第4話 合宿だあああっ!
アフロディが去ってから、イナビカリ修練場にて、円堂はキーパー用のマシンを使い、がむしゃらにマジン・ザ・ハンドの練習をしていた。
誰も何も言わない。いや、言えない。先程も、アフロディの努力を否定する発言に、らしくもなく激昂していたのだ。
追い詰められている状態で、考えなしに言葉をかけるのは、かえって逆効果になる。
そんならしくない円堂に、1年生4人と目金はため息をついている。キャプテンだってのに、周りが見えていない。
「ほらほら、俺たちも練習だ!」
「座ってたって点は取れないぞ」
土門と風丸の励ましに、相手が相手だと渋るのに対し、「だから練習するんだろ」と半田が返す。それでも、歯切れは悪い。
円堂はというと、ボールを受け止めきれずに、また吹っ飛んでいた。
駆け寄ろうとする秋ちゃんを拒否し、なにがなんでも完成させると息巻く円堂は、完全に頭に血が上っている。
無理矢理練習を止めさせたところで、響木監督は「合宿をやるぞ」と言い放った。ぽかんとした円堂が、復唱する。
「学校に泊まって、みんなでメシでも作ってな」
「え……」
許可については、夏未ちゃんが取っておいたという。いつの間にというか、流石は理事長代理だ。
「おし、枕持ってこないとな」
「おいおい」
かなの発言に呆れるゆみ。別に枕が変わると寝られないってわけでもないしね。枕投げでもするつもりなのかな?
「合宿かあ!」
「そういえば、俺たち合宿なんかしたことなかったもんな!」
「学校に泊まれるなんて、なんか楽しそうでやんすね!」
合宿ということで、一年生たちは大はしゃぎだ。かくいうあたしも、このメンバーでの合宿だなんて、楽しみだ。
「ほんとほんと!みんなの料理のお手並み拝見って感じ!」
「僕、じゃがいもに拘りあるんですよ!」
「ほほう!」
一年生に同調するかな。下心があるようにも見えなくもない。この脳内腐海め。ちなみにゆみは一年生を微笑ましげに見ている。年下好きめ。
わいわいがやがやと盛り上がる一同を他所に、1人円堂は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。そんなに息抜きするのが嫌か。
「待って下さい監督。メシでも作るって、そんな呑気なこと言ってる場合じゃ……。
世宇子との試合は明後日なんですよ。それまでに、マジン・ザ・ハンドを完成させないと……」
「出来るのか。今の練習で、必殺技を完成させることが」
「やってみないと」と食い下がる円堂に、「無理だ」と監督は言い切った。
マジン・ザ・ハンドは大介さんが血の滲むような努力で作り上げた、幻の必殺技。闇雲に練習して完成する程甘い技ではない、とのこと。
まあどんなポジションでもどんな必殺技でも、ただ闇雲にやるだけじゃ出来ないんだろうが。
「それに今のお前は必殺技のことで頭が凝り固まっている。そんな状態で完成させることは不可能だ」
「……確かに、一度マジン・ザ・ハンドを忘れてみるのもいいかもしれないな」
「えっ……」
鬼道までもが賛成し、円堂は視線をさ迷わせる。一之瀬も「俺も賛成だな」と、監督の提案を推した。
「アメリカでも言うしさ、ゴキブリを取る時以外は急ぐなって」
「ゴキブリ?それって、ノミを取る時以外は急ぐな、じゃなかった?」
「え?あ、そうとも言うよね、ハハハ……」
そんなわけで合宿は決定し、用意をして5時に集合となった。
さっさと準備をしてしまおうと、自室に入って数分。コンパクトに纏めた荷物を持って廊下に出ると、丁度ゆみとかなも出てきた。
「シャワー浴びて汗流そっか」
「その前にプリン食べよ!プリン」
「あんたほんとにプリン好きだよね」
「はははは」
談笑しつつリビングのドアを開けると、「やあ」とギリシャ彫刻のような美しい微笑みを湛えたアフロディがいました。待て何故うちにいる。
「な、何でお前がここに居るんだよ!出てけ!ていうかどっから入った!」
「まあ、いいじゃないか。君たちに少し聞きたいことがあってね」
「……何よ」
「君たちが異世界から来たというのは本当かい?」
思わず息を呑んだ。何で、知ってるんだ。
「……その反応を見る限り、本当のようだね」
何で、そのことを彼が知っているんだ。
「テメ……それをどこで知った!」
「十中八九、影山だろうね」
「さあ、どうだろう。神が知らないことなどないよ」
「神のアクアを使ってる分際で神を名乗るな!」
「この世界のことを知っているというのも、本当なのか」
「うっせー黙れ!何しに来たんだ!」
さっきからかながやたらと噛みついているような。フォワードだから、あのシュートに何か感じるものがあったのか?
「単刀直入に言おう。僕たちの」
「「「だが断る!」」」
よくある展開本当にありがとうございました。だが断る。
「……まだ最後まで言ってないんだけれど」
「言わなくても分かるっての!」
「随分と強気だね……。これも、先のことを知っているからかな?」
「黙りなよ。……あたしたちがいる時点で、あたしたちの知ってる世界じゃないんだから」
「それもそうだね」
あっさりとゆみの言葉を肯定し、肩を竦めたアフロディは、「今回は諦めるよ」とあたしたちの横を通り過ぎて玄関へ。
おい。今気づいたけどこいつ土足じゃないか。ふざけるなよ外国じゃあるまいし。せめて拭いて帰れよ、とは言えずにその背中を見つめる。
ドアが閉まる間際、
「あ、そうだ。プリン、ごちそうさま」
「は」
そんな言葉に固まったかなが、次の瞬間身を翻して冷蔵庫に向かって突進した。そして絶叫。
「あああああ!あ、あたしのプリンが1個減ってる!」
「何もたかが1個でそんなに」
「たかがじゃないよりな!くっそぉ、絶対に決勝戦勝ってやる!」
……プリンで闘志燃やすって、どうなの。相変わらず、安定のプリン好きだ。
ちなみに床には特に土はついていなかった。超次元的な神パワーでも働いたのだろうか。
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誰も何も言わない。いや、言えない。先程も、アフロディの努力を否定する発言に、らしくもなく激昂していたのだ。
追い詰められている状態で、考えなしに言葉をかけるのは、かえって逆効果になる。
そんならしくない円堂に、1年生4人と目金はため息をついている。キャプテンだってのに、周りが見えていない。
「ほらほら、俺たちも練習だ!」
「座ってたって点は取れないぞ」
土門と風丸の励ましに、相手が相手だと渋るのに対し、「だから練習するんだろ」と半田が返す。それでも、歯切れは悪い。
円堂はというと、ボールを受け止めきれずに、また吹っ飛んでいた。
駆け寄ろうとする秋ちゃんを拒否し、なにがなんでも完成させると息巻く円堂は、完全に頭に血が上っている。
無理矢理練習を止めさせたところで、響木監督は「合宿をやるぞ」と言い放った。ぽかんとした円堂が、復唱する。
「学校に泊まって、みんなでメシでも作ってな」
「え……」
許可については、夏未ちゃんが取っておいたという。いつの間にというか、流石は理事長代理だ。
「おし、枕持ってこないとな」
「おいおい」
かなの発言に呆れるゆみ。別に枕が変わると寝られないってわけでもないしね。枕投げでもするつもりなのかな?
「合宿かあ!」
「そういえば、俺たち合宿なんかしたことなかったもんな!」
「学校に泊まれるなんて、なんか楽しそうでやんすね!」
合宿ということで、一年生たちは大はしゃぎだ。かくいうあたしも、このメンバーでの合宿だなんて、楽しみだ。
「ほんとほんと!みんなの料理のお手並み拝見って感じ!」
「僕、じゃがいもに拘りあるんですよ!」
「ほほう!」
一年生に同調するかな。下心があるようにも見えなくもない。この脳内腐海め。ちなみにゆみは一年生を微笑ましげに見ている。年下好きめ。
わいわいがやがやと盛り上がる一同を他所に、1人円堂は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。そんなに息抜きするのが嫌か。
「待って下さい監督。メシでも作るって、そんな呑気なこと言ってる場合じゃ……。
世宇子との試合は明後日なんですよ。それまでに、マジン・ザ・ハンドを完成させないと……」
「出来るのか。今の練習で、必殺技を完成させることが」
「やってみないと」と食い下がる円堂に、「無理だ」と監督は言い切った。
マジン・ザ・ハンドは大介さんが血の滲むような努力で作り上げた、幻の必殺技。闇雲に練習して完成する程甘い技ではない、とのこと。
まあどんなポジションでもどんな必殺技でも、ただ闇雲にやるだけじゃ出来ないんだろうが。
「それに今のお前は必殺技のことで頭が凝り固まっている。そんな状態で完成させることは不可能だ」
「……確かに、一度マジン・ザ・ハンドを忘れてみるのもいいかもしれないな」
「えっ……」
鬼道までもが賛成し、円堂は視線をさ迷わせる。一之瀬も「俺も賛成だな」と、監督の提案を推した。
「アメリカでも言うしさ、ゴキブリを取る時以外は急ぐなって」
「ゴキブリ?それって、ノミを取る時以外は急ぐな、じゃなかった?」
「え?あ、そうとも言うよね、ハハハ……」
そんなわけで合宿は決定し、用意をして5時に集合となった。
さっさと準備をしてしまおうと、自室に入って数分。コンパクトに纏めた荷物を持って廊下に出ると、丁度ゆみとかなも出てきた。
「シャワー浴びて汗流そっか」
「その前にプリン食べよ!プリン」
「あんたほんとにプリン好きだよね」
「はははは」
談笑しつつリビングのドアを開けると、「やあ」とギリシャ彫刻のような美しい微笑みを湛えたアフロディがいました。待て何故うちにいる。
「な、何でお前がここに居るんだよ!出てけ!ていうかどっから入った!」
「まあ、いいじゃないか。君たちに少し聞きたいことがあってね」
「……何よ」
「君たちが異世界から来たというのは本当かい?」
思わず息を呑んだ。何で、知ってるんだ。
「……その反応を見る限り、本当のようだね」
何で、そのことを彼が知っているんだ。
「テメ……それをどこで知った!」
「十中八九、影山だろうね」
「さあ、どうだろう。神が知らないことなどないよ」
「神のアクアを使ってる分際で神を名乗るな!」
「この世界のことを知っているというのも、本当なのか」
「うっせー黙れ!何しに来たんだ!」
さっきからかながやたらと噛みついているような。フォワードだから、あのシュートに何か感じるものがあったのか?
「単刀直入に言おう。僕たちの」
「「「だが断る!」」」
よくある展開本当にありがとうございました。だが断る。
「……まだ最後まで言ってないんだけれど」
「言わなくても分かるっての!」
「随分と強気だね……。これも、先のことを知っているからかな?」
「黙りなよ。……あたしたちがいる時点で、あたしたちの知ってる世界じゃないんだから」
「それもそうだね」
あっさりとゆみの言葉を肯定し、肩を竦めたアフロディは、「今回は諦めるよ」とあたしたちの横を通り過ぎて玄関へ。
おい。今気づいたけどこいつ土足じゃないか。ふざけるなよ外国じゃあるまいし。せめて拭いて帰れよ、とは言えずにその背中を見つめる。
ドアが閉まる間際、
「あ、そうだ。プリン、ごちそうさま」
「は」
そんな言葉に固まったかなが、次の瞬間身を翻して冷蔵庫に向かって突進した。そして絶叫。
「あああああ!あ、あたしのプリンが1個減ってる!」
「何もたかが1個でそんなに」
「たかがじゃないよりな!くっそぉ、絶対に決勝戦勝ってやる!」
……プリンで闘志燃やすって、どうなの。相変わらず、安定のプリン好きだ。
ちなみに床には特に土はついていなかった。超次元的な神パワーでも働いたのだろうか。
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