籠球×庭球
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県内屈指のマンモス校であり、大学までのエスカレーター校としても知られる母校から、外部入試を受けて海常高校に入学した。担任の先生は私が母校の高等部よりも偏差値の落ちる海常への入学を決めたことを惜しんでいたが、私の気持ちはもう既に決まっていたし、両親の許可は得ていた。
別に母校が嫌いになったわけではない。三年間を過ごした母校の部活動で、私は一生ものの良き友に出会えた。数多の困難を共に乗り越え、互いに切磋琢磨してきた友人たちが好きだ。愛していると言っても過言ではない。
だが、私は彼らから距離を置こうと思った。
私と彼ら、いや、“彼”と私は少し近すぎたのだ。“彼”が重い病に侵された際、痛いほど思い知った。私がどれほど“彼”を愛し、依存し、崇拝していたのか。気がついた瞬間、高校は別にしようと固く決意した。思えば“彼”と私はある意味で産まれる前からの付き合いで、長じてからもずっと一緒に過ごしてきた。“彼”の傍に居ない時間が欲しかった。嫌いになったわけではない。ただ、距離を置かねばならないと思った。それだけだ。
入学式を終え、簡単なホームルームの後、教室を後にしてバスケ部の部室へ向かう。兄に会うためだ。海常へ入学する理由を兄に話したところ、ならばいっそ全く別の部活動に関わってみたらどうだと提案され、私もそれを快諾した。バスケの経験など学校の授業くらいでしか馴染みはなかったが、中学時代に関わっていた部活も“彼”に誘われて触った程度だったのでなんとかなるだろう。
「あれ、もしかしてオレのファンの子?」
部室の前で、派手な頭のやたらデカい男と遭遇した。同じクラスの黄瀬涼太という男だ。モデルをしているのだとホームルームの際に隣の女子が顔を赤らめながら耳打ちしてきたのを覚えている。なるほど、確かに綺麗な顔をしている。私は女子の中でも小柄な方なので、彼の顔を見るにはだいぶ見上げなくてはならない。なかなかに首が痛い。どうやら彼は、私を彼自身のファンと勘違いしているらしい。
「まいったなぁ。これから部活なんスよ。サインならまた今度…」
「私は男子バスケ部の主将と監督に用があるのだが」
君ではなく。そう続けると、黄瀬涼太は端正な顔を露骨に歪めた。
「もしかしてオレ、恥ずかしい勘違いした?」
「かなりな」
「うーわー…忘れて…」
大袈裟に落ち込んでいる。間違いくらい誰にでもあるさと雑に慰める。
「君、一年生っスよね。名前は?」
彼は他人にあまり興味を示さない質のようだ。同じクラスだし、ホームルームで自己紹介させられたじゃないか。しかし、ここであっさり名乗るのも面白くない。少しイタズラでもしてやろう。
「…まずは自分から名乗るのが礼儀では?」
君など知らないぞ、という体を装うと黄瀬涼太は少し驚いていた。
「黄瀬涼太っス。オレの事知らない?自分でも有名な方だと思うんスけど」
「いや、知ってたが。というか同じクラスだぞ、君と私は」
「えっ…あー、ごめん?」
覚えてないやとあっさり白状された。だろうな、と私も頷いた。
「私は笠松名前だ。よろしく」
「よろしく…ん?笠松!?」
黄瀬涼太は私の苗字を聞いた途端にぎょっとした。
「もしかして…」
「おいコラお前ら!部室の前で何やってんだ!」
聞き慣れた声だ。
「兄貴」
声の主は私の実兄、海常高校男子バスケットボール部主将、笠松幸男である。
「あ、兄貴!?」
ひっくり返らんばかりに驚く黄瀬涼太と、キョトンとしている兄を見て、不敵な笑いが込み上げた。
別に母校が嫌いになったわけではない。三年間を過ごした母校の部活動で、私は一生ものの良き友に出会えた。数多の困難を共に乗り越え、互いに切磋琢磨してきた友人たちが好きだ。愛していると言っても過言ではない。
だが、私は彼らから距離を置こうと思った。
私と彼ら、いや、“彼”と私は少し近すぎたのだ。“彼”が重い病に侵された際、痛いほど思い知った。私がどれほど“彼”を愛し、依存し、崇拝していたのか。気がついた瞬間、高校は別にしようと固く決意した。思えば“彼”と私はある意味で産まれる前からの付き合いで、長じてからもずっと一緒に過ごしてきた。“彼”の傍に居ない時間が欲しかった。嫌いになったわけではない。ただ、距離を置かねばならないと思った。それだけだ。
入学式を終え、簡単なホームルームの後、教室を後にしてバスケ部の部室へ向かう。兄に会うためだ。海常へ入学する理由を兄に話したところ、ならばいっそ全く別の部活動に関わってみたらどうだと提案され、私もそれを快諾した。バスケの経験など学校の授業くらいでしか馴染みはなかったが、中学時代に関わっていた部活も“彼”に誘われて触った程度だったのでなんとかなるだろう。
「あれ、もしかしてオレのファンの子?」
部室の前で、派手な頭のやたらデカい男と遭遇した。同じクラスの黄瀬涼太という男だ。モデルをしているのだとホームルームの際に隣の女子が顔を赤らめながら耳打ちしてきたのを覚えている。なるほど、確かに綺麗な顔をしている。私は女子の中でも小柄な方なので、彼の顔を見るにはだいぶ見上げなくてはならない。なかなかに首が痛い。どうやら彼は、私を彼自身のファンと勘違いしているらしい。
「まいったなぁ。これから部活なんスよ。サインならまた今度…」
「私は男子バスケ部の主将と監督に用があるのだが」
君ではなく。そう続けると、黄瀬涼太は端正な顔を露骨に歪めた。
「もしかしてオレ、恥ずかしい勘違いした?」
「かなりな」
「うーわー…忘れて…」
大袈裟に落ち込んでいる。間違いくらい誰にでもあるさと雑に慰める。
「君、一年生っスよね。名前は?」
彼は他人にあまり興味を示さない質のようだ。同じクラスだし、ホームルームで自己紹介させられたじゃないか。しかし、ここであっさり名乗るのも面白くない。少しイタズラでもしてやろう。
「…まずは自分から名乗るのが礼儀では?」
君など知らないぞ、という体を装うと黄瀬涼太は少し驚いていた。
「黄瀬涼太っス。オレの事知らない?自分でも有名な方だと思うんスけど」
「いや、知ってたが。というか同じクラスだぞ、君と私は」
「えっ…あー、ごめん?」
覚えてないやとあっさり白状された。だろうな、と私も頷いた。
「私は笠松名前だ。よろしく」
「よろしく…ん?笠松!?」
黄瀬涼太は私の苗字を聞いた途端にぎょっとした。
「もしかして…」
「おいコラお前ら!部室の前で何やってんだ!」
聞き慣れた声だ。
「兄貴」
声の主は私の実兄、海常高校男子バスケットボール部主将、笠松幸男である。
「あ、兄貴!?」
ひっくり返らんばかりに驚く黄瀬涼太と、キョトンとしている兄を見て、不敵な笑いが込み上げた。
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