第15話 デザームの罠!
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――ヒロト君、あーそぼ
――美波のへたくそ
――ボールが……どうしよう……
――危ない!
――絶対、離さない!
「……夢?」
明日の試合を思うとなかなか寝付けなくて、キャラバンの上に転がって星空を見ていたら、いつの間にかうたた寝してたみたいだ。夢に見たのは、お日さま園に通っていた頃。
あれはサッカーをして遊んでた時のことだ。蹴り上げたボールが木の枝に引っかかって、それを取りに登ったら落ちかけて……。落ちないように必死で掴んだっけ。
それはさておき、流石にここで寝るのはまずい。テントに戻らないと。そう思いつつもなんとなく起き上がる気になれなくて寝返りをうつと、ポケットからブレスレットが落ちた。
しろ君から貰ったブレスレット。手首に通して翳してみる。何でしろ君はあたしにくれたんだろ。
旅に出てから色々あったなあ。しろ君、明王ちゃんと再会した。……豪炎寺と染岡が離脱した。それからヒロト君とリュウジと風介と話して……あ、まだヒロト君にタオル返してないや。
「ヒロト君……」
「俺がどうかした?」
「うわあああああ!!!」
ブレスレットから視線を外して上を見たらヒロト君の顔が。慌てて体を起こすっていうか何でここにいるの!?てかここキャラバンの上!
「やあ。また驚かせちゃったかな」
「驚いた驚いた!何でここに?」
「そうだな……あ、美波ちゃんに呼ばれた気がしたから?」
「へえ」
「あ、信じてないね。まあ、ほら。この前はあまり話せなかったからさ。美波ちゃんは俺に会えて嬉しくない?」
「それは嬉しい、けど」
そんな風に言われたら嬉しくないとは言えない。いや別に、本当に嬉しくないって訳でも……敵同士って考えたら会わない方がいいのかな?
とはいえ会うも会わないもヒロト君次第だし、こうも神出鬼没だとどうしようもない。雷門とエイリア学園は敵だとしても、あたしとヒロト君は友達だから良しってことで!
……あ、そうだ借りてたタオル!ヒロト君に待ってて貰って、皆を起こさないようにタオルを取ってくる。
「はいこれ」
「あ……」
「丁度良かった。返さないとって思ってたからさ」
「……美波ちゃん。よかったらこのタオル、まだ君に持ってて欲しいんだ」
「え?」
「ああ、そうだ。さっきマフラー巻いてる子……吹雪くんだっけ。彼がナニワランドへ入ってくのを見たよ」
「え!」
「じゃあ、またね」
「え、ちょっ!」
呼び止めたけど行ってしまった。……なんだろ、上手くかわされたというか流されたというか。あまり話せなかったからとか言ってた割には、今回もろくに話してないのに。
とりあえずしろ君の様子を見に行こう。行き先は修練場ってことは、特訓してるに違いない。自販機で買ったスポドリを片手に向かえば、案の定しろ君がいた。
ドアを開けて部屋に入ってみても、しろ君はシュートを撃ち続けている。暫く待ってみても一度も振り向かないあたり本当に気づいてないみたいだ。
どれだけここにいたんだろう。しろ君は汗びっしょりで、ギラギラとした目でマシンを睨みつけてはボールを蹴り出す。練習しっぱはなしで休憩もとってないかもしれない。
「し、しろ君」
「……なんだ、美波か。何しに来た」
「夜まで特訓お疲れ!少し休憩しない?喉渇いてるでしょ。スポドリ持ってきた」
「そこ置いとけ」
それだけ言ってしろ君はマシンに向き直ってしまった。このまま放っておくと休まず続けそうで、何度声をかけても、無視。……こうなったら!
後ろからそーっと近づいて、あたしの気配に気づいたしろ君が振り向く前に飛びつく。そして驚きから気が抜けてるしろ君を強制的にマシンの前から引き離す。
「おい離せ!」
「いいから休憩!明日は試合なのに疲れを残したら元も子もないじゃん!」
「うるせえ!これくらいどうってことねえよ!」
「大体さあ君はアツヤでも体はしろ君なんでしょ!もっとしろ君に気遣ってあげてよ!」
「っ、だからオレは完璧になる為にいる!士郎の為に!邪魔すんな!」
「だから自分のことも気遣ってって言ってるの!どっちも吹雪士郎じゃん!」
「……お前」
「だってアツヤはアツヤでもしろ君が作ったアツヤならしろ君でもあってしろ君はアツヤで、ん?あれ?」
「……ただのアホか」
「アホって言わないで!でやあ!」
しろ君……いやアツヤにタオルを被せてもみくちゃにする。暫く抵抗されたけど諦めずに続けていれば、観念したのかアツヤは暴れるのをやめた。
落ち着いたところで汗を拭いていく。案の定、髪もユニフォームも湿っていた。せっかく銭湯で汗を流してきたのに。……マフラーは洗った方がいいのかな。
アツヤが顔を上げた。タオルの下から覗く瞳は、金色に光っていた。
「……んだよ」
「何でもないっ!」
タオルとボトルを押し付けて座らせる。そしてあたしはマシンの前へ。少なくともあたしが使ってる間は休憩出来るはずだ。
散らばってるボールを集めてシュートを撃つ。でもあたしの足じゃ蹴っても蹴ってもマシンの回転に跳ね返されるだけだった。難しいなこれ。もうちょっとレベル落として……。
「下手くそ」
「……そんなのわかってあだっ!」
振り返って反論しようとしたら跳ね返ったボールが後頭部に直撃した。痛い。じんじんする。思わず手で押さえて踞れば、噛み殺した笑い声が聞こえてきた。
振り向けばアツヤと目が合った。と思えば被ったタオルで顔を隠して見えなくなった。けれど小刻みに震えてるから見えなくても分かる。
「笑わないでよ!」
「……笑ってねえよ」
「今の間何!?あーもー!……下手くそだから練習するんだよ!」
グレネードショットはライセンス試験の時に、アクアストリームもあとちょっとでジェミニストームから点を取れた。
でもまだ足りない。イプシロンに勝つには、もっともっと強いシュートが必要になる。それこそ、エターナルブリザードのような。そんなシュートが撃てるようになれたら。
そう話したらアツヤは鼻で笑うと、まずディフェンスをなんとかしろよと言われてしまった。本来のポジションを疎かにするなと言いたいんだと思う。多分。
「でもやれることが多いに越したことないから」
「器用貧乏にならないようにせいぜい気を付けろよ」
「しろ君くらいのディフェンス力も身に付けるから!」
「どうだかな」
「ちょっとくらい応援してくれても……あ、そうだ!アツヤがあたしにシュート撃って!それをあたしが止める!」
「それじゃオレの練習にならねえだろ」
「ああ言えばこう言う!」
夕弥といいあたしの扱いが雑な気がする。言い返してもどこ吹く風なアツヤは立ち上がるとボールを手に取った。また特訓をするつもりなんだ。
「遅いしそろそろ休もうよ」
「休んでられるか。勝つ為には点が必要なんだ」
「それはそうだけど、サッカーはそれだけじゃない。攻めと守りがあってこそなのはアツヤもしろ君も知ってるでしょ」
「……それは」
「だから皆で力を合わせてさ、頑張ろう?」
「っ!オレじゃデザームのゴールは破れないって言いたいのか!」
「なっ、そんなこと言ってないじゃん!」
「雷門のエースはオレだ!オレが……シュートを決められなきゃ意味がねえ。その為にオレはいる。完璧になる為に!」
「だっから……オレがオレがって、仲間を頼れって言ってんの!」
まるでプレーが自分だけで完結してるみたいな言い方だ。シュートを止めるのは誰だ。ボールを前線へ繋ぐのは誰だ。パスを受けるには、パスを出す選手がいなきゃ始まらない。
……分かってる。今の雷門はオフェンスもディフェンスも一人の選手に寄りかかってるチームだ。そしてしろ君は皆の期待に応えようとしている。頼らないんじゃない。……頼れないんだ。
染岡もいなくなって、足りない部分を補うしろ君の負担が増えている。それでもしろ君は文句一つ言わない。うん。大丈夫。やれるよって、笑って背負ってしまう。
悔しい。頼ってもらえるだけの力の無い自分が情けなくて泣きたくなる。強くなりたい。しろ君が抱え込まずに済むくらい、今よりもっと、強く……。
「……ごめん」
腕を振り上げたアツヤの動きが止まった。
「……美波、ちゃん」
そこには戸惑っているような青い瞳があった。しろ君だ。
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――美波のへたくそ
――ボールが……どうしよう……
――危ない!
――絶対、離さない!
「……夢?」
明日の試合を思うとなかなか寝付けなくて、キャラバンの上に転がって星空を見ていたら、いつの間にかうたた寝してたみたいだ。夢に見たのは、お日さま園に通っていた頃。
あれはサッカーをして遊んでた時のことだ。蹴り上げたボールが木の枝に引っかかって、それを取りに登ったら落ちかけて……。落ちないように必死で掴んだっけ。
それはさておき、流石にここで寝るのはまずい。テントに戻らないと。そう思いつつもなんとなく起き上がる気になれなくて寝返りをうつと、ポケットからブレスレットが落ちた。
しろ君から貰ったブレスレット。手首に通して翳してみる。何でしろ君はあたしにくれたんだろ。
旅に出てから色々あったなあ。しろ君、明王ちゃんと再会した。……豪炎寺と染岡が離脱した。それからヒロト君とリュウジと風介と話して……あ、まだヒロト君にタオル返してないや。
「ヒロト君……」
「俺がどうかした?」
「うわあああああ!!!」
ブレスレットから視線を外して上を見たらヒロト君の顔が。慌てて体を起こすっていうか何でここにいるの!?てかここキャラバンの上!
「やあ。また驚かせちゃったかな」
「驚いた驚いた!何でここに?」
「そうだな……あ、美波ちゃんに呼ばれた気がしたから?」
「へえ」
「あ、信じてないね。まあ、ほら。この前はあまり話せなかったからさ。美波ちゃんは俺に会えて嬉しくない?」
「それは嬉しい、けど」
そんな風に言われたら嬉しくないとは言えない。いや別に、本当に嬉しくないって訳でも……敵同士って考えたら会わない方がいいのかな?
とはいえ会うも会わないもヒロト君次第だし、こうも神出鬼没だとどうしようもない。雷門とエイリア学園は敵だとしても、あたしとヒロト君は友達だから良しってことで!
……あ、そうだ借りてたタオル!ヒロト君に待ってて貰って、皆を起こさないようにタオルを取ってくる。
「はいこれ」
「あ……」
「丁度良かった。返さないとって思ってたからさ」
「……美波ちゃん。よかったらこのタオル、まだ君に持ってて欲しいんだ」
「え?」
「ああ、そうだ。さっきマフラー巻いてる子……吹雪くんだっけ。彼がナニワランドへ入ってくのを見たよ」
「え!」
「じゃあ、またね」
「え、ちょっ!」
呼び止めたけど行ってしまった。……なんだろ、上手くかわされたというか流されたというか。あまり話せなかったからとか言ってた割には、今回もろくに話してないのに。
とりあえずしろ君の様子を見に行こう。行き先は修練場ってことは、特訓してるに違いない。自販機で買ったスポドリを片手に向かえば、案の定しろ君がいた。
ドアを開けて部屋に入ってみても、しろ君はシュートを撃ち続けている。暫く待ってみても一度も振り向かないあたり本当に気づいてないみたいだ。
どれだけここにいたんだろう。しろ君は汗びっしょりで、ギラギラとした目でマシンを睨みつけてはボールを蹴り出す。練習しっぱはなしで休憩もとってないかもしれない。
「し、しろ君」
「……なんだ、美波か。何しに来た」
「夜まで特訓お疲れ!少し休憩しない?喉渇いてるでしょ。スポドリ持ってきた」
「そこ置いとけ」
それだけ言ってしろ君はマシンに向き直ってしまった。このまま放っておくと休まず続けそうで、何度声をかけても、無視。……こうなったら!
後ろからそーっと近づいて、あたしの気配に気づいたしろ君が振り向く前に飛びつく。そして驚きから気が抜けてるしろ君を強制的にマシンの前から引き離す。
「おい離せ!」
「いいから休憩!明日は試合なのに疲れを残したら元も子もないじゃん!」
「うるせえ!これくらいどうってことねえよ!」
「大体さあ君はアツヤでも体はしろ君なんでしょ!もっとしろ君に気遣ってあげてよ!」
「っ、だからオレは完璧になる為にいる!士郎の為に!邪魔すんな!」
「だから自分のことも気遣ってって言ってるの!どっちも吹雪士郎じゃん!」
「……お前」
「だってアツヤはアツヤでもしろ君が作ったアツヤならしろ君でもあってしろ君はアツヤで、ん?あれ?」
「……ただのアホか」
「アホって言わないで!でやあ!」
しろ君……いやアツヤにタオルを被せてもみくちゃにする。暫く抵抗されたけど諦めずに続けていれば、観念したのかアツヤは暴れるのをやめた。
落ち着いたところで汗を拭いていく。案の定、髪もユニフォームも湿っていた。せっかく銭湯で汗を流してきたのに。……マフラーは洗った方がいいのかな。
アツヤが顔を上げた。タオルの下から覗く瞳は、金色に光っていた。
「……んだよ」
「何でもないっ!」
タオルとボトルを押し付けて座らせる。そしてあたしはマシンの前へ。少なくともあたしが使ってる間は休憩出来るはずだ。
散らばってるボールを集めてシュートを撃つ。でもあたしの足じゃ蹴っても蹴ってもマシンの回転に跳ね返されるだけだった。難しいなこれ。もうちょっとレベル落として……。
「下手くそ」
「……そんなのわかってあだっ!」
振り返って反論しようとしたら跳ね返ったボールが後頭部に直撃した。痛い。じんじんする。思わず手で押さえて踞れば、噛み殺した笑い声が聞こえてきた。
振り向けばアツヤと目が合った。と思えば被ったタオルで顔を隠して見えなくなった。けれど小刻みに震えてるから見えなくても分かる。
「笑わないでよ!」
「……笑ってねえよ」
「今の間何!?あーもー!……下手くそだから練習するんだよ!」
グレネードショットはライセンス試験の時に、アクアストリームもあとちょっとでジェミニストームから点を取れた。
でもまだ足りない。イプシロンに勝つには、もっともっと強いシュートが必要になる。それこそ、エターナルブリザードのような。そんなシュートが撃てるようになれたら。
そう話したらアツヤは鼻で笑うと、まずディフェンスをなんとかしろよと言われてしまった。本来のポジションを疎かにするなと言いたいんだと思う。多分。
「でもやれることが多いに越したことないから」
「器用貧乏にならないようにせいぜい気を付けろよ」
「しろ君くらいのディフェンス力も身に付けるから!」
「どうだかな」
「ちょっとくらい応援してくれても……あ、そうだ!アツヤがあたしにシュート撃って!それをあたしが止める!」
「それじゃオレの練習にならねえだろ」
「ああ言えばこう言う!」
夕弥といいあたしの扱いが雑な気がする。言い返してもどこ吹く風なアツヤは立ち上がるとボールを手に取った。また特訓をするつもりなんだ。
「遅いしそろそろ休もうよ」
「休んでられるか。勝つ為には点が必要なんだ」
「それはそうだけど、サッカーはそれだけじゃない。攻めと守りがあってこそなのはアツヤもしろ君も知ってるでしょ」
「……それは」
「だから皆で力を合わせてさ、頑張ろう?」
「っ!オレじゃデザームのゴールは破れないって言いたいのか!」
「なっ、そんなこと言ってないじゃん!」
「雷門のエースはオレだ!オレが……シュートを決められなきゃ意味がねえ。その為にオレはいる。完璧になる為に!」
「だっから……オレがオレがって、仲間を頼れって言ってんの!」
まるでプレーが自分だけで完結してるみたいな言い方だ。シュートを止めるのは誰だ。ボールを前線へ繋ぐのは誰だ。パスを受けるには、パスを出す選手がいなきゃ始まらない。
……分かってる。今の雷門はオフェンスもディフェンスも一人の選手に寄りかかってるチームだ。そしてしろ君は皆の期待に応えようとしている。頼らないんじゃない。……頼れないんだ。
染岡もいなくなって、足りない部分を補うしろ君の負担が増えている。それでもしろ君は文句一つ言わない。うん。大丈夫。やれるよって、笑って背負ってしまう。
悔しい。頼ってもらえるだけの力の無い自分が情けなくて泣きたくなる。強くなりたい。しろ君が抱え込まずに済むくらい、今よりもっと、強く……。
「……ごめん」
腕を振り上げたアツヤの動きが止まった。
「……美波、ちゃん」
そこには戸惑っているような青い瞳があった。しろ君だ。
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