第3話 三つ子と神(笑)と
袋と氷を貰い、盛大に打ち付けた箇所に当てる。直接当てようとしていたので、間にはタオルを挟むように言う。
…まあこれくらいは、いいだろう。うん。甘いのかもしれないけど。
「いててて…」
「随分と無茶をしたもんだな」
「無茶じゃないよ。特訓だよ」
あくまでも特訓だと言い張る円堂。監督は苦笑しつつも止めるようなことは言わず、新しいキーパー技について問う。
マジン・ザ・ハンド。その名前に、監督は眉を上げた。監督もかつては挑戦したものの、マスターは出来なかったとのこと。
「……だが、お前ならやれるかもしれない。頑張れよ」
「おお!」
「確かに、円堂なら出来そうだよね」
「ああ。円堂ならな」
ゆみの言葉に鬼道が同調する。いつの間に仲良くなったんだ。話題が円堂だったからか?
そんな話をしていれば、がらりと引き戸が開いた。お客さんかと思ったら、鬼瓦さん――円堂風に言えば刑事さんが顔を出した。
円堂を酷い格好だと称しながら、カウンターに座る。まあ、酷いよね。泥は拭くいたけど、擦り傷だらけだし。
「世宇子に勝つには、これくらいなんでもない」と豪語する円堂に、勝つことに執念を燃やし過ぎると、影山みたいになると鬼瓦さんは言った。
鬼瓦さんは、影山を探す為に不愉快な野郎……失敬、冬海先生と会ったらしい。冬海、ねえ。
「冬海とか影山って誰?」
「ああ……、3人は居なかったからな」
いなかった人間が、知っている筈のない存在。そのことに気づいたかなが、豪炎寺に話を振る。
小さく頷いた豪炎寺は、スパイのことや、フットボールフロンティア地区予選決勝で起きた鉄骨落とし事件を、簡潔に説明してくれた。
……境遇がああでなければ、サッカーを愛する極普通の選手だったんだろうな。
ため息をつきながら、鬼瓦さんは語り出す。40年前のイナズマイレブンの悲劇。雷門対帝国戦の鉄鋼落下事件。
一連の不可解な事件を解決する為には、影山という男の過去を知るべきだと考えたのだと。
「何か分かったんですか」
鬼道への返答に渋る鬼瓦さんに、「話してやったらどうだ」と響木監督が口添えすると、鬼瓦さんは重い口を開いた。
始まりは50年前の出来事。影山の父親である影山東吾は、日本サッカー界を代表する選手だった。
人気も実力も最高の選手だったが、円堂大介を中心とする若手の台頭によって、ワールドチャンピオンシップ代表を外されてしまった。
そのショックからか影山東吾は荒れ、必ず負ける疫病神と揶揄される始末。そして影山東吾は失踪。母親は病死。
独りになってしまった影山が歪んでしまったのは、当然のことと言えるかもしれない。
家族を壊したサッカーと、勝ちへの拘りに対する憎しみ。両方が膨れ上がってしまったのだろうと、鬼瓦さんは言う。
「勝つことが絶対、敗者に存在価値はない。……影山がよく言っていた言葉だ」
「その為に、沢山の人を苦しめてる。豪炎寺、お前もその1人」
「何!?」
目を見開いた豪炎寺に、豪炎寺の妹――夕香ちゃんの事故に、影山が関係している可能性があると告げられる。
言葉を失った豪炎寺は、お守りだと渡されたペンダントを出し、握り締めた。体を震わせ、歯を食い縛り、必死で怒りを抑え込んでいた。
「許せない……。どんな理由があっても、サッカーを汚していい訳が無い!間違ってる!」
「影山は今どこに」
「まだ分からん。だが冬海がおかしなことを言っていてな」
フットボールフロンティアは、プロジェクトZに支配されている。影山はサッカーから離れられない。
空から、それこそ神様にでもなかったかのように、見下ろし、嘲笑っている。
「どうやらその計画と、影山が空にいるっていうのは繋がっているらしい」
「プロジェクトZと空……。なんのことだろう……?」
空と聞いて思い付くことはないかと問うも、帝国にいた鬼道に話を振るが、鬼道にも分からなかった。
「(空……)」
空中に浮かぶあの趣味の悪いスタジアムを指しているんだろう。全く、世宇子共々神様気取りか。
本物の神様(仮)を知っているあたしとしては、良い年した大人が何やってるんだと思う。
「……そういやお嬢ちゃんたちは初めて見る顔だな。新しく入ったマネージャーか?」
突然あたしたちに話が振られた。値踏みされるような視線が、居心地悪い。
「……最近雷門中に転校してきました、花咲りなです。こっちは妹のゆみとかな。サッカー部の……選手です」
「はじめまして」
「どーも」
「ほう、選手か。ライセンスでも取ったのか」
「まあ……」
いつの間にか用意されてました、なんて、言えるわけがない。円堂たちは知ってるけど、実力は本物だって認めてくれてるし、いいだろう。多分。
鬼道も「実力は本物です」と言ってくれたので、ほっとする。天才ゲームメーカーという異名を持つ彼にそう太鼓判を押されるのは、ちょっとだけ照れ臭いな。
鬼瓦さんは顎髭を擦ると、じ、とあたしたちを見た。
「三つ子か?」
「あ、はい。あたしが長女で、」
「次女です」
「三女でっす」
「……」
細められた目に居心地の悪さ再び。何かボロでも出しただろうか。
内心冷や汗だらだらだったけど、特に何かを言われることもなく、鬼瓦さんは出ていった。
「何かあったのか?」
それはあたしが知りたいよ、キャプテン。
.
…まあこれくらいは、いいだろう。うん。甘いのかもしれないけど。
「いててて…」
「随分と無茶をしたもんだな」
「無茶じゃないよ。特訓だよ」
あくまでも特訓だと言い張る円堂。監督は苦笑しつつも止めるようなことは言わず、新しいキーパー技について問う。
マジン・ザ・ハンド。その名前に、監督は眉を上げた。監督もかつては挑戦したものの、マスターは出来なかったとのこと。
「……だが、お前ならやれるかもしれない。頑張れよ」
「おお!」
「確かに、円堂なら出来そうだよね」
「ああ。円堂ならな」
ゆみの言葉に鬼道が同調する。いつの間に仲良くなったんだ。話題が円堂だったからか?
そんな話をしていれば、がらりと引き戸が開いた。お客さんかと思ったら、鬼瓦さん――円堂風に言えば刑事さんが顔を出した。
円堂を酷い格好だと称しながら、カウンターに座る。まあ、酷いよね。泥は拭くいたけど、擦り傷だらけだし。
「世宇子に勝つには、これくらいなんでもない」と豪語する円堂に、勝つことに執念を燃やし過ぎると、影山みたいになると鬼瓦さんは言った。
鬼瓦さんは、影山を探す為に不愉快な野郎……失敬、冬海先生と会ったらしい。冬海、ねえ。
「冬海とか影山って誰?」
「ああ……、3人は居なかったからな」
いなかった人間が、知っている筈のない存在。そのことに気づいたかなが、豪炎寺に話を振る。
小さく頷いた豪炎寺は、スパイのことや、フットボールフロンティア地区予選決勝で起きた鉄骨落とし事件を、簡潔に説明してくれた。
……境遇がああでなければ、サッカーを愛する極普通の選手だったんだろうな。
ため息をつきながら、鬼瓦さんは語り出す。40年前のイナズマイレブンの悲劇。雷門対帝国戦の鉄鋼落下事件。
一連の不可解な事件を解決する為には、影山という男の過去を知るべきだと考えたのだと。
「何か分かったんですか」
鬼道への返答に渋る鬼瓦さんに、「話してやったらどうだ」と響木監督が口添えすると、鬼瓦さんは重い口を開いた。
始まりは50年前の出来事。影山の父親である影山東吾は、日本サッカー界を代表する選手だった。
人気も実力も最高の選手だったが、円堂大介を中心とする若手の台頭によって、ワールドチャンピオンシップ代表を外されてしまった。
そのショックからか影山東吾は荒れ、必ず負ける疫病神と揶揄される始末。そして影山東吾は失踪。母親は病死。
独りになってしまった影山が歪んでしまったのは、当然のことと言えるかもしれない。
家族を壊したサッカーと、勝ちへの拘りに対する憎しみ。両方が膨れ上がってしまったのだろうと、鬼瓦さんは言う。
「勝つことが絶対、敗者に存在価値はない。……影山がよく言っていた言葉だ」
「その為に、沢山の人を苦しめてる。豪炎寺、お前もその1人」
「何!?」
目を見開いた豪炎寺に、豪炎寺の妹――夕香ちゃんの事故に、影山が関係している可能性があると告げられる。
言葉を失った豪炎寺は、お守りだと渡されたペンダントを出し、握り締めた。体を震わせ、歯を食い縛り、必死で怒りを抑え込んでいた。
「許せない……。どんな理由があっても、サッカーを汚していい訳が無い!間違ってる!」
「影山は今どこに」
「まだ分からん。だが冬海がおかしなことを言っていてな」
フットボールフロンティアは、プロジェクトZに支配されている。影山はサッカーから離れられない。
空から、それこそ神様にでもなかったかのように、見下ろし、嘲笑っている。
「どうやらその計画と、影山が空にいるっていうのは繋がっているらしい」
「プロジェクトZと空……。なんのことだろう……?」
空と聞いて思い付くことはないかと問うも、帝国にいた鬼道に話を振るが、鬼道にも分からなかった。
「(空……)」
空中に浮かぶあの趣味の悪いスタジアムを指しているんだろう。全く、世宇子共々神様気取りか。
本物の神様(仮)を知っているあたしとしては、良い年した大人が何やってるんだと思う。
「……そういやお嬢ちゃんたちは初めて見る顔だな。新しく入ったマネージャーか?」
突然あたしたちに話が振られた。値踏みされるような視線が、居心地悪い。
「……最近雷門中に転校してきました、花咲りなです。こっちは妹のゆみとかな。サッカー部の……選手です」
「はじめまして」
「どーも」
「ほう、選手か。ライセンスでも取ったのか」
「まあ……」
いつの間にか用意されてました、なんて、言えるわけがない。円堂たちは知ってるけど、実力は本物だって認めてくれてるし、いいだろう。多分。
鬼道も「実力は本物です」と言ってくれたので、ほっとする。天才ゲームメーカーという異名を持つ彼にそう太鼓判を押されるのは、ちょっとだけ照れ臭いな。
鬼瓦さんは顎髭を擦ると、じ、とあたしたちを見た。
「三つ子か?」
「あ、はい。あたしが長女で、」
「次女です」
「三女でっす」
「……」
細められた目に居心地の悪さ再び。何かボロでも出しただろうか。
内心冷や汗だらだらだったけど、特に何かを言われることもなく、鬼瓦さんは出ていった。
「何かあったのか?」
それはあたしが知りたいよ、キャプテン。
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