〔壱〕常春の華、現る
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あれから客人として迎えられ、私は客間に通された。久しぶりの“座布団”“正座”に内心ドキドキしていると、襖が豪快に開けられた。
入ってきたその人に、指をついて深く頭を下げる。
「お久しぶりです、近藤さん」
礼儀正しく、を念頭に頭を下げたまま挨拶をすれば、その空気を壊すかのように豪快な笑いと共にバシバシと肩を叩かれた。
「春華ー!! 本当に久しいな!元気だったか!」
昔と変わらぬ近藤さんの様子に、内心ほっと安堵した。──そんな自分に驚いた。
立場を手に入れた人だから、それに見合って変わっていても不思議ではないと、心の片隅で思っていたのかもしれない──でも、そんなこと、近藤さんに限ってあるはずがないのに。
自分の浅はかな考えに、苦笑する。
──この人は、変わらない
「いやぁ、五年ぶりくらいか? 立派になったなぁ」
「いいえ、まだまだ未熟者です」
「いやいや、本当に。歳が驚いたのも無理はないな!」
なぁ歳、と近藤さんが話を振っても、土方さんは黙ったまま。
強い視線に気付いて顔を上げてみると、土方さんが無言で私の方を見ていた。ばったり目が合っても、逸らそうとしない。
「どうした?歳」
「‥‥いや‥」
そうか、こうなったか。などと誰に言うでもなく呟くと、土方さんは煙管を口にくわえて 蒸し始めた。
「こんな将来性が分かってりゃ先に‥‥いや、何でもねぇ」
「‥‥歳‥」
「冗談だ」
そう笑って言う相変わらずな土方さんを見て、思わず私は笑ってしまった。
「──さて、冗談はさておき。春華、お前、留学はどうした。久々に里帰り‥なら江戸だろ? 京都には何用だ?」
蒸していた煙管を口から離しながら、土方さんが訊いてきた。
──留学‥
私の父は幕府お抱えの臣下──蘭学と漢方学を修めた医師だった。その父が、五年程前に内密な命を受けて英国に渡ることになったのだ。
──西洋医学ヲ得、我ガ国ノ物トスルベシ
父に付き従い、そこで得た、知識。経験。
何の為に、それを得ようとしたか。
私はもう一度心の中で反芻し、目を閉じて、そして深く息を吸った。
「──留学は終わりました。ばっちり盗んできましたよ。“医療技術”」
目指すものは、決まっている。
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