〔九〕共に生きる道
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「はい、終わりです」
診たもの聞いたものをカルテに書き込んで、自分の中で頷いてから、対面している相手に向き直って告げる──と、土方さんは短く息を吐いた。
どの人も健診と聞くと力が入ってしまうようだ。
「他の奴等の様子はどうだった」
開口一番、自分のことではなく皆のことを聞くところが土方さんらしいと思った。私は軽く笑んで、一通りのことを話した。
原田さんはカルテ通り至って健康だったし、鉄の成長痛は報告通り大変そうだけど、それは健康な証。
他の隊士は、怪我人・病人がやはり多く居るけれど、烝のお師匠である松本先生の助言だという特設のお風呂のような物があったから、衛生面に気を配るようになって、回復しやすくなったのではないかと思う。
「前回の健診より悪くなってる人があまり居なくて‥少し安心しました」
「そうか」
そう笑って話すその心の中で、思うことはある。
改善されているとは言っても──医療の技術や器具などの面においては、まだまだ日本は未発展だということ。
──そして今まさに、開化しようとしている時なのだろう
この国の行く末と、此処にいる人達の未来を、想わずにはいられなかった。
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──
着物を整え終えたところで、土方さんはすっと立ち上がった。
「俺で最後か?」
「あ、いいえ。あとは‥──沖田さんが残ってますね」
「‥‥あいつ、逃げてやがるな」
「?」
疑問符を浮かべていると、戸が開かれて、どこか疲れた様子の烝が中に入ってくる。なかなか姿を現さない沖田さんを探しに行ってくれていたのだ。烝は土方さんの姿を見付けて、一礼する。
「‥道場にいらっしゃいました。今向かってます」
それだけ告げると、烝はカルテが積まれた机に足早に向かい、黙々と整理を始めた。黙々と仕事をするのはいつものことだけれど、今日はどこかいつもと違う。
普段、感情を表に出さない烝が──普段以上に、表情を隠しているような気がした。
土方さんは大きく息を吐き、それから私の方に向き直って真っ直ぐに見つめてきた。
「‥‥よく診てやってくれ。最近の総司は、何か隠してやがる」
「? 分かりました‥」
「‥‥」
土方さんの感じている懸念と、烝の無表情。
それが“ある所”で繋がっていることに、この時私はまだ気付いていなかった。
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土方さんが退室してから程なくして、徐に戸が開かれ沖田さんが入ってきた。
「あ、沖田さん! 遅刻ですよ」
「ごめんなさい、稽古に顔を出していたもので‥」
そう言っていつものように笑いかけてくれている──筈だった。その筈、なのに。どうしてだろう、違和感を覚えるのは。
「‥では、まずはそこに腰掛けてください」
「──はい」
困惑しながら、診察の進行を促すと、沖田さんはどこか力無げに笑って、指示の通りに座った。
「──沖田さん‥」
烝が気遣わしげな声で呼び掛ける。すると、沖田さんは更に力無く笑う。
「大丈夫‥‥ですよ」
烝は眉間に皺を寄せ、視線を落とした。
私に、この二人のやりとりの意味は分からない。
どこか治まらない胸騒ぎを覚えながら、私はただ、職務を遂行することしかできなかった。
「えっと‥じゃあ、まずは喉を見せて下さい。それから、胸の音を聞きます」
「‥‥はい」
聴診器を持つ手が──震えた。
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