大海原からのキックオフで試合は始まった。その場でリフティングして、回転してのパス回しは、まるでパフォーマンスだ。

一見必要のない動きに見えるけど、これが大海原のプレー？楽しそうではあるけれど……。


「皆ノってんな！俺様も負けてらんねえぜ！」


そして突っ走った条兄は横っ跳び。逆さまの体勢で、ボールを足に挟んでパスを受け取った。

空中にあるボールをあんなに勢いつけて取るなんて。動きに無駄が多いし必要かは別として、凄いバランス感覚！

それにしても全然攻めてこないから調子が狂う。……いや、大海原のペースに呑まれてる？

そう思った矢先に、音村の指示が飛んだ。アップテンポに８ビート。アンダンテ、２ビートダウン。

雷門のディフェンスは機能せずにかわされて、気づけば上がってきたディフェンダーがシュート体勢に入っていた。いつの間に！？

センターサークルから放たれたイーグルバスター。不意を突かれはしたけど、守兄はマジン・ザ・ハンドでセーブする。

止められたにも関わらず大海原イレブンはノリノリで、大海原の監督も守兄のことを褒めた。

ノリはちょっと不思議だけど、好プレーを敵味方関係無く褒めるのは、気持ちがよくて良いチームだな。

守兄からボールを受け取ったリカが上がって、条兄をあっさりかわした。動きは凄いけど、やっぱりまだ隙が多い。


「行くで美波！」

「うん！」

「１６ビート！」

「え？」


パスはあたしがトラップする前にカットされた。それを皮切りに、攻め込もうにも雷門はパスが繋がらなくなった。

ボールは取られるし、かわされるし。タイミングが何でか上手く合わない。……タイミング？

そういえばアンダンテって、意味は忘れたけど音楽の用語だ。教科書で見たことがある。ビートもそう。

そして指示を出しているのは音村。まさか、あたし達のタイミングを計って指示してる？

試合のペースは大海原に完全に持ってかれてしまった。さっきから無駄に体力を消耗してくばかりだ。大海原はまだ余裕そうだし……。

シュートは守兄が防いでるけど、攻めるのがこう上手くいかないままじゃ勝てない。

その時、鬼道が皆を集めた。


「何か分かったの？鬼道」

「アイツらは俺達のリズムを計っているんだ」

「リズムを計ってる？」

「そうだ」

「だから音村は音楽用語を言ってたんだね」

「俺達が抜こうとしたりチャージをかけようとした瞬間に、奴はプレイにリズムを割り出し、そこから逆算して仲間に指示を出している」

「それでいくらやってもボールが取れなかったのか」

「でも瞬間にって、そんなの何秒もないぞ。一瞬でリズムなんて本当に計れるのか？」

「アイツにはな。恐ろしいリズム感だ。いいな、皆。少しずつタイミングをずらしていくぞ」



成る程ね。タイミングをずらせば、リズムが崩れるって訳だ！流石は天才ゲームメーカー！

音村は直ぐリズムを計って指示を飛ばすから、こっちもタイミングをずらすのはギリギリじゃなくちゃならない。

結構難しいけど、相手に読ませないプレーをするのはいい特訓になる！


「８ビート！」


またビートだ。意味は分からないけど音村の指示は的確で、大海原はノリの良さに反して、指示通りきっちりとボールを奪いに来る。

対する鬼道は、ディフェンス突破の動きを少し遅らせると、見事かわしてみせた。ボールはそのまま一之瀬に繋がる。


「美波！」

「塔子！リカ！」

「任せとき！」

「行くよ！」

「「バタフライドリーム！！」」


キラキラと輝くアゲハ蝶が飛んだかと思えば、ふわりとキーパーをかわしてゴールをもぎ取った。

雷門の先制点。ここで丁度ホイッスルが鳴って、雷門のリードで前半は終わった。


「皆さんやりましたね！先制点ですよ！」

「ああ。でも大海原もやるよな。流石、フットボールフロンティア地区予選決勝までいっただけの事はあるぜ！」

「あのノリにはちょっとびっくりしたけど、プレーは堅実だよね」

「楽しむ為には相応の実力がいる。あのプレーは、それだけの基盤が出来てるからこそなんだろうね」

「いい事言うなあ一之瀬は」

「よーし、俺達も楽しんでいこうぜ！」

『おーっ！』


ジェネシスやプロミネンスの事もあって、チームは落ち込んだ空気だったけど、いい気分転換になってる。この調子だ！


「あれ。立向居、息切れてるみたいだけど大丈夫？」

「は、はい。大丈夫です」

「勘が戻るまでガンガン頼っていいからね」

「はい！」


雷門からのボールで後半開始。大海原の動きを見破って先制出来たのもあって、皆を勢いを取り戻してる。

と思った矢先、立向居が受けようとしたパスを弾いてしまった。ボールは塔子が拾ってキープしたけど、それを見た音村が動いた。

リズミカルにボールを奪取した音村が攻めてくる。ディフェンスに入った立向居と、そのフォローに回った塔子も逆を突かれてしまった。


「行かせるか！荒波！」

「リズムが狂ったね……そこだ！」

「あ……！」


鋭いキラーパスを波は捕え切れなかった。それでもシュートは守兄が止めて、持ち込んだ一之瀬がブロックに来た条兄をかわす。

かと思ったら、立向居へのパスをまた音村がカットした。何、この噛み合ってない感じ。急に動きが悪くなった……？

流れを奪い返されるのはあっという間の事で、また攻めきれない状況に逆戻りだ。

勢いづいた大海原は、土の壁を隆起させると、ノーエスケイプで一之瀬からボールをかっさらった。


「勝負はこれからさ！みんなガンガンノッてくぜ！」


俄然勢いづく大海原に、押されている雷門。勝負の行方は、まだまだ分からない。




→あとがき