第3話 三つ子と神(笑)と

今日も今日とて部活部活。

円堂が同時に打ってくれ!と言ってきた為、かな、豪炎寺、染岡、鬼道、一之瀬以外はグラウンドの外にはけた。

同時に3つのシュートを受けようなんて、無茶苦茶なことを言い出すもんだ。そんな円堂に付き合うあたしたちも無茶苦茶なのかもしれないが。



「「ドラゴントルネード!」」


「「ツインブースト!」」


「シャイニングスターダスト!」



迫るシュート迎え撃つべく腰を落とした円堂の前に、1つの影が飛び込んだ。

左手、右手、右足。いとも簡単にシュートを受け止めて見せた、端正な顔立ちをしている、長い髪を靡かせた少年。

あーあ、ついに来たよ。かな風に言うとアフロな彼が。



「スッゲー!ドラゴントルネードとツインブースト、シャイニングスターダストを止めるなんて!お前、凄いキーパーだな!」

「……いや、私はキーパーでは無い。我がチームのキーパーなら、こんなの、指一本で止めてみせるだろうね」



"こんなの"呼ばわりに、円堂の表情が曇る。みんなが困惑する中、1人鬼道が警戒するように声を荒げた。



「……そのチームってのは世宇子中のことだろう?アフロディ!」


『ええッ!』



険しい顔で歩いて行く鬼道に、彼とあたしたち3人以外が声を上げる。アフロディは鬼道を一瞥すると、円堂に向き直った。



「円堂守くんだね。改めて自己紹介させてもらおう。世宇子中のアフロディだ。君のことは、影山総帥から聞いている」

「やはり、世宇子中には影山がいるのか」

「て、テメェ!宣戦布告に来やがったな!」

「宣戦布告?フフフ……」

「何がおかしい!」

「宣戦布告というのは戦う為にすることだ。私は君たちと戦うつもりはない。君たちも戦わない方がいい。それが君たちの為だよ」

「何故だよ!」

「何故なら……負けるからさ」



負ける。そう断定され、円堂は言葉を失う。「神と人間が戦っても、勝敗は見えている」らしい。いや神って。

自分が神だとでも言うつもりかと一之瀬が怒鳴るが、アフロディは曖昧に笑ってみせるだけだった。

「痛々しいね」「そうだそうだ!」おいりなもかなも何話してんだ。確かに神とか痛々しいけど。神様っぽいのに会ったことあるから尚更。



「試合は、やってみなきゃ分からないぞ!」

「そうかな。リンゴは木から落ちるだろ?世の中には逆らえない事実というものがあるんだ。それは、そこにいる鬼道有人くんが一番よく知っているよ」



嘲笑。世宇子との試合を思い出したらしく、歯を食い縛り進み出ようとした鬼道を、豪炎寺が止めた。



「だから練習をやめたまえ。神と人間の間の溝は、練習では埋められるものじゃないよ。無駄なことさ」

「煩い!練習が無駄だなんて、誰にも言わせない!練習はおにぎりだ!俺たちの血となり、肉となるんだ!」

「ああ……あはははは!上手いこと言うね。練習はおにぎり、か。フフフ」

「笑うとこじゃないぞ……!」



怒りを押し殺した低い声に、アフロディは肩を竦めると、ボールに足をかけた。



「それが無駄なことだと、証明してあげるよ」



アフロディがボールを蹴り上げ、空中からシュートを放つ。円堂は、止められなかった。



「「円堂っ!」」



倒れた円堂に、みんなが駆け寄る。目を開き、アフロディを視界に入れた円堂は、らしくもなく「どけよ!」と乱暴にみんなを押し退けた。

ふらついたのを支える鬼道や、心配そうなみんなには目もくれず、怒りを露にして、アフロディを睨み付ける。



「…こいよ、もう一発!今の本気じゃないだろ。本気でどんとこいよ!」



そう言う円堂の足は、ダメージからか震えていて、膝をつく。それでも立ち上がろうとする円堂を見て、アフロディは声を立てて笑った。



「アハハハ!面白い!神のボールをカットしたのは君が初めてだ。決勝が少し楽しくなってきたよ」


「なーにが神だよ!そう笑ってられんのは今のうちだよ!」


「……へえ」



啖呵を切ったかなを見つめるアフロディの目が細められた。うわあ、なんか嫌な予感がする。何考えてんだ。

ていうか啖呵切る割には、かなびびってんじゃん。足ちょっと震えてるじゃん。本気ではないにしろ、それ程までに強力なシュートだったんだけれど。

少しだけ笑ったアフロディは、姿を消した。どういう原理だ。



「なんて奴だ……」

「世宇子中はあいつみたいな奴らばかりなんだ」

「決勝戦、とんでもない事になりそうだな」



決勝戦、か。徹底的に叩き潰す為に放たれる必殺技の数々。それに諦めずに立ち向かい、優勝を収める雷門中。

……うん、大丈夫だ。大丈夫。



「円堂」

「手はいるか?」

「いるいる。サンキュー」



豪炎寺と鬼道の手を取り立ち上がった円堂は、笑った。



「へへっ、今のボールで新しい技が見えたような気がするぜ。やれるよ、俺たち」


「いや!」


『!』



いつから見ていたのか、響木監督はこちらを見据え、言い放った。



「今のお前たちには絶対に不可能だ」





→あとがき
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