〔九〕共に生きる道
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それはいつかの旅立ちの日に似た、青い青い空が広がる、よく晴れた日だった。何かを始めるには、良き日だと思った。
目の前に積み上がったカルテを見つめ、そっと息を吸う。
──きっと、『お客さん』でいる時間は終わった。これからは、皆と『共に歩む者』でいたい。
「──‥お願いがあります、烝。」
始めよう。
人を救える手立てが、きっと、この手には在る。
「隊の皆の、健診をさせて欲しい」
烝と彼の師匠・松本先生とで作ったというカルテを読めば、字面だけなら理解する事が出来るのだろう。
でも、やっぱり自分の目で見て、確かめておかなければ分からないことがあると思うから。
すると、烝は少し──否、大分曇った顔をした。表情の少ない、彼が見せた動揺。それは私を不安にさせるのには充分だった。
「‥烝‥? どうかした‥?」
急な申し出で、困らせてしまっただろうか。差し出がましかっただろうか。それとも、呆れさせてしまっただろうか。少し心配になって烝の顔を覗き込めば──烝は目を伏せた。
「‥‥時期、か‥」
「? ごめんなさい、よく聞こえない‥」
烝の呟きは小さくて、私は聞き返す。けれど、いや、と言って 烝は頭を振り──積まれているカルテを見遣ってから、逸らしていた視線をこちらに戻した。
「お前は‥、良くも悪くも 医者、なんやな‥」
「え?」
「──避けて通れん道‥か」
その言葉が意味することは、何なのだろうか。深く追及したかったけれど、烝はそれ以上口を開こうとはしなかった。
普段口数の多くない彼が溢す言葉は、きっとその胸の内にあまりに多くの想いが溢れていることを表している。
自ら口を開かないことを、無理矢理に聞き出すものではないけれど──それでもじっと烝を窺うように見ていると、それに気付いた烝は困ったように笑った。
「‥‥前の総健診から日も経ってる。俺もそろそろ必要な頃やと思っとった──局長副長に掛け合おう」
「! ありがとう!」
私を見て、どこか優しげに──どこか切なげに笑む烝は、その胸の中で何を思っていたのか。
私は“その時”になって漸く知ることとなる。
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