〔壱〕常春の華、現る
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私の発言の後、何故か沈黙が訪れた。土方さんが手に持っていた煙管がポロリと落ちそうになって、私はすかさずそれを掴んだ。
「お、落ちましたよ?」
それでも二人は変わらず放心状態。私は堪らなくなって話を切り出した。
「あ‥あの‥?」
何か不味いことを言っただろうか。
すると、近藤さんが先に口を開いた。
「──あー‥西洋の医学は、会得するのに少なくとも二十歳まではかかると言っていなかったか‥?」
そういえばそんな事を父が言っていた気がする。
私は現在、十八歳。
「ああ、‥少し飛び級をしまして。──学校を追い出されてしまいました‥あははは」
自慢話ではないのだけど、どこか気恥ずかしくて笑ってしまった。二人は再び、鳩が豆鉄砲喰らったような表情をした。
気を取り直したのか、土方さんは私の手から煙管を受け取り、一服吸って ──どこか満足そうに吐いた。
「そうかよ。‥‥で、──手ぇ貸してくれんのか?春華」
土方さんは煙管で私の方を指し、ニヤリと笑った。前にも増して板に付いた、悪巧みを思い付いたような笑み。
それに負けじと、私も悪戯っぽく笑ってみせた。
「何の為に“此処”に来たとでも?」
お互い見つめ合い、そして、どちらからともなく笑い出した。くっくっと少し抑えめな土方さんの笑いと、豪快な近藤さんの笑い。どちらも懐かしくて、胸が熱くなった。
それから暫く笑った後、土方さんは手を差し出して、真っ直ぐな目でこう告げた。
「“新撰組”は春華を歓迎する」
差し出された手と、変わらず真っ直ぐな二人の目。
この手を握り返すことの意味。
変わろうとしている時代の渦の中に飛び込む。
恐れはある。けれど、この時代を生きている者として、自分がどう関わっていけるのか──関わっていきたいのか、何度も反芻した。
守りたいものを、守る。
迷いは、ない。
意志をもって握り返した手のひらは、大きくて、温かかった。
懐かしい空気、
懐かしい風。
懐かしい景色に、
懐かしい空。
今この時、
ここで、生きていくと決めた
迷いはない
『常春の華、現る』-終