第15話 デザームの罠!
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「しろ、君?」
「……寝た方がいいよ。もう夜も遅い、眠らないと。休んでいられるか。完璧じゃなけりゃ存在価値はねえんだ……」
ただならぬ気配を纏ってぶつぶつと呟き始めたしろ君は、どうもアツヤと揉めているようだった。これは本当にまずいのでは。
あたしが声をかける前に呼び掛けたのは、部屋に入ってきた守兄だった。その後ろには秋もいる。けれど邪魔されたと思ったらしいしろ君……いやアツヤ?に睨み付けられて二人が怯む。
それでも呼ばれたことで戻ったしろ君に促されて、戸惑いながらも一緒に部屋を出た。良かった、守兄が来てくれて。
「美波ちゃんまでいなかったから、心配したんだからね」
「ごめん!ちょっと寝れなかったからキャラバンの上で星見てたんだ。そしたらほら、しろ君が出ていくのが見えたから」
「よくキャラバンに登ってるみたいだけど気を付けろよ?」
「わかってる」
「吹雪と二人きりになるなんて」
「そっちなんだ……」
「別に誰かと二人なんて今に始まったことじゃないのにね」
「う、うん。そうだね?」
守兄が過保護になる時があるのはもう慣れた。夜に一人で出歩くのが危ないのはその通りだから、特に言うこともない。多分守兄が同じことしてたらあたしも心配した。
キャラバンに戻って、おやすみを言うと入っていく守兄を見送る。テントに入った秋に続こうとしたら、しろ君に呼び止められた。
差し出されたのはタオル。さっき拭くのに使ったから……というかヒロト君のそのまま持ってきて使っちゃったのか。せっかく洗ったのに。また洗わないと。
貸してくれてありがとう。そのお礼にどういたしましてと返して、受け取ろうと伸ばした手はかわされた。え、何で。
「このタオル、美波ちゃんのじゃないよね」
確信を持った問いかけにドキリとする。しろ君が目を落とした先にはKの刺繍。これ基山のKだ。気づかなかった。
「えっ、あ、うん。借りててさ、たまたま持ってたのがそれで」
「誰の?」
「誰のって……あー、鬼道?」
言ってから気づく。どうしてすぐバレるような嘘ついちゃったんだ……。一郎太にしておけば良かった。頼めば口裏合わせてくれるだろうし。
そうなんだ。それだけ言ってしろ君はタオルを返してくれた。納得したじゃなくて納得することにしたって感じで。
少しモヤッとしたものを抱えつつ、なっちゃん達を起こさないよう寝袋に潜り込む。早く寝ようと目を閉じるけど、さっきうたた寝したのもあってか眠気がなかなか来ない。
「……美波ちゃん、起きてる?」
「どしたの?秋も寝れない?」
「寝れないっていうか……。あのね、お昼に円堂くんと話したの」
「守兄と?」
「エイリア学園のこと。ジェミニストームやイプシロンにとって、サッカーって何だろうって」
「え……」
「エイリア学園のサッカーには……心を感じなかった。地球征服の為の手段でしかないサッカーだから、試合してる皆も辛いだけなんじゃないかって」
「っ、そんなことないよ!」
思わず声を張り上げた。違う。でも、そうじゃない。秋はエイリア学園の正体を知らないんだから、そう感じるのが自然なんだ。
皆寝てるのに大きな声を出してしまった。慌てて皆の様子を伺うと、身動ぎしたくらいで起きてまではないみたいだ。セーフ!
「美波ちゃん?」
「あ、いや。なんていうか、辛くないって言ったら嘘になるけど、あたし今のサッカーも楽しいよ。皆で旅して、強くなってで!」
「うん……」
「それにさ、エイリアもサッカー好きだと思うんだ。えーと、ほら、征服にサッカー選ぶくらいだし?一緒に楽しめたらいいよね」
「……ふふっ」
「ん?」
「美波ちゃん、円堂くんと同じこと言ってる。サッカーが好きだから、だね」
「そっ、か。守兄も……」
「あんなに凄いプレーが出来るなら、楽しいサッカーをした方がずっといいのに。どうこしてこんなことに使うんだろう」
何らかの手段でしかないサッカー。それは、本当だと思う。秋の感覚は正しい。だって皆、吉良さんの為に戦ってる。……特にヒロト君は。
彼らの原動力である"好き"はきっと、そういうことなんだ。
***
次の日、約束通りイプシロンは現れた。……修練場に。
「時は来た。10日もやったのだ。どれだけ強くなったのか見せてもらおう」
修練場の下の方が開いて、降りていくとそこにはグラウンドがあった。皆もエイリア学園の施設である可能性には薄々感づいてたようだった。
放送をジャックしたデザームがエイリア学園の力を知らしめるだの、我々にひれ伏すだの宣言する。でも有言実行なんてさせてたまるか。……戦いはまだ続く。ここで立ち止まってはいられない。
「勝つのはあたし達だ!」
「ほう……」
改めて覚悟を決めたくてそう啖呵を切れば、デザームがニヤリと笑う。他のメンバーはまちまちで、目を反らしてるのが何人かいたのは、多分……。
試合の前に、本人からの申し出があったとのことで正式にリカがメンバー入りすることになった。頼もしい仲間が増えたな!また賑やかになりそうだ!
今回はリカがフォワードに入って、しろ君は前半ディフェンスで様子見。ここでの特訓の成果がイプシロン相手にどの程度通用するか、まずはそれを見極めないと。
それまで点を取られる訳にはいかないし、互角にやり合えるなら最初の一点は尚更重くなる。だからこその守備の強化だ。
「この一戦で全てが決まる。これを最後の戦いにするのよ!必ず勝ちなさい!」
『はい!』
「行くぞ!俺達のサッカーを見せるんだ!」
『おーっ!』
イプシロンのキックオフで試合が始まった。早々に攻め込まれて、繰り出されたのはガニメデプロトン。
前は間に合わずに爆裂パンチで押し負けたシュート。今度はマジン・ザ・ハンドで真正面からがっちりとセーブした。特訓の成果だ!
次は雷門の攻撃だ。ローズスプラッシュ……と見せかけてパス。リカのフェイントで、一之瀬にボールが繋がった。
ツインブーストは必殺技を使われることなく止められてしまう。でも、グラウンドにデザームが踏ん張った後がついている。前より押せてるんだ!
「いけるよ、あたし達!」
「やれる。奴らの動きが見える!」
「必ず、勝つ!」
そこからはもう互角の戦いだ。お互いにシュートを撃っては止めて、ボールを取っては取り返して。均衡した試合。つまり、なすすべなかった前回より格段にレベルアップしたってこと!
強くなったという実感が自信をくれる。楽しいという気持ちも。シュートを止めては笑うデザームもそうなんだろうか。……リュウジ達はどうだったろう。負ければ用済み。自分達を追い詰めるチームに、何を……。
……駄目だ集中!リュウジの頼みは雷門の勝利だったんだ。あれでいい。それより、だ。対等に戦えてるとはいえ、お互い疲労が見え始めた。そろそろ動きがほしい……。
「いつまで守ってんだよ!」
焦れたらしいしろ君がそう吠えるとスライディングでボールを奪った。かと思えば、鬼道の指示も聞かずに強引に上がっていく。
完璧じゃなきゃ俺はいる意味がねえ。その叫びに足が竦んだ。しろ君の言う完璧というのは、フォワードもディフェンダーもこなすこと。それが、デザームに敗れたことで、崩れた。
待ち構えるデザームはディフェンダーをどかしてしろ君に撃たせる気だ。それは止める自信があるからか。……撃たせて、いいのかな。今のしろ君に。
「くらえ!エターナルブリザード!うおおおおっ!!」
「待っていたぞこのシュート。あの時は遠距離で撃ったあれだけのパワー。この距離ならどれだけ強烈か!ワームホール!」
ついに出たデザームの必殺技。両手を広げたデザームを中心に空間が歪んで、開いた穴に吸い込まれたシュートはデザームの足元へ落ちた。あの距離でエターナルブリザードを止めた……。
挑発なのか本心なのか。楽しませろと笑うデザームとは対照的に、しろ君はギラギラとした目でデザームを睨みつける。
「これじゃ完璧には……」
「しろく」
「っ、美波!ボール取ったら俺に繋げ!」
「でも監督が前半はディフェンスで様子見って」
「いいな!」
「あ、ちょっと!」
言うなりディフェンスラインへ戻っていくあたり、一応守るつもりもあるらしい。けど纏う気配は荒々しくて、完全に攻撃に意識がいってる。
デザームの様子からして、またきっとしろ君に撃たせようとする。しろ君もそれに乗って点を取るまでシュートを撃ち続けるだろう。それがいい方向に転がってくれたらいいんだけど……。
「(やるしか、ないんだ)」
デザームが投げたボールの軌道を目で追いながら、あたしは走り出した。
→あとがき
「……寝た方がいいよ。もう夜も遅い、眠らないと。休んでいられるか。完璧じゃなけりゃ存在価値はねえんだ……」
ただならぬ気配を纏ってぶつぶつと呟き始めたしろ君は、どうもアツヤと揉めているようだった。これは本当にまずいのでは。
あたしが声をかける前に呼び掛けたのは、部屋に入ってきた守兄だった。その後ろには秋もいる。けれど邪魔されたと思ったらしいしろ君……いやアツヤ?に睨み付けられて二人が怯む。
それでも呼ばれたことで戻ったしろ君に促されて、戸惑いながらも一緒に部屋を出た。良かった、守兄が来てくれて。
「美波ちゃんまでいなかったから、心配したんだからね」
「ごめん!ちょっと寝れなかったからキャラバンの上で星見てたんだ。そしたらほら、しろ君が出ていくのが見えたから」
「よくキャラバンに登ってるみたいだけど気を付けろよ?」
「わかってる」
「吹雪と二人きりになるなんて」
「そっちなんだ……」
「別に誰かと二人なんて今に始まったことじゃないのにね」
「う、うん。そうだね?」
守兄が過保護になる時があるのはもう慣れた。夜に一人で出歩くのが危ないのはその通りだから、特に言うこともない。多分守兄が同じことしてたらあたしも心配した。
キャラバンに戻って、おやすみを言うと入っていく守兄を見送る。テントに入った秋に続こうとしたら、しろ君に呼び止められた。
差し出されたのはタオル。さっき拭くのに使ったから……というかヒロト君のそのまま持ってきて使っちゃったのか。せっかく洗ったのに。また洗わないと。
貸してくれてありがとう。そのお礼にどういたしましてと返して、受け取ろうと伸ばした手はかわされた。え、何で。
「このタオル、美波ちゃんのじゃないよね」
確信を持った問いかけにドキリとする。しろ君が目を落とした先にはKの刺繍。これ基山のKだ。気づかなかった。
「えっ、あ、うん。借りててさ、たまたま持ってたのがそれで」
「誰の?」
「誰のって……あー、鬼道?」
言ってから気づく。どうしてすぐバレるような嘘ついちゃったんだ……。一郎太にしておけば良かった。頼めば口裏合わせてくれるだろうし。
そうなんだ。それだけ言ってしろ君はタオルを返してくれた。納得したじゃなくて納得することにしたって感じで。
少しモヤッとしたものを抱えつつ、なっちゃん達を起こさないよう寝袋に潜り込む。早く寝ようと目を閉じるけど、さっきうたた寝したのもあってか眠気がなかなか来ない。
「……美波ちゃん、起きてる?」
「どしたの?秋も寝れない?」
「寝れないっていうか……。あのね、お昼に円堂くんと話したの」
「守兄と?」
「エイリア学園のこと。ジェミニストームやイプシロンにとって、サッカーって何だろうって」
「え……」
「エイリア学園のサッカーには……心を感じなかった。地球征服の為の手段でしかないサッカーだから、試合してる皆も辛いだけなんじゃないかって」
「っ、そんなことないよ!」
思わず声を張り上げた。違う。でも、そうじゃない。秋はエイリア学園の正体を知らないんだから、そう感じるのが自然なんだ。
皆寝てるのに大きな声を出してしまった。慌てて皆の様子を伺うと、身動ぎしたくらいで起きてまではないみたいだ。セーフ!
「美波ちゃん?」
「あ、いや。なんていうか、辛くないって言ったら嘘になるけど、あたし今のサッカーも楽しいよ。皆で旅して、強くなってで!」
「うん……」
「それにさ、エイリアもサッカー好きだと思うんだ。えーと、ほら、征服にサッカー選ぶくらいだし?一緒に楽しめたらいいよね」
「……ふふっ」
「ん?」
「美波ちゃん、円堂くんと同じこと言ってる。サッカーが好きだから、だね」
「そっ、か。守兄も……」
「あんなに凄いプレーが出来るなら、楽しいサッカーをした方がずっといいのに。どうこしてこんなことに使うんだろう」
何らかの手段でしかないサッカー。それは、本当だと思う。秋の感覚は正しい。だって皆、吉良さんの為に戦ってる。……特にヒロト君は。
彼らの原動力である"好き"はきっと、そういうことなんだ。
***
次の日、約束通りイプシロンは現れた。……修練場に。
「時は来た。10日もやったのだ。どれだけ強くなったのか見せてもらおう」
修練場の下の方が開いて、降りていくとそこにはグラウンドがあった。皆もエイリア学園の施設である可能性には薄々感づいてたようだった。
放送をジャックしたデザームがエイリア学園の力を知らしめるだの、我々にひれ伏すだの宣言する。でも有言実行なんてさせてたまるか。……戦いはまだ続く。ここで立ち止まってはいられない。
「勝つのはあたし達だ!」
「ほう……」
改めて覚悟を決めたくてそう啖呵を切れば、デザームがニヤリと笑う。他のメンバーはまちまちで、目を反らしてるのが何人かいたのは、多分……。
試合の前に、本人からの申し出があったとのことで正式にリカがメンバー入りすることになった。頼もしい仲間が増えたな!また賑やかになりそうだ!
今回はリカがフォワードに入って、しろ君は前半ディフェンスで様子見。ここでの特訓の成果がイプシロン相手にどの程度通用するか、まずはそれを見極めないと。
それまで点を取られる訳にはいかないし、互角にやり合えるなら最初の一点は尚更重くなる。だからこその守備の強化だ。
「この一戦で全てが決まる。これを最後の戦いにするのよ!必ず勝ちなさい!」
『はい!』
「行くぞ!俺達のサッカーを見せるんだ!」
『おーっ!』
イプシロンのキックオフで試合が始まった。早々に攻め込まれて、繰り出されたのはガニメデプロトン。
前は間に合わずに爆裂パンチで押し負けたシュート。今度はマジン・ザ・ハンドで真正面からがっちりとセーブした。特訓の成果だ!
次は雷門の攻撃だ。ローズスプラッシュ……と見せかけてパス。リカのフェイントで、一之瀬にボールが繋がった。
ツインブーストは必殺技を使われることなく止められてしまう。でも、グラウンドにデザームが踏ん張った後がついている。前より押せてるんだ!
「いけるよ、あたし達!」
「やれる。奴らの動きが見える!」
「必ず、勝つ!」
そこからはもう互角の戦いだ。お互いにシュートを撃っては止めて、ボールを取っては取り返して。均衡した試合。つまり、なすすべなかった前回より格段にレベルアップしたってこと!
強くなったという実感が自信をくれる。楽しいという気持ちも。シュートを止めては笑うデザームもそうなんだろうか。……リュウジ達はどうだったろう。負ければ用済み。自分達を追い詰めるチームに、何を……。
……駄目だ集中!リュウジの頼みは雷門の勝利だったんだ。あれでいい。それより、だ。対等に戦えてるとはいえ、お互い疲労が見え始めた。そろそろ動きがほしい……。
「いつまで守ってんだよ!」
焦れたらしいしろ君がそう吠えるとスライディングでボールを奪った。かと思えば、鬼道の指示も聞かずに強引に上がっていく。
完璧じゃなきゃ俺はいる意味がねえ。その叫びに足が竦んだ。しろ君の言う完璧というのは、フォワードもディフェンダーもこなすこと。それが、デザームに敗れたことで、崩れた。
待ち構えるデザームはディフェンダーをどかしてしろ君に撃たせる気だ。それは止める自信があるからか。……撃たせて、いいのかな。今のしろ君に。
「くらえ!エターナルブリザード!うおおおおっ!!」
「待っていたぞこのシュート。あの時は遠距離で撃ったあれだけのパワー。この距離ならどれだけ強烈か!ワームホール!」
ついに出たデザームの必殺技。両手を広げたデザームを中心に空間が歪んで、開いた穴に吸い込まれたシュートはデザームの足元へ落ちた。あの距離でエターナルブリザードを止めた……。
挑発なのか本心なのか。楽しませろと笑うデザームとは対照的に、しろ君はギラギラとした目でデザームを睨みつける。
「これじゃ完璧には……」
「しろく」
「っ、美波!ボール取ったら俺に繋げ!」
「でも監督が前半はディフェンスで様子見って」
「いいな!」
「あ、ちょっと!」
言うなりディフェンスラインへ戻っていくあたり、一応守るつもりもあるらしい。けど纏う気配は荒々しくて、完全に攻撃に意識がいってる。
デザームの様子からして、またきっとしろ君に撃たせようとする。しろ君もそれに乗って点を取るまでシュートを撃ち続けるだろう。それがいい方向に転がってくれたらいいんだけど……。
「(やるしか、ないんだ)」
デザームが投げたボールの軌道を目で追いながら、あたしは走り出した。
→あとがき