第20話 キャプテンの試練!
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早くに目が覚めた。まだ秋達も寝ているから二度寝しようとしても、目が冴えてしまって寝られそうにない。
仕方ないから皆を起こさないようにテントを出る。早朝の陽花戸中は静かだ。あたし一人かと思ってたら、既に瞳子監督が起きていた。
キャラバンにもたれかかる監督に近づくと、ゆっくりとこちらを向く。顔色がよくなくて、あまり眠れてないんだと思った。
「おはようございます、瞳子監督」
「……おはよう、円堂さん」
「いい天気ですね」
「そうね……」
「一郎太は」
「少し前に立ったわ」
「そうですか。あの、大丈夫ですか。顔色悪いですよ」
「ええ」
会話が続かない!……昨日の今日だ。大丈夫な訳ない。監督だって落ち込んでるに決まってる。二人きりで話すチャンスなんだから、何かこう、もっとないかな!?
「……円堂さんは」
「え?」
「責めないのね」
何をとは聞けなかった。しろ君の事、一郎太の事。皆が責める以上に監督は自分を責めているのに、そんなこと出来ない。
「……一郎太が決めた事なんで。守兄でも止められなかったんですから。しろ君のことだって、あたしは監督と同じ側です」
「無理を強いるつもりはないわ」
「監督!」
「この戦いが彼らにとってどれ程の負担になっているか。それでも、私はエイリア学園を倒さなくてはならない。父を止め、子供達を助ける為に。……手段は選ばない」
それは、選ばないんじゃなくて、選べないんじゃないか。
財前総理の誘拐に襲撃予告。雷門中を筆頭に全国各地の学校が破壊されて、怪我人も出てるんだ。……選べる段階なんて、とっくに過ぎてる。
話し合いで済むのなら。けれどこれまでに目にした彼らの覚悟を思えば、それは無理だと嫌でも思い知らされる。少なくとも、今はまだ。
結局、何をするにしても、まずサッカーで勝つしかないんだ。
「……時間がない。ガイアがジェネシスに選ばれたなんて」
「ガイアって何ですか?」
俯いていた監督がハッと顔を上げた。かと思えば開きかけた口を閉じる。暫く待っていれば、あたしが引くつもりが無いのが分かったのか、躊躇いがちに話し出した。
「ガイアはヒロトのチームよ。ジェネシスは、エイリア学園最強のチームに与えられる称号なの」
「称号……」
ということは、ヒロト君達がエイリア学園で一番強いのか。ジェミニストームがセカンドでイプシロンがファーストだから、多分その上のランク。
風介やまだ会ってない晴矢はどうなんだろう。風介のヒロト君への態度からして、三人のチームは同格で、そのジェネシスの称号を得る為に競っていた……?
最強、か。ヒロト君達は物凄く強かった。……遠いなあ。でも、やるべきことは見えた。
「……なら、あたし達はジェネシスくらい強くなればいいんですね!良かった!ジェネシスより強いチームまでいたらどうしようかと思ってました!」
「……まさか、そう言われるとは思ってなかったわ」
「終わりが見えない戦いだったんで、やっとゴールが見えた気分です。やれますよ!あたし達なら!」
あたし達は望んでこの戦いをすると決めた。だから少しでも安心してほしい。胸を張って宣言すれば、瞳子監督はくすくすと笑い出す。あ、ヒロト君とちょっと似てる。
瞳子監督は皆の前でこういう表情は殆どしない。見せてくれたら、皆からの印象も変わるかな。……皆の前で擽ってみるとか。
それから暫くして、起きてきた皆に一郎太が降りたこと伝えられた。
「どうして止めなかったんですか!ここまで一緒に戦ってきた仲間なんですよ!」
「サッカーへの意欲を無くした人を引き止めるつもりはないわ。私はエイリア学園を倒す為にこのチームの監督になった。戦力にならなければ、出て行ってもらって結構よ」
「ああそうだったな!あんたは勝つためならどんなことでもする奴だもんな!吹雪が二つの人格に悩んでいるのを知りながら、試合に使い続けるくらいな!」
声を荒げる土門。対して監督は、練習を始めて空いたポジションを考えなさい、と告げて背を向けた。
「……監督の言ってることは間違ってない」
「なっ、美波!?」
「あたしも引き留めたけど、駄目だったから。確かにここまで一緒に戦ってきた。でもそれは、一郎太を止める理由にはならない」
「何でそんなこと言うんだよ!仲間じゃないか!」
「ごめん、言い方変える。一郎太がここに留まる理由にはならないんだよ」
「!」
「降りるのを決めたのは一郎太自身なんだ。引き留めたとして、続けるかどうか決めるのも。……もう戦えないって言ってた。なのにここに居続けるのは、お互い辛いだけだと思う」
「美波ちゃん……。でも、私、風丸くんは帰って来るって信じてる!」
「私もです!」
同意は出来なかった。別れ際の暗い顔を思い出したから。今の雷門は、一郎太にとって帰りたい場所じゃない。
悔しさを抱えて離脱していった仲間達。治りの悪い怪我。ふと、佐久間と源田、真・帝国学園のことを思い出して慌てて頭から追い出す。こんな状況だから悪い方にばかり考えちゃうんだ。
「俺達がサッカーをするのは監督の為じゃない。円堂がいつも言ってるだろう、サッカーが好きだからだ。サッカーも守る為にも、エイリア学園に勝たないとな」
鬼道に促されて皆が動き出す。そんな中で、守兄は動かなかった。
「練習、出来ない」
「どういうこと……?」
「今の俺は、サッカーと真正面から向き合えない。ボールを蹴る、資格がないんだ……。だから、それまでボールは預かっておいてくれ」
守兄が離れていく。その背中が、昨日の一郎太と重なった。
左足を怪我したあたしは、運動は控えるよう言いつけられてるので、ベンチに座って練習の様子を見ていた。守兄がいないグラウンド。物凄い、違和感を感じる。
走り込みをして、ボールを蹴って、いつも通りの練習。でもそこに、守兄と一郎太の姿はない。皆、練習に身が入っていないな。
陽花戸中の校舎を見上げる。屋上、フェンスにもたれ掛かっている守兄が見えた。
体を鈍らせたくない。せめての抵抗で左足を使わないよう座ったままリフティングしていたら、何か降ってきたような感覚。雨だ。
一旦練習を止めて校舎の中に入る。雲は厚くて、すぐには止みそうにない。……守兄、中入ってないよな。
「ちょっと守兄見てくる」
「いや、皆で行こう」
気にしてるのはお前だけじゃない。マントを翻して歩き出した鬼道に並ぶと、ゴーグル越しにじっと顔色を伺われた。
「どしたの鬼道」
「美波がいつも通りなのはそう装っているだけなのかを考えていた」
「一郎太のこと?」
「同じ幼馴染みでも兄妹でここまで違うものかと」
「……そうかな」
一郎太にいてほしかった気持ちはある。守兄の気持ちも分かる。ただ、落ち込んではいられない理由が、皆より一つ多いだけで。
それを見透かされそうな気がして、思わず顔を逸らした。
「……もう無理だって思っても仕方ない戦いばかりだった。だからこそあたし達がエイリア学園に勝たないと。全部終わらせて、また楽しいサッカーをするんだ」
「そうか。お前らしいな」
ポンポンと慰めるように頭を撫でられた。え、なんか珍しいな。やっぱり鬼道もいつもより元気無いんだ。
「豪炎寺の真似?」
「……美波にはこっちの方がよかったな」
「いひゃいよきどー」
でも鬼道は意地悪な顔で頬を引っ張ってくる方がらしい気がする。
屋上には雨に打たれる守兄がいた。沈み込んだ様子に、かける言葉が見つからない。一郎太の異変に踏み込めなかったのは、あたしも同じなのに。
だけど、あたしはしろ君やヒロト君のことを知ってもいた。知ってて黙ってた。それがいいと思って、結果はこれだ。
……ううん、それだけじゃない。自分が責められるのが怖かったから、話さなかった。だから昨日も逃げ出したんだから。
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仕方ないから皆を起こさないようにテントを出る。早朝の陽花戸中は静かだ。あたし一人かと思ってたら、既に瞳子監督が起きていた。
キャラバンにもたれかかる監督に近づくと、ゆっくりとこちらを向く。顔色がよくなくて、あまり眠れてないんだと思った。
「おはようございます、瞳子監督」
「……おはよう、円堂さん」
「いい天気ですね」
「そうね……」
「一郎太は」
「少し前に立ったわ」
「そうですか。あの、大丈夫ですか。顔色悪いですよ」
「ええ」
会話が続かない!……昨日の今日だ。大丈夫な訳ない。監督だって落ち込んでるに決まってる。二人きりで話すチャンスなんだから、何かこう、もっとないかな!?
「……円堂さんは」
「え?」
「責めないのね」
何をとは聞けなかった。しろ君の事、一郎太の事。皆が責める以上に監督は自分を責めているのに、そんなこと出来ない。
「……一郎太が決めた事なんで。守兄でも止められなかったんですから。しろ君のことだって、あたしは監督と同じ側です」
「無理を強いるつもりはないわ」
「監督!」
「この戦いが彼らにとってどれ程の負担になっているか。それでも、私はエイリア学園を倒さなくてはならない。父を止め、子供達を助ける為に。……手段は選ばない」
それは、選ばないんじゃなくて、選べないんじゃないか。
財前総理の誘拐に襲撃予告。雷門中を筆頭に全国各地の学校が破壊されて、怪我人も出てるんだ。……選べる段階なんて、とっくに過ぎてる。
話し合いで済むのなら。けれどこれまでに目にした彼らの覚悟を思えば、それは無理だと嫌でも思い知らされる。少なくとも、今はまだ。
結局、何をするにしても、まずサッカーで勝つしかないんだ。
「……時間がない。ガイアがジェネシスに選ばれたなんて」
「ガイアって何ですか?」
俯いていた監督がハッと顔を上げた。かと思えば開きかけた口を閉じる。暫く待っていれば、あたしが引くつもりが無いのが分かったのか、躊躇いがちに話し出した。
「ガイアはヒロトのチームよ。ジェネシスは、エイリア学園最強のチームに与えられる称号なの」
「称号……」
ということは、ヒロト君達がエイリア学園で一番強いのか。ジェミニストームがセカンドでイプシロンがファーストだから、多分その上のランク。
風介やまだ会ってない晴矢はどうなんだろう。風介のヒロト君への態度からして、三人のチームは同格で、そのジェネシスの称号を得る為に競っていた……?
最強、か。ヒロト君達は物凄く強かった。……遠いなあ。でも、やるべきことは見えた。
「……なら、あたし達はジェネシスくらい強くなればいいんですね!良かった!ジェネシスより強いチームまでいたらどうしようかと思ってました!」
「……まさか、そう言われるとは思ってなかったわ」
「終わりが見えない戦いだったんで、やっとゴールが見えた気分です。やれますよ!あたし達なら!」
あたし達は望んでこの戦いをすると決めた。だから少しでも安心してほしい。胸を張って宣言すれば、瞳子監督はくすくすと笑い出す。あ、ヒロト君とちょっと似てる。
瞳子監督は皆の前でこういう表情は殆どしない。見せてくれたら、皆からの印象も変わるかな。……皆の前で擽ってみるとか。
それから暫くして、起きてきた皆に一郎太が降りたこと伝えられた。
「どうして止めなかったんですか!ここまで一緒に戦ってきた仲間なんですよ!」
「サッカーへの意欲を無くした人を引き止めるつもりはないわ。私はエイリア学園を倒す為にこのチームの監督になった。戦力にならなければ、出て行ってもらって結構よ」
「ああそうだったな!あんたは勝つためならどんなことでもする奴だもんな!吹雪が二つの人格に悩んでいるのを知りながら、試合に使い続けるくらいな!」
声を荒げる土門。対して監督は、練習を始めて空いたポジションを考えなさい、と告げて背を向けた。
「……監督の言ってることは間違ってない」
「なっ、美波!?」
「あたしも引き留めたけど、駄目だったから。確かにここまで一緒に戦ってきた。でもそれは、一郎太を止める理由にはならない」
「何でそんなこと言うんだよ!仲間じゃないか!」
「ごめん、言い方変える。一郎太がここに留まる理由にはならないんだよ」
「!」
「降りるのを決めたのは一郎太自身なんだ。引き留めたとして、続けるかどうか決めるのも。……もう戦えないって言ってた。なのにここに居続けるのは、お互い辛いだけだと思う」
「美波ちゃん……。でも、私、風丸くんは帰って来るって信じてる!」
「私もです!」
同意は出来なかった。別れ際の暗い顔を思い出したから。今の雷門は、一郎太にとって帰りたい場所じゃない。
悔しさを抱えて離脱していった仲間達。治りの悪い怪我。ふと、佐久間と源田、真・帝国学園のことを思い出して慌てて頭から追い出す。こんな状況だから悪い方にばかり考えちゃうんだ。
「俺達がサッカーをするのは監督の為じゃない。円堂がいつも言ってるだろう、サッカーが好きだからだ。サッカーも守る為にも、エイリア学園に勝たないとな」
鬼道に促されて皆が動き出す。そんな中で、守兄は動かなかった。
「練習、出来ない」
「どういうこと……?」
「今の俺は、サッカーと真正面から向き合えない。ボールを蹴る、資格がないんだ……。だから、それまでボールは預かっておいてくれ」
守兄が離れていく。その背中が、昨日の一郎太と重なった。
左足を怪我したあたしは、運動は控えるよう言いつけられてるので、ベンチに座って練習の様子を見ていた。守兄がいないグラウンド。物凄い、違和感を感じる。
走り込みをして、ボールを蹴って、いつも通りの練習。でもそこに、守兄と一郎太の姿はない。皆、練習に身が入っていないな。
陽花戸中の校舎を見上げる。屋上、フェンスにもたれ掛かっている守兄が見えた。
体を鈍らせたくない。せめての抵抗で左足を使わないよう座ったままリフティングしていたら、何か降ってきたような感覚。雨だ。
一旦練習を止めて校舎の中に入る。雲は厚くて、すぐには止みそうにない。……守兄、中入ってないよな。
「ちょっと守兄見てくる」
「いや、皆で行こう」
気にしてるのはお前だけじゃない。マントを翻して歩き出した鬼道に並ぶと、ゴーグル越しにじっと顔色を伺われた。
「どしたの鬼道」
「美波がいつも通りなのはそう装っているだけなのかを考えていた」
「一郎太のこと?」
「同じ幼馴染みでも兄妹でここまで違うものかと」
「……そうかな」
一郎太にいてほしかった気持ちはある。守兄の気持ちも分かる。ただ、落ち込んではいられない理由が、皆より一つ多いだけで。
それを見透かされそうな気がして、思わず顔を逸らした。
「……もう無理だって思っても仕方ない戦いばかりだった。だからこそあたし達がエイリア学園に勝たないと。全部終わらせて、また楽しいサッカーをするんだ」
「そうか。お前らしいな」
ポンポンと慰めるように頭を撫でられた。え、なんか珍しいな。やっぱり鬼道もいつもより元気無いんだ。
「豪炎寺の真似?」
「……美波にはこっちの方がよかったな」
「いひゃいよきどー」
でも鬼道は意地悪な顔で頬を引っ張ってくる方がらしい気がする。
屋上には雨に打たれる守兄がいた。沈み込んだ様子に、かける言葉が見つからない。一郎太の異変に踏み込めなかったのは、あたしも同じなのに。
だけど、あたしはしろ君やヒロト君のことを知ってもいた。知ってて黙ってた。それがいいと思って、結果はこれだ。
……ううん、それだけじゃない。自分が責められるのが怖かったから、話さなかった。だから昨日も逃げ出したんだから。
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