〔弐〕初めての空
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失礼します、という声がして、静かに襖が開けられた。入って来たのは 短髪の青年。切れ長の目が印象的だった。
「おお、山崎君」
近藤さんと土方さんに会釈してから、“山崎さん”は私の方を向いた。
(少し無表情、なのかな)
二つ目の印象はそれだった。完全なる無表情ではない──目の前の物事を冷静に見定めようとする意志が感じられる瞳。
はっと、思わず見つめてしまっていたことに気付いて、私は慌てて会釈した。
「‥茶をお持ちしました」
そう言って淡々と湯呑みを置いていく山崎さんを見て、土方さんが口を開く。
「茶ぁなんて市村に出させりゃいいだろうに」
「‥いえ。市村に客人の茶を淹れさせるのは流石に失礼でしょう」
確かに、と言って笑う土方さんを見つつ、ふと 二人が言った“市村”という名前が気になった。
(何処かで聞いた事があるような、無いような‥)
「ああ、そうだ。紹介がまだだったな。春華、こちらは今医学を勉強中の山崎烝君だ。」
今度は深くお辞儀してきた山崎さんにつられて、慌てて私も再度頭を下げた。
「山崎君、こちらは相内春華。私と歳には昔馴染みのお医者がいてな、その娘さんだ。英国で医学を学んできた。この度、新撰組で力を貸してくれることになったから、これから良くしてくれ。」
「──英国‥」
それまで無表情だった山崎さんは、ピクリと眉を動かした。
──あぁ、気に障ってしまっただろうか
英国、という言葉が、今の日本国では受け入れ難いものだということは分かっているつもりだ。そして其処に行き学んでいた自分という存在がこの社会では異質であることも。
それはこの時代の中で、この閉鎖された世界では、当然の反応だと思う。
──それでも、私は行くことを決めた。
──その選択に悔いはない。
すると、山崎さんは私の思考を遮るように言葉を洩らした。
「──‥興味深い」
それは小さな呟きだったから、一瞬聞き違いかと思った。けれど、違った。
物事を見定めようとする瞳が、こちらを真っ直ぐに見ている。
「これから宜しくお願いします」
そう短く言うと、山崎さんは深々と頭を下げた。それは拒絶ではなく、真っ正面から向き合う言葉。私はその予想外の返しに目を白黒させ──慌てて同じように頭を下げた。
「こちらこそ‥宜しくお願い致します‥!」
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