本当の神はどちらかな?」
ぱきん。と、ゴッドハンドは打ち砕かれ、先制点を許してしまった。
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準決勝の時とは比べ物にからない雰囲気に、肌がびりびりする。様々な思惑が交錯する、不思議な空間のようにも思えた。
「……いよいよ始まるんだな、決勝が。みんなとこの場所に立てて、信じられないくらい嬉しいよ。
俺、このメンバーでサッカーをしてこれて、本当に良かった。みんなが俺の力なんだ!」
1人ひとり見渡しながら言う円堂に、同意の意味を込めて頷く。過ごした期間の長さなんて関係ない。同じユニフォームを着た仲間なんだ。
「ふっふーん、絶対に勝ってアフロディの毛を抜いてみせる!」
「だから違うと思うんだけど。というかなんで毛根にそこまで執着してんの?」
「男のくせに綺麗な髪だから」
「理不尽すぎる」
「その時のノリとテンションでお送りします」
「何を!?」
マックスの質問にドヤ顔で答えれば、りなからツッコミが入った。唯一の3年のあいつじゃないけど、ノリだよノリ。
「さあ!まずはアップだ!」
そんなやり取りをサラッとスルーした円堂の指示を受け、フィールドに散らばる。うお、歓声が大きくなった。
半開きのバッグから見えるグローブを一瞥した円堂もこちらへ走り出そうとした時、世宇子側のテクニカルエリアを突風が包み込んだ。
竜巻のように渦巻く風が消えた時、そこにいたのは、世宇子イレブン。実況曰く、圧倒的な強さで大会で最も注目を集めている大本命だとか。
視線に気づいたアフロディがこちらを見やり、嘲笑うかのように口元に弧を描いた。円堂は睨みつけてるし。
ムカついたのであたしも睨みつけてやれば、楽しそうに更に口角を上げた。ムカつく。見下してる感凄い。1本1本髪の毛抜いてやろうか?え?
「くそっ……」
「……あんなアフロほっとけほっとけ。あたしたちはいつも通り、やるだけだって」
「……そうだな!」
あたしたちがアップをしている最中も談笑している世宇子は、空気にそぐわない異質な何かに見える。
視界から外して軽くストレッチ。リフティングを数回したところで、円堂に何度かシュートを受けてもらう。間もなく試合開始となったところで、円陣を組んだ。
「いいか!みんな!全力でぶつかれば、なんとかなる!」
一拍置いて、「勝とうぜ!」という鼓舞に、返事をするように「おうっ!」と意気込んだ。知ってるのもあるけど、このチームならどんな逆境も跳ね返せる自信がある。
その時、カランカランという音を響かせながら、白衣に黒いサングラスをかけた男が、ワゴンに透明な液体の入ったグラスを乗せ、世宇子イレブンへ運んできた。
「僕たちの、勝利に!」
グラスを掲げ、一息に飲み干す。一見ただの水分補給の筈なのに、酷く歪で、不自然に見えた。唇拭うアフロディがエロティックに見えました。お前本当に中2か。
ベンチに座って整列するスタメンメンバーを見つめる。堂々としていて、一年生たちの緊張も解れているようだ。
円堂にアフロディ。キャプテン同士が前に出て、握手を交わした。
「警告した筈だ。棄権した方がいいと」
「サッカーから……大好きなものから逃げるわけにはいかない。俺たちの今の力を全てぶつけて、俺たちに勝つ!」
「フッ……。君ならそう言うと思っていたよ、……円堂」
円堂の表情が険しい。なんだっけ。挑発されたんだっけ。まあいいや。ゴール前に立つ円堂は、切り替えた顔をしているから。
世宇子からのキックオフで試合開始。ヘラがデメテルへボールを蹴り出し、攻めることなく後方のアフロディへ回した。
ボールが足元に来ても動こうとしないアフロディに、豪炎寺が不審がる。「ナメるな!」と染岡が吼えた時、アフロディは静かに言い放った。
「君たちの力は分かっている。僕には通用しないということがね。――ヘブンズタイム」
左腕を高々と上げ、パチンと鳴らした。所謂指パッチン。ただそれだけな筈なのに、気づけばアフロディは2人を抜き去っていた。
もう一度鳴らしたようで、左腕はまた上がっている。しかもドヤ顔。その腕を下ろした時、突風が豪炎寺と染岡を襲った。
絶句する雷門を余所に、アフロディは歩きながら、力の抜いたゆるゆるなドリブルで攻めてくる。例えるなら、目にも止まらぬ高速移動。
「怯むな!」と声を上げで向かっていった鬼道と一之瀬も、同じように弾き飛ばされた。人間を超越した存在、ねえ……。
そんなことより、「お兄ちゃん!」「一之瀬くん……!」と悲痛な声を上げる春奈ちゃんと秋ちゃんやばい。ほんとアフロ許すまじ。
ディフェンス陣も体を強張らせていて、壁山なんかもう汗だらだらの足がくがくだ。
「怯えることを恥じることはない。自分の実力以上の存在を前にした時の――当然の反応なのだから」
もうゴール前には、円堂しかいなかった。
「来い!全力でお前を止めてみせる!」
「天使の羽ばたきを聞いたことがあるかい?」
訝しげな円堂を気にも止めず、アフロディは純白の羽を広げた。
「ゴッドノウズ!!!」
ゴッドノウズ――god knows――神のみぞ知る。……あっはいそうですかと言いたくなる。天使じゃないじゃん。神じゃん。
……とか言ってはいられない。ゴッドハンドで迎え撃つ円堂は、なんとか耐えてはいるものの、明らかに劣勢で、
「――本当の神はどちらかな?」
ぱきん。と、ゴッドハンドは打ち砕かれ、先制点を許してしまった。
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