第20話 キャプテンの試練!
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次の日もグラウンドに守兄はいない。昨日からずっと屋上にいて、食事も殆ど食べてない。ここまで弱りきった守兄は初めてだ。
やってきた立向居が言うには、一緒に新しい必殺技の練習をしようって約束してたらしい。……守兄がサッカーでの約束を破るなんて。
「じゃあ伝言お願いします。円堂さんが究極奥義正義の鉄拳を身に付ける前に、俺がマジン・ザ・ハンドを完成させます!負けませんよ!以上です!」
「わかったわ」
「失礼します!」
立向居は一礼すると、走って行った。あの熱意なら、マジン・ザ・ハンドを完成させるのもそう遠くないかも。なんだか守兄にちょっと似てる。
……いつもなら、立向居の言葉で奮い立つんだけどな。今の守兄には何を言っても届かない気がする。
「練習したい……」
「まだ駄目よ」
すかさず釘を刺してくるなっちゃんには頭が下がる。明日からは軽い運動の許可が出てるからもう少しの辛抱だけど、こうも動かせないとどうしても焦る。
一日の休みを取り戻すには三日かかると聞いたことがある。ジェネシスの圧倒的な強さを思えば、一分一秒が惜しい。
……エイリア石なんてのがあるとはいえ、ヒロト君達は、あれだけの強さを身に付ける為に、どれ程の練習を重ねたんだろう。
練習が終わって日も落ちかけな頃、迷ったけどしろ君のお見舞いに行くことにした。秋と春ちゃんに声をかけて校門を出ると、丁度ばったりとなっちゃんと会った。
「あ、なっちゃん。どこ行ってたの?」
「病院よ。監督と少しね」
「監督と何話したの?」
「別に、何だっていいでしょう」
「それはそうだけど。でも気になる!」
「前から思っていたけど、美波は監督に随分懐いてるわね」
「だってほら、いつも勝つ為に沢山考えてくれてるし」
瞳子監督に肩入れしてる自覚はある。皆にとっては監督だけど、あたしにとってはヒロト君達のお姉さんで、吉良さんの娘でもあるからだ。
「……監督は監督でいて下さい。そう言ったのよ」
「なっちゃん……!」
「な、何よ。確かに酷なことを言ったかもしれないけど、ここで監督まで折れてしまったらそれこそ困るわ」
「……酷って?」
「……分かってないならそれらしい反応をしないでちょうだい。……はあ。選手が怪我をして、離脱者も出て、監督だけが平気な筈ないでしょう」
「!」
「でも、監督の使命はエイリア学園を倒すこと。私達もその為にこの戦いを続けてる。チームの指針として在り続けてもらわないと」
そこまで言ってもらえるとは思ってなかった。そういえば、なっちゃんは生徒会長に理事長代理までしいる。だからそういうことも分かるのかな。
「なっちゃんって、旅の間の生徒会長の仕事してるんだっけ」
「ええ。こういう時こそ皆を纏めないと。……そうね、だからかもしれないわね。弱さを見せる訳にはいかないのは、分かるから」
「皆、抱え込んで溜め込んでることも沢山あるからさ、自分のことだけでも大変だと思う。だから監督のことも気にしてくれてありがとうね」
「……私が監督を信じたかっただけよ、円堂くんが言っていたように。それより、美波は大丈夫なの?」
「あたしは大丈夫!怪我はしょうがないし。治ったらエイリア学園を倒す為にまた頑張るよ!」
「本当に?」
「本当だって!じゃあしろ君のお見舞い行ってくるから!」
ここでなっちゃんと話続けたら駄目な気がして、制止を振り切って走り出す。あたし、エイリア学園からは逃げたくないけど、皆からは逃げてばかりだな。
病院に着く頃には日は完全に暮れていた。しくったな。でも面会時間にはまだ間に合う。夕飯には遅れそうだからメールを送っておく。
届出書を書いた向かったしろ君の病室には、誰もいなかった。あれ?部屋あってるよね?どこかに行ってるのかな。目を覚ましたなら良かったけど。
「美波ちゃん」
「うわあ!?し、しろ君。起きたんだね」
「うん。ちょっと、気分転換に。待たせちゃったかな」
「今来たとこだから大丈夫!」
ベッドに腰かけたしろ君と向かい合うように椅子に座る。……来たはいいけど話すことを考えて来た訳でもないから何を話せばいいか分からない。
暫く沈黙した後、しろ君は「皆はどうしてる?」と訊ねてきた。お見舞いに来たのに気を遣わせてどうするんだ。
「守兄とあたし以外は練習してるよ。あたしは明日から練習復帰」
「……足の怪我は僕のせいだね。ごめん。キャプテンは?」
「あー、えっと」
「何かあった?」
「一郎太が、キャラバン降りて、それで……休んでる」
そっか。小さく呟いて、しろ君は俯いた。自分のせいだと思ってるのかもしれない。そんなこと無いのに。
「でもほら、えっと、旅に出てからずっと張り詰めてたからからさ。今は充電期間っていうか。しろ君もそう。大丈夫、皆で待ってる!」
「……監督も来てくれたんだ。僕は眠っていたけれど、なんとなく覚えてる。倒れてしまった僕に、使い続けると言ってくれた」
「監督が……」
「僕を必要としてくれるチームの為に、僕も戦う。僕は、雷門のエースストライカーだから」
顔を上げたしろ君は笑っていた。良かった、守兄みたいな落ち込み方はしてないみたいだ。
「(……あれ?)」
あたしを真っ直ぐ見る目は爛々と輝いている。しろ君の目って、こんなにギラギラしてたっけ。これは、しろ君じゃなくて。
「美波ちゃん」
「な、何かな」
「一つだけ、いい?」
「うん……わっ」
伸ばされた手に引き寄せられて、しろ君に抱き締められる。驚いたけどその体が少し震えているのを感じて、しろ君の気が済むまで、あたしはそのままでいた。
やっぱり帰りは遅くなって、結局なっちゃんには怒られた。
こういう時に守兄や一郎太が一緒になって怒ったり、庇ったりしてくれたのが無いのが、寂しかった。
***
今日も守兄はいない。昨日秋となっちゃんが様子を見に行った時も反応はよくなかったらしい。守兄と話すこともない日が続くの、初めてだ。
練習もパスミスしたりぼーっとしてたり、誰もが集中出来てない。特に守備はミスが多い気がする。……多分、纏め役だった一郎太がいなくなったから。
「いつもと同じように、自分が決めたメニューをこなすんだ!」
鬼道が声をかけてるけど、皆の表情は暗いまま。守兄と一郎太の存在の大きさを、改めて思い知る。
休憩にしよう。鬼道がそう言い出すまでに、そう時間はかからなかった。大して動いてないのに体が重く感じるのは、気持ちの問題かな……。
「美波ちゃん?」
「えっ、あ、どしたの秋?」
ベンチに座って休んでたら、秋に肩を揺さぶられた。さっきから話しかけられてたのに全然気付いてなかった。
なっちゃんや春ちゃんが見守る中で、円堂くんのことなんだけどと秋が切り出す。サッカーと向き合えなくなった、守兄。
「これまでもサッカーのことはサッカーで解決してきた。なのに、今の円堂くんは、円堂くんじゃない気がして……」
「……守兄も落ち込むことくらいあるよ。今回だって、サッカーのことであるけど、それに世界の命運がかかってるなんて重すぎるよ」
「確かに、この戦いはエイリア学園がサッカーを手段として使ってきたから、というところはあるわね」
「ずっと戦い続きですからね。強くなるって言っても、それはエイリア学園を倒す為で……風丸さんも疲れちゃったのかな……」
「強くなるのが楽しい以上に義務のように感じてしまったのかもしれない、ということかしら」
「まあ……そうだね。全部サッカーで解決出来るって訳でもないし。それにさ、分かる気がするんだ。サッカーで出来た友達が、いなくなってしまって悲しい気持ち」
「それって、真・帝国の……不動くんのこと?」
「えっ!?」
思いもよらない名前が出てきてひっくり返りかけた。まさかの明王ちゃん。あんな再会と別れだったから、秋はそう思い当たったらしい。
思えば秋も、土門に一之瀬、木戸川の西垣と、サッカーを通して幼馴染みとの再会があった訳だし。……明王ちゃんか。そうだ。あたしは、ヒロト達に明王ちゃんと、立て続けに友達を失った。
明王ちゃんと出会ったのはお日さま園へ行かなくなってからだ。仕方ないんだって思おうとしても、寂しいのは紛らわせない。そんな時のことだった。
空いた穴を埋めるように一方的に話しかけて。その明王ちゃんもある日を境にいなくなった。やっと仲良くなれそうな矢先だったから、流石に落ち込んだっけ。
「なんというか、今回の美波先輩って達観?してますよね」
「……そうかなあ」
皆と見ているものが違う。一郎太の異変に気づけなかったのも、しろ君に何も出来なかったのも、当然だったのかもしれない。
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やってきた立向居が言うには、一緒に新しい必殺技の練習をしようって約束してたらしい。……守兄がサッカーでの約束を破るなんて。
「じゃあ伝言お願いします。円堂さんが究極奥義正義の鉄拳を身に付ける前に、俺がマジン・ザ・ハンドを完成させます!負けませんよ!以上です!」
「わかったわ」
「失礼します!」
立向居は一礼すると、走って行った。あの熱意なら、マジン・ザ・ハンドを完成させるのもそう遠くないかも。なんだか守兄にちょっと似てる。
……いつもなら、立向居の言葉で奮い立つんだけどな。今の守兄には何を言っても届かない気がする。
「練習したい……」
「まだ駄目よ」
すかさず釘を刺してくるなっちゃんには頭が下がる。明日からは軽い運動の許可が出てるからもう少しの辛抱だけど、こうも動かせないとどうしても焦る。
一日の休みを取り戻すには三日かかると聞いたことがある。ジェネシスの圧倒的な強さを思えば、一分一秒が惜しい。
……エイリア石なんてのがあるとはいえ、ヒロト君達は、あれだけの強さを身に付ける為に、どれ程の練習を重ねたんだろう。
練習が終わって日も落ちかけな頃、迷ったけどしろ君のお見舞いに行くことにした。秋と春ちゃんに声をかけて校門を出ると、丁度ばったりとなっちゃんと会った。
「あ、なっちゃん。どこ行ってたの?」
「病院よ。監督と少しね」
「監督と何話したの?」
「別に、何だっていいでしょう」
「それはそうだけど。でも気になる!」
「前から思っていたけど、美波は監督に随分懐いてるわね」
「だってほら、いつも勝つ為に沢山考えてくれてるし」
瞳子監督に肩入れしてる自覚はある。皆にとっては監督だけど、あたしにとってはヒロト君達のお姉さんで、吉良さんの娘でもあるからだ。
「……監督は監督でいて下さい。そう言ったのよ」
「なっちゃん……!」
「な、何よ。確かに酷なことを言ったかもしれないけど、ここで監督まで折れてしまったらそれこそ困るわ」
「……酷って?」
「……分かってないならそれらしい反応をしないでちょうだい。……はあ。選手が怪我をして、離脱者も出て、監督だけが平気な筈ないでしょう」
「!」
「でも、監督の使命はエイリア学園を倒すこと。私達もその為にこの戦いを続けてる。チームの指針として在り続けてもらわないと」
そこまで言ってもらえるとは思ってなかった。そういえば、なっちゃんは生徒会長に理事長代理までしいる。だからそういうことも分かるのかな。
「なっちゃんって、旅の間の生徒会長の仕事してるんだっけ」
「ええ。こういう時こそ皆を纏めないと。……そうね、だからかもしれないわね。弱さを見せる訳にはいかないのは、分かるから」
「皆、抱え込んで溜め込んでることも沢山あるからさ、自分のことだけでも大変だと思う。だから監督のことも気にしてくれてありがとうね」
「……私が監督を信じたかっただけよ、円堂くんが言っていたように。それより、美波は大丈夫なの?」
「あたしは大丈夫!怪我はしょうがないし。治ったらエイリア学園を倒す為にまた頑張るよ!」
「本当に?」
「本当だって!じゃあしろ君のお見舞い行ってくるから!」
ここでなっちゃんと話続けたら駄目な気がして、制止を振り切って走り出す。あたし、エイリア学園からは逃げたくないけど、皆からは逃げてばかりだな。
病院に着く頃には日は完全に暮れていた。しくったな。でも面会時間にはまだ間に合う。夕飯には遅れそうだからメールを送っておく。
届出書を書いた向かったしろ君の病室には、誰もいなかった。あれ?部屋あってるよね?どこかに行ってるのかな。目を覚ましたなら良かったけど。
「美波ちゃん」
「うわあ!?し、しろ君。起きたんだね」
「うん。ちょっと、気分転換に。待たせちゃったかな」
「今来たとこだから大丈夫!」
ベッドに腰かけたしろ君と向かい合うように椅子に座る。……来たはいいけど話すことを考えて来た訳でもないから何を話せばいいか分からない。
暫く沈黙した後、しろ君は「皆はどうしてる?」と訊ねてきた。お見舞いに来たのに気を遣わせてどうするんだ。
「守兄とあたし以外は練習してるよ。あたしは明日から練習復帰」
「……足の怪我は僕のせいだね。ごめん。キャプテンは?」
「あー、えっと」
「何かあった?」
「一郎太が、キャラバン降りて、それで……休んでる」
そっか。小さく呟いて、しろ君は俯いた。自分のせいだと思ってるのかもしれない。そんなこと無いのに。
「でもほら、えっと、旅に出てからずっと張り詰めてたからからさ。今は充電期間っていうか。しろ君もそう。大丈夫、皆で待ってる!」
「……監督も来てくれたんだ。僕は眠っていたけれど、なんとなく覚えてる。倒れてしまった僕に、使い続けると言ってくれた」
「監督が……」
「僕を必要としてくれるチームの為に、僕も戦う。僕は、雷門のエースストライカーだから」
顔を上げたしろ君は笑っていた。良かった、守兄みたいな落ち込み方はしてないみたいだ。
「(……あれ?)」
あたしを真っ直ぐ見る目は爛々と輝いている。しろ君の目って、こんなにギラギラしてたっけ。これは、しろ君じゃなくて。
「美波ちゃん」
「な、何かな」
「一つだけ、いい?」
「うん……わっ」
伸ばされた手に引き寄せられて、しろ君に抱き締められる。驚いたけどその体が少し震えているのを感じて、しろ君の気が済むまで、あたしはそのままでいた。
やっぱり帰りは遅くなって、結局なっちゃんには怒られた。
こういう時に守兄や一郎太が一緒になって怒ったり、庇ったりしてくれたのが無いのが、寂しかった。
***
今日も守兄はいない。昨日秋となっちゃんが様子を見に行った時も反応はよくなかったらしい。守兄と話すこともない日が続くの、初めてだ。
練習もパスミスしたりぼーっとしてたり、誰もが集中出来てない。特に守備はミスが多い気がする。……多分、纏め役だった一郎太がいなくなったから。
「いつもと同じように、自分が決めたメニューをこなすんだ!」
鬼道が声をかけてるけど、皆の表情は暗いまま。守兄と一郎太の存在の大きさを、改めて思い知る。
休憩にしよう。鬼道がそう言い出すまでに、そう時間はかからなかった。大して動いてないのに体が重く感じるのは、気持ちの問題かな……。
「美波ちゃん?」
「えっ、あ、どしたの秋?」
ベンチに座って休んでたら、秋に肩を揺さぶられた。さっきから話しかけられてたのに全然気付いてなかった。
なっちゃんや春ちゃんが見守る中で、円堂くんのことなんだけどと秋が切り出す。サッカーと向き合えなくなった、守兄。
「これまでもサッカーのことはサッカーで解決してきた。なのに、今の円堂くんは、円堂くんじゃない気がして……」
「……守兄も落ち込むことくらいあるよ。今回だって、サッカーのことであるけど、それに世界の命運がかかってるなんて重すぎるよ」
「確かに、この戦いはエイリア学園がサッカーを手段として使ってきたから、というところはあるわね」
「ずっと戦い続きですからね。強くなるって言っても、それはエイリア学園を倒す為で……風丸さんも疲れちゃったのかな……」
「強くなるのが楽しい以上に義務のように感じてしまったのかもしれない、ということかしら」
「まあ……そうだね。全部サッカーで解決出来るって訳でもないし。それにさ、分かる気がするんだ。サッカーで出来た友達が、いなくなってしまって悲しい気持ち」
「それって、真・帝国の……不動くんのこと?」
「えっ!?」
思いもよらない名前が出てきてひっくり返りかけた。まさかの明王ちゃん。あんな再会と別れだったから、秋はそう思い当たったらしい。
思えば秋も、土門に一之瀬、木戸川の西垣と、サッカーを通して幼馴染みとの再会があった訳だし。……明王ちゃんか。そうだ。あたしは、ヒロト達に明王ちゃんと、立て続けに友達を失った。
明王ちゃんと出会ったのはお日さま園へ行かなくなってからだ。仕方ないんだって思おうとしても、寂しいのは紛らわせない。そんな時のことだった。
空いた穴を埋めるように一方的に話しかけて。その明王ちゃんもある日を境にいなくなった。やっと仲良くなれそうな矢先だったから、流石に落ち込んだっけ。
「なんというか、今回の美波先輩って達観?してますよね」
「……そうかなあ」
皆と見ているものが違う。一郎太の異変に気づけなかったのも、しろ君に何も出来なかったのも、当然だったのかもしれない。
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