〔五〕良い所、悪い所
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支度も無事終わり、隊士の方に後を任せてとある所に向かう。片付けもそこそこに台所を後にしたのは、ある人物が一向に姿を現さないから。このままだと食いっぱぐれてしまう。
この前永倉さんに連れて行ってもらった記憶を頼りに、一つの部屋の前に辿り着いた。
(「此処で‥合ってるよね」)
少し心構えをしてから、襖に手を掛けた、丁度その時だった。
「ねぇねぇ」
「‥‥」
「ねぇ土方さぁーん」
「‥‥」
「土方さんってばー」
「‥っあぁもううるせぇ!!」
中から聞こえたのは仲良さげな賑やかな声。聞いただけで先客の訪問者が誰かなんてすぐに分かる。
今割り込んで良いものかと戸の前で一人考えていたけれど
「‥おい。戸の前の奴、突っ立ってないで入ってこい」
土方さんはお見通しだったようで。私は言われるまま襖を開けて中へ入った。
「し‥失礼します」
いそいそと戸を開けると、案の定 二人が居た。土方さんはまだ寝起きなのか、半分布団の上で煙管を吸っていて、沖田さんがその肩に飛び付いていた。
「春華か。何だ?」
「あ、朝食出来てますよと伝えに‥──」
あぁ、もうそんな時分か、と土方さんは抱きつく沖田さんを引き剥がしながら言った。
「って、お前が作ったのか?」
「えぇ、まぁ‥」
「ほぉー、こりゃ楽しみだ」
色んな意味で、と付け加えた土方さんの意地悪な笑みが憎らしい。
いや、味付けは完璧だった筈だと自分に言い聞かせていると、沖田さんが もう喋らずにはいられないとでも言うように土方さんに食いついた。
「ねぇだから土方さんってば!」
沖田さんは後ろから肩越しに土方さんの顔を覗き込んだ。(よっぽどこの二人は仲が良いのだろう)
「行って良いでしょう?」
「駄目だっつってんだろうが。布団包まって大人しく寝てろ!!」
けち!と言って沖田さんは片頬を膨らませ、拗ねた。
──その直後に軽く咳をして。
「‥風邪、でもひいたんですか?沖田さん」
あまり良くない質の咳が気になって尋ねてみれば、案の定沖田さんは軽く頷いた。
「そうなんですよー。でも買い置きのお菓子が無くなっちゃって‥」
「たかが菓子だろうが」
「“たかが菓子”ぐらい良いじゃないですか!」
売り言葉に買い言葉。二人は小さな言い合いを繰り返し、決着はつきそうになかった。
お互い頑固で似た者同士──なんだか歳の離れた兄弟のようで、思わず笑みが零れた。
「──あの、私行きましょうか?」
「「へ?」」
同じ反応を見せた二人に、また笑いが込み上げてしまった。
「一応医者ですし、無理はさせません。それに、実は誰かにちょっとだけ町を案内して頂きたかったんです」
そう言うと、沖田さんは目を輝かせて、土方さんは明らかに呆れたように頭を掻いた。
「行きましょう行きましょう!」
同意を求めて私と沖田さんが土方さんの方を見遣ると、土方さんは観念したように溜め息をついた。
「あーもう何処にでも行け!」
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