中学時代の来歴は粗方知られていたようである。兄にはテニス部での詳細を語ったことはないので不思議に思っていたが、どうやらU-17選抜で世話になったコーチ陣から竹内監督に話が行っていたようである。
監督の口から三船監督の名前が出た時はぎょっとした。
今でもあの人たちから受けたシゴキは悪夢に見る。幼馴染、幸村精市に拉致され、選抜に連れていかれた。が、速攻で見つかり私はコーチ陣に没収された。そのままつまみ出してくれればよかったものを、彼らは私を教育するのだと息巻いて、あれよあれよと言う間に弟子入りしたことになっていた。確かに勉強にはなった。私の将来の展望を決める道標にもなった。だが、あの理不尽な仕打ちは忘れない。絶対にだ。

名目上、バスケ部マネージャーとして籍を置くことになったが、その実活動内容としてはスポーツトレーナーのような仕事を求められた。三船さんや齋藤さんが太鼓判を押していたぞ、と監督に告げられ、引きつった笑顔で｢ありがとうございます｣と返してしまった。あの人たちはどんな風に私を紹介したのだろう。竹内監督の満面の笑みが少し怖い。
兎にも角にも、テニスならばまだしもバスケはまったくのど素人である。ルールの把握、競技の特性の把握、団体競技故に生じる軋轢の把握など、やることは沢山ある。そしてなにより、黄瀬涼太の性格、人となり、長所短所を把握しなくてはならない。中学バスケの頂点、キセキの世代がどのようなものか、私は何一つ知らない。