第2話 転入、練習、そして試合

控え室を出ると、丁度木戸川清修御一行と出くわした。ブレイク組と武方3兄弟が何やら話しているけど、聞き流す……つもりだった。



「…おや、そちらのお三方は女子のようですが」

「ユニフォーム着てるってことは、選手ってことかあ?」

「ハッ、女子が選手だなんて、雷門も落ちぶれてる、みたいな?」

「はあ?」



何なんだコイツ。豪炎寺以外アウトオブ眼中とはいえ、そりゃないぜセニョール。

苛立ちから言い返そうとしたら、ドスッという鈍い音が響いた。音が聞こえた方では、りなが壁に拳をめり込ませていた。

うんちょっと待って。とりあえず落ち着こうか。全力で笑顔だけど、細められた目は全く笑ってないし、非常に冷たいのですが。



「低俗なことを吐く口は閉じていただけませんかね」



……わーお、キレていらっしゃる!あ、武方は「お、覚えてろよ!」と走り去って行きました。昭和の悪党か。木戸川の方々は会釈していきました。

微妙な雰囲気が漂う中、いつものように笑うと、りなは「早く行かないと失格になっちゃうよ!」と歩き出した。



「…なあ、りなって怒らせたら、」

「…怖いよ」



幾分か顔色が悪い風丸。心中お察しいたします。そのうちいいことあるよ。多分。

そんでもっていよいよ試合開始!ゆみの表情が強張っているのは、やっぱ緊張してるからなんだろうなあ。



「それにしてもあいつらほんとイラッとした!ボッコボコにしていいからね、ゆみ」

「誰がするか。ていうか余計なこと考えてる暇なんかない」

「サーセンした」



目がマジだった。




ホイッスルの音が響いて、木戸川清修からのキックオフで試合は始まった。染岡のスライディングがかわされ、豪炎寺も抜かされる。

あたしたちが知っている、"アニメ"と全く同じ展開だ。そりゃまあ、違ったら焦るんだけれども。

知ってるっていうのも、なんとも言えない。勝つことが分かっているんだから、臨場感がないというか。そもそも"主人公"は円堂だし。

今だけ忘れられたらいいんだけど、頭どっかに打ち付けたら記憶吹っ飛ぶかな。やんないけど。



「なんか、なあ……」



りなも同じ気持ちなようで、その呟きには興奮と微妙な感覚が入り交じっていた。



「バックトルネード!」


「爆裂パンチ!」



三男の努だったろうか。放たれたバックトルネードを止めることは出来ず、円堂の顔面に当たり、ゴールに入った。

受けた円堂が言うには、どうやら、前にやり合った時は本気を出していなかったそうな。そういや河川敷でやってたな。

けれど円堂も負けてはいない。二度もゴールを許してなるものかと、次はゴッドハンドでしっかりと防ぎきった。

調子が出てきたのか三度目のバックトルネードは爆裂パンチでセーブし、武方三兄弟の強引で単調なプレイもあって、少しずつ余裕が出始めた。



「ザ・ウォール!」


「いいぞ!壁山!」



ゆみも慣れてきたのか時折パスカットや繋ぎをしていて、そこそこ活躍している。そのこともあってか、武方は苛立っているようだ。

それにしてもがチームメイトからボールを奪うなんて、なんつープレーだ。全体的に動きが鈍くなってるし、何してんだか。


円堂から土門にボールが渡り、三兄弟がボールを奪いにくる。

そんな中、染岡、豪炎寺が両サイドから上がって、木戸川のディフェンダー、ミッドフィルダー陣が引き付けられ、ゴール前が空いた。

豪炎寺と染岡への警戒に加えて、雷門陣内にいる三兄弟。絶好のチャンス。

鬼道の合図で円堂、土門が上がり、一之瀬が声をかけ、前傾姿勢で走り出し、一点で交わった。



「「「トライペガサス!!!」」」



現れたペガサスに気圧されたのか、キーパーに何もさせることなく、シュートはゴールネットを揺らした。

鳴り響く笛に、ベンチからも、観客席からも歓声が沸き上がる。

円堂と豪炎寺のハイタッチに思わずにやけていたら、りなに脇腹に一発入れられた。痛い。



「あれがトライペガサス……凄い必殺技だ」

「ね!いつかああいう連携技の作りたいよ!」

「まずは個人での技が優先だけどね」



そして、同点で前半が終わった。



「豪炎寺を越える越えるって言ってるけど、3人でひとくくりなあたり、1人1人は大したことないんだね」

「「「なんだと!」」」

「さっきっからちょこまかと鬱陶しいんだよ!みたいな!」

「あっそう。そっちはそっちで雑だったり味方を蔑ろにするプレーしてて、見てて気持ち悪い」

「いちいちうるせーよ!」

「それ、そっくりそのまま返すよ」



……何で喧嘩売ってるんですかゆみさん。






「みんな頑張って!三兄弟と中盤の連携を崩せば、必ず逆転出来るわ!」



秋ちゃんがそうは言うものの、みんなの表情は険しい。あいつらだってバカじゃないから、終盤は修正してくるだろう。

何より、まだトライアングルZを出していないんだ。ゴッドハンドで止められるか、否か。



「てかさ、シュート打った後のあのポーズって必要なんなんだろうねわら」

「お前は黙ってろ」

「ギャアアアア!」



理不尽に投げ飛ばされました。酷くないですか。ドン引きされてるし。



「かなはあの必殺技を見たことがあるのか?」

「へえっ。あっ、えー……ネットで調べた」

「そうか」



あ、あっぶねええええ!!!危うくボロを出すところだったわ。豪炎寺さん何故そこに突っ込んできたんですか!



「豪炎寺も頑張れよ!応援してるから!」

「ああ」



……イケメンの微笑みが眩しいやばい。怖い。



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