第3話 三つ子と神(笑)と

学校も、会社も基本的にはない休日。それが日曜日。朝起きたら9時半だった。やらかした。ここまで寝坊するなんて。

幸いなことに今日の朝食当番はりな、洗濯当番はかなだったから、良かったと思う。ていうか、そうじゃなかったら起こしに来てる。



「はよー……」

「おそよう、ゆみ。早く朝ごはん食べて」

「はーい」



かなはどこにいったのかと見渡すと、外でボールを蹴っていた。リフティングしている。

かなり続いてたみたいだけど、一瞬コントロールがずれたらしく、干してあった白いシーツに泥だらけのボールが当たってしまった。

かな、絶句。そして仰け反って絶叫。アホだ。いや前々からかなはアホだ。

ふらふらと戻ってきたかなは、机に突っ伏した。洗濯やり直しがそんなに嫌か。



「りなー、プリンー」

「あたしはプリンじゃないんですけど」



そうツッコミながら、りなは冷蔵庫の一角にあるプリンコーナーからプリンを1つ出した。あたしと自分にも1つ。



「で、今日どうしよっか」

「洗濯」

「それはあんただけでしょう。自業自得」

「てへ」

「あのねえ2人共……。……提案だけど、鉄塔広場いかない?」

「あー、円堂?気になるん?」

「ちょっとね」



特にすることも思い付かなかったので、今日することは決定した。軽くおにぎりを作って、鉄塔に行く。

ただ単に行くんじゃ、とかながドリブルしながら行こうとボールを持ってきたので、りなが便乗した。あたし?今はいいや。

かなはジャージだけど、りなは私服というとんでもないことになってるけど、キュロットだし流しておこう。


鉄塔に着くと、1人円堂がタイヤ相手に特訓していた。暫くすると、豪炎寺、鬼道、一之瀬もやってきた。



「やっぱりここか。……3人も来ていたんだな」

「ここにいるような気がしてね」

「あ、あたしは特訓!」



ボールを手に持ち主張したかなは、リフティングをし出す。「上手いな」「へっへーん」おい調子乗るなよ。豪炎寺だってそれくらい出来るだろうからな。



「いいの?手伝ってあげなくて」

「……あいつが戦っているのが、敵ならな」

「あいつは今、自分と戦っているんだ」

「壁は、誰かが作るわけじゃないからな」

「そうか……。壁はここにあるんだな」



胸に手を当てる一之瀬。それ前にもやったよな。



「円堂のじいさんもそれが言いたかったんだ……、なんて言うなよ」

「バレた?」

「そりゃあね」



その後、豪炎寺たちは帰ったけど、理由もなくあたしたちは円堂を見ていた。

あ、かなはボール追いかけ回してたけど。りなもちょいちょいベンチに座りながら、ボールを弄んでる。

夕方まで練習を続け、もう何度も吹っ飛ばされただろうか。途中から見に来ていた円堂のお母さんの手は、震えていた。

そんな中、タイヤをついに受け止めた。



「くう~っ、やったー!!!」



嬉しそうに跳び跳ねる円堂に、円堂のお母さんは何か感じたようだ。



「そろそろ帰るか」

「そうだね。かな!行くよー」

「はいよ」



階段で円堂のお母さんと擦れ違う。会釈すると、頭を下げ返された。



「貴女も、サッカー部の?」

「はい。最近転校してきた花咲りなです。サッカー部に選手として所属しています」

「花咲ゆみです。同じく選手です」

「花咲かなでっす。選手をやらせてもらってます!」

「そう……。部活での守はどうかしら」

「……まだ知り合って日は浅いですが、サッカーが大好きなんだって、その気持ちが伝わってくるプレーをしてます」

「……ありがとう。これからも守をよろしくね」

「はいっ!」



無茶をする子供を心配する母親。……少しだけ、円堂が羨ましい。






***


商店街の一角に店舗を構える、雷雷軒。店主の響木が仕込みをしていると、ガラリと音を立てて引き戸が開いた。

手元から顔を上げた響木は顔を顰めた。訪れたのは、かつてのチームメイトであり今となっては敵である――影山だった。

この店は客を選ぶのか。そう言ってのけた影山に、響木は何も言わずに器具を動かす。

……最も、作り上げられた丼に影山が手を付けることはなかったのだが。

目の前で円堂たちが倒されていくのを、黙って見ていることしか出来ない。嘲笑い、挑発する影山は、「…そうだ」と言葉を零した。



「雷門もとんだ爆弾を抱え込んだものだな」

「爆弾?そんなもの、雷門にはない」

「ああ……お前は知らないのだったな。仮に知っていたとしたら、得体の知れない人間を置いておく神経が分からん。

円堂たちも……いや、あいつらもそこまでは知らないのか。ククク……」

「……何が言いたい」



低い声で唸り、サングラスの奥から睨む響木を気にもせず、影山は肩を竦め、不敵に笑って見せた。



「さあ、どうだろうな。お前が知ることはないだろう」

「……影山。お前が何と言おうと、俺はあいつらを信じる」

「ほう……ハハハハ!試合、楽しみにしてるよ。円堂たちが倒されていき、お前が絶望する様を見るのが楽しみだ。

……いや、円堂は既に倒されているかもしれんな」

「っな……」



がたん、影山は出ていく。誰かを差し向けたということかと答えを出した時、響木は店を飛び出した。



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