第20話 キャプテンの試練!
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置手紙を残して、栗松がキャラバンを降りた。歪んだ文字、涙の跡、先の見えない戦いへの不安。多分居合わせたとしても、一郎太と同じく引き留めるのは無理だったと思う。
ただでさえ重い空気は更に暗くなって、守兄の表情もどんどん沈んでいく。それを見かねたのか、瞳子監督はとんでもないことを告げた。
円堂くんをメンバーから外します。流石に、何でですかと問い詰めたくなった。守兄の不在でチームはガタガタなのに、本当にいなくなったら、それこそチームが持たない。
……サッカーへの意欲を無くした人を引き止めるつもりはない。今の守兄のままでは、戦力にならない判断をされるのも仕方ないのかもしれない。
淡々とした表情の裏に、瞳子監督の確かな焦りを感じた。ジェネシスという最強のチームが出てきたんだから、いつまでもここに留まり続けてはいられないのも、急ぎたいのも分かるけど。
分かる、けど……監督にしても、一郎太にしても、分かるだけで事が大きすぎてどうしようもないことばっかりだ。あちらを立てればこちらが立たない。
「鬼道くん、貴方に新キャプテンをお願いするわ。よろしく」
「……お断りします。俺達のキャプテンは、円堂だけです!あいつは必ず立ち上がります。それが円堂守だからです!」
鬼道の言葉に、皆も頷く。あたしもだった。雷門に守兄以外のキャプテンなんて、考えられない。
「明日、ここを出発するわ。誰もついてこないなら、新たなメンバーを探すだけよ。私はエイリア学園を倒さなければならないの」
そう言って足早に立ち去った監督を追いかける。きっと鬼道は、明日までにどう守兄を立ち直らせるか考えてるだろうけど、鬼道なら大丈夫だろうから、それは任せてあたしは監督だ。
「瞳子監督!」
「……美波さん」
「さっきの、本当ですか」
「ええ。ここでいつまでも立ち止まっている訳にはいかないわ。吹雪くんも、明日には退院出来るそうだから」
「それは良かった!……じゃなくて」
「前にも言ったけど、これ以上の無理を強いるつもりはないわ」
「あたしも前にも言いましたけど!あたしは、皆を助けたい。だからエイリア学園を倒すまで、監督について行きます!」
「円堂くんを、お兄さんを置いていくことになったとしても?」
「はい。というか、そうはならないと思うので!守なら大丈夫です!」
「信じているのね、円堂くんを」
「信じてるっていうか、兄妹なんで!心の底からサッカーが嫌になった訳でもないし」
「兄妹だから、か……」
あたしをじっと見つめる監督が、眉を下げた。寂しそうな、何かを思い出してるような、あたしを見てないような?
「……美波さんがキャプテンのチームも、少し面白そうね」
「えっ」
反応が遅れて固まってるうちに、監督は笑みを消すと踵を返して行ってしまった。校門へ向かったから病院に行くのかな。というか、え、監督冗談言った!?
キャプテン……あたしが?雷門に入学して以来キャプテンは守兄だったから、考えたこともなかった。……女子サッカー部を作るのも考えなかったし。
「………」
とにもかくにも守兄だ。グラウンドへ戻ると、立向居が来ていた。
「こんにちは!美波さん!」
「よっ、立向居。立向居も特訓?」
「立向居に円堂を奮い立たせるのを、手伝ってもらうことにしたんだ」
「マジン・ザ・ハンドを完成させてな」
「そっか……。頼むよ、立向居!」
「はい!」
元気よく返事をした立向居がゴール前へ駆けて行く。形はほぼ出来ているから、ひたすらにシュートを撃ってそれを止める特訓。シンプルだけど、効果的だ。
「美波」
「どしたの鬼道」
「監督とは何を話していたんだ?」
「……えーっと」
「監督についていく、か」
「なっ、何で」
「勘だ」
フッと笑う鬼道に驚くあたし。鬼道でも勘でものを言ったりするんだ……。
「で、でも!……ついていくって言っても、最後まで瞳子監督が率いる雷門で戦いたい。それに、守兄も大丈夫だと思うから」
「一応聞いておくが、根拠は?」
「勘!」
「そうか。お前が言うなら、そうなんだろう」
やるぞ。マントを翻してグラウンドへ向かう鬼道を追った。
「アクアストリーム!」
「マジン・ザ・ハンド!ぐあっ!はあ…はあ…」
何度も何度も、完成するまで繰り返す。かなり長いこと練習していて、交代でシュートを撃つあたし達はまだいいけど、立向居は相当キツそうだ。
「大丈夫?少し休憩しよっか」
「いえ、まだ……まだやれます!諦めない…!」
何だろう。
「絶対に……絶対に諦めない!諦めるもんか!」
立向居を見てると、日本一を目指していた頃の守兄を思い出すな。
「「ツインブースト!」」
「マジン・ザ・ハンド!」
突き出された手の中でギュルギュルとボールが回転する。けれど押し切られることなく、その手にシュートは収まった。完成したんだ!
「出来、た……。お、俺……!やったあああ!出来ましたよ!円堂さん!」
「やったね!完璧なマジン・ザ・ハンドだよ!」
「ありがとうございます、美波さん!皆さんも、ありがとうございました!」
立向居が見せてくれた。思い出させてくれた。がむしゃらに走っていたあの頃を。屋上を見上げれば、守兄と目が合った。表情は見えないけど、いつもみたくニカッと笑ってる気がした。
フェンス越しの守兄が引っ込む。暫くして校舎から飛び出してきた守兄が、グラウンドまで走ってきた。
「皆、迷惑かけてすまなかった。俺、もう迷わない!」
「雷門のキャプテンはお前しかいない!」
「キャプテンの復活だね!お帰り、守兄!」
「ああ!ただいま、美波!……すみませんでした監督。もう一度、よろしくお願いします!」
「これから先も、チームに必要ないと思ったら、容赦なくメンバーから外すわ」
「わかりました!」
守兄が復帰してホッとしたところで、なんと立向居が一緒に戦いたいと申し出てくれた。
マジン・ザ・ハンドが出来るようになったら、言おうと思っていたらしい。もちろん大歓迎!監督も二つ返事で了承してくれて、雰囲気が一気に明るくなる。
「一緒に頑張ろうぜ!立向居!」
「はい!頑張ります!」
「俺はもっと頑張るぜ!」
「だったら、もっともっと頑張ります!」
「だったら、もっともっともっとだ!」
「じゃああたしは、もっともっと……」
「もういいよキリないから」
夕弥に遮られてしまった。まあ、いっか。頑張ろうって気持ちは皆同じだ。
「よーし練習だ!」
『おう!』
守兄が声をかける。うん、やっぱり雷門はこうでなくっちゃね!
***
次の日、しろ君が退院した。
「もう、大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。皆には心配かけちゃったね」
「そっか……。じゃあ、これからも頑張ろうな!」
「うん」
「……あれ?」
「どうしたの?美波ちゃん」
「あ、いや、何でもない」
今、しろ君の雰囲気が、一瞬だけ変わったような……?
悩んでいると、瞳子監督の携帯が鳴った。電話の相手は響木監督で、沖縄に“炎のストライカー”と呼ばれる人がいるという情報を伝えてくれた。
ストライカーに炎とくれば、このチームにとって思い浮かぶのはただ一人、あいつだけ。
「炎の……まさか!豪炎寺!?」
「行こう!」
「よーし、待ってろ沖縄!豪炎寺!」
豪炎寺とは奈良で別れたきりで、連絡も取ってない。元気にしてるかなあ……。
「ふーん、豪炎寺くんかあ……」
「気になる?」
「うん。美波ちゃんにとって、豪炎寺くんってどんな人?」
「どんなって……憧れ、かなあ。凄いシュート撃ってさ、何度あの背中に勇気づけられたか!豪炎寺みたいなシュートを撃てるようになりたいよ」
「……そうなんだ」
あれ、また。目の前にいるのはしろ君の筈なのに。試合中って訳でもないのに、アツヤに見える。
「美波!沖縄だ!豪炎寺だ!」
「……うん!出発だ!」
……とにかく、待ってろよ、豪炎寺!
→あとがき
ただでさえ重い空気は更に暗くなって、守兄の表情もどんどん沈んでいく。それを見かねたのか、瞳子監督はとんでもないことを告げた。
円堂くんをメンバーから外します。流石に、何でですかと問い詰めたくなった。守兄の不在でチームはガタガタなのに、本当にいなくなったら、それこそチームが持たない。
……サッカーへの意欲を無くした人を引き止めるつもりはない。今の守兄のままでは、戦力にならない判断をされるのも仕方ないのかもしれない。
淡々とした表情の裏に、瞳子監督の確かな焦りを感じた。ジェネシスという最強のチームが出てきたんだから、いつまでもここに留まり続けてはいられないのも、急ぎたいのも分かるけど。
分かる、けど……監督にしても、一郎太にしても、分かるだけで事が大きすぎてどうしようもないことばっかりだ。あちらを立てればこちらが立たない。
「鬼道くん、貴方に新キャプテンをお願いするわ。よろしく」
「……お断りします。俺達のキャプテンは、円堂だけです!あいつは必ず立ち上がります。それが円堂守だからです!」
鬼道の言葉に、皆も頷く。あたしもだった。雷門に守兄以外のキャプテンなんて、考えられない。
「明日、ここを出発するわ。誰もついてこないなら、新たなメンバーを探すだけよ。私はエイリア学園を倒さなければならないの」
そう言って足早に立ち去った監督を追いかける。きっと鬼道は、明日までにどう守兄を立ち直らせるか考えてるだろうけど、鬼道なら大丈夫だろうから、それは任せてあたしは監督だ。
「瞳子監督!」
「……美波さん」
「さっきの、本当ですか」
「ええ。ここでいつまでも立ち止まっている訳にはいかないわ。吹雪くんも、明日には退院出来るそうだから」
「それは良かった!……じゃなくて」
「前にも言ったけど、これ以上の無理を強いるつもりはないわ」
「あたしも前にも言いましたけど!あたしは、皆を助けたい。だからエイリア学園を倒すまで、監督について行きます!」
「円堂くんを、お兄さんを置いていくことになったとしても?」
「はい。というか、そうはならないと思うので!守なら大丈夫です!」
「信じているのね、円堂くんを」
「信じてるっていうか、兄妹なんで!心の底からサッカーが嫌になった訳でもないし」
「兄妹だから、か……」
あたしをじっと見つめる監督が、眉を下げた。寂しそうな、何かを思い出してるような、あたしを見てないような?
「……美波さんがキャプテンのチームも、少し面白そうね」
「えっ」
反応が遅れて固まってるうちに、監督は笑みを消すと踵を返して行ってしまった。校門へ向かったから病院に行くのかな。というか、え、監督冗談言った!?
キャプテン……あたしが?雷門に入学して以来キャプテンは守兄だったから、考えたこともなかった。……女子サッカー部を作るのも考えなかったし。
「………」
とにもかくにも守兄だ。グラウンドへ戻ると、立向居が来ていた。
「こんにちは!美波さん!」
「よっ、立向居。立向居も特訓?」
「立向居に円堂を奮い立たせるのを、手伝ってもらうことにしたんだ」
「マジン・ザ・ハンドを完成させてな」
「そっか……。頼むよ、立向居!」
「はい!」
元気よく返事をした立向居がゴール前へ駆けて行く。形はほぼ出来ているから、ひたすらにシュートを撃ってそれを止める特訓。シンプルだけど、効果的だ。
「美波」
「どしたの鬼道」
「監督とは何を話していたんだ?」
「……えーっと」
「監督についていく、か」
「なっ、何で」
「勘だ」
フッと笑う鬼道に驚くあたし。鬼道でも勘でものを言ったりするんだ……。
「で、でも!……ついていくって言っても、最後まで瞳子監督が率いる雷門で戦いたい。それに、守兄も大丈夫だと思うから」
「一応聞いておくが、根拠は?」
「勘!」
「そうか。お前が言うなら、そうなんだろう」
やるぞ。マントを翻してグラウンドへ向かう鬼道を追った。
「アクアストリーム!」
「マジン・ザ・ハンド!ぐあっ!はあ…はあ…」
何度も何度も、完成するまで繰り返す。かなり長いこと練習していて、交代でシュートを撃つあたし達はまだいいけど、立向居は相当キツそうだ。
「大丈夫?少し休憩しよっか」
「いえ、まだ……まだやれます!諦めない…!」
何だろう。
「絶対に……絶対に諦めない!諦めるもんか!」
立向居を見てると、日本一を目指していた頃の守兄を思い出すな。
「「ツインブースト!」」
「マジン・ザ・ハンド!」
突き出された手の中でギュルギュルとボールが回転する。けれど押し切られることなく、その手にシュートは収まった。完成したんだ!
「出来、た……。お、俺……!やったあああ!出来ましたよ!円堂さん!」
「やったね!完璧なマジン・ザ・ハンドだよ!」
「ありがとうございます、美波さん!皆さんも、ありがとうございました!」
立向居が見せてくれた。思い出させてくれた。がむしゃらに走っていたあの頃を。屋上を見上げれば、守兄と目が合った。表情は見えないけど、いつもみたくニカッと笑ってる気がした。
フェンス越しの守兄が引っ込む。暫くして校舎から飛び出してきた守兄が、グラウンドまで走ってきた。
「皆、迷惑かけてすまなかった。俺、もう迷わない!」
「雷門のキャプテンはお前しかいない!」
「キャプテンの復活だね!お帰り、守兄!」
「ああ!ただいま、美波!……すみませんでした監督。もう一度、よろしくお願いします!」
「これから先も、チームに必要ないと思ったら、容赦なくメンバーから外すわ」
「わかりました!」
守兄が復帰してホッとしたところで、なんと立向居が一緒に戦いたいと申し出てくれた。
マジン・ザ・ハンドが出来るようになったら、言おうと思っていたらしい。もちろん大歓迎!監督も二つ返事で了承してくれて、雰囲気が一気に明るくなる。
「一緒に頑張ろうぜ!立向居!」
「はい!頑張ります!」
「俺はもっと頑張るぜ!」
「だったら、もっともっと頑張ります!」
「だったら、もっともっともっとだ!」
「じゃああたしは、もっともっと……」
「もういいよキリないから」
夕弥に遮られてしまった。まあ、いっか。頑張ろうって気持ちは皆同じだ。
「よーし練習だ!」
『おう!』
守兄が声をかける。うん、やっぱり雷門はこうでなくっちゃね!
***
次の日、しろ君が退院した。
「もう、大丈夫なのか?」
「大丈夫さ。皆には心配かけちゃったね」
「そっか……。じゃあ、これからも頑張ろうな!」
「うん」
「……あれ?」
「どうしたの?美波ちゃん」
「あ、いや、何でもない」
今、しろ君の雰囲気が、一瞬だけ変わったような……?
悩んでいると、瞳子監督の携帯が鳴った。電話の相手は響木監督で、沖縄に“炎のストライカー”と呼ばれる人がいるという情報を伝えてくれた。
ストライカーに炎とくれば、このチームにとって思い浮かぶのはただ一人、あいつだけ。
「炎の……まさか!豪炎寺!?」
「行こう!」
「よーし、待ってろ沖縄!豪炎寺!」
豪炎寺とは奈良で別れたきりで、連絡も取ってない。元気にしてるかなあ……。
「ふーん、豪炎寺くんかあ……」
「気になる?」
「うん。美波ちゃんにとって、豪炎寺くんってどんな人?」
「どんなって……憧れ、かなあ。凄いシュート撃ってさ、何度あの背中に勇気づけられたか!豪炎寺みたいなシュートを撃てるようになりたいよ」
「……そうなんだ」
あれ、また。目の前にいるのはしろ君の筈なのに。試合中って訳でもないのに、アツヤに見える。
「美波!沖縄だ!豪炎寺だ!」
「……うん!出発だ!」
……とにかく、待ってろよ、豪炎寺!
→あとがき