第10話 かくされた力!
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「アクアストリーム!」
あたし以外誰もいない漫遊寺中のグラウンドのゴールに、シュートが突き刺さった。
さっきからずっとやってるから汗が凄い。夕飯前にせっかく近くの銭湯まで行ったのに、もうベタついている。
「タオル持ってくればよかった……」
「タオルなら俺の使う?」
「うわっ!」
横から突然差し出されたタオル。一体誰だとその持ち主を見たら、まさかのヒロト君だった。
「し、神出鬼没だねヒロト……」
「驚かせちゃった?」
「驚いた……。にしてもどうして京都に?雷門の試合を見に来たの?」
「そんなところかな。はい、ちゃんと汗拭かないと風邪引くよ」
「ありがとね」
タオルを受けとる。せっかくだし、ありがたく使わせてもらおう。あ、柔らかい。これいいタオルだ。
「洗って次会った時返すから」
「……今日の試合だけど、凄いね雷門は。何度叩きのめされても立ち上がるんだ」
「今回は負けちゃったけどね。でも次は絶対に勝ってみせる!」
「美波ちゃんは次は勝てるって信じてるんだね」
「そうじゃなきゃ勝てる試合も勝てなくなる!いつだって手抜き無しの本気!勝利を強く信じている者に、勝利の女神は微笑むんだから!」
「勝利の女神?」
「そう!負けも経験、無駄にはならない!この負けは次の勝利に繋がる!」
「……円堂くんも同じことを言ってたよ」
「え、守兄?会ったの?」
「さっき少しね。彼、面白いな。サッカーやろうって誘ってくれたよ」
「守兄らしいや。サッカーやったの?」
「いや、今日はそのつもりで来た訳じゃないから」
前みたく練習に誘ってみようかと思ったけど、ヒロト君は本当に雷門を見に来ただけらしい。……何の為に?イプシロンとの実力差を見る為?
遠回しに聞いてみても、雷門に興味があったからとまたかわされてしまう。前にも言ってたけど、興味っていうのは敵として……だよね。
ヒロト君は何を思って雷門に何に興味を持ったんだろう。雷門がエイリア学園に対抗してくる唯一のチームだから?それとも守兄?さっき話したらしいし。
考えても考えても当然答えは出ない。そんなあたしをよそに、ヒロト君は目を伏せて小さく頷いた。
「負けは無駄にならない、か。……やっぱりいいな、そういうの」
「うんうん!負けたからこそ、次は絶対に勝とうって、また頑張ろうって思える!」
「でもサッカーは勝者と敗者が必ず決まる。……結局は勝たなければ意味がないんだ」
「そうかな?確かに勝てたら嬉しいけど、サッカーはそれだけじゃないよ」
「なら負けたら?」
「負けたら悔しい。だから強くなりたいと思う!」
「そこで諦めないんだ」
「諦めないし折れないよ」
「それはサッカーが好きだから?」
言葉が詰まる。さっきからヒロト君の質問の意図が分からない。あたしはサッカーが好きだ。じゃあ、ヒロト君は?
「好きだから、頑張れるっていうのは、あると思うけど」
「好き、ね……。うん、それは俺も分かるかな」
あたしの好きとヒロトの好き。あたしはサッカーだけど……ヒロトは多分違う何かなんだろうな。
「強さ以上に価値のあるものがあるのかな」
「価値……かどうかは分からないけど、強さも楽しいって気持ちも両方大事じゃダメかな」
「両方?」
「うん。強くなって勝てれば楽しいし、楽しいからもっと強くなりたいって思う」
「強いが、楽しい?」
「好きなものが上手く出来るようになったら楽しいよ。達成感があるっていうか」
「……」
「あたしもさ、最初は勝ち負け関係なく自分の力を出し切れればいいって思ってた。でも好きなことで負けたらやっぱり悔しい。だから強くなりたい」
「そうか……。そういう考え方もあるんだね」
「……ヒロトは楽しくない?あんなにサッカー上手いのに」
「そんなの、考えたこと無かった」
ぽつりと呟いたヒロトは、どこか遠くを見つめていた。
……本当に、本当に考えたこと無いのかな。だって前は、上達する度に喜んでたのに。園に行く度に、また上手くなったよって教えてくれた。
まだ何も知らなかった頃、ただひたすらボールをを追いかけていた時間。あの頃は、ヒロトにとって何だった?
ヒロトは何を思ってサッカーしてたんだろう。瞳子監督のことといい、あたしはまだ大事なことを思い出しきれてないんだ。
「俺にとって強さは存在意義の証明だ。強くなければ必要とされない」
「そんなことないよ!」
「でも、サッカーだってそうだろう?試合に出られるのは強い選手だけ」
「そ、それはそうだけど、控えがいるから試合に出る選手も全力で戦えるんだよ!」
「……信じられるのは自分の力だけ。だから俺は……」
「ヒロト?」
「……いや。俺、もう行くから。じゃあね、美波ちゃん」
「またね、ヒロト」
「うん……また、ね」
そう言うと少しだけ笑って、ふらりとヒロトは行ってしまった。あたしはその後ろ姿が見えなくなるまで、じっと見ていた。
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あたし以外誰もいない漫遊寺中のグラウンドのゴールに、シュートが突き刺さった。
さっきからずっとやってるから汗が凄い。夕飯前にせっかく近くの銭湯まで行ったのに、もうベタついている。
「タオル持ってくればよかった……」
「タオルなら俺の使う?」
「うわっ!」
横から突然差し出されたタオル。一体誰だとその持ち主を見たら、まさかのヒロト君だった。
「し、神出鬼没だねヒロト……」
「驚かせちゃった?」
「驚いた……。にしてもどうして京都に?雷門の試合を見に来たの?」
「そんなところかな。はい、ちゃんと汗拭かないと風邪引くよ」
「ありがとね」
タオルを受けとる。せっかくだし、ありがたく使わせてもらおう。あ、柔らかい。これいいタオルだ。
「洗って次会った時返すから」
「……今日の試合だけど、凄いね雷門は。何度叩きのめされても立ち上がるんだ」
「今回は負けちゃったけどね。でも次は絶対に勝ってみせる!」
「美波ちゃんは次は勝てるって信じてるんだね」
「そうじゃなきゃ勝てる試合も勝てなくなる!いつだって手抜き無しの本気!勝利を強く信じている者に、勝利の女神は微笑むんだから!」
「勝利の女神?」
「そう!負けも経験、無駄にはならない!この負けは次の勝利に繋がる!」
「……円堂くんも同じことを言ってたよ」
「え、守兄?会ったの?」
「さっき少しね。彼、面白いな。サッカーやろうって誘ってくれたよ」
「守兄らしいや。サッカーやったの?」
「いや、今日はそのつもりで来た訳じゃないから」
前みたく練習に誘ってみようかと思ったけど、ヒロト君は本当に雷門を見に来ただけらしい。……何の為に?イプシロンとの実力差を見る為?
遠回しに聞いてみても、雷門に興味があったからとまたかわされてしまう。前にも言ってたけど、興味っていうのは敵として……だよね。
ヒロト君は何を思って雷門に何に興味を持ったんだろう。雷門がエイリア学園に対抗してくる唯一のチームだから?それとも守兄?さっき話したらしいし。
考えても考えても当然答えは出ない。そんなあたしをよそに、ヒロト君は目を伏せて小さく頷いた。
「負けは無駄にならない、か。……やっぱりいいな、そういうの」
「うんうん!負けたからこそ、次は絶対に勝とうって、また頑張ろうって思える!」
「でもサッカーは勝者と敗者が必ず決まる。……結局は勝たなければ意味がないんだ」
「そうかな?確かに勝てたら嬉しいけど、サッカーはそれだけじゃないよ」
「なら負けたら?」
「負けたら悔しい。だから強くなりたいと思う!」
「そこで諦めないんだ」
「諦めないし折れないよ」
「それはサッカーが好きだから?」
言葉が詰まる。さっきからヒロト君の質問の意図が分からない。あたしはサッカーが好きだ。じゃあ、ヒロト君は?
「好きだから、頑張れるっていうのは、あると思うけど」
「好き、ね……。うん、それは俺も分かるかな」
あたしの好きとヒロトの好き。あたしはサッカーだけど……ヒロトは多分違う何かなんだろうな。
「強さ以上に価値のあるものがあるのかな」
「価値……かどうかは分からないけど、強さも楽しいって気持ちも両方大事じゃダメかな」
「両方?」
「うん。強くなって勝てれば楽しいし、楽しいからもっと強くなりたいって思う」
「強いが、楽しい?」
「好きなものが上手く出来るようになったら楽しいよ。達成感があるっていうか」
「……」
「あたしもさ、最初は勝ち負け関係なく自分の力を出し切れればいいって思ってた。でも好きなことで負けたらやっぱり悔しい。だから強くなりたい」
「そうか……。そういう考え方もあるんだね」
「……ヒロトは楽しくない?あんなにサッカー上手いのに」
「そんなの、考えたこと無かった」
ぽつりと呟いたヒロトは、どこか遠くを見つめていた。
……本当に、本当に考えたこと無いのかな。だって前は、上達する度に喜んでたのに。園に行く度に、また上手くなったよって教えてくれた。
まだ何も知らなかった頃、ただひたすらボールをを追いかけていた時間。あの頃は、ヒロトにとって何だった?
ヒロトは何を思ってサッカーしてたんだろう。瞳子監督のことといい、あたしはまだ大事なことを思い出しきれてないんだ。
「俺にとって強さは存在意義の証明だ。強くなければ必要とされない」
「そんなことないよ!」
「でも、サッカーだってそうだろう?試合に出られるのは強い選手だけ」
「そ、それはそうだけど、控えがいるから試合に出る選手も全力で戦えるんだよ!」
「……信じられるのは自分の力だけ。だから俺は……」
「ヒロト?」
「……いや。俺、もう行くから。じゃあね、美波ちゃん」
「またね、ヒロト」
「うん……また、ね」
そう言うと少しだけ笑って、ふらりとヒロトは行ってしまった。あたしはその後ろ姿が見えなくなるまで、じっと見ていた。
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