〔弐〕初めての空
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漸く痺れが治って、私は“山崎君”に案内をしてもらいながら屯所内をぐるりと巡った。
行く先々で会うのは当然のことながら男性、男性、男性。戸惑いはするけれど、早く慣れなければいけない。
「‥で、此処が台所」
広い境内を廻った最後に此処、台所へと辿り着いた。
「広い、ですねー‥」
「‥まぁ、この間 せっまい旧屯所から越してきたばかりやから」
そう言いながら山崎君が台所をじっと見つめているのが気になった。
見つめる先には誰もいない。
けれど、切れ長の目に曇りが見えたように感じた。
「‥山崎君?」
「‥‥なんでもあらへん」
そう言って向けられた背中は、小さく見えた。
憂いを帯びたその瞳が、一体何を映しているのか、──この時の私にはまだ分からなかった。
「浪人だ!! 出合えーぃ!!」
表に出ようとした時、急に外が騒がしくなった。
何事かと思って山崎君と出てみると、顔が赤くなり 明らかに酒気を帯びている様子の“浪人”と思しき人物が一人、悪戯に刀を振り回していた。
「壬生呂がなんだコラぁ! お前らのせいで外を気楽に歩けないんだよ‥っ!」
酒が入って感情が高ぶったのか、浪人はそんなことを叫び続けている。
唯一この場に居合わせている門兵は、まだ新人隊士なのか、なかなか踏み出せずにいた。
「──‥ちっ‥」
隣で山崎君が舌打ちをして、懐からクナイ──ではなく、“メス”を取り出した、丁度その時だった。
風が、吹いた。
――斬‥‥――
それは、蝶が舞うようだった。
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