第24話 うなれ!正義の鉄拳!!
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夜、キャラバンの上に登ると、あたし的には珍しく鬼道がいた。
「美波?」
「あ、鬼道だ。珍しいね」
「珍しくて悪かったな」
「いやそんな変な意味じゃないよ」
「俺だってここに登る時くらいある」
前にも守兄とここで話したとかなんだとか。気に障ったのかなんなのか、鬼道は意地の悪い笑みを浮かべてこっちを見ている。
今日は諦めて退散しようと思ったら、鬼道の手が伸びてきて、腕を掴まれて勢いよく引っ張られた。
「ちょっ、いきなり引っ張らないでよ!」
「別に降りることはないだろう。邪魔だと言うなら俺が降りるが」
「そんなことはないけどさ」
ま、いっか。いつもみたいに寝転がって空を見上げる。
「ここにはよく来るのか」
「うん、星見てるんだ。綺麗だから。ここね、星見るには特等席なんだよ」
「そうか」
「星の光ってさ、ここまで届くのには凄い時間がかかって、今見てる星はもうないかもしれないんだよね」
「今俺はお前がそれを知っていることに驚いている」
「失礼だな!教えてもらったんだよ!」
「ほう」
……教えてくれたのはヒロト君だった。お日さま園に泊まって、一緒に星を見ようって、望遠鏡を覗いたりもしたっけ。
「なあ」
「ん?どしたの」
「今日、佐久間と源田から連絡があったんだ」
「え、さっ君と源田から!?」
「ああ。あの時の怪我だが、回復に向かっているらしい」
「本当!?」
「嘘を言ってどうする」
呆れたような目で見られたけど気にしない。二人のことは気になってはいたけど、事が事だから万が一を思うと……連絡を取るのが少し怖くて全然だった。
よかった。二人共、怪我治るんだ。またサッカー出来るんだ!きっと鬼道も嬉しいんだろうなって顔を見たら、何故かその表情は暗かった。
「鬼道?」
「何だ」
「何かあったなら聞くよ?」
一瞬だけ鬼道は体を揺らすと、躊躇いがちに口を開いた。
「他に方法があったんじゃないかと時々考える。佐久間が皇帝ペンギン1号を撃たず、源田がビーストファング使うこともない方法が」
「鬼道……」
「……そしてその度に奴を、影山を思い出す。俺はまだ、あいつに囚われたままなのかと……」
影山は悪人だ。沢山の人を傷つけてきた酷い奴だ。でも鬼道にとっては恩師でもあったんだから、本当は内心複雑なんだろうな。
鬼道は帝国サッカー部で、その帝国の監督で総帥は影山だった。幼い頃から指導を受けていたという鬼道。鬼道のサッカーには、影山が大きく関わっている。
……鬼道がサッカーを続ける限り、影山とのことは嫌でもつきまとってくるのかもしれない。
「鬼道は鬼道なりに頑張ったんでしょ!全力を尽くした!それに正解も不正解もない!」
「……」
「二人の怪我が治ったらさ、またサッカーやろう!帝国と練習試合でも組んでさ!」
「美波……」
「あ、でも鬼道は久しぶりに帝国の皆とプレーしたい?今でも仲間だって言ってたもんね。ちょっとさっ君達が羨ましいかも」
「……フ、お前という奴は」
だってそうだ。鬼道が雷門に来てまだ半年も経ってない。それどころか半年前なんて弱小サッカー部扱いされてた頃まで遡るし、鬼道とは会ってすらない。
雷門の鬼道より帝国の鬼道の方がずっと長い。当然だ。こうして考えると、鬼道との付き合いってまだ短いな。豪炎寺も土門も一之瀬もそう。2年になってから毎日が濃いとつくづく思う。
ボールを蹴れば思いは伝わるし、繋いだパスの数だけ相手を知れる。いつの間にかいて当たり前の存在になっていた。青いマントだって、すっかり見慣れてしまっていて。
「帝国には負けないよ!」
「何がだ。……時に美波」
「どしたの鬼道」
「俺はお前にタオルを貸した覚えはないのだが」
一瞬思考が止まった。そういえば、そんなことあったっけ。すっかり忘れてた。
「……しろ君?」
「ああ。とりあえず話は合わせて俺が貸したということにしておいた」
「あ、ありがとう!助かった!」
「持ち主は基山ヒロトか」
「えっ、な、何で」
「イニシャルがK。俺でも風丸でも壁山、栗松でもないなら消去法だ」
「瞳子監督の可能性もあるよ」
「その言い方では答えを言っているようなものだろう」
「うっ」
駄目だ。鬼道相手じゃ何を言っても逆効果にしかならない。
「珍しいな」
「そうかな?」
「こういう時、まず美波が頼るのは風丸だと思っていた」
「……分かんない。あの時の一郎太に頼りたくなかったのかな」
「俺はいいのか」
「咄嗟に出たのが鬼道だっただけ!でも合わせてくれて助かった!結果的には鬼道にして良かったよ」
ちょっとだけ笑った鬼道が腕を伸ばしてくる。またつねられるかとギュッと目を瞑ったら、普通に頭を撫でられた。
「……あれ?」
「もう遅い。戻った方がいいな」
「へ、え?」
鬼道のマントが靡いて、キャラバンの下に消えていく。え、鬼道、今あたしの頭撫でた?
「ちょっと置いてかないでよー!あと何で撫でたの!」
「……昔の春奈を思い出したんだ」
「子供扱い良くない!」
「俺達は子供だろう」
「そういうことじゃなくて!」
「美波のディフェンスは頼りにしている」
「えっ鬼道があたしのこと褒めた……。明日は槍でも降るのかな」
「ならお前を盾にでもするか」
「ごめん怒らないで」
「怒ってない」
「あーん、そんなに嫌だった?」
「もういい」
「からかっただけじゃん!」
「寝ろ」
「はい……」
***
次の日、サーフィンの腰の動きをマスターした守兄が、あの感覚を忘れないうちにと正義の鉄拳に挑戦することになった。
「「ツインブースト!」」
「正義の鉄拳!」
右腕を振りかぶって左足を上げた守兄が、勢いよく右腕を突き出すと、シュートは弾き飛ばされた。
完成したんだ!皆が駆け寄ってあたしも行こうとしたら、立向居の言葉が耳に入ってきた。
「なんだろう、この感じ」
「どうかした?」
「いえ、何も……」
不思議そうな顔の立向居。あたしには分からないけど、キーパーの立向居には何か感じるものがあったのかもしれない。
上手く言葉に出来ないのか立向居は口を閉じてしまったけど、それが分かればもっと強くなれる。そう思って聞こうとした時、風を切るような何かが落ちてくる音がした。
その時、ヒュンと音を響かせながら、黒いサッカーボールが落ちてきた。そんな、このタイミングで!
「イプシロン!」
充血しているような彼らの爛々とした赤い目に寒気がして、体が強張る。
究極奥義は完成したばかり。それでも、やるしかないんだ……!
→あとがき
「美波?」
「あ、鬼道だ。珍しいね」
「珍しくて悪かったな」
「いやそんな変な意味じゃないよ」
「俺だってここに登る時くらいある」
前にも守兄とここで話したとかなんだとか。気に障ったのかなんなのか、鬼道は意地の悪い笑みを浮かべてこっちを見ている。
今日は諦めて退散しようと思ったら、鬼道の手が伸びてきて、腕を掴まれて勢いよく引っ張られた。
「ちょっ、いきなり引っ張らないでよ!」
「別に降りることはないだろう。邪魔だと言うなら俺が降りるが」
「そんなことはないけどさ」
ま、いっか。いつもみたいに寝転がって空を見上げる。
「ここにはよく来るのか」
「うん、星見てるんだ。綺麗だから。ここね、星見るには特等席なんだよ」
「そうか」
「星の光ってさ、ここまで届くのには凄い時間がかかって、今見てる星はもうないかもしれないんだよね」
「今俺はお前がそれを知っていることに驚いている」
「失礼だな!教えてもらったんだよ!」
「ほう」
……教えてくれたのはヒロト君だった。お日さま園に泊まって、一緒に星を見ようって、望遠鏡を覗いたりもしたっけ。
「なあ」
「ん?どしたの」
「今日、佐久間と源田から連絡があったんだ」
「え、さっ君と源田から!?」
「ああ。あの時の怪我だが、回復に向かっているらしい」
「本当!?」
「嘘を言ってどうする」
呆れたような目で見られたけど気にしない。二人のことは気になってはいたけど、事が事だから万が一を思うと……連絡を取るのが少し怖くて全然だった。
よかった。二人共、怪我治るんだ。またサッカー出来るんだ!きっと鬼道も嬉しいんだろうなって顔を見たら、何故かその表情は暗かった。
「鬼道?」
「何だ」
「何かあったなら聞くよ?」
一瞬だけ鬼道は体を揺らすと、躊躇いがちに口を開いた。
「他に方法があったんじゃないかと時々考える。佐久間が皇帝ペンギン1号を撃たず、源田がビーストファング使うこともない方法が」
「鬼道……」
「……そしてその度に奴を、影山を思い出す。俺はまだ、あいつに囚われたままなのかと……」
影山は悪人だ。沢山の人を傷つけてきた酷い奴だ。でも鬼道にとっては恩師でもあったんだから、本当は内心複雑なんだろうな。
鬼道は帝国サッカー部で、その帝国の監督で総帥は影山だった。幼い頃から指導を受けていたという鬼道。鬼道のサッカーには、影山が大きく関わっている。
……鬼道がサッカーを続ける限り、影山とのことは嫌でもつきまとってくるのかもしれない。
「鬼道は鬼道なりに頑張ったんでしょ!全力を尽くした!それに正解も不正解もない!」
「……」
「二人の怪我が治ったらさ、またサッカーやろう!帝国と練習試合でも組んでさ!」
「美波……」
「あ、でも鬼道は久しぶりに帝国の皆とプレーしたい?今でも仲間だって言ってたもんね。ちょっとさっ君達が羨ましいかも」
「……フ、お前という奴は」
だってそうだ。鬼道が雷門に来てまだ半年も経ってない。それどころか半年前なんて弱小サッカー部扱いされてた頃まで遡るし、鬼道とは会ってすらない。
雷門の鬼道より帝国の鬼道の方がずっと長い。当然だ。こうして考えると、鬼道との付き合いってまだ短いな。豪炎寺も土門も一之瀬もそう。2年になってから毎日が濃いとつくづく思う。
ボールを蹴れば思いは伝わるし、繋いだパスの数だけ相手を知れる。いつの間にかいて当たり前の存在になっていた。青いマントだって、すっかり見慣れてしまっていて。
「帝国には負けないよ!」
「何がだ。……時に美波」
「どしたの鬼道」
「俺はお前にタオルを貸した覚えはないのだが」
一瞬思考が止まった。そういえば、そんなことあったっけ。すっかり忘れてた。
「……しろ君?」
「ああ。とりあえず話は合わせて俺が貸したということにしておいた」
「あ、ありがとう!助かった!」
「持ち主は基山ヒロトか」
「えっ、な、何で」
「イニシャルがK。俺でも風丸でも壁山、栗松でもないなら消去法だ」
「瞳子監督の可能性もあるよ」
「その言い方では答えを言っているようなものだろう」
「うっ」
駄目だ。鬼道相手じゃ何を言っても逆効果にしかならない。
「珍しいな」
「そうかな?」
「こういう時、まず美波が頼るのは風丸だと思っていた」
「……分かんない。あの時の一郎太に頼りたくなかったのかな」
「俺はいいのか」
「咄嗟に出たのが鬼道だっただけ!でも合わせてくれて助かった!結果的には鬼道にして良かったよ」
ちょっとだけ笑った鬼道が腕を伸ばしてくる。またつねられるかとギュッと目を瞑ったら、普通に頭を撫でられた。
「……あれ?」
「もう遅い。戻った方がいいな」
「へ、え?」
鬼道のマントが靡いて、キャラバンの下に消えていく。え、鬼道、今あたしの頭撫でた?
「ちょっと置いてかないでよー!あと何で撫でたの!」
「……昔の春奈を思い出したんだ」
「子供扱い良くない!」
「俺達は子供だろう」
「そういうことじゃなくて!」
「美波のディフェンスは頼りにしている」
「えっ鬼道があたしのこと褒めた……。明日は槍でも降るのかな」
「ならお前を盾にでもするか」
「ごめん怒らないで」
「怒ってない」
「あーん、そんなに嫌だった?」
「もういい」
「からかっただけじゃん!」
「寝ろ」
「はい……」
***
次の日、サーフィンの腰の動きをマスターした守兄が、あの感覚を忘れないうちにと正義の鉄拳に挑戦することになった。
「「ツインブースト!」」
「正義の鉄拳!」
右腕を振りかぶって左足を上げた守兄が、勢いよく右腕を突き出すと、シュートは弾き飛ばされた。
完成したんだ!皆が駆け寄ってあたしも行こうとしたら、立向居の言葉が耳に入ってきた。
「なんだろう、この感じ」
「どうかした?」
「いえ、何も……」
不思議そうな顔の立向居。あたしには分からないけど、キーパーの立向居には何か感じるものがあったのかもしれない。
上手く言葉に出来ないのか立向居は口を閉じてしまったけど、それが分かればもっと強くなれる。そう思って聞こうとした時、風を切るような何かが落ちてくる音がした。
その時、ヒュンと音を響かせながら、黒いサッカーボールが落ちてきた。そんな、このタイミングで!
「イプシロン!」
充血しているような彼らの爛々とした赤い目に寒気がして、体が強張る。
究極奥義は完成したばかり。それでも、やるしかないんだ……!
→あとがき