第2話 転入、練習、そして試合

先程まで円堂の背中に触れていた手を、まじまじと見つめた。

ただ、やらなければと思った。栗松の代わりに出ているあたしが、円堂を支えなければと。だからやった。

それだけなのに、ビリビリとした何かを感じたように思えた。だからか、手の震えが収まらない。

広い背中だった。ゴールを守る、頼りがいのある、背中。

暖かさを感じた。熱くて、熱くて、どこまでも真っ直ぐで、例えるならまさしく太陽だ。

全身が疼くような、この込み上げてくる気持ちはなんだろう?ずっと、忘れていたような―――、



「ゆみっ!」


「は」



鬼道の声にハッとした。固まってる場合じゃない。試合中だっていうのに、何してるんだ。

目の前に迫るのは木戸川のミッドフィルダー。……待ってよ。え?こんなの、知らない。どうして。

まだ同点のままなのに。逆転していないのに。何が起きた?壁山も土門も、フォローに入れる位置にはいない。

この選手とゴールを守る円堂の間には、あたししかいない。



「(……やるしか、ない)」



一度息を吐いて、吸う。…せっかく作った必殺技だ。この場で、お披露目といこうじゃないか。



「ライトウォールッ!」



半透明の光輝く壁が現れて、木戸川の選手を弾いた。



「す、凄いッス!」


「はは……。ありがとう、壁山」



どういう原理なんだと頭の端で思いつつ、前線へとボールを蹴り出す。

まだまだブレはあるものの、鬼道からのダイレクトパスで、フリーの豪炎寺に渡った。良かった、繋がった。



「円堂、ここは任せて。行って!」

「ああ!」



「凄いディフェンスだったぜ!」とニカッと笑った円堂の背が、遠ざかっていく。……ありゃモテるわけだわ。よーく分かった。

木戸川陣内の方では、ディフェンスに戻っていた武方三兄弟を前に、豪炎寺が一之瀬へとパスを出していた。



「今だ、トライペガサス!行け!決めるんだ!」



一之瀬、円堂、土門が並走する。その前に立ちはだかったのは、やはり西垣だ。



「ペガサスは決めさせない!」



遠目でも分かる、渾身のスピニングカット。だがその衝撃波の壁を、3人は振り切るように突き破った。火を纏った鳥が現れる。



「「「はああああっ!!!」」」



打ち出されたシュートは、真っ直ぐに木戸川ゴールへ迫る。

決めさせないと軌道上に飛び出した三兄弟をも吹き飛ばして、ゴールに突き刺さった。

スコアボードが3ー2に代わる。……逆転だ!

ここで、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。



「ホイッスルのタイミング良すぎだな、おい……」



思わず呟いてしまったのは、許して欲しい。とにかくこれで、雷門中は40年ぶりの決勝進出を果たしたんだ。

それにしても、何で決勝点が決まる前に、アニメにはなかった展開が起きたのか。十中八九、あたしたちがいる影響なんだろうが。

……まあ、あたしたちがいる時点で、あたしたちの知ってるイナズマイレブンではないわけで。でも、ちゃんと決勝には行ける。

過程に差異はあれど、これくらいなら、大丈夫……なのだろうか。過程より結果、でいいのかな。



「ゆみ」

「あ、鬼道」

「さっきの必殺技……いつの間に?」

「ああ、あれ。つい昨日だよ。特訓してたら、出来た」

「そうか」

「どうかした?」

「いや……ただ、短時間で必殺技を作っていて、驚いただけだ」

「そりゃあ、あたしだって驚いたさ」



まさか本当に出来るなんて思ってなかった。しかもあんな短い時間で。

「いい必殺技だった」と天才ゲームメーカーからお褒めの言葉を頂けたので、いいんだけど。



「やられたよ。素晴らしい技だった」

「西垣……」

「あれはお前たちと……円堂の技だな。一之瀬が不死鳥となって甦った。ザ・フェニックスだ」

「ザ・フェニックス……」

「不死鳥か。一之瀬に相応しい名前だ」



握手をかわす一之瀬と西垣に、更に円堂と土門が手を重ねる。新旧トライペガサスメンバーといったところか。

そして、二階堂監督の口添えもあって、武方三兄弟の誤解も解けた。豪炎寺1人だけで勝ち負けは決まらないのだ、と。

三兄弟は、あたしにも謝罪をしてきた。女だからとナメていたことにムカついたのは事実だけど、あたしだって挑発をしたのだからおあいこだ。



「よかったよかった」

「一時はどうなるかと思ったよ……」

「あー、微原作ブレイク?」

「まあ、どうにかなったんだけどね。世宇子中戦はどうなるんだろう」

「あの金髪アフロか」

「確かに彼の苗字は亜風炉だけど……」

「韓国が母国って完全なる後付け設定だよね」

「やめたげて」

「やだ」

「……」



……何でそんな変な掛け合いをしているんだ、うちの姉と妹は。



「ついにここまで来たな。次は世宇子との決勝戦だ」

「ああ!」

「……大丈夫か」

「……、ああ」



開いた手を見つめる円堂の表情は固い。

今回の試合、自分1人でトライアングルZを止められなかったことを、考えているのだろうか。

ダメージも相当蓄積されているだろうし、冷やしておいた方がいいかもしれない。



「春奈。氷の用意お願い出来る?円堂の手、冷やしといた方がいいかも」

「分かりました!」

「んで渡しに行く役目は秋ちゃんか夏未ちゃんで」

「ですね!」

「「!」」

「な、何を言っているの!」

「そ、そうだよ!」

「バレバレだよお二方」



顔を真っ赤に染める秋ちゃんと夏未ちゃん。こそこそと写真を撮ろうとしているかなを見つけ、チョップを落とす。



「いったあ!何すんの!」

「それはこっちのセリフだから。……あー、終わった……」

「お疲れ様、ゆみ。……次は決勝戦だね」

「目の前であんな試合見るのか……」



みんなが傷つくのは見たくない。そう思える程には、感情移入してしまっているらしい。

昔の自分のことを考えると、自嘲せざるを得ない。最早あれは黒歴史だ。

……あの時の気持ちを忘れたわけじゃない。未だに引き摺っているのも、自覚はしている。

それでも、



「(もう逃げない)」



そう、心に誓った。





→あとがき
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