第4話 合宿だあああっ!

みんなで交代交代で動かす。時にはマネージャーも回す側に、失敗の連続でも諦めずにやる。そして、見事クリア!



「よし、次のステップだ」




満足気に頷いた監督が、鬼道と豪炎寺を呼びつけて指示を出す。今度は実際にシュートをとめる練習だ。



「いいな、円堂!さっきの感じを忘れるな!」

「はい!」



ユニフォームに着替えた響木監督から、ボールに足をかけた鬼道が目配せを受け、円堂を見据え「行くぞ!」と声を張り上げた。



「「「イナズマブレイク!!!」」」



あたしたちはいなかったけど、二回戦の千羽山戦で無限の壁を破った、今の雷門における最高威力のシュート。

本来円堂が蹴るところに響木監督が入ってるわけなんだけど……シュールだ。結構な年ですけど大丈夫なんですか。病気とか。



「マジン・ザ・ハンド!」



さて、マジン・ザ・ハンドに挑戦する円堂はというと、何も掴めていなかった合宿前と比べると、明らかに雰囲気が違った。

金色と称するのがいいのだろうか。気?オーラ?とにかくそれが迸り、右手を突きだし、イナズマブレイクを迎え撃つ。

が、やったかと思ったのも束の間、受け止めきれずにネットに叩きつけられてしまった。



「もう一度!」


「っはい!」






もう一度、もう一度と、長い時間特訓は続き、すっかり夜も更けた頃、円堂は拳を床に叩きつけた。



「くそっ!何で、出来ないんだよ!」


「惜しいところまでは来てると思うんだけどね…」

「あともうちょっとっぽいけどな」

「何で出来ないんだ……?」



円堂の苛立ちと隠しきれない不安が伝染したのか、ぽつぽつと言葉が漏れる。「……監督」と鬼道の訴えかけるような視線を受け、監督は口を開く。

曰く、何かが欠けている。その"何か"は分からないが、根本的な何かが欠けているのだと。何かが分かれば苦労しないんだけどね……。

気の溜め方、だっただろうか。体を捻って、心臓に手を当て、力を一気に解放するように突き出す。背後には魔神が姿を成していて――、



「(今考えるべきはこれじゃない、か)」



百聞は一見にしかずとは言う。でも、直にというわけではなくとも既に"見て"いる。だから、不安にならずに済んでる。……やだなあ。



「やはりマジン・ザ・ハンドは、大介さんにしか出来ない幻の必殺技なのか……」

「ってことは、いくら特訓しても」

「マジン・ザ・ハンドは完成しない……」

「じいちゃんにしか出来ない、幻の必殺技……」


「――ちょっとみんなどうしたのよ!負けちゃったみたいな顔して。試合はまだ始まってもいないのよ!」



みんなの表情が沈んでいく中、声を上げたのは秋ちゃんだった。

相手のシュートが止められないんじゃ、と気落ちする壁山に、「だったら、点を取ればいいでしょ!」と強く言う。



「10点取られれば11点。100点取られれば101点、そうすれば勝てるなじゃない!」

「木野……」

「木野先輩の言う通りです!点を取ればいいんですよ!」



10点取られれば11点。100点取られれば101点。点を取る立場からすれば、とんでもないことを言うと、普通なら思うかもしれない。

だが、ここにいるメンバーなら、やれるとさえ思えてくる。そもそもシュートを止められたとしても、点が取れなければ意味がないのだ。



「……鬼道!」

「ああ。取ってやろうじゃないか、101点!」

「あたしもあたしも!」

「俺たちもやるぞ。守って守って守り抜く!やつらにシュートは打たせない!」

「俺もやるっすよ!」

「意地でも守ってみせるでやんす!」

「何が何でも、守ろう!」



かなと……珍しくゆみが笑いながら言った。「りなは?」と一之瀬に言われ、「言わなくたって分かるでしょ」と返してやる。



「やろうぜ、円堂!出来るさ、俺たちなら!みんなで力を合わせれば!」

「みんな…。よーし行くぞ!俺たちの底力、見せてやろうぜ!」


『おーーーっ!!!』



拳を突き上げ、心を1つに。みんなと一緒なら、戦える。




***


翌日。準備を終えて今まさに家を出ようとした時、携帯のバイブ音が聞こえた。メールの着信で、送り主は吹雪だ。



「北海道から応援メールが来たよ」

「えっ、読んで読んで!」

「"いよいよ決勝の日だね。優勝できるようにがんばってね!北海道から応援してるよ!"

――だってさ。応援してくれる人の為にも、勝たないと」

「まぁ、勝つのは決まったことぐへっ」



ゆみの一本背負いにより、かなは投げ飛ばされた。容赦ない不意討ちの割にはちゃんと受け身を取っているあたり、流石だ。



「イジメ、ダメ、絶対」

「いじめじゃないから」

「無駄話もほどほどにして、ほら、行くよ」






私有のバスでフロンティアスタジアムに到着し、いざ出陣――とはならなかった。



「これは…」

「フロンティアスタジアムが閉鎖されていることについて」



みんなの意見をかなが代弁し、どういうことかと表情を曇らせた。鋼鉄製の頑丈な扉はしっかりと施錠され、閉鎖の看板がかけられている。

辺りには係員らしき人影もなく、みんなの不安ばかりが募る。その時、着信を告げる夏未ちゃんの携帯の音が、静寂を破った。

夏未ちゃんが言うには、その電話は急遽決勝戦の会場が変わったという、本部からの連絡だと。



「変わったってどこへ?」

「それが……」



その時頭上に謎のスタジアムが現れた。下から見れば半球体で、女神の意匠があしらわれた像が、いくつもついている。正直、不気味だ。



「まさか、決勝戦のスタジアムというのは……」

「ええ……」

「あそこが……!」






決勝戦が、始まろうとしていた。



→あとがき
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