第19話 激震!最強のジェネシス!!
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瞳子監督が病室を出ていく。静まり返った部屋は、空気が酷く重い。
「ごめん、なさい……」
あたしが弱かったから。無力だったから。知ってたのに、わかってたのに。
「ごめんなさいごめんなさい、ごめん、ごめんね、ごめんねしろ君っ……」
悔しくて、悔しくて、出てきそうな涙を必死に我慢する。一番辛いのはしろ君なのに、あたしが泣くなんて駄目だ。
「美波……?」
「っ、美波先輩が謝ることないですよ!」
「そうよ!美波ちゃんは知らなかったんだから……」
「……知ってたよ、全部」
「え?」
「だってあたし、アツヤに会ったことあるから。しろ君の中にアツヤの人格があるのも知ってた。監督だけじゃない。あたしも、知ってて皆に黙ってたんだよ……!」
「美波!」
ぶちまけるだけぶちまけて、あたしは病室を飛び出した。今は一緒にいたくなかった。皆から、逃げたかった。
「はあっ、はあっ………」
気分は最悪だ。階段を駆け上がれば、試合で痛めた足がズキズキと疼く。しまったな。後であたしも診てもらわないと。
しろ君大丈夫かな。起きたら、またサッカー出来るよね。暗い表情をしていた一郎太とも、ちゃんと話さないと。
ふらつく足を引きずりながら、着いたのは屋上。柵の手すり部分に体を預けた。空を見上げるとちらほらと星が出始めていて、ふとヒロト君のことを思い出した。
どこか辛そうだった、あの表情が脳裏に焼き付いていて。
「……ヒロト?」
微かに足音が聞こえた。もしかしてヒロト君が来たのだろうか。振り返ると、そこには立っていたのはヒロト君ではなく玲ちゃんだった。
……そうだよね、もう会いには来れないって言ってたんだから。なんとなく、こういう時にヒロト君は会いに来てくれるとあたしが勝手に思ってただけ。
さっきと違ってジェネシスのユニフォームは着ていない。だからウルビダじゃなくて、玲ちゃんだ。
「玲ちゃん」
「やはり、覚えていたのか。せめて忘れてくれていたならどれ程よかったことか……」
「あたしは玲ちゃん達が覚えててくれたの嬉しかったよ」
「……単刀直入に言う。美波、この戦いから降りてくれ」
「えっ」
「私は……美波と戦いたくない」
玲ちゃんの表情は悲痛に満ちていて、少ししか一緒に過ごしてないあたしのことを、凄く考えてくれてるんだって思った。………でも。
「降りないよ。あたしは逃げない。また一緒に楽しいサッカーをしたいから。だからこそ、あたし自身が戦わないと」
「辛くはないのか」
「辛くないって言ったら大嘘になるけどさ、知ってて何もしない方が、多分辛い」
「……美波ならそう言うと思ってた。余計なことを言ったな」
「そんなことないよ!会いに来てくれてありがとう。話せて良かった」
「……ああ、そうだな。これで私もケジメをつけられた。次は、必ず」
そう返事をすると玲名は踵を返して歩き始める。帰るんだ。このまま帰したら、なんか駄目な気がする。
「玲ちゃんのこと、今でも友達だって思ってる!」
「……」
「玲ちゃんもそうだって思っててもいいかな!」
返事は無い。けれど、小さく頷いてくれた。今はそれだけで十分だった。
玲ちゃんが降りて暫くしてからあたしも屋上を出る。皆はまだ病室だろうか。階段を降りると、丁度なっちゃんと出会した。
「なっちゃん!」
「美波、病院では静かに」
「はい」
単独行動するなら連絡を入れなさい。そう言われて携帯を確認すると着信履歴が何件か。また心配かけちゃったな。
「あのね、しろ君のことなんだけど、瞳子監督も最初から知ってた訳じゃないんだ。スカウトした後に聞いたって」
「分かってるわ。……あの後、鬼道くんが言ったの。これはチームの問題だ、吹雪くんに頼りすぎてたって」
「鬼道が……」
「事が事だもの。皆自分のことでいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕がなかったのよ。だから吹雪くんが抱える重圧に気づかなかった」
「あたしは、分かってたのに、何もいたっ」
ビシッと額を弾かれた。ため息をつくなっちゃんからじっとりとした視線が飛んできて、思わず目を逸らす。
「言ったでしょう。これはチームの問題。美波だけのせいじゃないわ」
「でも」
「美波」
「はい……」
「とにかく、貴女はまずその足を治すことを一番に考えなさい」
「気づいてたんだ」
「円堂くんがね」
そう返すなっちゃんに連れられて診察してもらう。結果は軽度の捻挫で、これまた暫く安静にすることになった。シュートが直撃した顎は変色して痣になっていた。……暫く鏡見たくないな。
皆は一足先に陽花戸中に戻っていた。今日はお弁当を手配するとか、雷門中の再建とか、そんな話をしながらタクシーに乗る。
しろ君のこと、ヒロト君のこと、雷門のこと。押し寄せてくる苦しさに逃げたいと思う時もある。
足を止められたらきっと楽だ。でも、それ以上に立ち止まりたくない。進んだ先に何があるのか分からなくても、歩き続ければ明るい未来を掴み取れる。
一人じゃ無理でも、皆とならそれが出来ると信じたいから。
「……監督。俺は、降ります」
信じたい、のに。
「一郎太……?」
「……美波か」
夜の陽花戸中、後は寝るだけの時間に瞳子監督と話す一郎太を見つけて、何を話してるのか気になって近づいたらこれだ。
少し話せるか。その誘いを断る理由も無いから、校庭の片隅へ歩き出した一郎太を追う。怪我したをの抜きにしても足が重くて、いつの間にか距離が開いていた。
顔を上げれば少し先で立ち止まって待っていてくれて。ああ、一郎太だ。そう思った。
「さっきの聞いてたよな。……俺は、キャラバンを降りる」
「うん……」
「勝てる気がしないんだ。ジェネシスのスピードに俺の速さはついていけない。終わりが見えない戦いなんて、俺はもう続けられない」
「……ここまで皆で頑張ってやってきたよね。最初はジェミニストーム相手に全然で、でもイプシロンにも引き分けられるようになって」
「ああ……そうだったな」
「まだ強くなれるよ、あたし達。それこそジェネシスだって倒せるくらいに!だから、一緒に、頑張ろう……?」
「円堂にも同じことを言われたよ。でも……俺には出来ない」
疲れたんだよ。俯く一郎太の表情は影になって見えないけれど、きっと酷く暗い顔をしてる。もう何を言っても一郎太には届かないんだって、嫌でも理解させられた。
「なあ美波、一緒に稲妻町に戻らないか?そうすれば、お前だってこれ以上傷つかずに済むんだ。吹雪やエイリアのことでずっと抱えて苦しんできたんだろ」
「……傷つかないで済む方法なんてないよ。逃げたらあたし、絶対後悔するから。あたしは戦う。また皆で楽しいサッカーをする為に。何より、大好きなサッカーから逃げたくない」
「美波らしいよ。……言うだけ無駄だったな。美波ならそう言うって分かりきってたのに。……ごめんな、守ってやれなくて」
「一郎太……」
悲し気に笑う一郎太が、さっきの辛そうな玲名を思い出させる。あたしがこんな顔をさせてるんだ。それでも、ここで止まるのは、あたしには無理だ。
「いや、俺が守らなくてもいいくらい、美波は強いんだからな。昔からそうだったのに、俺は……。……じゃあな、美波」
一郎太の背中が小さくなっていく。何も変わらなくたって、待ってよって、言えたらよかったのに。
引き留めるなんて、そんなこと出来る訳がなかった。
→あとがき
「ごめん、なさい……」
あたしが弱かったから。無力だったから。知ってたのに、わかってたのに。
「ごめんなさいごめんなさい、ごめん、ごめんね、ごめんねしろ君っ……」
悔しくて、悔しくて、出てきそうな涙を必死に我慢する。一番辛いのはしろ君なのに、あたしが泣くなんて駄目だ。
「美波……?」
「っ、美波先輩が謝ることないですよ!」
「そうよ!美波ちゃんは知らなかったんだから……」
「……知ってたよ、全部」
「え?」
「だってあたし、アツヤに会ったことあるから。しろ君の中にアツヤの人格があるのも知ってた。監督だけじゃない。あたしも、知ってて皆に黙ってたんだよ……!」
「美波!」
ぶちまけるだけぶちまけて、あたしは病室を飛び出した。今は一緒にいたくなかった。皆から、逃げたかった。
「はあっ、はあっ………」
気分は最悪だ。階段を駆け上がれば、試合で痛めた足がズキズキと疼く。しまったな。後であたしも診てもらわないと。
しろ君大丈夫かな。起きたら、またサッカー出来るよね。暗い表情をしていた一郎太とも、ちゃんと話さないと。
ふらつく足を引きずりながら、着いたのは屋上。柵の手すり部分に体を預けた。空を見上げるとちらほらと星が出始めていて、ふとヒロト君のことを思い出した。
どこか辛そうだった、あの表情が脳裏に焼き付いていて。
「……ヒロト?」
微かに足音が聞こえた。もしかしてヒロト君が来たのだろうか。振り返ると、そこには立っていたのはヒロト君ではなく玲ちゃんだった。
……そうだよね、もう会いには来れないって言ってたんだから。なんとなく、こういう時にヒロト君は会いに来てくれるとあたしが勝手に思ってただけ。
さっきと違ってジェネシスのユニフォームは着ていない。だからウルビダじゃなくて、玲ちゃんだ。
「玲ちゃん」
「やはり、覚えていたのか。せめて忘れてくれていたならどれ程よかったことか……」
「あたしは玲ちゃん達が覚えててくれたの嬉しかったよ」
「……単刀直入に言う。美波、この戦いから降りてくれ」
「えっ」
「私は……美波と戦いたくない」
玲ちゃんの表情は悲痛に満ちていて、少ししか一緒に過ごしてないあたしのことを、凄く考えてくれてるんだって思った。………でも。
「降りないよ。あたしは逃げない。また一緒に楽しいサッカーをしたいから。だからこそ、あたし自身が戦わないと」
「辛くはないのか」
「辛くないって言ったら大嘘になるけどさ、知ってて何もしない方が、多分辛い」
「……美波ならそう言うと思ってた。余計なことを言ったな」
「そんなことないよ!会いに来てくれてありがとう。話せて良かった」
「……ああ、そうだな。これで私もケジメをつけられた。次は、必ず」
そう返事をすると玲名は踵を返して歩き始める。帰るんだ。このまま帰したら、なんか駄目な気がする。
「玲ちゃんのこと、今でも友達だって思ってる!」
「……」
「玲ちゃんもそうだって思っててもいいかな!」
返事は無い。けれど、小さく頷いてくれた。今はそれだけで十分だった。
玲ちゃんが降りて暫くしてからあたしも屋上を出る。皆はまだ病室だろうか。階段を降りると、丁度なっちゃんと出会した。
「なっちゃん!」
「美波、病院では静かに」
「はい」
単独行動するなら連絡を入れなさい。そう言われて携帯を確認すると着信履歴が何件か。また心配かけちゃったな。
「あのね、しろ君のことなんだけど、瞳子監督も最初から知ってた訳じゃないんだ。スカウトした後に聞いたって」
「分かってるわ。……あの後、鬼道くんが言ったの。これはチームの問題だ、吹雪くんに頼りすぎてたって」
「鬼道が……」
「事が事だもの。皆自分のことでいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕がなかったのよ。だから吹雪くんが抱える重圧に気づかなかった」
「あたしは、分かってたのに、何もいたっ」
ビシッと額を弾かれた。ため息をつくなっちゃんからじっとりとした視線が飛んできて、思わず目を逸らす。
「言ったでしょう。これはチームの問題。美波だけのせいじゃないわ」
「でも」
「美波」
「はい……」
「とにかく、貴女はまずその足を治すことを一番に考えなさい」
「気づいてたんだ」
「円堂くんがね」
そう返すなっちゃんに連れられて診察してもらう。結果は軽度の捻挫で、これまた暫く安静にすることになった。シュートが直撃した顎は変色して痣になっていた。……暫く鏡見たくないな。
皆は一足先に陽花戸中に戻っていた。今日はお弁当を手配するとか、雷門中の再建とか、そんな話をしながらタクシーに乗る。
しろ君のこと、ヒロト君のこと、雷門のこと。押し寄せてくる苦しさに逃げたいと思う時もある。
足を止められたらきっと楽だ。でも、それ以上に立ち止まりたくない。進んだ先に何があるのか分からなくても、歩き続ければ明るい未来を掴み取れる。
一人じゃ無理でも、皆とならそれが出来ると信じたいから。
「……監督。俺は、降ります」
信じたい、のに。
「一郎太……?」
「……美波か」
夜の陽花戸中、後は寝るだけの時間に瞳子監督と話す一郎太を見つけて、何を話してるのか気になって近づいたらこれだ。
少し話せるか。その誘いを断る理由も無いから、校庭の片隅へ歩き出した一郎太を追う。怪我したをの抜きにしても足が重くて、いつの間にか距離が開いていた。
顔を上げれば少し先で立ち止まって待っていてくれて。ああ、一郎太だ。そう思った。
「さっきの聞いてたよな。……俺は、キャラバンを降りる」
「うん……」
「勝てる気がしないんだ。ジェネシスのスピードに俺の速さはついていけない。終わりが見えない戦いなんて、俺はもう続けられない」
「……ここまで皆で頑張ってやってきたよね。最初はジェミニストーム相手に全然で、でもイプシロンにも引き分けられるようになって」
「ああ……そうだったな」
「まだ強くなれるよ、あたし達。それこそジェネシスだって倒せるくらいに!だから、一緒に、頑張ろう……?」
「円堂にも同じことを言われたよ。でも……俺には出来ない」
疲れたんだよ。俯く一郎太の表情は影になって見えないけれど、きっと酷く暗い顔をしてる。もう何を言っても一郎太には届かないんだって、嫌でも理解させられた。
「なあ美波、一緒に稲妻町に戻らないか?そうすれば、お前だってこれ以上傷つかずに済むんだ。吹雪やエイリアのことでずっと抱えて苦しんできたんだろ」
「……傷つかないで済む方法なんてないよ。逃げたらあたし、絶対後悔するから。あたしは戦う。また皆で楽しいサッカーをする為に。何より、大好きなサッカーから逃げたくない」
「美波らしいよ。……言うだけ無駄だったな。美波ならそう言うって分かりきってたのに。……ごめんな、守ってやれなくて」
「一郎太……」
悲し気に笑う一郎太が、さっきの辛そうな玲名を思い出させる。あたしがこんな顔をさせてるんだ。それでも、ここで止まるのは、あたしには無理だ。
「いや、俺が守らなくてもいいくらい、美波は強いんだからな。昔からそうだったのに、俺は……。……じゃあな、美波」
一郎太の背中が小さくなっていく。何も変わらなくたって、待ってよって、言えたらよかったのに。
引き留めるなんて、そんなこと出来る訳がなかった。
→あとがき