第3話 三つ子と神(笑)と

次の日。家を出ると、丁度円堂と出くわした。



「あ、おっはよー円堂!」

「おはよう!」

「学校まで競争しようぜっ!」

「おう!」

「あ、こらっ」



すたこらさっさと駆けていき、遠ざかっていくかなと円堂の背中。朝っぱらから何だあのテンションは。

途中で会った秋ちゃんも、挨拶されたと思ったら、あっという間に行ってしまったそうで。



「男子は元気だな」

「……かなちゃんって、女の子だよね?」

「生物学上はね」

「ゆみ……」






間が経つのは早いなと思いつつ、放課後。

円堂がマジン・ザ・ハンドの特訓として色んなことを試そうと奔走する中、他メンバーは連携の確認等をしていた。

で、様子を見てくるとイナビカリ修練場に行った半田が戻って来ないんだけど……。



「半田いるー?……何やってんの?」


「止めてくれえええっ!」


「楽しそうだね」


「どこがだ!」


「あはは、冗談だよ」



キーパー用の自動でシュートを打つマシン。円堂がどこかへ行ってしまった為に、運悪く半田が餌食となっていた。

レバーを引いて止めると、今までずっとボールを避け続けてたからか、半田はその場に座り込んだ。



「はあ……はあ……」

「凄い息切れてるけど大丈夫?」

「大丈夫じゃ、ない…」

「あれくらい、ぱーって抜けらんないの?」

「無理……」



生きろ、半田。


ある程度呼吸が収まってからグラウンドに戻ると、円堂が練習に混じってシュートを止めていた。

あたしたちも戻って、タイミングなんかの確認をする。……まだ慣れてないから難しいな。

ミッドフィルダーは、攻守共に関わる繋ぎのポジション。早くみんなの動きを頭に叩き込んで、慣れないと。



「みんな!」

「おにぎりが出来ました!」

『おおーっ!』



ワッとベンチに群がる円堂以下鬼道とあたしたち以外のみんな。そちらを鬼道は一瞥すると、水道の方へ歩き出した。



「行かないんだ」

「汚れた手で食べる訳にはいかないだろう」

「だよね。あれ、ねえりな、かなは?」

「ベンチに行ってしまわれたよ」

「バカ……」



洗ってからハンカチで手を拭きつつ戻ると、スキップ混じりに走る円堂御一行と擦れ違った。



「おにぎり、おにぎりっ!ん?」

「早く洗ってきなよ」

「別に先に食べたりはしないからね」

「あ、ああ……」

「気づいてたなら言ってくれれば良かったのに!」

「そんな手で食べる方がおかしい」

「う」



言葉を詰まらせたかなが、一目散に走り去って行った。円堂たちが慌ててその後を追う。

鬼道はというと、手を拭きながら始終ドヤ顔をしていた。…年相応というか、なんというか。

そして、マネージャーたちに洗った手をちゃんと見せる。

並んで手のひらを見せるだけなんだけど、恥ずかしいのか鬼道は顔を少し背けていた。思春期だな。



「もしかして鬼道恥ずかしいの?1人だけ目を逸らしちゃってさ」

「……」



ニヤリと笑ったゆみが、からかうように言う。珍しいな、あんな絡み方するなんて。鬼道はというと、更に横を向いていた。

そして、みんなで我先にと食べ始める。沢山あるおにぎりは、どんどん減っていく。

鬼道はさりげなく春奈ちゃんのを確保していた。しかもやたら大きいやつ。それを見る春奈ちゃんは、なんだか嬉しそうだ。

一之瀬も秋ちゃんのを積極的に取っている。おにぎりにも色々あって面白いな。

秋ちゃんのはきっちりと全部ほぼ同じ大きさ。春奈ちゃんのは大きめのが混じってる。夏未ちゃんのは少し歪だ。

個性豊かなおにぎり。共通点は、みんなのことを思って作られた、ってことかな。ああ、幸せ。



「美味しいね」

「夏未ちゃんの超しょっぱい……。まあ食べきるけどな!」

「あたしのはちょっと薄めだな」

「ん、これは丁度いい塩梅だ」



夏未ちゃんは熱心だし、これからどんどん上達するんだろうな。…10年後は何故ああなったんだか。あ、



「ははっ、ヘンテコな形だな!」

「…私が握ったのよ」

「! まあ、形はどうであれ、味は一緒だよな!」



誤魔化すように一気に口へ放り込んだ円堂の顔が青くなり、汗がだらだらと流れ出す。……そんなにやばかったか。



「お塩つけすぎたかしら?」

「い……いや、練習で流した汗の分だけ、塩分補給しないと」



ごくん、と飲み込んだ円堂。が、喉に詰まったようで、夏未ちゃんが慌てて背中を叩く。あ、魂抜けてった。



「あ、これ美味しい」

「それ私が作ったんですよ!」

「へー、春奈が作ったんだ」

「はいっ」



……なんかゆみ、春奈ちゃんに懐かれてる?呼び捨てしてるし一体何があったんだ。



「旨かったっすー!」

「でもやたら塩辛いのが」

「よーし!あともうちょっとだ!」



半田の言葉を遮るように円堂が声を上げ、練習再開となった。



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