〔参〕それぞれの風
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風が止んで、静寂が戻った。
「──不思議な人だね。龍馬さんって」
「‥うん」
破天荒。時代の風雲児。
型破りで、はちゃめちゃで、感覚的で──思慮深い。
深謀遠慮から、最善を尽くす。
──ある種の、未来人。
「‥迷っているの‥?」
遠くを見詰めて考え込んでいる鉄之助に向かって、問い掛ける。悩むのも無理はない話。未来に向けた話、その先は誰にも分からない。
鉄は一瞬私の方を見て、それから俯いた。
「‥分からない」
<div align="center">ー ー ー ー ー ー
『おまんはワシと来るべきぜよ』
『他の誰もが見んでも、おんしだけは見とかんといけん』
『“PEACE MAKER”になるがじゃろ!?───』
ー ー ー ー ー ー</div>
「‥‥」
鉄之助は足を縁側から投げ出して、悪戯にぶらつかせた。考えても、考えても、答えを出せないのだろう。
「悩むのも仕様がないこと──だけど、きっと、選ぶ時は迫ってるんじゃないかな」
「‥うん‥」
小さく呟くと、彼は足を止めて、勢い良く前へ飛び出した。
「──でもやっぱり、まだ分からないんだ。だから今は、とことん考えてみる!」
そう言って、辛そうにも力のある笑みを浮かべるから、私はそれ以上何も言えなかった。
「──うん。頑張れ」
へへへ、と鉄之助は少し照れるように笑った。
「春華ってなんか姉ちゃんみてぇ!」
「えぇ?」
「ははっ、おやすみ!」
大きく手を振りつつ、彼は走り去っていった。私が「おやすみ」と返した時には、もうその後ろ姿は既に闇に溶けていた。
静かに立ち上がって、ふと、さっきまでは凛と鳴り響いていた風鈴に目を遣るが、既に風は無く、もうぴくりとも動かない。
「‥‥時間が‥迫ってる」
言葉にすると、胸が、苦しくなった。
それぞれの身に
それぞれの風が
吹き付ける
それは
追い風になるのか
それとも
向かい風になるのか
それは
これから その人が選ぶ、
道 次第。
『それぞれの風』-終