〔五〕良い所、悪い所
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「‥ねぇ沖田さん?」
「はい?」
「なんだか道行く人が私のことを見ている気がするのは‥やっぱりこの着物のせいですよね」
そう、今私が着ているのは英国で入手した例の着物なのだ。烝から譲り受けた着物──殊更歩さんの着物は、外に着ていくにはまだ気が引けてしまったから。
でもここまで目立つとは思わなかった。
「いえいえ、きっと貴女自身が目を惹くからですよ」
「あーもう絶対ないですそれ目立ってるの着物です‥!」
お世辞と受け取って頭を抱える。
沖田さんはいつも笑顔だから、それが本音なのかお世辞なのか冗談なのか分からない時がある。
「やっぱり失敗だったなー‥この着物」
貰った服に慣れるまで外出は控えようか、と思案していると、沖田さんはそっと笑った。
「髪も斬新だから目立つのかもしれませんね」
確かに。周りの女性は椿脂を使ってきちんと結い上げているのに、私は下ろしっぱなし。
「あー‥でも今更結い上げるのもなんだか気恥ずかしいですし‥、そもそも動きにくいですよね、あの髪型って」
きちんと結い上げ始める年頃に日本にいなかった私にとって、今更正式な結い方をするのはなんだかくすぐったい感じがするのだ。
すると沖田さんは笑った。
「良いんじゃないですか? そのままでも」
「えぇ?」
「ほら、私だって土方さんだって髷にしないで好きにやってますし」
思ってみればそうだ。現に沖田さんも今は髪を楽に下ろしたまま。
私が規格外だからか、今まで気にしてもみなかった。
「自分の好きなようにすれば良いんですよ。のびのびしている方が、きっと貴女らしさが出ていいと思います」
そう言って明るい笑顔を添える。なんて言葉選びがうまくて、気遣いができる人なんだろう。思って、我知らず口角が上がった。
沖田さんって、こんな人なんだ。
「──でも、もしそのままじゃあ気になるって言うなら‥、そうですね───」
ちょっと待ってて下さい、と言い残して 沖田さんはすぐ近くの何かのお店に入って行った。
──────
────
──
「はい、コレっ」
そう言って沖田さんが見せたのは、綺麗な髪結いの紐。すっと私の後ろに回り込むと、沖田さんは手慣れた手つきで私の髪を結い上げた。
「簡単にですけど、こっちの方が目立たないでしょう」
手鏡で見てみると、とてもとても 綺麗に結い上げられていた。
「‥‥ってわざわざ買ってくださったんですか!?」
こんな高価そうな物貰えません!と解いて返そうとしたら、笑顔で制されてしまった。
「今日付き合ってくれたお礼ですよ」
「でも‥!」
「ほら、男が女性に贈り物をしているんですから、恥をかかせちゃいけませんよ」
「ぅ‥」
ね、と沖田さんは首を少し傾けて笑った。
なんだかそんな事をされてはかなわない。
「‥分かりました。大事に使わせていただきます」
「よしよし」
本当にこの人にはかないそうにない。
───────
─────
──
「さ、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね」
夕暮れが近付いて、影法師が背を伸ばし始めた。そろそろ副長が怒り始める頃合いだ、と笑い合って、二人で足先を屯所へと向ける。──けれど
この時、私は気付いていなかった。
自分の頭上にある看板が、風で不穏に揺らいでいた事に。
───ガタッ‥
「──春華さ‥──っ!!!!」
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