〔壱〕常春の華、現る
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迷いがない心とは裏腹に──、碁盤の目のように整頓されているにも関わらず、私は京の町を右往左往。道行く人たちに変なモノを見るような目で見られた。
やっとの事で辿り着いたそこは──どこからどう見てもお寺。聞いてはいたのだけれど、いざ来てみると目を見張るものがある。
立派な門には、厳つい門兵が詰めていた。想像していたより遥かに大きな規模に、私は少し戦いた。
でも、ここで尻尾を巻いて逃げ出すわけにはいかない。私は意を決して、恐る恐る門兵に声を掛けた。
「あの‥」
瞬間、月代頭の門兵は不審者でも見たような顔をした。‥いや、確かに不審者かもしれないけれど。
「‥何か?」
門兵は不機嫌そうに答えた。私の事を上から下までじろじろ見ながら。
門兵が見ているのは、きっと私の着物だ。何しろ彼の国では生粋の着物の入手は困難だった。やっと見付けたこの着物でさえも、きっと何処か西洋風なのだろう。
どこかで早く調達しないといけないな、と思いながら、私は門兵に出来る限りの愛想の良い笑みを向けた。
「お訪ねしたい方がいらっしゃるのです」
「──誰だ」
怪訝そうに聞き返してきた門兵に、隠さず告げる。
「土方様です」
そう言った瞬間に、門兵の眉間の皺が深くなった。
まずい、かもしれない。
「──何用かは知らぬが、副長は生憎外に出ていらして此処にはいらっしゃらぬ。預かりものがあるならば私が受け取ろう。それ以外なら日と刻限を改めて──」
あぁ、と苦笑混じりに溜め息が漏れた。昔からの土方さんの悪い癖は、抜けていないらしい。どうやら私は“色男”に恋文か何かを届けに来た娘と勘違いされてしまっているようだ。
どう説明しようか、と考えを巡らせていたその時、突然目の前を一迅の風が吹いた。──否、風と感じたそれは、私と門兵の間を風のように通り抜けた赤髪の少年だった。
彼の背中を目で追う。すると、その先に見えた人影──
「土方さん!お疲れ様です茶ぁ飲みますか!」
「喧しい、要らねぇよ」
揃いの段ダラの、浅葱色の羽織の集団。その中央、一際目立つ容貌の、その人。
すらりとした体躯に、黒の着流し、長く伸びた豊かな黒髪──記憶の中のそれより、長くなったな、と見惚れながらふと思う。
「土方副長!」
ぼうっと見ていると、私より先に我に返った門兵がその人を呼ぶ。振り返ったその人に、やっと我に返って、私は深くお辞儀した。
門兵が走り寄り、その人物に一礼をして、告げる。
「お勤め御苦労様です! ‥お帰りになって早々で申し訳ないのですが、副長に会いたいと言っている‥‥女性が見えているんですが‥」
「女?」
面倒臭そうに髪を掻き上げながら、土方さんはこちらに目線を遣る。私は思わず頬を弛ませた。けれど、
「?」
土方さんの表情は疑問符を浮かべたままで。──きっと最近の逢瀬の相手を思い返しているのだろう。
──えぇ、えぇ、その人達の中には私はいないでしょうとも
私は堪らなくなって土方さんの元へ駆け寄った。
──ドンッ
「うわっ!? 何だ!?」
身長差のせいで土方さんの腰に抱き着く羽目になったけれど、そんな事は気にせずに、私は埋めていた顔を上げた。懐かしい、この視界。
「お久しぶりです、土方さん」
そう私が見上げる形で挨拶すると、土方さんは目を丸くして口をぱくぱくと動かした。
「──‥‥あ‥」
土方さんはゆっくり体を離すと、私を指差して、声を詰まらせた。
漸く理解してくれたようで、思わず頬が弛んでしまう。
「は、春華──!!?」
面白いくらいに慌てる土方さんに、私はにっこりと笑って見せた。
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