籠球×庭球
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クロコッチなる人物の偉大さを延々と語られながら、私は黄瀬涼太の隣で電車に揺られている。何故こんなことになったのか。
ホームルームが終わり、部活に行く準備をしていると、視界に影がかかるのを感じて顔を上げた。得意満面の黄瀬が東京に行こうと言い出した。当然私は拒否したのだが、半ば無理やり手を引かれて東京・誠凛高校に向かうことになってしまった。
なんでも、クロコッチとやらは黄瀬の中学時代の大親友でキセキの世代の一人であるらしい。全国大会が終わった後に突如部活を辞めてしまったそうだ。その人物の進学先が次の練習試合を組んだ誠凛高校なので挨拶に行きたい、ということだった。兄や監督の許可も取らずに勝手をするやつだなと思ったが、結局私も黄瀬がやたらに推すクロコッチに興味が湧き、最終的には同伴することにした。戻ったら兄からきつくお灸を据えられることだろう。
誠凛の体育館に我が物顔で入り込む黄瀬の隣を歩く。誠凛バスケ部は既に練習を始めていて、赤い髪のガタイのいい男の子がダンクシュートを決めていた。素人目にも、飛び抜けて才覚があるとわかる。黄瀬を見上げてみると少し感心したような顔をしていた。
しばらくして、一人の女子生徒が集合をかけた。号令に集まる部員の中に、どこかで見た顔を見つけた。三白眼の、ちょっと猫っぽい男だ。どこで会ったのだろうと思考を巡らせていると、
「モデルの黄瀬君ですか!?」
女の子が黄瀬に話しかけてきた。気がつけば体育館に女の子の行列ができていた。黄瀬は女の子にねだられてせっせとサインを書いていた。顔がいいのも考えものだな。
「こんなつもりじゃなかったんだけど…」
ここでようやく誠凛が私たちに気がついた。
お久しぶりです、と存在感の薄い少年が黄瀬に話しかけていた。彼がクロコッチとやらだろう。
「スイマセン…5分待ってもらっていいっスか」
黄瀬はまだサインを書いていた。律儀なやつである。
「笠松さんにも書いてあげよっか」
ついでだし、と最後のサインを書きながら黄瀬が言う。私は別にいらなかったが、弦一郎の部屋に黄瀬のサインが飾ってあったら面白いだろうなと思ったので、「じゃあ欲しい」とメモ帳を差し出した。
「弦一郎君へって入れてくれ」
「ゲンイチロウ君って誰…?」
黄瀬は突如飛び出してきた男の名前に若干引いていたが「漢字どういう風に書くんスか?」などと聞いてきた。本当に律儀なやつである。
その後、黄瀬とクロコッチが別に仲良くなかった(黄瀬が一方的に親友認定していた)ことが発覚したり、赤い髪の子が黄瀬に勝負を挑んで負けたりした。そして…
「黒子っちください」
急に黄瀬がクロコッチをスカウトし始めた。色々と御託を並べていたが、要は誠凛程度の実力の学校にクロコッチはもったいない、ということだった。
しかし、
「丁重にお断りさせて頂きます」
あっさり断られていた。
「そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん」
クロコッチに食って掛かる黄瀬の言葉に、引っかかるものを感じた。帝光中の理念、絶対勝利。兄から少し聞いた。立海大の“常勝”にも通じるそれに、かつての私たちを重ねてしまった。私たちにとって、常勝なんて本当は後付けだった。私たちは、精市の帰りを待つために、精市に胸を張っておかえりと言うために、ただそれだけのために、“常勝”立海大というスローガンを都合よく利用しただけだ。彼らは、帝光中は、キセキの世代は、黄瀬涼太は、なんのために絶対勝利を掲げたのだろうか。なんのために勝つことが全てだったのだろうか。
「あー!思い出した!」
急な大声に驚いた。見ると、猫に似た顔の男が私を指さしていた。
「“常勝”王者立海大の!…毛利君とスッゲー喧嘩してたマネージャーの子!」
あまり聞きたくない名前を出され、顔が引きつった。が、これで彼のことを思い出した。
「柿ノ木中の、小金井さん、ですか?」
「うわー、覚えててくれたんだ」
すみません、ついさっきまで思い出せずにいました。とは言えずに曖昧に微笑んだ。
「小金井君、知ってるの?」
「立海大附属中、全国大会出場常連の、テニスでいうとこの帝光中みたいな学校だよ。去年立海は全国準優勝だったけど、部長の幸村君の難病からの奇跡の大復活とか、俺もテニス離れちゃってたけどもう感動ものでさー。さっすが神の子…」
「小金井さん」
興奮気味に語る小金井さんの言葉を遮る。
「あ…ごめんね。立海の子は不安だったよね、部長があんな…」
「いえ、お気遣いありがとうございます。それに、精市…幸村はもう完治してますから」
小金井さんに悪気がないのは理解している。傍から見れば、小金井さんのような感想を抱くのは不思議ではない。だが、あいつの、精市の死に物狂いのリハビリの日々や、精市の罵倒を何も言わずに受け止め続けた弦一郎の献身を“奇跡の復活”なんて安っぽい言葉で表現されたくはなかった。
「うちの部員がお騒がせしました。練習試合、楽しみにしています」
一つお辞儀をして、黄瀬の腕を引いた。黄瀬は不服そうな顔をしていたが、早く帰ろうと私が言うと大人しく続いてくれた。
ホームルームが終わり、部活に行く準備をしていると、視界に影がかかるのを感じて顔を上げた。得意満面の黄瀬が東京に行こうと言い出した。当然私は拒否したのだが、半ば無理やり手を引かれて東京・誠凛高校に向かうことになってしまった。
なんでも、クロコッチとやらは黄瀬の中学時代の大親友でキセキの世代の一人であるらしい。全国大会が終わった後に突如部活を辞めてしまったそうだ。その人物の進学先が次の練習試合を組んだ誠凛高校なので挨拶に行きたい、ということだった。兄や監督の許可も取らずに勝手をするやつだなと思ったが、結局私も黄瀬がやたらに推すクロコッチに興味が湧き、最終的には同伴することにした。戻ったら兄からきつくお灸を据えられることだろう。
誠凛の体育館に我が物顔で入り込む黄瀬の隣を歩く。誠凛バスケ部は既に練習を始めていて、赤い髪のガタイのいい男の子がダンクシュートを決めていた。素人目にも、飛び抜けて才覚があるとわかる。黄瀬を見上げてみると少し感心したような顔をしていた。
しばらくして、一人の女子生徒が集合をかけた。号令に集まる部員の中に、どこかで見た顔を見つけた。三白眼の、ちょっと猫っぽい男だ。どこで会ったのだろうと思考を巡らせていると、
「モデルの黄瀬君ですか!?」
女の子が黄瀬に話しかけてきた。気がつけば体育館に女の子の行列ができていた。黄瀬は女の子にねだられてせっせとサインを書いていた。顔がいいのも考えものだな。
「こんなつもりじゃなかったんだけど…」
ここでようやく誠凛が私たちに気がついた。
お久しぶりです、と存在感の薄い少年が黄瀬に話しかけていた。彼がクロコッチとやらだろう。
「スイマセン…5分待ってもらっていいっスか」
黄瀬はまだサインを書いていた。律儀なやつである。
「笠松さんにも書いてあげよっか」
ついでだし、と最後のサインを書きながら黄瀬が言う。私は別にいらなかったが、弦一郎の部屋に黄瀬のサインが飾ってあったら面白いだろうなと思ったので、「じゃあ欲しい」とメモ帳を差し出した。
「弦一郎君へって入れてくれ」
「ゲンイチロウ君って誰…?」
黄瀬は突如飛び出してきた男の名前に若干引いていたが「漢字どういう風に書くんスか?」などと聞いてきた。本当に律儀なやつである。
その後、黄瀬とクロコッチが別に仲良くなかった(黄瀬が一方的に親友認定していた)ことが発覚したり、赤い髪の子が黄瀬に勝負を挑んで負けたりした。そして…
「黒子っちください」
急に黄瀬がクロコッチをスカウトし始めた。色々と御託を並べていたが、要は誠凛程度の実力の学校にクロコッチはもったいない、ということだった。
しかし、
「丁重にお断りさせて頂きます」
あっさり断られていた。
「そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん」
クロコッチに食って掛かる黄瀬の言葉に、引っかかるものを感じた。帝光中の理念、絶対勝利。兄から少し聞いた。立海大の“常勝”にも通じるそれに、かつての私たちを重ねてしまった。私たちにとって、常勝なんて本当は後付けだった。私たちは、精市の帰りを待つために、精市に胸を張っておかえりと言うために、ただそれだけのために、“常勝”立海大というスローガンを都合よく利用しただけだ。彼らは、帝光中は、キセキの世代は、黄瀬涼太は、なんのために絶対勝利を掲げたのだろうか。なんのために勝つことが全てだったのだろうか。
「あー!思い出した!」
急な大声に驚いた。見ると、猫に似た顔の男が私を指さしていた。
「“常勝”王者立海大の!…毛利君とスッゲー喧嘩してたマネージャーの子!」
あまり聞きたくない名前を出され、顔が引きつった。が、これで彼のことを思い出した。
「柿ノ木中の、小金井さん、ですか?」
「うわー、覚えててくれたんだ」
すみません、ついさっきまで思い出せずにいました。とは言えずに曖昧に微笑んだ。
「小金井君、知ってるの?」
「立海大附属中、全国大会出場常連の、テニスでいうとこの帝光中みたいな学校だよ。去年立海は全国準優勝だったけど、部長の幸村君の難病からの奇跡の大復活とか、俺もテニス離れちゃってたけどもう感動ものでさー。さっすが神の子…」
「小金井さん」
興奮気味に語る小金井さんの言葉を遮る。
「あ…ごめんね。立海の子は不安だったよね、部長があんな…」
「いえ、お気遣いありがとうございます。それに、精市…幸村はもう完治してますから」
小金井さんに悪気がないのは理解している。傍から見れば、小金井さんのような感想を抱くのは不思議ではない。だが、あいつの、精市の死に物狂いのリハビリの日々や、精市の罵倒を何も言わずに受け止め続けた弦一郎の献身を“奇跡の復活”なんて安っぽい言葉で表現されたくはなかった。
「うちの部員がお騒がせしました。練習試合、楽しみにしています」
一つお辞儀をして、黄瀬の腕を引いた。黄瀬は不服そうな顔をしていたが、早く帰ろうと私が言うと大人しく続いてくれた。