籠球×庭球
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私と“彼”、幸村精市は所謂幼馴染である。家が隣で、母親同士も学生時代からの親友だとか。物心つく前から、私と精市は行動を共にしていた。
精市がテニスを始めたきっかけはなんだったか。もう覚えてはいない。だが、あいつがテニススクールに通うと言い出し、私も一緒にとわがままを言っていたことは覚えている。
テニスに興味はなかったが、断ると精市が泣くので一緒に通っていた。私はあの頃から精市のおねだりにはとことん弱かった。女顔負けの可愛らしい容姿で、幼い頃はあいつより発育が良かった私は、何となく精市を「守ってやらなくては」と考えていたように思う。
テニススクールはそれなりに楽しかった。身体を動かすのは嫌いではなかったし、なんでもすぐに飽きて放り出してしまう精市が珍しく熱心に打ち込んでいる姿に、何故か安堵のような感情を抱いていた。
新しい友人も出来た。後に共に立海大附属中に入学する真田弦一郎とも、テニススクールで出会った。当初、弦一郎は私を男だと勘違いしていた。今よりも髪が短かったし、一緒に行動していた精市が可愛らしい容姿であったことも関係しているだろう。
女だと思われていなかった間は和気藹々と会話していたが、誤解が解けた瞬間、子供特有の狭量さを持っていた弦一郎に、
「女とは馴れ合わない」
と言われて、取っ組み合いの喧嘩になり、二人してコーチに叱られた。しばらくの間、私と弦一郎は犬猿の仲であった。
そんなこんなでスクールに通ううちに、精市のテニスの腕は見る間に上達した。天性の才能だ、テニスの神の子である、とは誰が言い出したのか。大人に褒められてにこにこしているあいつを見て、私はなんだか面白くなかった。自分も褒められたい、というわけではなかった。あいつは神の子なんかじゃない。テニスの才能はあるが、飽き性で、ズボラなところがあって、わがままで、しょうもない冗談で爆笑する、私の幼馴染だ。なまじ才能があるだけに、本来の屈託ない子供のあいつが何処かに置き去りにされたような感覚がどうしようもなく不快だった。
そんな折り、精市と試合をしていた男の子が、急に倒れてしまった。大人たちが集まってきて、男の子をコートの外に運び出した。幸い男の子はすぐに快復した。
「ぼく、もうせーいちくんとはやりたくない。こわい」
目の前が暗くなって、身体が動かなくなったと泣きじゃくる男の子が発した言葉。そう、とだけ呟いてラケットをぎゅっと握る精市の泣き出しそうな顔が、今でも脳裏にこびりついている。
それから、精市と試合をしたことで同様の症状に見舞われる子供が続出した。いつしか精市は一人ぼっちになっていた。私が試合を申し込んでも、
「名前は弱いからつまんない」
と無碍にされた。スクールに入った当初は体格差もあり、たまに精市にも勝てていたが、この頃にはまったく歯が立たなくなっていた。悔しかった。精市が私との試合を拒んだ本当の理由、私にも怖い思いをさせたくないというあいつなりの気遣いであることはわかっていた。それでも、許せなかった。精市の無用な気遣いも、弱く才覚のない自分も。
誰もが精市との試合を拒む中、ただ一人だけ、幾度も例の症状に見舞われ、負け続けても、果敢に挑みかかる男がいた。弦一郎だ。
弦一郎は何度負けても、何度倒れても変わらず精市に挑み続けた。精市が試合を拒んでも、聞く耳を持たなかった。頑固なやつだと思った。同時に、羨ましくもあった。テニススクールで、精市に次いで強かったのは弦一郎だったからだ。私はテニススクールを辞めようと思った。
「辞めるな」
精市をよろしく、とこっそり弦一郎に伝えたが、弦一郎はカンカンに怒り始めた。
「お前は弱い。お前が幸村を倒すのは無理だ。だから俺が倒す。俺がお前の代わりに証明してやる。幸村に、幸村よりも強いやつがいると思い知らせてやる。だから、俺が幸村を倒すまで辞めるな」
結局、テニススクールで弦一郎が精市に勝つことはできなかった。だが、この日を境に、弦一郎と私は“打倒幸村精市”を掲げる同志になった。私も弦一郎も、精市のことが好きだった。大好きな友達だから、精市に勝ってやりたかった。
精市がテニスを始めたきっかけはなんだったか。もう覚えてはいない。だが、あいつがテニススクールに通うと言い出し、私も一緒にとわがままを言っていたことは覚えている。
テニスに興味はなかったが、断ると精市が泣くので一緒に通っていた。私はあの頃から精市のおねだりにはとことん弱かった。女顔負けの可愛らしい容姿で、幼い頃はあいつより発育が良かった私は、何となく精市を「守ってやらなくては」と考えていたように思う。
テニススクールはそれなりに楽しかった。身体を動かすのは嫌いではなかったし、なんでもすぐに飽きて放り出してしまう精市が珍しく熱心に打ち込んでいる姿に、何故か安堵のような感情を抱いていた。
新しい友人も出来た。後に共に立海大附属中に入学する真田弦一郎とも、テニススクールで出会った。当初、弦一郎は私を男だと勘違いしていた。今よりも髪が短かったし、一緒に行動していた精市が可愛らしい容姿であったことも関係しているだろう。
女だと思われていなかった間は和気藹々と会話していたが、誤解が解けた瞬間、子供特有の狭量さを持っていた弦一郎に、
「女とは馴れ合わない」
と言われて、取っ組み合いの喧嘩になり、二人してコーチに叱られた。しばらくの間、私と弦一郎は犬猿の仲であった。
そんなこんなでスクールに通ううちに、精市のテニスの腕は見る間に上達した。天性の才能だ、テニスの神の子である、とは誰が言い出したのか。大人に褒められてにこにこしているあいつを見て、私はなんだか面白くなかった。自分も褒められたい、というわけではなかった。あいつは神の子なんかじゃない。テニスの才能はあるが、飽き性で、ズボラなところがあって、わがままで、しょうもない冗談で爆笑する、私の幼馴染だ。なまじ才能があるだけに、本来の屈託ない子供のあいつが何処かに置き去りにされたような感覚がどうしようもなく不快だった。
そんな折り、精市と試合をしていた男の子が、急に倒れてしまった。大人たちが集まってきて、男の子をコートの外に運び出した。幸い男の子はすぐに快復した。
「ぼく、もうせーいちくんとはやりたくない。こわい」
目の前が暗くなって、身体が動かなくなったと泣きじゃくる男の子が発した言葉。そう、とだけ呟いてラケットをぎゅっと握る精市の泣き出しそうな顔が、今でも脳裏にこびりついている。
それから、精市と試合をしたことで同様の症状に見舞われる子供が続出した。いつしか精市は一人ぼっちになっていた。私が試合を申し込んでも、
「名前は弱いからつまんない」
と無碍にされた。スクールに入った当初は体格差もあり、たまに精市にも勝てていたが、この頃にはまったく歯が立たなくなっていた。悔しかった。精市が私との試合を拒んだ本当の理由、私にも怖い思いをさせたくないというあいつなりの気遣いであることはわかっていた。それでも、許せなかった。精市の無用な気遣いも、弱く才覚のない自分も。
誰もが精市との試合を拒む中、ただ一人だけ、幾度も例の症状に見舞われ、負け続けても、果敢に挑みかかる男がいた。弦一郎だ。
弦一郎は何度負けても、何度倒れても変わらず精市に挑み続けた。精市が試合を拒んでも、聞く耳を持たなかった。頑固なやつだと思った。同時に、羨ましくもあった。テニススクールで、精市に次いで強かったのは弦一郎だったからだ。私はテニススクールを辞めようと思った。
「辞めるな」
精市をよろしく、とこっそり弦一郎に伝えたが、弦一郎はカンカンに怒り始めた。
「お前は弱い。お前が幸村を倒すのは無理だ。だから俺が倒す。俺がお前の代わりに証明してやる。幸村に、幸村よりも強いやつがいると思い知らせてやる。だから、俺が幸村を倒すまで辞めるな」
結局、テニススクールで弦一郎が精市に勝つことはできなかった。だが、この日を境に、弦一郎と私は“打倒幸村精市”を掲げる同志になった。私も弦一郎も、精市のことが好きだった。大好きな友達だから、精市に勝ってやりたかった。